日本義肢装具学会誌
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32 巻, 4 号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
平成28年度 日本義肢装具学会飯田賞受賞者
巻頭言
特集 パラリンピック最前線
  • 岩岡 研典
    2016 年 32 巻 4 号 p. 216-219
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/10/15
    ジャーナル フリー

    国際的にadapted physical activity (APA)と称される研究分野からうまれた造語であるアダプテッド·スポーツの意味とアプローチの独自性,その将来的な方向性について概説した.なぜ,アダプトするかに関しては,特別支援教育でよく用いられる“合理的配慮”の概念を援用し公正さ(equity)を実現するという考え方と,一定の合理的配慮を行った上でさらに平等性(equality)を担保するためのレギュレーションに則って競技を行うパラリンピック種目との異同について論じた.アダプトすることによって,身体的差違の大きな者同士がともに身体活動を楽しむ公正な状況·環境が実現し,広く体験されることを通してインクルーシブな市民社会の形成へつながる可能性を強く願うものである.

  • 指宿 立, 三井 利仁, 池部 純政, 田島 文博
    2016 年 32 巻 4 号 p. 220-225
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/10/15
    ジャーナル フリー

    パラリンピックには機能障害を伴う競技者が出場している.国際パラリンピック委員会は競技者が公平に競技できるシステムとしてクラス分けの導入を各国際競技団体に義務付けている.クラス分けシステムは「第一に誰がパラリンピックスポーツに参加する資格を有しているか,誰がパラリンピック競技者になりえるかを明らかにすること.第二に機能障害の程度が軽いので有利ということでなく,最もスポーツパフォーマンスの優れた競技者やチームが勝利するよう,競技者を公平にグループ分けすること」である.クラス分けシステムの導入はアンチドーピングと併せて競技者が公平に競技するためのシステムでもあり,公平なクラス分けのためには競技者と指導者の協力も必要となっている.

  • 池部 純政
    2016 年 32 巻 4 号 p. 226-232
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/10/15
    ジャーナル フリー

    障がい者の陸上競技で使用されるスポーツ用補装具は,日常生活で使用される補装具とは構造が大きく異なっている.スポーツ用補装具は「走る」「跳ぶ」「投げる」といった基本的身体活動を補完するのみではなく,より好成績を得るための非常に重要な要素となっている.これまでも多くの義肢装具士らによってスポーツ用義肢について報告がなされてきた.今回,義肢以外のスポーツ用補装具も含めて陸上競技用補装具の最近の知見を紹介し,さらなるスポーツ用補装具の研究開発がなされることと,今後より多くの障がい者が陸上競技に触れる機会を得られることを強く願っている.

  • 橘 香織
    2016 年 32 巻 4 号 p. 233-236
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/10/15
    ジャーナル フリー

    車椅子バスケットボールはダブルドリブルがないことと,クラス分けルールの採用以外は,競技規則や使用するコート,リングの高さなどはすべて通常のバスケットボールと同じである.格闘技とも称されるほど激しいコンタクトや,華麗な車椅子の操作が魅力の競技であるが,魅力あふれるプレーを支える競技用車椅子は,ルールの改正とともに少しずつ変化してきている.参加プレーヤーの障害特性の多様化が進む中,プレーヤー個々にとっての車椅子の「最適化」を目指すためには,プレーヤー自身がどのようなプレースタイルを希求するのか,というニードを明らかにすることが不可欠であるが,その思いを実現させていくためには,車椅子製造者やエンジニアの協力が欠かせない.

  • 中澤 吉裕, 丸山 剛生, 塩野谷 明
    2016 年 32 巻 4 号 p. 237-241
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/10/15
    ジャーナル フリー

    日本における車いすテニスの歴史や日本選手の活躍などの現状を紹介し,車いすテニスの競技特性と車いすテニス専用競技車の特徴を解説する.日本も含め世界の車いすテニスのレベルはますます高まり,アスリートとしての活動が必要不可欠となっている.同時に,車いすテニス本来の楽しさも忘れてはならず,リハビリテーションとしての普及も非常に大切な要素である.

  • 三山 慧, 三阪 洋行, 三山 剛史
    2016 年 32 巻 4 号 p. 242-248
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/10/15
    ジャーナル フリー

    ウィルチェアーラグビーは,四肢に障害のある人たちができるチームスポーツとして1977年にカナダで誕生した.2000年のシドニーパラリンピック(第11回夏季大会)からはパラリンピック正式競技となっており,現在では世界40カ国以上に普及している.日本代表チームは,リオのパラリンピックでメダルが期待されるチームとなっている.このウィルチェアーラグビーのルール,用いられる競技用車椅子の特徴について説明を行った.握力のない選手が車椅子を漕ぐための工夫,ボールをキープするための工夫など,特に四肢に障害がある選手が競技をする上での様々な工夫があることを示した.競技では車椅子によるアタックが行われるため,競技用車椅子に大きな衝撃力が加わる.その大きさを調べるために行った実験結果についても述べた.その結果,1台の車椅子が止まっていて,そこに3.5m/secのスピードで車椅子が衝突する場合,35kN程度の力がバンパーに加わっていることがわかった.

