生理心理学と精神生理学
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38 巻, 3 号
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原著
  • 宇野 智己, 片倉 崇吏, 河西 哲子
    2020 年 38 巻 3 号 p. 139-148
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2021/03/19
    [早期公開] 公開日: 2020/10/28
    ジャーナル フリー

    熟達した読み手における文字から音への潜在的で迅速な変換は,文字列特異的な事象関連電位成分であるN170の左半球優位性に反映されると考えられている。最近,この半球非対称性は文字列が知覚物体として注意に選択されて生じることが示唆された(Okumura et al., 2015)。本研究はこの見解を物体にもとづく注意の実験パラダイムを用いて検証することを目的とした。刺激は文字列(単語,非単語)か記号列にランダムドットを空間的に重畳させたものであり,課題は文字・記号列とドットのいずれか一方の色を判断することであった。結果として,文字・記号列に注意を向ける条件でのみ,文字列に対する左半球優勢な陰性増強が,刺激提示後約200―300 msに観察された。しかしながら,この効果は典型的なN170よりも潜時が長かった。これは重なった刺激間の競合の解決,または文字列の知覚的補完に時間がかかったことを反映すると考えられる。本研究は,文字列特異的ERPの左側性化に,文字列への選択的注意が必要であることをはじめて示した。

  • 黒原 玄弥, 小川 景子
    2020 年 38 巻 3 号 p. 149-160
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2021/03/19
    [早期公開] 公開日: 2020/12/10
    ジャーナル フリー

    画像の色は,感情画像によって喚起される感情の処理を促進させる。感情処理過程に関連する事象関連電位について,初期後頭陰性電位(early posterior negativity: EPN)はモノクロ画像よりもカラー画像で振幅が増大するのに対し,後期陽性電位(late positive potential: LPP)に対する色の影響は一貫していない。色は画像の大域的な認識も容易にする。そこで本研究では,画像内容の識別が困難な不鮮明画像(低周波通過処理画像)を用いることで,画像の色が感情に関連する主観および生理指標(EPNとLPP)に影響を及ぼすか検討した。参加者に対して,快/中性/不快画像の感情価を判断する課題を実施し,課題中の脳波を測定した。検討の結果,快/中性画像では,カラー画像の方がモノクロ画像と比べ主観的に快と評定された。画像の鮮明性に関わらず,EPN振幅はモノクロ画像よりもカラー画像で増大したのに対して,LPP振幅に色の影響は観察されなかった。本研究結果から,画像の色は,画像の鮮明性に関係なく,感情画像の初期の知覚を促進し,感情画像の主観評定にも影響を及ぼすことが明らかになった。

短報
  • 木村 司, 植山 七海, 片山 順一
    2020 年 38 巻 3 号 p. 161-168
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2021/03/19
    [早期公開] 公開日: 2020/06/13
    ジャーナル フリー

    本研究ではセンサの装着が不要であり,かつ着席中に常時データの取得が可能な座圧から感情状態のセンシングを試みた。特に,感情状態に対応した接近回避行動に着目し,着席時の前後の重心移動からポジティブ感情とネガティブ感情のセンシングを試みた。この目的のため,ポジティブ動画,ネガティブ動画,ニュートラル動画視聴時の座圧を測定し,座圧から計算された前後の重心移動と動画に対する主観指標を分析した。その結果,動画の感情価に対応し主観指標は変化した。さらに,ネガティブ動画視聴時のみ課題早期から一貫した後方への重心移動がみられた。これらの結果は,座圧を測定することでセンサ装着の負担や作業の中断なく,ある限定されたネガティブ感情についてその代替指標となりうる可能性を示唆した。

  • 大湾 麻衣, 入戸野 宏
    2020 年 38 巻 3 号 p. 169-176
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2021/03/19
    [早期公開] 公開日: 2020/07/04
    ジャーナル フリー
    電子付録

    ハイレゾリューション音源はCDより時間方向あるいは振幅方向の解像度が高く,その高周波成分が生理状態に影響を及ぼすという報告がある。本研究では192 kHz/24 bitで録音された自然環境音(オリジナル音源)にフィルタをかけ,高周波成分(>22 kHz)をカットした2種類の音源(サンプリング周波数192 kHzと44.1 kHz)を作成した。24名の大学生が3種類の音刺激をランダムな順で聴取した。脳波のシータ帯域(4.0―8.0 Hz)とスローアルファ帯域(8.0―10.5 Hz)のトータルパワーは,サンプリング周波数が高い音を聴取しているときの方が高くなった。主観的気分や音質評価には明瞭な条件差が認められなかった。この結果は,CDよりもサンプリング周波数が高い音源は,意識的に違いに気づかなくても生理状態に影響を及ぼすことを示唆している。

  • 石田 海, 池田 一成, 入戸野 宏
    2020 年 38 巻 3 号 p. 177-184
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2021/03/19
    [早期公開] 公開日: 2020/10/24
    ジャーナル フリー
    電子付録

    右前頭部初期陰性電位(early right anterior negativity: ERAN)は,西洋の調性音楽において調性的文脈から逸脱した和音が提示されたときに生じる事象関連電位である。ERANは,音楽の統語処理を反映すると考えられている。近年の研究で,ピッチ逸脱が主旋律に生じたときは,他の声部に生じたときよりもERANが増大すると報告された。しかし,その研究はソプラノの主旋律のみを検討していたため,この効果が主旋律の逸脱によるものか,高音声部の逸脱によるものかは明らかでない。本研究ではバス主旋律の刺激を用いて,ソプラノが逸脱する和音とバスが逸脱する和音に対するERAN振幅を比較した。その結果,ERAN振幅は,ソプラノ声部が逸脱するときにバス声部が逸脱するときよりも大きかった。これは,音楽の統語処理において,高音声部の効果が主旋律の効果よりも優勢であることを示唆している。

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