茶業研究報告
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2018 巻, 125 号
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総説
  • 坂本 孝義
    2018 年 2018 巻 125 号 p. 1-6
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    静岡県出身で且つ宮崎県において茶の試験研究の経験を持つ森薗市二氏は,釜炒り茶のことを正しく把握している一人と考えられる。氏の資料によると,「佐賀,長崎を中心とする嬉野製と,熊本,宮崎を中心とする青柳製は,当時は上流階層の飲料に供する上級茶で,一般庶民の飲用する釜炒り番茶類は,九州,四国,中国各地方で,広くつくられていた」16) という記載もある。釜炒り茶と呼ばれる茶には嬉野製や青柳製と呼ばれる緑茶に分類される釜炒り茶と,番茶に分類される釜炒り日干し茶が存在していたことが伺え,しかも一般的には,これらは区別されていなかったようだ。しかし,江戸時代末期から明治時代にかけて茶の輸出が盛んになり,外貨獲得のための商品として茶が脚光を集めると,釜炒り日干し茶が日本茶の評価を悪くするという理由で禁止されるが,釜炒り日干し茶が釜炒り茶と誤認されていたためか釜炒り茶が禁止されてしまう。その一方で,釜炒り茶の製造の際に効率良く乾燥するための乾燥用道具が考案・導入された。乾燥用の道具としては茶焙炉,室,印度焙炉があった。

    日本茶の大半は蒸し製であり,蒸し製は摘採時期や選別方法の違いから煎茶,番茶というように分類される。一方で,釜炒り茶は今日では九州の一部の地域で生産されている茶であり,しかも生産量も少ないが故に品質格差を無視して適正に評価されていないことがあると考える。番茶とみなされる釜炒り茶は,日干し製法という製法も含めて釜炒り茶と定義されてしまうことで適正に評価されない一因と考える。

報文
  • 吉留 浩, 長友 博文, 水田 隆史, 佐藤 健一郎, 宮前 稔, 古野 鶴吉
    2018 年 2018 巻 125 号 p. 7-23
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    ‘はると34’は,1997年に宮崎県総合農業試験場茶業支場において,‘さえみどり’を種子親,‘さきみどり’を花粉親として交配した実生群から選抜された極早生の緑茶用品種である。

    2007年から2015年まで‘宮崎34号’の系統名で宮崎県を含む全国の14試験場所 (一部の場所は2010年まで) で系統適応性検定試験第12群として地域適応性試験等を実施した。更に,2011年から2013年までは農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業23014に参画した試験場所の一部で特性調査を行った。その結果,‘はると34’は,温暖地の好適条件の茶産地であれば,高価格が期待できる一番茶の極早期に製茶できる品種で,煎茶,釜炒り茶いずれにおいても品質が優れる良質極早生品種として普及に移し得ると判断され,2016年1月12日に種苗法に基づく品種登録出願を行い,2016年12月27日に品種登録出願公表された。

    ‘はると34’の特性の概要は次のとおりである。

    1) 樹姿は‘中間’,樹勢は‘強’,株張りは‘やぶきた’より大きい。一番茶期の新芽は,萌芽後18日目の早い極みる芽の時期から30日目のやや硬化した時期まで‘さえみどり’より葉色が濃く,鮮やかな緑色である。

    2) 晩霜による生育遅延を受けなかった場合の一番茶の萌芽期は,‘やぶきた’より7日程度,摘採期は5日程度早い極早生品種であり,特に温暖な茶産地では摘採期が‘やぶきた’より10日程度,‘さえみどり’より5日程度早い。

    3) 一番茶,二番茶の収量は‘やぶきた,さえみどり’より多い。

    4) 耐寒性は,裂傷型凍害や赤枯れ,青枯れには‘やぶきた,さえみどり’より強いが,越冬芽の凍害は‘ゆたかみどり,さえみどり’並に弱い。

    5) 耐病虫性は,輪斑病は‘やや強’,炭疽病,もち病には‘弱’である。クワシロカイガラムシに対する抵抗性は‘極弱’である。

    6) 製茶品質は,煎茶の一番茶は色沢,水色が特に優れ,‘やぶきた’より優れる。防霜施設が整えられた温暖地での栽培等,条件が良ければ‘さえみどり’より優れる時がある。煎茶の二番茶は色沢,香気,滋味が特に優れ,‘やぶきた,さえみどり’より優れる。釜炒り茶の一番茶では色沢,香気,滋味が特に優れ,‘やぶきた,さえみどり’より優れる。

    7) 煎茶及び釜炒り茶における一番茶荒茶の化学成分含有率は‘やぶきた’より遊離アミノ酸含有率が高く,タンニン含有率は低い。煎茶の二番茶荒茶の化学成分含有率は‘やぶきた,さえみどり’より遊離アミノ酸含有率が高く,タンニン含有率は低い。

    8) 一番茶の3.5葉期頃から80%遮光率5日間程度の直接短期被覆処理を行うと,製茶品質では形状,色沢,水色が向上し,化学成分含有率では遊離アミノ酸が増加し,タンニンが減少するため品質が向上する。

