日本化粧品技術者会誌
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45 巻, 3 号
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特集解説 感性からのものづくり(3)
  • 菅沼 薫
    2011 年 45 巻 3 号 p. 181-189
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2013/09/20
    ジャーナル フリー
    化粧品開発は,戦後の近代工業化とともに進歩し,処方や生産技術が発展した。また,皮膚理論の解明や効能効果の研究により高機能な化粧品へと進化している。ふり返ってみると,60~70年代は,公害や製品による健康被害などが問題となり,化粧品においてもより安全な原料や生産技術が求められた。80年代には,天然保湿因子NMFやセラミドによる保湿機構,肌のキメや肌質診断が注目され,化粧品の多様化が進んだ。90年代は,メラニン産生のメカニズムが解明されたこともあり,美白ニーズが高まった。また,さまざまな有効成分の発見で,皮膚の抗老化や抗加齢効果の訴求が目立つようになった。一方,90年代後半には,免疫と心,ストレスと皮膚の関係なども研究されるようになった。BSE問題が起きたことで有効成分を動物から植物や海洋生物に求めるようになったり,原材料のトレーサビリティという言葉も聞かれるようになったりと,70年代のように原料の安全性,安心感に関心が高まった。さらには,ヒトゲノムの解読やiPS細胞の発見などによって,自然治癒力,免疫,遺伝子などにも言及する化粧品が現れた。このように,化粧品の訴求や消費者ニーズ,あるいは,技術開発や研究分野の方向性は,時代とともに変化している。なかでも,消費者ニーズは,効果や機能をより強く求める機運Functionalism (機能主義) と,自然のものへの憧憬や安心,安全を求める機運Naturalism (自然主義) の2つのうねりがある。この2つのうねりは,2000年前後を境に入れ替わっている。Functionalismは,消費行動全般の感性トレンドでいうデジタル気分 (男性脳的) に,Naturalismは同じくアナログ気分 (女性脳的) に近い志向を示している。化粧品は,快適な感触をもち,安心して使用でき,効果を感じさせるということを基本的な性能として求められるが,消費者が期待する世界観や時代の意識潮流を見極めることも必要である。
報文
  • 徳永 晋一, 棚町 宏人, 井上 滋登, 森岡 智紀, 辻村 久, 丹治 範文, 波部 太一, 山下 修
    2011 年 45 巻 3 号 p. 190-198
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2013/09/20
    ジャーナル フリー
    毛髪表面は18-MEA (18-メチルエイコサン酸) に覆われ,疎水的かつ低摩擦に保たれている。しかし,18-MEAはヘアカラーなどのアルカリ処理で容易に失われ,毛髪表面は親水化し摩擦は増大する。それは,毛髪の指通りや櫛通り,感触の悪化に影響すると考えられる。そこで,前述のようなダメージ実感を改善するため,18-MEAを表面に高吸着させることによる疎水性・低摩擦などの表面物性を回復させる技術開発を行い,18-MEAと特定の長鎖3級アミン (ステアロキシプロピルジメチルアミン:SPDA) の組み合わせにより,それが可能であることを見出した。その高吸着性のメカニズムを明らかにするため,18-MEAとSPDAから形成される吸着膜の解析を行った。その結果,その吸着膜はアルキルを外側に向けた状態で,表面を均一に覆い,18-MEAの末端の分子運動により最表面に液体状の相を形成することで,耐摩擦性を有することを見出した。さらに,18-MEAとSPDAを含有するコンディショナーの使用テストでは,滑らかな感触に加え,浮き毛や跳ね毛を減少させるなど,ヘアスタイルのまとまりをも向上する効果をもつことを見出した。
  • 柴田 道男, 小野寺 智子, 河合 江理子, 日根野 照彦
    2011 年 45 巻 3 号 p. 199-206
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2013/09/20
    ジャーナル フリー
