茶業研究報告
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1989 巻, 69 号
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  • 田中 敏弘, 山中 浩文, 岩倉 勉, 松山 康甫, 嶽崎 亮
    1989 年 1989 巻 69 号 p. 1-11
    発行日: 1989/06/01
    公開日: 2009/07/31
    ジャーナル フリー
    チャの潮風害回避のため,蒸散抑制剤と洗浄,間作作物の利用について検討した。
    1) 1985年8月31日に台風13号が通過した。それより9日前に,蒸散抑制剤(グリンナー:ワックス水和剤)の10%液を200l/10a散布しても,無散布に比べ,潮風害の発生程度に差がみられなかった。
    2) 海水散布(200l/10a)後洗浄までの時間が,4時間以上経過すると1000l/10aの水で洗浄しても無洗浄と差がなく,0.5時間後の洗浄では無洗浄の61~71%の被害発生が認められた。
    3) 間作作物としてソルガムを用いた幼木園は,台風通過時にソルガムの草丈が128~142cmで,幹数が27~40本/mに達していれば,防風垣の効果のない所では,枯死株率が59~82%に達し,改植が必要と思われたのに対し,2番目のソルガムの防風垣の背後にある5,6畦目からは,枯死株率は2~9%で実害はなかった。
    4) 以上の結果から,潮風害の回避のためには小量の水による洗浄より,防風対策が有効と考えられ,幼木園では,間作も有効な手法であり,間作作物としては,ソルガムのように耐倒伏性の強い作物が適するであろう。
  • 西野 恒夫
    1989 年 1989 巻 69 号 p. 13-20
    発行日: 1989/06/01
    公開日: 2009/07/31
    ジャーナル フリー
    本研究で検討した,「傾斜地の自然落差を利用した散水氷結法による凍霜害防止」の設置条件設定は以下のとおりである。
    (1) 傾斜面25度内外では,吐水口径2.4mm,吐水仰角23度のスプリンクラーを吐水圧2.5kg/cm2で使用する。
    (2) スプリンクラーの高さは茶株面から80cmとし,スプリンクラーは水平10.4m×上下8.7m(90m2)毎に1基を千鳥に設置する。
    (3) 吐水圧2.5kg/cm2で,散布深2mm/hr以上を確保するには散水むらを考慮して,3.6t/hrの水量を必要とする。
    (4) 2日連続して霜があることを予想して,72tの水が必要で,時間当り1.3tの流入水があるときは30m3の水槽を設置する。
    (5) 吐水圧2.5kg/cm2を確保するため,標高差30m以上の位置に水槽を確保する。
    (主管及び,支管口径の設計は管路摩擦損失水頭表を参照する。)
    (6) サーモスタットは1℃にセットする。感温部は茶園の最も気温が下がると思われる場所に置く。
    (7) 防霜期間は萌芽期直前から一番茶摘採までとする。かくして,防霜効果を発揮することが明かになった。傾斜面15度付近では,平坦地に準じた設置法でよい。
    なお,本散水法は少量の水を万遍なく散水できることから,病害虫(ダニ類,クワシロカイガラムシを除く)の防除にも,効率かつ経済的に利用することができるものと思われる。
    本試験を行うに当り,懇切なる指導を賜った農林水産省野菜・茶試験場作業技術3研究室 青野英也(前)室長に厚くお礼申し上げる。
    また,実験の遂行にあたって助言を賜った,高知県茶業センター 大野金省前所長,本稿をとりまとめるに当たって指導を賜った高知県茶業センター野村二郎所長に厚くお礼を申し上げたい。
  • 大森 薫, 久保田 朗, 中村 晋一郎
    1989 年 1989 巻 69 号 p. 21-28
    発行日: 1989/06/01
    公開日: 2009/07/31
    ジャーナル フリー
    自然仕立園と弧状仕立園における玉露原料の化学成分含量について部位別に検討した。
    1) 自然仕立園の玉露原料では,
    (1) 下位葉になるほど可溶分,水溶性窒素,アスパラギン酸,グルタミン酸,セリン,テアニン,イソロイシソ,ロイシン含有量は増加し,水溶性窒素/全窒素比は高くなった。
    (2) 下位葉になるほど全窒素,タンニン含有量は減少し,タンニン/全窒素比は低下した。
