本研究では, 4つの実験を通して, 顔に対する事象関連電位について検討した.被験者は, 大学生・大学院生, 12名であった.実験1・2では, 未知の人物の顔 (未知顔) ・動物の顔 (動物顔) ・物品の写真と, それぞれの写真に量子化処理を施した写真を刺激として呈示した.その結果, 潜時170ms近傍に, 入の顔に対して特異に増強する電位 (N170) が観察され, Bentinetal. (1996) の報告が支持された.実験3では, 既知性の異なる被験者自身の顔 (自己顔) と未知顔を呈示した.その結果, N170振幅に差はなかったが, 自己顔に対しては, 潜時270ms近傍で陰性方向に発達する電位 (N270) に差が認められた.実験4では, 自己顔・未知顔・動物顔・物品を呈示した.結果は, 実験1・2・3と同様であり, N170は人の顔に対して特異に増強し, N270は顔の既知性による影響を受けた.これらの結果について, 顔認識モデル (Bruce&Young, 1986) に対応させて検討し, N170は構造の符号化過程に, N270は顔認識ユニットの活性化過程に関連する電位であると解釈した.さらに, 実験4で用いたパラダイムは, 発達遅滞児・者の顔認識についての研究に有用であることが示唆された.
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