茶業研究報告
Online ISSN : 1883-941X
Print ISSN : 0366-6190
ISSN-L : 0366-6190
最新号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
報文
  • 佐波 哲次, 吉田 克志, 松永 明子, 荻野 暁子, 田中 淳一, 谷口 郁也, 萬屋 宏, 山下 修矢, 根角 厚司
    2021 年 2021 巻 132 号 p. 1-13
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル フリー

    ‘かなえまる’は農研機構金谷茶業研究拠点において,1994年に金F183を種子親に金谷13号を花粉親として交配した実生群から選抜され,2020年2月13日に品種登録出願公表された。‘かなえまる’の概要は以下のとおりである。

    1.‘やぶきた’と比べると,一番茶萌芽期は1日遅く,摘採日は1日早い中生品種である。

    2.挿し木時の生育はやや不良であるが,圃場定植後の生育は良好である。樹姿はやや開張である。‘やぶきた’と比べると株張りは良く,新芽数が多い。

    3.収量は一,二番茶ともに‘やぶきた’より多く,荒茶品質は優れ,特に外観は優れた。被覆栽培においても同様の傾向が認められる。

    4.病害虫について‘やぶきた’と比べると,輪斑病の発生は少なく,もち病と炭疽病の発生はやや少ない。赤焼病に対しては抵抗性がない。クワシロカイガラムシの発生は極めて少ない。

    5.赤枯れ,青枯れのような寒害は,耐寒性の高い‘さやまかおり’と同等かやや強で,裂傷型凍害はやや強である。

    6.‘やぶきた’の栽培が可能な主要茶産地で栽培可能である。

  • 山本 圓, 澤野 麻利江, 中野 敬之
    2021 年 2021 巻 132 号 p. 15-24
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル フリー

    静岡県における茶栽培への気候変動影響を明らかにすることを目的として,気象観測値と作況調査園の一番茶の生育・収量データを用いて統計解析を行い,一番茶摘採期の回帰式を作成した。次に,一番茶摘採期の回帰式と気候シナリオデータを用いて,静岡県の一番茶摘採期を予測し,別途作成した静岡県の茶園位置図に重ね合わせた。RCP2.6では,21世紀末における摘採期は現在よりも3~7日間程度早まる結果となった。一方,RCP8.5では,21世紀末に現在よりも10日間以上早まる結果となった。

  • 高橋 淳, 工藤 健
    2021 年 2021 巻 132 号 p. 25-31
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル フリー

    裂傷型凍害は,夜間の氷点下条件で幹が凍結し形成層に氷片が形成され,そこに根が吸収した水分が供給されることで氷片が肥大し裂傷が発生すると考えられていた。本研究では,これまでの水分供給経路に加え,新たな水分供給経路を明らかにした。

    初めに,枝条を氷点下処理した際に樹皮から漏出する液体の由来を検討した。漏出液の成分分析を行ったところ,漏出液はテアニン及びショ糖等を含んでいたことから,枝条内部から漏出した樹液であると推察された。また,漏出箇所を実体顕微鏡で観察すると樹皮に肉眼で観察が困難な微細な亀裂が生じていた。

    次に,裂傷が生じる夜間の暗黒条件における形成層の氷片への水分供給経路を検討した。暗黒条件でセル苗における吸水の有無及び蒸散量を調査したところ,吸水は認められたものの蒸散量が極めて少なかったことから、根からの水分吸収以外の水分供給経路が存在する可能性が示唆された。そこで,酸性フクシン溶液を吸収させたロックウールに枝条を挿して人為的に氷点下処理を行ったところ,地際部に裂傷が発生し,当該裂傷部のみ酸性フクシン溶液が浸透した。これらのことから,裂傷発生の要因となる形成層氷片への水分供給は,根からの吸水の他に,氷点下によって樹皮に発生した微細な亀裂を介しても行われていることが明らかとなった。

    これまでの試験の結果,裂傷型凍害の発生は,樹体各所に氷片が形成され樹体全体に微細な亀裂が生じ,地際部付近の微細な亀裂を介し土壌表層の水分が形成層の氷片に供給されることで氷片が肥大し、地際部限定的に裂傷が生じると推察された。

  • 吉田 達也, 内山 徹, 櫻井 嵩也, 瀧 哲元
    2021 年 2021 巻 132 号 p. 33-44
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル フリー

    チャの重要害虫であるクワシロカイガラムシは茶樹葉層下に寄生するため,薬液が本種やその寄生部位に付着しにくく薬剤防除が難しい。近年普及が進んでいる乗用型防除機を用いた場合の本種に対する効果的な薬剤散布方法を検討するため,2種類の乗用型防除機において上方ブームノズル単独,カイガラノズル単独,上方ブームノズルおよびカイガラノズル併用,3種類の方法で複数水準の量を散水し,茶樹内の液滴付着程度を調査した。

    カワサキ機工株式会社KJS4-BR,落合刃物工業株式会社OMS-7Fどちらの防除機を用いた試験でも,上方ブームノズルとカイガラノズルを併用した場合,感水紙の変色割合は散水量の各水準で他のノズル単独の場合と同程度となるか上回り,両ノズルの併用により効率的な液滴の付着が可能であった。また,感水紙の設置位置については垂直位置が深いほど,水平位置が内側であるほど変色割合が大きくなる傾向にある場合が多かった。乗用型防除機を用いた薬剤散布においては,カイガラムシ類の防除に対し上方ブームノズルとカイガラノズルの併用が推奨される。