  • 南 浩一
    2016 年 32 巻 4 号 p. 249-252
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/10/15
    ジャーナル フリー

    アーチェリーは,ルールも道具も健常者と同じで,障がい者の大会のほか,一般の大会にハンディーなしで参加することができます.弓をはじめ,様々な道具を使うアーチェリー競技において,パラリンピックで良い成績を目指すには,この道具をそれぞれの障がいの状況に合わせていく『調整』がとても重要です.本稿では,障がい者がどのような工夫をしたらアーチェリーで高得点を狙えるのか,筆者の経験を交えて様々な方法を紹介させていただきます.

  • 片岡 正教, 奥田 邦晴
    2016 年 32 巻 4 号 p. 253-256
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/10/15
    ジャーナル フリー

    ボッチャは脳性麻痺や頚髄損傷,筋ジストロフィーなどにより,四肢や体幹に重度の障がいがある選手が参加できるようにヨーロッパで考案されたパラリンピックの正式競技である.ジャックボールと呼ばれる白いボールに対して,赤と青,それぞれ6球のボールをいかに相手より近づけるかを競うターゲットスポーツである.パラリンピック競技の中でも,最も重度な障がい者が参加できる競技であり,クラス分けや競技用具において様々な工夫がなされている.本稿ではボッチャのクラス分け,選手が使用する用具について解説する.

  • 今川 佳子
    2016 年 32 巻 4 号 p. 257-259
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/10/15
    ジャーナル フリー

    パラ馬術競技では,あらゆる身体障がいの選手が障がいの程度によってクラス分けされ,同じフィールドで競争する.個々の障がいによっては一般的に使用されている馬具では本来の効果が得られない場合があり,それを補うために改良·考案されたものを「特殊馬具」という.特殊馬具は国際馬術連盟の有資格者が各選手にとって必要であるかどうかを判定し,認められなければ使用できない.また騎手にとって安全であるか,馬への虐待行為にならないか,といった点も判定の対象となる.選手おのおので工夫を凝らした特殊馬具の一部をここでご紹介する.

  • 坂光 徹彦, 牛尾 会
    2016 年 32 巻 4 号 p. 260-264
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/10/15
    ジャーナル フリー

    パラカヌーには,KayakとVa’aの2種目があり,いずれも200 mという規定された距離の直線コースでタイムや着順を競う競技である.他の障がい者スポーツと同様にクラス分けがあり,障がいの重い順にKayakはKL1,KL2,KL3,Va’aはVL1,VL2,VL3とされる.パラカヌー選手の場合,通常のストロークに必要な下肢機能,体幹機能に制限がある選手が多く,障がいに合わせた補装具が必要になる.パラカヌーは水上競技であることから,艇·シート·身体を1つのセットとして水上でバランスが保てることが重要であり,安全で,かつ残存機能の運動を妨げない補装具が求められる.補装具が選手の競技力の一端を担っていると言っても過言ではないだろう.

  • 富川 理充
    2016 年 32 巻 4 号 p. 265-269
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/10/15
    ジャーナル フリー

    リオ2016パラリンピックにて初めて正式競技として実施されるパラトライアスロン.そのパラトライアスロンという呼称が正式に用いられるようになったのは2009年のことである.その後,競技距離がトライアスロン競技の半分に設定されるなどのルールの見直しが行われ,世界的に急速に普及することとなった.クラス分けについても研究が進められ,現在の5クラスとなったのは2014年からである.各クラス,各選手によって使用が認められる補装具や競技用具があり,それらの研究開発による競技パフォーマンスへの影響は大きいと考えられる.3種目個々で蓄積される知見に加え,複合競技の種目特性が考慮された補装具や競技用具の研究開発が期待される.

原著
  • 今岡 信介, 佐藤 浩二
    2016 年 32 巻 4 号 p. 270-273
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/10/15
    ジャーナル フリー

    回復期リハビリテーション病棟に入院し,長下肢装具(以下 : KAFO)を作製した脳卒中片麻痺患者において,発症からKAFO作製までの期間(以下 : 作製期間)が身体機能とADL能力に及ぼす影響を調査した.研究デザインは,横断的研究とし,身体機能,ADL能力と作製期間の関連性,実用歩行を規定する因子とカットオフ値を算出した.結果,作製期間と退院時FBS, 退院時NTP stage, 退院時FIM, FIM改善度は,中等度の相関が認められた.また実用歩行を規定する因子として,退院時FBS得点と作製期間が抽出され,カットオフ値は,退院時FBS得点 : 28.3点,作製期間 : 60.5日であった.このことから,作製期間は身体機能とADL能力に影響を与える重要な要因と考える.

