高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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23 巻, 2 号
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シンポジウム
  • 池田 学
    2003 年 23 巻 2 号 p. 97-98
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/04/21
    ジャーナル フリー
  • 村井 俊哉
    2003 年 23 巻 2 号 p. 99-106
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/04/21
    ジャーナル フリー
    意味記憶はエピソード記憶と対比するかたちで認知心理学領域に導入された長期記憶の下位分類である。1970年代以降の神経心理学領域での意味記憶研究は,A.意味記憶システムと他の認知機能 (とくにエピソード記憶) を支えるシステムとの関係,B.意味記憶システムそれ自体の構造,の2点に大別できる。Aについては,意味健忘,意味痴呆の名称のもとに選択的意味記憶障害の症例が相次いで報告され,意味記憶システムはその他の認知機能を支えるシステムとある程度独立しているということが確認されてきた。最近は encodingの段階での両記憶の関連が関心を呼んでいるが,発達性健忘と呼ばれる一連の症例が注目されている。Bについてとくに関心をもたれてきたのが,生物と非生物の意味記憶とのあいだで成績に乖離がみられる一連の症例である。いくつかの興味深い説明仮説が提唱されているが,いずれが正しいかについて,いまだ決着はついていない。
  • 小森 憲治郎, 池田 学, 中川 賀嗣, 田辺 敬貴
    2003 年 23 巻 2 号 p. 107-118
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/04/21
    ジャーナル フリー
    側頭葉の限局性萎縮により生じる意味痴呆と呼ばれる病態では,言語・相貌・物品など広範な対象についての意味理解が選択的に障害される。意味痴呆における葉性萎縮のパターンには,通常左右差が認められるが,萎縮の優位側に特異的な認知機能障害については,いまだ十分な合意的見解が得られていない。そこでまずわれわれは,左優位の萎縮例と右優位例の神経心理学的比較検討から,左右側頭葉の役割分化に関する手がかりを得ようと試みた。その結果,典型的な語義失語像を呈した左優位例では,呼称,語産生と,理解に関する項目で右優位例を下回り,知能検査についても言語性検査の成績低下が著明であった。一方右優位例では,総じて語義失語の程度はやや軽度で,代わって熟知相貌の認知障害,物品の認知ならびに使用障害を呈したが,言語の諸機能はまんがの理解を除き左優位例に比べ成績低下が軽度であった。また知能検査では言語性,動作性ともに低下し,何らかの視覚性知能の障害も併存している可能性が示唆された。さらに諺と物品という,それぞれ言語性・視覚性と異なる表象の保存状態を調べる補完課題を用いた比較では,どの意味痴呆患者も何らかの補完課題の障害を認めたが,諺の補完課題での成績低下が著明で物品の補完は比較的保たれる左優位例に対し,おもに物品の補完課題に著しい困難を呈し,諺では補完が比較的保たれる右優位例,という二重乖離が認められた。これらの結果は,左側頭葉前方部が言語性の,また右側頭葉前方部は視覚性の表象を司る神経基盤として重要であることを示唆している。
  • 吉野 文浩, 加藤 元一郎
    2003 年 23 巻 2 号 p. 119-129
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/04/21
    ジャーナル フリー
    健常高齢者20名を対照群とし,アルツハイマー型痴呆 (DAT) 群20名の意味記憶崩壊初期の障害構造を検討した結果,DATには意味記憶そのもの (言語性表象としての「語」や視覚性表象としての「線画」により “意味されるもの”) の障害が存在すること,意味システムの様式構造は単一であることが示唆された。さらに,左側頭葉に著明な損傷をもつヘルペス脳炎後遺症による選択的意味記憶障害 (症例1) と両側側頭葉萎縮の意味痴呆 (症例2) を検討した結果,症例1と DAT群の障害構造は類似し,症例1にも意味記憶そのものの障害が存在することが示唆された。一方,症例2の障害構造からは,言語性あるいは視覚性の表象と意味記憶そのものとの間に強いアクセスの障害が存在することが示唆された。意味記憶そのものの障害には,左側頭葉の局在的損傷が関与し,このような強いアクセスの障害には,両側側頭葉を含む変性病変が関与する可能性が考えられた。
