日本義肢装具学会誌
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38 巻, 3 号
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巻頭言
特集 脳卒中歩行障害に対する装具療法
  • 川手 信行, 中島 卓也
    2022 年 38 巻 3 号 p. 190-193
    発行日: 2022/07/01
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    歩行は,運動エネルギーを位置エネルギーに変換し,再び運動エネルギーに再変換する連続した運動であり,これを円滑に行うための機能が,立脚期足部の3つのロッカー機能である.また,歩行における自動的な左右下肢の交互運動は,脊髄にあるといわれているCPG(central pattern generater)が関与し,交互運動の切り替えのためには,TSt時の股関節伸展による股関節屈筋群からの求心性入力が重要であるといわれている.脳卒中などの痙性麻痺においては,痙縮が持続することにより股関節拘縮,内反尖足が生じ,立脚期の股関節のTrailing Limb Angle(TLA)や足部のロッカー機能が消失し,Extension thrust pattern,Buckling knee pattern,Stiff knee patternなどの異常歩行(Qervanら)をきたす.これらの異常歩行パターンは反張膝などの合併症を誘発する可能性があるため,早期からの適切な装具療法が重要である.

  • 大村 優慈
    2022 年 38 巻 3 号 p. 194-198
    発行日: 2022/07/01
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    脳卒中患者の装具療法を進める上で,歩行能力の予後予測は重要である.予後に関連する因子としては日常生活活動能力,下肢の運動麻痺,発症前の歩行能力,年齢,意識障害,合併症,脳画像所見などが示されており,最近では下肢装具の作製判断に関する研究報告もなされている.脳画像を読影する際は,病巣の大きさを把握するだけでなく,皮質脊髄路や皮質網様体路といった,歩行に関連する領域の損傷の有無を確認することが重要である.なお,脳梗塞では梗塞巣がさらに拡大する可能性を残す発症当日や,fogging effectによって梗塞巣が不明瞭になる発症2〜3週に撮影された画像は,損傷領域の同定に適さないため注意が必要である.

  • 田中 惣治
    2022 年 38 巻 3 号 p. 199-203
    発行日: 2022/07/01
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    短下肢装具が脳卒中者の歩行にどのような影響があるか,バイメカクスの観点から理解することは,短下肢装具の選定や使用に欠かすことのできない知識である.脳卒中者の歩行を対象とし,矢状面における短下肢装具の効果について解説する.また,足継手の種類,歩行のロッカー機能と短下肢装具の作用,下腿前後傾角度(Shank to Vertical Angle:SVA)に着目した評価のポイントについて述べる.さらに症例を通じて短下肢装具の使用により脳卒中者の歩容や筋活動が変化することを示す.

  • 髙橋 忠志, 尾花 正義
    2022 年 38 巻 3 号 p. 204-209
    発行日: 2022/07/01
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    脳卒中歩行障害に対するリハビリテーション(以下,リハ)は脳卒中発症直後から開始し,急性期,回復期,生活期と途切れることなく行うことが必要であり,そのスタートとなる急性期でのリハは歩行再建の源になる.重度運動麻痺を呈する脳卒中患者の積極的な立位,歩行練習には長下肢装具が不可欠である.長下肢装具の仕様としては油圧制動式足継手を使用し,運動麻痺の改善に応じて装具の設定を変更できることが望ましく,また実際の使用には装具に関する知識と技術が求められる.脳卒中急性期からの長下肢装具使用はエビデンスが蓄積されつつあり,脳卒中歩行障害への歩行再建・装具療法はパラダイムシフトを迎えている.

  • 中谷 知生
    2022 年 38 巻 3 号 p. 210-215
    発行日: 2022/07/01
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    脳卒中患者の歩行再建を目的とした運動療法では,課題特異的トレーニングのエビデンスに依拠するかたちで長下肢装具・短下肢装具を用いた歩行トレーニングが行われてきた.下肢装具を用いた運動療法のエビデンスは蓄積が進みつつあるが,使用開始時期や装着による身体機能の改善効果に関する報告は少なく,臨床場面では目的が不明瞭なまま使用されることも少なくない.近年ではロボティクス,あるいは非侵襲的中枢神経刺激など,新しい技術と併用する機会も増えており,下肢装具を用いた運動療法は神経科学的な観点からの治療効果も期待されている.今後はより客観的な評価を行い,明確な治療戦略に基づき使用する必要がある.

