生理心理学と精神生理学
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34 巻, 3 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著
  • 新倉 怜, 坂田 省吾
    2016 年 34 巻 3 号 p. 191-201
    発行日: 2016/12/30
    公開日: 2018/10/06
    [早期公開] 公開日: 2018/03/21
    ジャーナル フリー

    新生仔期にN-methyl-D-aspartate (NMDA)受容体を慢性的に遮断された動物は,成体となった後に様々な生理学,行動学的異常を引き起こす。本研究は,新生仔期MK-801慢性投与がラットの時間知覚能力に与える影響を検討することを目的とした。すべての被験体は,弁別訓練で2秒と8秒のアンカー刺激を弁別することを学習した後,間隔二等分課題においてプローブ刺激をどちらかに分類した。新生仔期MK-801慢性投与(0.4 mg/kg twice per day)は,2秒と8秒の時間弁別に影響せず,聴覚刺激を用いた課題における計時関数を左側へシフトさせた。本研究の結果は,神経発達に重要な時期における慢性的なNMDA受容体遮断が長期持続的な時間知覚の異常を引き起こすことを示唆するものであった。したがって,新生仔期NMDA受容体慢性遮断ラットは,時間知覚に異常を示す症状を有する疾患の動物モデルとして有用かもしれない。

短報
  • 白井 真理子, 鈴木 直人
    2016 年 34 巻 3 号 p. 203-212
    発行日: 2016/12/30
    公開日: 2018/10/06
    [早期公開] 公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー
    電子付録

    本研究は,2種類の異なる場面により喚起された悲しみに伴う生理反応変化について検討したものである。以前の研究(白井・鈴木,2016)で,「死別」場面により喚起された悲しみの特徴と「自己目標達成の失敗」により喚起された悲しみの特徴は,異なることが示唆された。本研究では,それぞれの参加者に,「死別」,「自己目標達成失敗」,「日常」の3つの場面のうち1つをイメージするように求めた。課題中,心拍数,収縮・拡張期血圧,皮膚伝導水準,心拍変動の高周波成分を測定した。生理反応変化に関して,イメージ課題中のDBPの上昇が,「死別」場面によって喚起された悲しみにおいてのみ示された。これらの結果から,2つの異なる場面により喚起された悲しみは,わずかながら生理反応において異なる反応を持つことが示唆された。しかしながら,2条件間の生理反応の違いは明確なものではなかった。同一感情カテゴリーである悲しみの中の差異を明らかにするためには,更なる研究が望まれる。

  • 上原 佳子, 安倍 博, 長谷川 智子
    2016 年 34 巻 3 号 p. 213-225
    発行日: 2016/12/30
    公開日: 2018/10/06
    [早期公開] 公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー

    本研究はASD児の母親へのタクティールマッサージの効果を,生理的・心理的指標により検証することを目的とした。母親17名に,条件を一定に保った部屋で,同一対象者にタクティールマッサージを実施する[タクティール]と,安静座位を保つ[安静]を20分間,別日に実施した。生理的指標として,唾液コルチゾール濃度,唾液分泌型免疫グロブリンA濃度,心拍変動周波数解析,心理的指標としてSTAIとPOMSを用いた。その結果,生理的指標では,〔タクティール〕〔安静〕間でそれぞれの効果に顕著な違いは見られなかったが,心理的指標では,〔タクティール〕の方が不安の軽減とネガティブな気分の改善に有意に効果があることが明らかになった。

  • 西田 優也, 池田 一成
    2016 年 34 巻 3 号 p. 227-233
    発行日: 2016/12/30
    公開日: 2018/10/06
    [早期公開] 公開日: 2018/03/21
    ジャーナル フリー