    (3) カフェイン含有量は第2葉が最も多く,水溶性窒素/可溶分比は第3葉が最も高い傾向であった。
    グルタミン,アルギニソ含有量は第2葉が最も少なく,タンニン/カフェイン比は第3葉が最も低い傾向であった。
    (4) 茎では,可溶分,全窒素,タンニン,カフェイン,アスパラギソ酸,グルタミン酸,テアニソ含有量は上部に多く,タンニン/全窒素比は上部で高かった。一方,水溶性窒素,アスパラギン酸,セリン,グルタミン,アラニン含有量は下部に多く,タンニン/カフェイン比,水溶性窒素/全窒素比,水溶性窒素/可溶分比は下部で高かった。
    (5) アミノ酸類は葉より茎に多い傾向であった。特にグルタミンは,葉の30倍程度を茎に含有していた。
    2) 弧状仕立園の玉露原料では,
    (1) 下位葉になるほど可溶分,アスパラギン酸,グルタミン酸,セリン,アルギニン,アラニン,γ-アミノ酪酸,イソロイシン,ロイシン含有量は増加し,水溶性窒素/全窒素比は高くなった。
    (2) 下位葉になるほど水溶性窒氣全窒素,カフェイン含有量は減少し,水溶性窒素/可溶分比は低下した。
    (3) タンニン含有量は第3葉,アスパラギン,グルタミン含有量は第2葉で最も少なく,タンニン/全窒素比,タンニン/カフェイン比は第2葉で最も低い傾向であった。
    テアニン含有量は第3葉で最も多い傾向であった。
    (4) 茎では,可溶分,水溶性窒素,全窒素タンニン,カフェイン,アスパラギン酸,グルタミン酸,アスパラギン,セリン,グルタミン,テアニン含有量は上部に多く,タンニソ/全窒素比,水溶性窒素/可溶分比は上部で高かった。
    タンニン/カフェイン比,水溶性窒素/全窒素比は下部で高かった。
    (5) アミノ酸類は,葉より茎の方が多く,特に茎のグルタミン含有量は葉の30倍程度であった。
    3) 弧状仕立園原料は自然仕立園原料に比べて,タンニンは多いが他の調査した全ての成分は少なく,特に茎下部での含有量の差が大きかった。
    4) 玉露原料は煎茶原料と大きく異なる成分組成をしており,特にアミノ酸類は,葉位間並びに葉と茎との関係が煎茶原料とは逆の傾向であると推察できた。
    最後に,アミノ酸の分析並びに取りまとめにあたり御指導頂いた農林水産省野菜・茶業試験場の阿南豊正氏に深甚なる謝意を表します。
  • 高柳 博次, 阿南 豊正, 池ヶ谷 賢次郎
    1989 年 1989 巻 69 号 p. 29-34
    発行日: 1989/06/01
    公開日: 2009/07/31
    ジャーナル フリー
    茶の遊離アミノ酸類の蛍光検出法を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による定量法を検討した。
    試料溶液の調製は100mgの粉末試料に熱湯を加え,80℃で30分間加温抽出した。なお,この抽出時に内標準物質としてノルバリン0.1mgを加えた。抽出液100mlに定容した。この抽出液を0.45μmのメンブランフィルターでろ過し,このろ液にOPA試薬を混合し約60秒後10μlをHPLCに注入した。
    分析機は日本分光TRIROTAR-VI型を用い,グラジエント法と蛍光検出法(励起波長345nm,検出波長455nm)によった。
    カラムはODS-120A(10μm,東洋ソーダ,4.6mmφ×250mm)を用いた。
    アミノ酸類の分離は次の条件によった。
    移動相A:12%エタノールV/V1lにクエン酸緩衝液(pH 6.0) 3.5mlを添加。
    移動相B:50%エタノールV/V1lVim.クエン酸緩衝液(pH 6.0) 3.5mlを添加。
    本報による分析値の変動係数はメチニナンを除いては1.10~6.26%,回収率は94.7~103.0%であった。
    本研究を実施するに際し,御指導を頂いた現農林水産技術会議事務局津志田藤二郎博士に深く感謝申し上げます。
  • 久保田 悦郎, 堀田 博, 原 利男
    1989 年 1989 巻 69 号 p. 35-41
    発行日: 1989/06/01
    公開日: 2009/07/31
    ジャーナル フリー
    中国産ウーロン茶と,わが国で試作したウーロン茶の香気成分を分析し,次の結果を得た。