  • 村山 稔
    2022 年 38 巻 3 号 p. 216-220
    発行日: 2022/07/01
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    脳卒中患者の歩行練習において,長下肢装具の使用開始から短下肢装具に移行するまでの間にも,歩行能力の改善にともなって段階的な難易度の調整が必要と考えられる.そこで今回,長下肢装具から短下肢装具に移行する間の歩行練習と装具の設定について,考慮すべき点をまとめた.長下肢装具は膝関節を固定するだけでなく,30°屈曲に可動させることにより,荷重応答期から立脚中期における内側広筋の筋活動比が増加する.また,膝継手を屈曲遊動にした介助歩行により,短下肢装具に比べて強制的に速い速度の歩行が可能になる.短下肢装具では踵からの初期接地を補償し,荷重応答期に底屈を促す設定で継続使用することで,荷重応答期における前脛骨筋の筋活動比が増加する.それぞれの時期に適切に装具を設定することで,先行研究で懸念されている長下肢装具や短下肢装具の使用による廃用性筋萎縮は,防ぐことが可能と考えられる.

  • 勝谷 将史
    2022 年 38 巻 3 号 p. 221-225
    発行日: 2022/07/01
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    脳卒中片麻痺者の歩行再建は重要なテーマとして常に議論されてきた.脳卒中ガイドライン2021では初めて歩行障害に対する装具療法そのものに言及され,歩行再建における装具の重要性がエビデンスをもって再認識された.また歩行補助ロボットに関するエビデンスも記載され装具療法は既存の装具だけでなくロボティクスの活用も合わせて考える必要がある.また装具療法はツールとなる装具のフォローアップも重要であり,地域ぐるみで装具のフォローアップ体制を構築していくことが重要な視点である.装具療法はこれらに加え,装具ユーザーのニーズにどう答えるかが課題となっており,カーボン素材の活用や新たな装具のデザインなどにも期待したい.

原著
  • —コンプレッション値と断端長の関係性について—
    郷 貴博, 勝平 純司, 東江 由起夫, 須田 裕紀, 前田 雄, 江原 義弘
    2022 年 38 巻 3 号 p. 226-233
    発行日: 2022/07/01
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,3D-Scannerを用いて断端と適合ソケットの三次元形状を比較することで,適合性に優れたソケットを設計するための体積条件を定量化することである.5名の下腿切断者を対象とし,断端へのコンプレッションを算出し,断端とソケットの体積および長さについて比較した.結果として,断端長が短いほど断端の広範囲にコンプレッションが付加され,ソケット体積が減少し,それに伴う断端の伸張が引き起こされる傾向にあることがわかった.結論として,下腿義足ソケットの設計においては,断端長に応じたコンプレッションと軟部組織の移動に伴う断端の伸張を考慮する必要があることが示唆された.

  • —義肢装具士へのアンケート調査結果からの考察—
    豊田 輝, 大塚 博, 平賀 篤, 田中 和哉, 渡辺 長, 佐野 徳雄, 渡邊 修司, 青栁 達也, 新永 拓也
    2022 年 38 巻 3 号 p. 234-243
    発行日: 2022/07/01
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    脳卒中片麻痺者(以下,CVA患者)に対する治療用プラスチック短下肢装具(以下,PAFO)の作製時に「義肢装具士(以下,PO)が理学療法士(以下,PT)に求めること」に関するアンケート調査を実施し,その結果からPTの役割遂行上の課題とその改善策を検討することを目的とした.対象は,日本義肢装具士協会により無作為に抽出されたPO 800名とした.アンケート調査は,独自作成の質問紙を用い無記名自記式郵送法で実施した.役割遂行上の課題として,PTの診療報酬制度による時間的都合,両職種間における関係性の希薄さ,卒前卒後の教育体制などが考えられた.この課題改善策として,PTの装具療法に対する「知識」・「技術」・「プロフェッショナリズム」の伝承という3つの視点でのさらなる卒前卒後のPT教育内容の拡充が必要であると考えた.装具療法における多職種連携は,PTの「プロフェッショナリズム」を培う機会となり得ると考える.

