九州地方の茶園土壌の性状を明らかにずるために,同地方の代表的茶園について現地調査を行ない,さらに採取した試料について一般理化学的性質を調べた。これらの結果を要約すると次のとおりである。
福岡県黒木の茶園土壌
(1) 洪積層に由来する赤かっ色の鉱質土壌である。
(2) 全層を通じ腐植に乏しく,細粒質で重粘,ち密である。一般に固相が多く孔げきが少なく,有効水分保持力が小さい。
(3) 置換性塩基に乏しく,置換性塩基飽和度,置換性石灰飽和度ともに低く,強酸性である。置換容量もやや小さく,20me以下のものが多い。
(4) リン酸吸収係数はいずれも1500以下で,吸収力弱く,有効態リン酸も少ない。
(5) アルミニウムの溶出量は,他の土壌に比して少なく,N塩化カリに溶出する置換性,N/2酢酸,酢酸-酢酸ソーダに溶出する活性ともにほぼ等量である。
福岡県和泉の茶園土壌
(1) 洪積層に由来する黒かっ色の腐植質土壌である。
(2) 表層は腐植にすこぶる富み,中粒質で粗しょうであるが,下層は細粒質で重粘,ち密である。一般に表層では孔げきが多く,有効水分保持力がやや大きいが,下層では孔げきが少なく,有効水分保持力が小さい。
(3) 置換性塩基に乏しく,置換性塩基飽和度,置換性石灰飽和度ともに低く,強酸性である。置換容量はやや大きく,20me前後である。
(4) リン酸吸収係数は表層で2000程度で,吸収力が強いが,下層では係数が1200~1300で吸収力弱く,有効態リン酸はいずれも少ない。
(5) アルミニウムの溶出量は,表層の腐植層においてやや多く,しかも置換性のアルミニウムに比し活性のアルミニウムが多い。
佐賀県嬉野の茶園土壌
(1) 第三紀層に由来する黄かっ色の鉱質土壌である。
(2) 一般に腐植に富むが,細粒質で重粘,ち密である。特に下層において著しい。有効水分保持力は一般に小さい。
(3) 置換性塩基に乏しく,置換性塩基飽和度,置換性石灰飽和度ともに低く,強酸性である。置換容量は表層では大きく,24~28meであるが,下層ではいずれも20me以下である。
(4) リン酸吸収係数はいずれも1000前後で,吸収力弱く,有効態リン酸は表層に多く,下層には少ない。
(5) アルミニウムの溶出量は,下層においてやや多く,しかも置換性のアルミニウムが多い。
熊本県小峰原の茶園土壌
(1) 火山灰に由来する黒色の腐植質土壌である。
(2) 表層の腐植層はかなり厚く,中粒~細粒質で粗しょうである。腐植層下は重粘,ち密となっている。一般に固相が少なく孔げきが多く,かつ気相に比し液相が多く有効水分保持力も大きい。
(3) 置換性塩基に乏しく,置換性塩基飽和度,置換性石灰飽和度ともに低く,強酸性である。置換容量は表層において特に大きく25me前後である。
(4) リン酸吸収係数は3000前後を示すものが多く,吸収力はきわめて強い。有効態リン酸はいずれも少ない。
(5) アルミニウムは溶出されやすく,かつ活性のアルミニウムが著しく多い。
鹿児島県枕崎の茶園土壌
(1) ガラス質火山灰(シラス)に由来する灰かっ色の土壌である。
(2) 一般に腐植を含む表層は,粗粒質で粗しょうであるが,下層のシラス層はち密である。固相は比較的多いが,有効水分保持力はきわめて小さい
(3) 置換性塩基はやや多く,置換性塩基飽和度,置換性石灰飽和度ともにやや高く,弱酸性である。置換容量は10me前後であるが,シラス層ではきわめて小さい。
(4) リン酸吸収係数は1000前後を示すものが多く,吸収力は弱い。有効態リン酸は他の火山灰土壌に比して多い。
(5) アルミニウムの溶出量は,一般に少ないが,他の火山灰土壌と同様に活性のアルミニウムが多い。
鹿児島県知覧の茶園土壌
(1) 下層に黒ニガ,赤ホヤなどの火山灰層を有する黒かっ色の腐植質土壌である。
(2) 表層は腐植に富み細粒質で,粗しょうであるが,下層は一般に中粒質で,ややち密である。水分保持力は一般に小さいが,下層に向かいやや増加している。
(3) 置換性塩基は表層に少なく,下層に向かい増加しており,置換性塩基飽和度,置換性石灰飽和度ともに下層に向かって高く,酸性も同傾向で,下層では弱酸性である。置換容量は腐植層では25me前後で大きいが,その他では10me前後で小さい。
(4) リン酸吸収係数は一般に大きいが,黒ニガ層では3000前後できわめて大きく,吸収力が強い。有効態リン酸はいずれも少ない。
(5) アルミニウムの溶出量は,他の火山灰土壌と同様に活性のアルミニウムが多い。
宮崎県都城の茶園土壌
(1) 下層に明橙かっ色の火山砂礫層(コラ層)を有する腐植質土壌である。
(2) 表層は腐植にすこぶる富み中粒質で,きわめて粗しょうであるが,下層は粗粒質で同じく粗しょうである。孔げきが多く水分保持力が大きい。
(3) 置換性塩基が多く,置換性塩基飽和度,置換性石灰飽和度ともに高く,弱酸性である。置換容量は20me以下のものが多い。
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