日本補綴歯科学会誌
Online ISSN : 1883-6860
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最新号
令和7年10月
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
巻頭言
依頼論文
◆企画:第133回学術大会/臨床リレーセッション2 「歯根破折からの歯の再植・移植,その診断と治療方針」
  • 菅谷 勉
    原稿種別: 依頼論文
    2025 年17 巻4 号 p. 195-200
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/21
    ジャーナル 認証あり

     垂直歯根破折は初期には診断が困難な症例が多いが,類似した病態を示すセメント質剝離性破折は垂直歯根破折に比較して良好な予後を得られることが多いことから,早期の鑑別はきわめて重要である.また,垂直歯根破折の治療法は改良が進み,治療成績も向上している.長期予後は術前の骨欠損状態や術後の咬合負荷など複数の要因が影響しており,これらの不利な要因を伴わない症例では,10年後の生存率が90%を超えていることから,垂直歯根破折は的確な診断と適切な症例選択および治療により,十分な予後が期待できる疾患と考えている.

  • 新名主 耕平
    原稿種別: 依頼論文
    2025 年17 巻4 号 p. 201-206
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/21
    ジャーナル 認証あり

     歯の移植・再植は欠損補綴に対する外科的アプローチ法の中でも,自己由来の材料を使用する倫理的障壁が低く,患者利益の高い,優れた治療方法である.その背景には移植医療の一般的な知識と先行永久歯,ドナー歯,周囲歯周組織から得られる情報の蓄積(検歯)が必須であり,高い予知性を持った治療方法である.そのポイントとして,ドナー歯および,移植床の接触面を病的面(Morbid Surface),健康な(感染のない)面(Intact Surface) に分類し,どの面と,どの面を接触させて設置するかが大きな鍵を握る.本稿ではその概要について解説し,症例を供覧する.

  • 兒玉 直紀, 萬田 陽介, 松岸 諒, 德永 英里, 丸尾 幸憲, 秋山 謙太郎
    原稿種別: 依頼論文
    2025 年17 巻4 号 p. 207-213
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/21
    ジャーナル 認証あり

     歯根破折は日常臨床において高頻度に認められる病態であり,その対応に苦慮することは言うに及ばない.歯根破折への対応として破折部の接着を試みるが,条件次第では意図的再植術の適応となる場合がある.一方で,破折歯を抜歯する場合,健全な智歯を有しており,かつ条件が合致すれば歯の移植が,智歯を有さない場合には一般的な欠損補綴治療が選択される.本稿では,歯根破折を生じた場合の補綴治療戦略として,1)破折歯を保存する場合,2)破折歯を抜歯した場合に分けて,実際の症例を交えて私見を述べたい.

◆企画:第133回学術大会/イブニングセッション4 「ここを伝えて欲しい!部分床義歯製作における歯科技工士への情報共有の勘所」
  • 和田 淳一郎
    原稿種別: 依頼論文
    2025 年17 巻4 号 p. 214-220
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/21
    ジャーナル 認証あり

     部分床義歯で機能回復を図る際,「義歯の安定」は必須条件である.義歯の安定は,①支台歯の選択,②支台装置をはじめとする構成要素の選択,③義歯床の外形,といった,同一歯列内におけるいわば静的要素と,④対向関係,⑤患者の咬合力といった動的要素に影響される.前者は義歯設計そのものであり,歯科医師によって決定され,歯科技工士に伝えるべき情報である.しかし,適切に義歯設計を行ったとしても,歯科医師と歯科技工士の情報共有が不足すれば,完成義歯は機能不全に陥りかねない.本稿では,「同一歯列内における静的要素」に焦点を絞り,適切な義歯を製作するために歯科医師から歯科技工士に伝えるべき情報について議論したい.

  • 荻野 洋一郎
    原稿種別: 依頼論文
    2025 年17 巻4 号 p. 221-226
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/21
    ジャーナル 認証あり

     部分床義歯治療で重要なことは,欠損歯列の特徴を把握することである.歯列を片顎で観察する際にはKennedyの分類を使用することができ,また,上下顎の対向関係は部分床義歯の治療には大きく関わり, Cummerの分類などを参考にする.これらは残存歯の配置による受圧条件やそれに対合する加圧因子を診断する際に有効である.これらに対し,機能できる部分床義歯の設計のためには部分床義歯の支持に関わるレストシートとレスト,把持に関わるガイドプレーンとプロキシマルプレートを適切に付与することは,基本的で,かつ重要であり,患者の特性に対して機能できる部分床義歯の製作・装着のために歯科技工士との情報共有,連携は重要である.

◆企画:第133回学術大会/臨床研究セミナー 「ビッグデータ・リアルワールドデータを活用した研究を知る」
  • 松山 祐輔
    原稿種別: 依頼論文
    2025 年17 巻4 号 p. 227-232
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/21
    ジャーナル 認証あり

     ランダム化比較試験(RCT)は単一の研究としてエビデンスレベルが最も高いとされる.しかし,RCTは大規模かつ長期的な実施が困難であり,研究参加者の代表性にも限界がある.一方,近年の疫学理論の発展と大規模データの蓄積により,観察研究に基づくエビデンスの活用が注目されている.RCTと観察研究はそれぞれ利点と限界があり,両者の特性を理解し研究を計画・実施することが重要である.本稿では,大規模データを用いた歯科領域の観察研究を紹介しながら,観察研究の質を高めるポイントを述べる.