短報
  • 清水 新悟, 安藤 靖広, 伊藤 岳史, 花村 浩克
    2022 年 38 巻 3 号 p. 244-247
    発行日: 2022/07/01
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    足底腱膜炎における疼痛箇所の違いが足部アーチの特徴や後足部アライメントの違いとどのような関係にあるかを調査し,足底挿板の設計を行うことを目的とする.足底腱膜炎と診断された32例52足を対象とし,疼痛箇所を踵部と踵部以外の内側アーチ部の2カ所とした.痛みの評価は,Visual Analog Scaleにて計測し,足部アーチ機能をNavicular Drop testにて評価した.踵部に疼痛は,後足部回外が多く,内側アーチ部の疼痛は後足部回内が多数であった.また踵部の疼痛はNavicular Drop testの値は低く,後足部回外との相関性が得られた.今回の調査から足底挿板の設計を行い,各症例1例に対しての有効性が確認された.足底挿板製作において,荷重分散や緩衝材などを用いて製作する前に,後足部の誘導を行うことが大事だと思われた.

症例報告
  • 米津 亮, 鈴木 淳也, 斎藤 聡佳, 成澤 雅紀, 神尾 昭宏, 藤田 暢一, 古屋 美紀, 衣笠 尊彦, 淵岡 聡, 清水 順市
    2022 年 38 巻 3 号 p. 248-254
    発行日: 2022/07/01
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    脳卒中片麻痺の歩行中の蹴り出しを改善するため,中足趾節関節の背屈運動を再現できるGait Solution短下肢装具を試作した.本研究では,反張膝を有する脳卒中片麻痺者1名を対象に,足底部を改良したGait Solution短下肢装具が歩行に及ぼす影響を検討した.対象者には,足底部に改良を加えたもの(改良型)と従来の足底部のGait Solution短下肢装具(従来型)と裸足の状態で歩行解析を実施した.その結果,改良型において,従来型より蹴り出し時の足関節底屈トルクが有意に増加(p<0.05)し,単脚支持期の腓腹筋の筋活動が増大した.これらの知見から,足底部を改良したGait Solution短下肢装具により,反張膝を有する脳卒中片麻痺者の蹴り出しが改善されることが示唆された.

  • 鎌田 恭子, 伊藤 麻弓
    2022 年 38 巻 3 号 p. 255-260
    発行日: 2022/07/01
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    多電極筋電義手に対応することを目的にオットーボック社によって開発されたMyo Plus systemは,ソケット内に電極8カ所を取り付け,それぞれの電極から抽出された筋電位をパターン化し1つの形として認識するという特徴がある.今回このシステムを使った筋電義手の操作訓練を初めて行ったため,その実施方法,スケジュール,問題点などについて報告する.訓練はオットーボック社の訓練用ツールを使用して進めた.断端8カ所での筋収縮の合成で8つのパターン図を作るという感覚を得る上でこのツールは非常に有効であった.その後の実地的な訓練までを通しては,断端残存筋の状態,これまでの筋電義手使用歴がトレーニング期間に影響を与えるのではないかということがわかった.多電極による筋電操作は今後多彩な義手コントロールを可能とするものとして大きな可能性を感じられる.

講座 感染症対策
  • 剣持 悟
    2022 年 38 巻 3 号 p. 261-266
    発行日: 2022/07/01
    公開日: 2023/07/15
    ジャーナル フリー

    身体の一部である義肢装具は身体に触れる部分が多く,汗や皮脂が付着し高温多湿となるため,菌が繁殖しやすい.荷重を分担する必要もあり,圧迫や摩擦が身体に与えるストレスも大きい.細菌やウイルスは目に見えないため,対策の効果がわかりにくく,問題が発生して初めて課題が明らかとなる.しかしながら,昨今の研究成果でウイルスの感染の仕組みが徐々に明らかになってくるとともに,有効な対策もアップデートされてきている.義肢装具に関する衛生面の課題を整理し,ウイルス対策としての飛沫感染,接触感染,空気感染に有効と思われる事例を報告する.

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