本論文では,法科学領域のポリグラフ検査,とりわけ裁決と非裁決質問に対する反応の違いをみるポリグラフ検査(concealed information test: CIT)において出現する呼吸活動が,ふたつの主要な成分から構成されることを,これまでの実験結果に基づき考察した。第1の成分は,CIT検査事態を通して誘発される吸気流速(呼吸ドライブ機構)の変化であり,安静時に比べて有意な増加を示す。第2の成分は,CIT事態で呈示される裁決質問に対する一過性の抑制性呼吸であり,呼吸流速の低下や呼気後ポーズ時間の延長という特徴を持つ。本稿では,ストレスや情動に伴う呼吸代謝活動に関する我々の実験結果をもとに,第1の変化成分は,ストレス,情動に伴う促進性呼吸と同じ性質を持つ呼吸変化であり,呼吸中枢の状態を反映したものと考察した。一方,後者の成分である一過性の呼吸抑制は,注意に伴う呼吸変化に関する先行研究の結果から,裁決質問に対する注意レベルの上昇に起因した,呼吸中枢から上位中枢へと制御が切り替わって出現する変化であろうとの見解を示した。
本稿は,脳機能の指標として記録される,事象関連電位(ERP)と機能的核磁気共鳴画像(fMRI)によるconcealed information test(CIT)に関する最近の研究を主に論述した。ERPによるCIT研究によると,犯罪捜査への実務応用に最も有望な指標は,被験者の課題に関連し,まれで有意味な事象に対して生起するP300である。しかしながら,ERPによるCITに対するカウンタメジャーへの対抗策と個別判定の基準が,犯罪捜査に応用する前に確立されなければならない。fMRI研究のほとんどは,被験者が本当のことを言うより,嘘をつくときに前頭前野の大きな賦活を示している。しかしながら,これらの研究は,2つの目的に分かれており,1つ目が嘘に伴う機能的な神経解剖学と認知処理への関心,2つ目がCITをさらに洗練させることに向けられている。今後,CIT手続きに基づく研究が,犯罪捜査のために必要であろう。