  • 外側 正之, 逵 瑞枝, 瀧川 雄一
    2018 年 2018 巻 125 号 p. 25-32
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    2015年 (平成27年) 10月に,静岡県内でチャの1系統の葉に赤紫色斑点を生ずる病害が観察された。一見したところ,症状はPseudomonas syringae pv. theaeによるチャ赤焼病の症状に類似していた。しかし,チャ赤焼病に比して斑点の輪郭が不明瞭な点,斑点周囲の水浸状部位が狭い点で違いがあった。また,赤焼病の初期病徴に多い葉柄での発生が見られなかった。そこで,病原菌の分離・培養および人工接種試験ならびに生理学的性状の試験と16S rRNA遺伝子解析による病原菌の同定を行った。その結果,Acidovorax valerianellaeによるチャ斑点細菌病であることが明らかとなった。本病が鹿児島県以外で発生したのは,これが初めてである。

短報
  • 石島 力, 佐藤 安志
    2018 年 2018 巻 125 号 p. 33-36
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    室内飼育をしたチャノコカクモンハマキおよびチャハマキの卵塊を茶園に設置し,キイロタマゴバチ類の寄生状況について調査を行った。チャノコカクモンハマキ卵に対する寄生率は,9月上旬に小さなピーク,10月下旬および11月中旬に大きなピークがみられ,大きなピークにおける寄生率は30%程度であった。一方,チャハマキ卵に対する寄生率は,9月下旬から10月上旬に小さなピーク,10月下旬から11月上旬に大きなピークが見られ,その時の寄生率は60~80%に達し,チャハマキ卵に対する寄生率が,チャノコカクモンハマキ卵よりも有意に高かった。これらの結果より,キイロタマゴバチ類は特にチャハマキの天敵として高い潜在能力を持つことが示唆された。

技術レポート
  • 川口 茜, 佐藤 皓杜, 川野 翼, 田村 保晃, 池田 奈実子
    2018 年 2018 巻 125 号 p. 37-43
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    材料は農研機構果樹茶業研究部門金谷茶業研究拠点内の圃場の‘べにふうき’を用い,一番茶新芽及び二番茶新芽を乗用型摘採機を用いて摘採した。萎凋は生葉コンテナを用いて,一番茶は重量が40%減するまで,二番茶は重量30%減少するまで行った。チューブ規格袋に入れて小分けし,卓上型真空ガス包装機を用いて,真空にした後,窒素充填を行った。窒素封入後の袋を-30℃で40分間急速冷凍を行った後,-20℃で保存した。解凍は,前日夕方から冷蔵庫内で行った。製茶は当日 (摘採日の翌日の萎凋終了後),摘採から1ヶ月後,3ヶ月後,5ヶ月後に行った。一番茶,二番茶とも,水分が茶葉の表面に付くことはなく,通常通り製茶を行うことができた。審査員9名による官能審査を行った結果,一番茶,二番茶とも当日と1ヶ月間,3ヶ月間,5ヶ月間保存後製造したものとの間に差はなかった。一番茶の萎凋葉を3ヶ月間保存した原料を用いて製造した紅茶が尾張旭の国産紅茶グランプリで銀賞を獲得したことで,冷凍保存した原料を用いても良質な紅茶を製造できることが明らかになった。

資料
  • 山口 幸蔵, 宮崎 秀雄
    2018 年 2018 巻 125 号 p. 45-52
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    ‘やぶきた’の生葉を原料に作り分けた釜炒り茶,蒸製玉緑茶,煎茶の1煎,2煎,3煎目の荒茶浸出液について,味覚センサーによるうま味,渋味の測定,またアミノ酸,カテキン類の成分分析を行い,釜炒り茶および蒸製玉緑茶と煎茶との味の違いとその要因について検討した。

    釜炒り茶は煎茶と比較して1,2煎目ともにうま味推定値に有意差はなく,渋味推定値は低いことから,渋味を感じにくいものと推察された。これは,釜炒り茶が揉み込み工程が少ない製法であることによる成分の溶出されにくさに加えて,荒茶浸出液中のアミノ酸に対するカテキン類の溶出割合が低いこと,総カテキン類量に占めるガレート型カテキン類の割合が低いことも要因であると考えられる。蒸製玉緑茶は煎茶と比較して1,2煎目ともに味覚センサーによるうま味,渋味評価は同等であり,1~3煎目の荒茶浸出液中のアミノ酸,カテキン類の濃度およびその組成においても煎茶と有意差が認められなかった。一方,作り分けを行った荒茶の浸出液において,アミノ酸総量およびグルタミン酸等のアミノ酸個別の濃度の対数とうま味推定値,またガレート型カテキン類濃度および個別カテキン類濃度の対数と渋味推定値との間に非常に高い相関が認められた。

  • 被覆茶需要に応える簡易な樹体診断と効率的被覆作業による高品位安定生産技術の確立
    堀江 秀樹, 鈴木 利和, 竹本 哲行, 丹羽 努, 一家 崇志
    2018 年 2018 巻 125 号 p. 53-56
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    農食事業27015C「被覆茶需要に応える簡易な樹体診断と効率的被覆作業による高品位安定生産技術の確立 (2015年度~2017年度) 」で得られた成果を紹介した。本プロジェクトは,被覆にともなう樹体の衰弱を診断する技術の開発と機械化による被覆作業の効率化を柱とし,成果の一部は「被覆茶の安定生産マニュアル」として公開した。

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