本実験では, 注意課題の典型である鏡映描写 (MD) を用い, 課題難易度の増加による能動的対処の増強が, 迷走神経活動の指標である, 圧反射感度 (BRS) に与える影響を検討した.
本研究は二つの実験から構成された.両実験において, 心拍数 (HR), 収縮期血圧 (SBP), 拡張期血圧 (DBP) が計測され, BRSがシーケンス検索法により算出された.実験1では24名の被験者が, コンピュータ化された簡潔なMDを行った.その結果, HR, SBP, DBP, BRSに上昇が認められた.実験2では, 14名の被験者が2条件のMDを実施した.一方は周回時間, 逸脱の程度に制限を設けた条件で, 他方は制限の一切ない条件であった.HR, SBP, DBPの上昇は, 制限あり条件においていっそう顕著であった.BRSは制限なし条件においては増大したが, 制限あり条件では減少した.
実験1では, 簡素なMDが, 本来心臓迷走神経活動を増大させることを明らかにした.これは, MDの注意を伴う性質に帰属される.実験2では, 能動的対処の強調により, 注意を伴う課題であるにもかかわらず, 心臓迷走神経活動が抑制された.これらの結果は, 課題の要求する認知的努力の量が, 心臓迷走神経活動の抑制に大きな影響をあたえることを示唆した.
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