◆企画:令和6年度関西支部学術大会特別講演 「顎骨再生研究のこれまでと今後」
  • 西村 正宏
    原稿種別: 依頼論文
    2025 年17 巻4 号 p. 233-238
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/21
    ジャーナル 認証あり

     顎骨の再生は難症例補綴治療を一般化させ,治療の予知性を高めることにつながる.しかし,顎骨の安全・確実な再生を実現するためには各種法律にのっとり,正確なエビデンスに基づいて綿密なプロトコルを立案したり,移植剤の製造法を確立したりしなければならない.本邦では歯科領域で多くの血液濃縮液を用いた再生医療が提供されていることからも,再生医療のニーズが高いことが伺える.著者らはこれまでに顎骨骨髄由来の間葉系幹細胞の脂肪分化能の低さの原因や,移植する細胞の生体内での各種骨形成予測マーカーを特定してきた.著者らは特殊な細胞シートと骨補塡剤を組み合わせた新規骨再生剤を開発し,臨床現場への展開を目指している.

◆企画:第4回補綴歯科専門医研修会
  • 宗政 翔, 向坊 太郎, 野代 知孝, 近藤 祐介, 正木 千尋
    原稿種別: 依頼論文
    2025 年17 巻4 号 p. 239-246
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/21
    ジャーナル 認証あり

     本稿では,MI(Minimal Intervention)コンセプトの普及に伴い考案された,シングルリテーナーブリッジとエンドクラウンの有用性について既存の文献に基づき包括的に考察する.シングルリテーナーブリッジは,片側の歯のみを支台とするため歯質切削を最小限に抑え,従来の2リテーナー型より長期予後が良好であると示唆されている.一方で,エンドクラウンは,ポストを用いず髄室形態で保持を得る失活歯修復法で歯根への侵襲やエナメル質の切削量を軽減できる.両術式とも適切な症例選択,材料特性の理解,精緻な接着手技が成功の鍵であり,今後の補綴治療における標準的選択肢となることが期待される.

◆二次出版企画:Journal of Prosthodontic Research/68巻4号
  • Sammour Sara Reda, 内藤 英樹, 木本 智幸, 佐々木 啓一, 小川 徹
    原稿種別: 依頼論文
    2025 年17 巻4 号 p. 247-257
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/21
    ジャーナル 認証あり

    本論文は,Journal of Prosthodontic Research の同名の出版物の翻訳を邦文論文として出版するものである.引用の際には原出版物の「Sammour SR et al. J Prosthodont Res, 2024; 68(4): 568-577」を記載すること.

     本研究は,共振周波数解析(RFA)と機械学習を組み合わせることで,固定性補綴装置(FPD)の支台歯とのセメント固定状態を評価し,その固定状態の異常を早期に検出することを目的とした.単冠および3ユニットブリッジを製作した下顎模型を用い,セメント固定の有無に応じた複数の条件下で振動刺激を加え,3軸加速度センサによりその周波数応答を測定した.取得データは,教師あり学習および教師なし学習により解析した.その結果,セメント固定状態に応じて特有の周波数帯域に違いが見られ,異常スコアによって高い精度でセメント固定状態の不良を検出することが可能であった.これらの結果から,RFAと機械学習を組み合わせた本法は,固定性補綴装置のセメント固定状態の異常を非侵襲的かつ早期に評価可能な新たな診断法となりうることが示唆された.

専門医症例報告
  • 田村 暁子
    原稿種別: 症例報告
    2025 年17 巻4 号 p. 258-261
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/21
    ジャーナル 認証あり

    症例の概要:患者は52歳女性.全顎的な歯の挺出および動揺による咀嚼困難を主訴に来院した.重度歯周疾患による咀嚼障害と診断し,治療用義歯を用いて咬合の安定を図りながら保存不可能な歯を抜去し,上顎に4本,下顎に6本のインプラント体を埋入し,固定性の最終上部構造を装着した.

    考察:プロビジョナルレストレーションの段階で清掃性を考慮した形態修正および清掃指導を行い,機能性や審美性のみでなく清掃性の改善を確認し,最終上部構造に反映させたことで良好な予後が得られたと考える.

    結論:重度歯周疾患による咀嚼障害に対して,段階的に暫間補綴装置を経て固定性のインプラント補綴装置により治療した結果,口腔関連QoLが向上した.

  • 岩脇 有軌
    原稿種別: 症例報告
    2025 年17 巻4 号 p. 262-265
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/21
    ジャーナル 認証あり

    症例の概要:患者は84歳の女性.かみにくく食事ができないことを主訴に来院した.残存する咬合支持は1か所のみで,使用義歯の形態および咬合は不良であり,義歯不適合による咀嚼障害と診断した.

    考察:咬合支持喪失によるすれ違い咬合への移行が予想できたため,残存歯を連結した補綴装置により負担を分散し,義歯治療によって臼歯部の支持を確保して機能回復を図った.これより,治療後3年経過においても支台歯,補綴装置に問題は認めず,主観的および客観的な評価においても良好な経過が得られた.

    結論:全顎補綴治療により,機能的な改善とともにすれ違い咬合への移行を防ぐことができ,患者のQOL向上に寄与できた.

  • 乾 志帆子
    原稿種別: 症例報告
    2025 年17 巻4 号 p. 266-269
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/21
    ジャーナル 認証あり

    症例の概要:患者は67歳の女性.義歯が外れやすいことを主訴に来院した.下顎は無歯顎で高度顎堤吸収を呈していた.義歯新製にあたり,ピエゾグラフィを用いてデンチャースペースを診断し,口腔周囲筋機能と調和した義歯を設計することで,下顎義歯の維持力向上を図った.

    考察:ピエゾグラフィにより得た情報に基づきデンチャースペースに人工歯を排列し,義歯床を可能な限り大きく設定した結果,物理的維持と筋圧による生理的維持が得られ,義歯の安定と咀嚼機能の回復が認められた.

    結論:高度な下顎顎堤吸収を呈する無歯顎患者に対し,ピエゾグラフィを用いることで,機能時に脱離しない義歯の製作が可能となり,良好な経過が得られた.

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