  • 水田 秀子
    2003 年 23 巻 2 号 p. 130-137
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/06/02
    ジャーナル フリー
    語の意味記憶に関して,外傷性脳損傷例の臨床像を中心に考察した。症例の反応から意味記憶障害・失語症を鑑別する際の留意点を述べた。語が成立する前提となる,対象概念の成立にかかわる範疇化 (抽象化・汎化) の機能の重要性を指摘した。語の意味記憶障害には,語のネットワークの機能は保存されるが,個々の「項目」は失われる病態があることを指摘した。意味記憶障害例の経過観察から示唆される意味記憶の学習・形成に関し考察した。
原著
  • 新貝 尚子, 伏見 貴夫
    2003 年 23 巻 2 号 p. 138-148
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/04/21
    ジャーナル フリー
    12歳で発症した13歳の小児失語例の失語,失読症状を精査した。失語は早期に日常会話レベルに回復したが,低頻度語の呼称や短文の復唱に障害がみられ,読み書き障害が残存した。初期の失読症状には意味性錯読,心像性効果,語彙性効果などがあり深層失読の特徴が観察されたが,仮名語,仮名非語から回復し,漢字語の音読に障害が残った。漢字熟語の音読では,親密度,頻度,心像性,一貫性が低い熟語の成績が悪かった。また訓読み熟語に比べ音読み熟語の成績が悪かったが,双方において心像性効果,一貫性効果があったことから,意味経路および漢字を音韻に直接変換する音韻経路の双方が使われていることが示された。心像性効果,一貫性および音訓効果から意味経路と音韻経路の双方が不完全に機能しているとも考えられたが,良好な理解と非語復唱の障害から,音韻障害が失語,失読症状の基盤にあると推測された。
  • 森 加代子, 中村 光
    2003 年 23 巻 2 号 p. 149-159
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/04/21
    ジャーナル フリー
    音韻性失読 (PD) とは実在語に対し非語の音読が選択的に障害された失読症候群であり,古典的二重回路モデルでは非語彙経路の障害と解釈されてきた。本研究ではPDの1症例に対し,刺激材料を統制した (1) 音読検査, (2) 語彙判断検査, (3) 読字を含まない音韻操作課題を施行し,PDおよび健常の読字過程と,PDの障害基盤について検討した。検査の結果, (1) では同音擬似語効果 (同音擬似語「ばいおりん」や「ばイおリん」の読みは非同音非語に比べ良好) と同音擬似語における元の語の親密度の影響が認められ, (2) では視覚性語彙判断における非同音非語の著明な障害が認められた。これらはPDの古典的解釈では説明できず,読字の経路は実在語と非語とで完全に二分されるものではないと考えられた。また, (3) は一部の課題に顕著な成績不良が認められた。これはPDがより広く音韻処理過程の障害であるとの説を支持し,音韻操作課題の中でも種類により難易度には違いがあることが示唆された。
  • 菅 弥生, 石原 健司, 河村 満, 片多 史明, 望月 聡
    2003 年 23 巻 2 号 p. 160-167
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/04/21
    ジャーナル フリー
    扁桃体が感情認知にかかわることは古くから知られているが,扁桃体病変例でも表情や音声からの感情認知に障害のない例が存在する。この結果の不一致については,病因や病変の限局の程度から論じられているが,いまだ明らかではない。また,表情と音声からの感情認知を同一症例において同時期に検討した研究は少なく,感情認知におけるモダリティー特異性を厳密に論じることは困難であった。今回われわれは,脳炎による両側扁桃体病変例における感情認知を,表情 (動画および静止画) ,音声,文章という3つの異なる刺激モダリティーを用いて検討した。結果として,扁桃体病変例における表情認知障害はみられず,音声,文章からの感情認知において,恐怖感情のみ正答率の低下がみられた。このことより,感情認知の神経機構にはモダリティー特異性が存在し,音声や文章からの感情認知には扁桃体を含む側頭葉内側の広範領域がかかわると考えられた。
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