    Russell & Bullock (1985)は表情が感情価(快―不快)と覚醒度(覚醒―睡眠)の二次元から成る心理的評価に基づいて情動的にカテゴリー化されると述べている。一方,表情認知時の事象関連電位(ERP)研究では呈示された表情カテゴリーによってERPの振幅や潜時が異なることが報告されている。本研究では第1刺激として真顔を呈示し,その直後に表情(喜び,怒り,驚き)またはランダムドットを第2刺激として呈示した。また各表情画像についてAffect Gridによる評価を行った。その結果,Affect Gridによる覚醒度次元の評価得点とP130振幅とがともに喜び・怒りに比べて驚きで増大した。N170及びP300は表情間で差異を示さなかった。この結果から,表情により惹起された覚醒度の変化がP130に見られる早期の視覚処理と関連する可能性が示唆された。

評論
  • 広重 佳治
    2016 年 34 巻 3 号 p. 235-244
    発行日: 2016/12/30
    公開日: 2018/10/06
    [早期公開] 公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー

    WolfsonとCarskadon (1998)の科学論文は,たとえば性的思春期,学校スケジュール(始業時刻)そして学業成績などの重要な要因が青年期の子どもの就床時刻と起床時刻の遅れに影響を与えていることを強調し,そうした睡眠習慣の乱れが今度は日中の活動性の低下を招く可能性があるとした。本稿は彼らの研究の意義をわが国の睡眠教育との関連から再考した。まず,彼らの研究は子どもの睡眠習慣の疫学的,発達的アプローチの教育的意義を明確した。第2に,2002年の日本学術会議で承認された新しい学際的な睡眠科学である睡眠学の創設に寄与した。第3に,環境的圧力(学校スケジュール)が青年期の子どもの睡眠に与える影響を批判的に論じた。それは始業時間の遅延や昼休み中の仮眠の効果を実験的に検討する近年の研究を触発している。

    特筆すべきはWolfsonとCarskadon自らの結果を睡眠パターンと学業成績の1対1の対応関係を示すものではないと慎重に考察している点である。しかし,そうした考察は睡眠パターンを従属変数および独立変数として理解する点においてわが国の睡眠学には十分な紹介がされていないように思われる。もっとも注目される彼らの知見の一つは,学業を適切にこなすには少なくとも7時間20分の睡眠時間が青年期の子どもたちには必要であり,そうでなければ貧弱な睡眠習慣が日中の気分や行動に悪影響を与える可能性が大きくなるという事実である。これは青年期の子どもたちの睡眠をできる限り優先する環境の調節を必要としているということであり,わが国においても同様のことが言えよう。

テクニカルノート
  • 井澤 修平, 吉田 怜楠, 大平 雅子, 山口 歩, 野村 収作
    2016 年 34 巻 3 号 p. 245-249
    発行日: 2016/12/30
    公開日: 2018/10/06
    [早期公開] 公開日: 2018/03/23
    ジャーナル フリー

    爪に含まれるコルチゾールは過去の比較的長期的なホルモンの動態を反映すると考えられているが,その標準的な定量方法についてはまだ確立されたものがない。本研究では爪試料の粉砕粒度や抽出時間が爪試料から抽出されるコルチゾール量に与える影響を検討した。健常な男性14名から手の爪を採取した。爪試料を1, 4, 16分間粉砕し,粉砕粒度の条件(粗い,中程度,細かい)を設定した。また,粉砕した検体はメタノールにより抽出処理を行うが,本研究では抽出時間を1, 6, 24, 48時間の4条件に設定した。上澄み液にろ過処理を施し,蒸発乾固させた後に,最終的にコルチゾールの抽出量を酵素免疫測定により評価した。粉砕粒度と抽出時間を要因とした分散分析を行った結果,粉砕粒度が細かいほど,また抽出時間が長いほど,コルチゾールの抽出量が多いことが示された。また,粉砕粒度と抽出時間の交互作用が有意であり,爪試料が中程度以上に粉砕されていて,かつ抽出時間が48時間の条件では,粉砕粒度の影響は小さいことも示された。本研究では粉砕粒度や抽出時間が爪からのコルチゾールの抽出量に影響を与えることを明確に示した。爪からコルチゾールを測定する際はこれらの要因にも留意する必要性が示された。

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