  • 萬屋 宏, 須藤 正彬, 佐藤 安志, 加嶋 崇之
    2021 年 2021 巻 132 号 p. 45-54
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル フリー

    チャノミドリヒメヨコバイは,茶の新芽を吸汁加害し,収量と製茶品質に悪影響を及ぼすことから重要害虫となっている。現在,本種に対する防除は,二番茶以降の萌芽期や秋芽の生育期に化学農薬の散布により行われている。年に複数回の化学農薬散布による防除が行われるため,薬剤抵抗性の発達だけでなく海外輸出時の残留農薬基準をクリアできないなど複数の問題がある。

    アセチル化グリセリド (以下AG剤) は,日本・米国・欧州等で食品添加物として認可・利用されており,コナジラミ類で行動制御効果 (忌避,吸汁阻害,交尾阻害) を有することが報告されている。そこで茶園において,AG剤のチャノミドリヒメヨコバイに対する防除効果を発生密度が高い二番茶期および防除期間が長い三番茶・秋芽生育期で評価した。その結果,AG剤 (希釈倍率が500倍または1000倍) を散布することで,たたき落とし虫数,新芽の被害程度および産卵数を低減させる結果が得られ,慣行防除と同等の防除効果を示した。

  • 水上 裕造
    2021 年 2021 巻 132 号 p. 55-62
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル フリー

    世界的な抹茶需要により,外国での抹茶生産が増え,輸出戦略の構築のためには国産抹茶の特徴を把握する必要がある。本研究では香りに着目し,国産抹茶と外国産抹茶の香りを区別する香気寄与成分を主成分分析により特定し,抹茶の香りに重要な低沸点成分とともに定量した。その結果,低沸点成分であるdimethyl sulfide,methyl aldehydes (2-methyl propanal, 3-methyl butanal, 2-methyl butanal),主成分分析により国産抹茶の特徴を表す成分として特定された 2-acetyl-1-pyrrolineとfuraneolは国産抹茶に多く含まれ,国産抹茶の香りを形成する重要な香気寄与成分であった。これらの成分は加熱香気成分であるが,加熱だけでなく前駆物質であるアミノ酸等の含有量を左右する被覆や肥培管理の影響も受けると考えられる。高い質の抹茶生産のためには,国産抹茶の特徴香気寄与成分を指標とした品質管理が必要である。

  • 山下 修矢, 物部 真奈美, 吉田 克志, 根角 厚司, 荻野 暁子, 野村 幸子, 谷口 郁也, 高山 和大
    2021 年 2021 巻 132 号 p. 63-72
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル フリー

    茶葉および茶の浸出液に葉酸が含まれることは知られているものの,どのような茶に葉酸が多く含まれるか,とういことに関する知見はないため,本研究では茶の葉酸の含量と茶の栽培法,加工法,浸出法および品種との関係について調査した。その結果,一番茶は二番茶や三番茶に比べて葉酸含量が高いこと,若い芽の方が熟度の進んだ芽よりも葉酸含量が高いこと,長期被覆栽培を行うと葉酸含量が20 %程度減少することが示唆された。また,同じ生葉を原料とした場合,緑茶として製造した方が半発酵茶や紅茶として製造するよりも葉酸含量が高いことが示された。さらに,茶に含まれる葉酸は熱水のみならず,0.5 ℃の冷水にも溶出することが明らかとなった。茶葉中の葉酸は熱安定性が比較的高く,煎茶の仕上げ工程における火入れおよびほうじ茶の製造における焙焼によってもその含量が減少しにくい可能性が示された。また,火入れによって葉酸の浸出効率が向上することが示された。66品種の一番茶新芽の葉酸含量を調査したところ,含量の最も高い品種と最も低い品種の間で1905 μg/100 gから1079 μg/100 gの幅が認められ,グルタミン酸含量が多く,EGCg含量が少ない品種に葉酸が多く含まれる傾向が認められた。以上より,茶の葉酸を利用するためには,葉酸含量の高い品種を用い,一番茶期の若い新芽を緑茶として製造することが適していること,また,茶の葉酸は水出し緑茶からも摂取できることが明らかとなった。

短報
  • 池田 奈実子
    2021 年 2021 巻 132 号 p. 73-77
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル フリー

    農研機構果樹茶業研究部門金谷茶業研究拠点内の挿し木床で,チャの主要品種である‘やぶきた’と種間雑種由来のチャ品種‘サンルージュ’の挿し木苗の生育比較試験を行った。‘サンルージュ’の生存率は95 %以上で高く,挿し木床での挿し木で容易に苗を育苗できた。‘サンルージュ’の挿し木苗は切口に過度のカルス形成は見られず,挿し木1年後の苗では木化根が発生し,根の生育は正常であった。‘サンルージュ’の樹高,地上部重,地下部重は‘やぶきた’より小さく,生育は‘やぶきた’より劣ると考えられた。‘サンルージュ’は挿し穂の上位節からの分枝が平均2.6本で,‘やぶきた’より多かった。

資料
feedback
Top