本稿では, 動物における空間認知のメカニズムおよびそれに関わる脳部位について概説することを目的として, 最初にヒトにおける神経心理学的見地から空間認知の概念, 空間認知障害の分類および脳におけるその責任病巣について説明し, 次にラットから得られた結果を中心に, 海馬が空間認知にどのように関わっているかについて認知地図仮説および作業記憶仮説の主要な2つの仮説を紹介するとともに, 空間認知に関わる他の脳部位についても言及した。また最後に, 胎生期メチルアゾキシメタノール (MAM) 投与によって得られた, 海馬の発生学的形態異常を伴う小頭 (脳) 症ラットの空間認知障害に関する我々の研究を紹介し, 胎生期MAM投与ラットが, 様々な課題下での放射状迷路およびMorris型水迷路事態で顕著な空間認知障害を示すこと, またそれが皮質の発育不全とではなく, 海馬の発生学的形態異常とより強く関係していること, およびこれらの結果が海馬損傷動物で見られる空間認知障害と非常に類似していることを指摘した。
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