短報
  • 佐藤 新介, 岡本 隆嗣, 田中 直次郎, 渡邊 匠, 釜屋 真二
    2016 年 32 巻 4 号 p. 274-277
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/10/15
    ジャーナル フリー

    当院では,装具作製後のフォローアップでも,医師,理学療法士,義肢装具士を中心としたチーム診療を行っている.回復期リハビリテーション病棟入院中に装具のフォローアップ診察を行った54例(回復期群)と,同期間に外来装具診など維持期で診察を行った47例(維持期群)の後方視的カルテ調査を行い,相違点を調べた.診察時に装具に修正を加えた項目を「修理」,「あたりの矯正」,「足部の変更」,「調整」,「変更なし」に分類し2群を比較した.回復期群で多かった修正は「足部の変更」「調整」であり,歩容の改善を目的とした装具への修正介入であった.一方,維持期では「修理」「あたりの矯正」へと移行していた.つまり,維持期における装具診察では義肢装具士の介入機会が多かったが,一般的には介入が十分に行われていない現状があり課題である.

  • 昆 恵介, 井野 拓実, 春名 弘一, 清水 新悟, 敦賀 健志
    2016 年 32 巻 4 号 p. 278-281
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/10/15
    ジャーナル フリー

    前十字靱帯損傷再建術後には,日常生活やスポーツ復帰のために膝装具を用いて,リハビリテーションを行っていくことが一般的である.しかしながら,一般的に処方されているにもかかわらず,その作用メカニズムは不明のままである.本研究は,膝装具装着下のランジスクワット動作における筋活動への影響を実験調査することを目的とした.方法は,11名の健常成人男性に,膝装具装着でのランジスクワット動作を行ってもらい,その際の膝周囲筋の筋活動を計測した.記録されたデータは,遠心性収縮と求心性収縮区間に分けて,周波数分析を実施した.結果として,膝装具は大腿部の圧迫よって,膝伸展筋速筋帯域の抑制が見られ,筋萎縮の一要因であることを示唆した.

症例報告
  • —装具手帳を運用して—
    遠藤 正英, 東 世智, 橋本 将志, 猪野 嘉一
    2016 年 32 巻 4 号 p. 282-284
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/10/15
    ジャーナル フリー

    脳卒中治療ガイドライン2015において,装具を用いた早期歩行訓練が推奨されており,下肢装具の早期処方が必要となる.しかし,処方後に患者の身体機能が変化し,装具が不適合となることもあるため,定期的なフォローアップが必要である.当院では,入院中の患者には装具回診,退院後の患者には装具外来をフォローアップの窓口とすることで装具が不適合となることを防いでいる.また,当院退院患者には装具手帳を作成することで下肢装具の定期的なフォローアップと情報管理を行っている.当院でのフォローアップ体制を行うことで良好な結果を得た.

調査報告
  • 樫本 修, 西嶋 一智, 相川 孝訓, 筒井 澄栄
    2016 年 32 巻 4 号 p. 285-287
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/10/15
    ジャーナル フリー

    全国の更生相談所における更生用義足の新規処方例を調査した.2010年の1年間で新規処方された義足は1,693個で,下腿義足が1,025個(68.8%)と最も多く,次いで大腿義足336個(22.0%)であった.男女比は3.2 : 1で平均年齢は61.5±15.1歳であった.有職者251名(14.8%),無職901名(53.2%),不明541名(32.0%)であった.活動度は,高い304名(18.0%),普通556名(32.8%),低い388名(22.9%),不明445名(26.3%)であった.義足の価格と年齢では相関関係があり,高齢者ほど処方される義足の価格が安くなった(p<0.01,R=-0.475).高額な義足が処方されている切断者ほど,就労しており,活動度が高かった(p<0.01).完成用部品の膝継手,足部の処方結果は低活動用の部品が多く,プロフィールの結果を裏付けていると考える.

講座 X線を用いた装具の効果
  • 岩渕 真澄, 白土 修
    2016 年 32 巻 4 号 p. 288-294
    発行日: 2016/10/01
    公開日: 2017/10/15
    ジャーナル フリー

    脊椎疾患の診断において,画像検査は問診や身体所見から推察される疾患や病態を確認する手段である.現在の画像機器のほとんどが身体から取り出した情報をコンピューターによってデジタル化処理し画像へと再構築しているため,その過程において様々なノイズやアーチファクトが入り込む危険性があることに留意する.また,再構築された画像を過剰評価してしまうという危険性を常に有していることに留意する.単純X線像は,脊椎の配列や,不安定性を見るのに適している.X線CTは,骨や骨化巣の描出に適している.MRIは,軟部組織の描出に適している.X線CTとMRIは相補的であるため,両者をうまく組み合わせることで正確な診断につながることが多い.脊椎疾患に対する装具療法は,神経障害の有無,画像所見における椎体·椎間不安定性,および病態に応じた局所制動の必要性を考慮して,装具療法の適否とその種類について決定することが肝要である.

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