    (1) 中国産ウーロン茶は日本産のものより,ネロリドール,ロンギフォレン,ファルネッセン,トリエンー3―オール,シスージャスモン,ジャスミンラクトン,ベンジルシアニド,インドールなどが多く含まれていた。これに対し,日本産ウーロン茶にはトランスー2―ヘキセナール,シスー3―ヘキセンー1オール,ベンジルアルコールなどが多く含まれていた。この結果は,中国産ウーロン茶に特有の花のような香りが強く,日本産ウーロン茶は青臭いにおいが強いという官能検査の結果とよく一致していた。
    (2) 中国産ウーロン茶に多く含まれるセスキテルペンとして,茶から初めてロンギフォレンを同定した。
    (3) 日本産ウーロン茶と中国産のものの香気形成の差異を明らかにするため,ウーロン茶に多く含まれるネロリドールと,紅茶に多く含まれるリナロールおよびシスー3―ヘキセン―1オールの含量比を調べた。その結果,日本産ウーロン茶は,中国産ウーロン茶と紅茶の中間型の香気形成を示した。
    この研究を行うにあたり,標品のロンギフォレンを分与していただき,同定についてご教示を賜ったお茶の水女子大学教授小林彰夫博士に厚くお礼申し上げます。また,供試材料のウーロン茶を提供していただいた,三井農林株式会社三浦宣安氏,静岡県茶業試験場高橋宇生氏,三重県茶業センター木下 〓氏に深く感謝いたします。
  • 寺田 孝重
    1989 年 1989 巻 69 号 p. 43-47
    発行日: 1989/06/01
    公開日: 2009/07/31
    ジャーナル フリー
    奈良県吉野郡下の二か村において検地帳の調査をおこなった。この結果,当地域における茶園について以下のことが判明した。
    1) 吉野郡内の多くの地域において,延宝検地をふくむ17世紀の後半に茶畑の開発が行われた。
    2) 北曽木村と栃原村の延宝検地帳によれば,開発の年次は,村によって長期にわたるものと短期間で行われたものの相違はあるが,ほぼ寛文・延宝期に当っていた。
    3) 開発された茶畑は,生産力の低い下々茶畑ないし,更に下位の下々茶山畑が多く,これも開発年次が延宝検地に近いことを示している。
    4) このような急激な茶園の増大をもたらした背景については,目下のところ不明である。
    本稿を終えるに当り,史料の閲覧を許して頂いた青木晴夫氏,並びにご教示を賜った吉野町文化財保存会会長 上田龍司氏,県立橿原高校校長 広吉寿彦氏,筑波大学助教授 熊倉功夫博士に深く感謝する。
  • 鳥屋尾 忠之
    1989 年 1989 巻 69 号 p. 49-64
    発行日: 1989/06/01
    公開日: 2009/07/31
    ジャーナル フリー
    1) 茶薗面積の横ばいが続く中で,1979年の調査時に比べて品種化率が大幅に伸び,前回48%であったものが70%となり,優良品種の普及が一段と進んだ(表1,図1,2)。
    2) 普及品種の中で'やぶきた'の占める割合「やぶきた率」が依然として高い。一方,地域・茶種によっては'やぶきた'以外の品種が増加するきざしがみられ,品種普及率には,それぞれ府県あるいは産地の特徴が認められた。
    3) 京都,福岡,愛知の玉露・てん茶産地では,'さみどり''ここう''あさひ''おくみどり'等の品種が伸びている。
    4)「59寒害」によって耐寒性の強いことが認められた'さやまかおり''こまかげ'かなやみどり'等の増殖が進んだ(表1)。
    5) 防霜施設(防霜ファン,スプリ・ンクラー,被覆等)の普及によって,全国的に早生品種の導入がさらに増える傾向にあり,特に暖地における早生化が一段と進んだ(表1)。
    6) 登録後の新品種の評価が定まり本格的普及に移るのに10数年を要していることが明らかにされた。このような問題点が指摘される中で,'かなやみどり'(1970年登録)'さやまかおり'(1971年)'おくみどり'(1974年)の増殖が進んでいる。
    7) 新品種の現地における試作成績の集約を早く行うこと,導入にあたって的確な評価や,栽培・製茶の両面にわたる普及指針を早く現場に返すことなど,登録後のアフターケアを充実することの重要性が指摘されている。
    8) 現地の要望に応える品種の育成が急務であることと,一方で,それぞれの立地・経営に合った品種の選択と組み合わせの積極的な普及・指導の必要なことが指摘されている。
    9) 新種苗法による許諾等の手続きが新品種の普及の制約になっているとの意見があった。
    10) 今後普及が見込まれる品種,望ましい品種として,品質に重点を置く意見が多く,香気に特徴ある品種,早生品種,耐霜・耐寒性品種への要望が多い。
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