顔弁別に関わる大脳半球機能の非対称性を事象関連脳電位 (ERP) を用いて検討した.12名の被験者にプロジェクター式タキストスコープにより連続的に顔写真を呈示し, ERPを記録した.顔刺激の大きさは高さ, 幅それぞれ視角6.7°, 4.8°で, スクリーン中心部の凝視点の左右5.3°の位置に無作為に呈示した.実験条件として, 未知顔条件 (UK) と既知顔条件 (WK) の2条件を設けた.UKでは被験者の知らない男性5名の写真を, WKでは被験者のよく知っている男性教授5名の写真を用いた.1刺激系列は30刺激からなり, 5名の写真が, 各々左右視野3回ずつ計6回呈示された.被験者の課題は, あらかじめ指示された標的顔を系列刺激中から検出することであった.W1, W2 (左ウエルニッケ領野上およびその右半球上対称部位) 導出の非標的顔に対するERPを分析の対象とした.UK, WK各条件を前半 (第1セッション) ・後半 (第2セッション) に分け (UK-1, UK-2, およびWK-1, WK-2), 各々につき刺激後300-500ms間のERP平均電位を算出した.その結果, UK-1では左右導出部位間に有意な差は見られなかった.UK-2では, この電位は左導出が右導出に比べより陰性となる傾向が見られた.WK-1, WK-2において, この陰性電位は左導出が右導出に比べ有意に大きかった.既知顔条件におけるこの結果は, 顔に付随した言語情報 (名前) の処理によるものと解釈できる.未知顔条件では, 顔の繰り返し呈示に伴い左半球優位性が現れてきたが, これは弁別手掛かりがパターン的なものから言語的なものへと変化したことに関連していると考えられる.
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