    ストレスとニキビの関係は以前から指摘されているが,そのメカニズムは明白にはなっていない。グルココルチコイド (GC) は,ストレス時にヒトの副腎皮質から分泌され,免疫抑制作用や抗炎症作用を示す。また,臨床的にはその投与によってニキビ様症状が誘発されることが知られている。一方,ニキビにおいては,アクネ菌によるToll-like receptor 2 (TLR2) の活性化が引き金となり炎症を引き起こしている。本研究ではストレスとニキビの関係を明らかにするため,培養ヒトケラチノサイトのTLR2遺伝子の発現に対するGC の影響を検討した。ケラチノサイトへのGCの投与によってTLR2の遺伝子発現が増加した。また,アクネ菌あるいは炎症性サイトカインであるTNF-αあるいはIL-1αの共存下で,その発現はより顕著に増加した。GCと炎症性サイトカインによるTLR2の遺伝子発現に対して抑制効果を示す植物エキスのスクリーニングを実施し,メリアアザジラクタ (Melia azadirachta) の抽出物が顕著な抑制活性を示すことを見出した。これらの結果から,GCによるTLR2発現増強がニキビの炎症反応を亢進させる可能性が示唆された。さらに,メリアアザジラクタエキスがこの反応を抑制したことからアクネ菌による炎症反応に対する予防効果が期待される。
ノート
  • 津田 愛子, 堀籠 悟, 吉田 泉, 山口 昭弘, 木船 信行, 渡井 正俊, 小澤 淳, 久米 賢次
    2011 年 45 巻 3 号 p. 207-211
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2013/09/20
    ジャーナル フリー
    紫外線や酸化ストレスにより生じる活性酸素は老化の要因の一つともいわれ,さまざまな抗酸化評価法が提唱されている。その中でも培養細胞を用いた評価系は,生体内に近い状態での抗酸化物質の作用を評価するのに有用であるとされている。今回われわれは,従来の活性酸素検出蛍光試薬に比べ,細胞膜透過性が良く,かつ細胞内保持能力が高い5-(and-6)-chloromethyl-2',7'-dichlorodihydrofluorescein diacetate (CM-H2DCFDA) を正常ヒト皮膚線維芽細胞に導入することで,細胞内における抗酸化作用をより正確に反映する評価法を検討した。本法を用いて代表的なポリフェノールであるカフェ酸 (100μM) ,ケルセチン (50μM) およびEGCg (50μM) の細胞内抗酸化活性 (CAA) 値を測定した結果,それぞれ対照の82,48,および68%まで活性酸素を抑制した。試料の細胞内への取り込み能を含めた細胞内抗酸化活性を評価できたと考えられた。
  • 小林 和法, 倉沢 真澄, 丹 美香, 工藤 大樹, 赤塚 秀貴, 大場 愛
    2011 年 45 巻 3 号 p. 212-217
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2013/09/20
    ジャーナル フリー
    肌の「ハリ」は理想の肌の要素のひとつとして挙げられることが多い。従来「ハリ」といえば肌に触れたときの感覚としてとらえられ,真皮にアプローチした改善策がとられてきた。しかしわれわれは,「ハリ」には視覚的要素も含まれていると考え,視覚的なハリという点に着目して検討を行った。健常日本人女性の顔面を対象に行った肌の官能評価スコアを用いてクラスター分析を行ったところ,「目で見て感じるハリ (視覚的ハリ) 」は「視覚的うるおい感」と非常に距離が近く,一方で「触覚的ハリ」とは別のクラスターに分類されることがわかった。また,視覚的ハリは角層水分量や経表皮水分蒸散量と関係することがわかった。この結果から,角層水分状態の改善が視覚的ハリの向上につながるのではないかと考え,化粧料の連用試験を行い,角層水分状態が改善されたときに視覚的ハリスコアがアップするかどうかをみたところ,角層水分量の有意な増加とともに視覚的ハリの有意な向上が確認され,一方で触覚的ハリには有意な変化が認められなかった。これは,視覚的ハリと触覚的ハリには,それぞれに最適な改善アプローチが別々に存在する可能性を示唆している。
  • 井上 弥生, 西島 貴史, 小島 伸俊, 風間 治仁, 岩田 佳代子
    2011 年 45 巻 3 号 p. 218-224
    発行日: 2011/09/20
    公開日: 2013/09/20
    ジャーナル フリー
    しみやソバカス,ニキビなどに代表される肌色ムラは,日本人女性の肌悩みの上位を占め,化粧品や美容医療分野で重要な研究対象となっている。本研究では,肌画像からメラニン成分画像とヘモグロビン成分画像に分離できる独立成分分析法を用いて,10代から70代の日本人女性201名の顔面におけるメラニンムラの実態解析を行った。その結果,しみとは異なる,薄く,境界が不明瞭なメラニンムラが地肌に広がっている様子が観察された。頬部における「地肌のメラニンムラ」の目立ちスコアは,年齢と有意な正の相関が認められた。また,「地肌のメラニンムラ」は,加齢にともない,頬上部から頬下部 (口元やあご) にまで範囲が広がることが明らかとなった。さらに,中高年女性特有の肌悩みである「肌のくすみ」が「地肌のメラニンムラ」と強く関係していることがわかった。以上のことから,「地肌のメラニンムラ」は,「肌のくすみ」の新たな評価軸となり,美白製剤の有効性評価に役立つと考えられた。
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