生理心理学と精神生理学
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34 巻, 1 号
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特集 感性と生理心理学
巻頭言
  • 中村 航洋, 川畑 秀明
    2016 年 34 巻 1 号 p. 9-26
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2017/12/28
    [早期公開] 公開日: 2017/07/08
    ジャーナル フリー

    脳機能画像技術の発展に伴い,人が主観的に経験する美がどのような脳神経過程によって生み出されているかを研究する神経美学が近年注目を集めている。これまでの脳機能画像法による計測から,視覚芸術や人間の身体に対して主観的に美が経験されている際には,情動的処理システム,認知的処理システム,感覚運動的処理システムの少なくとも3つの機能的に独立した神経システムが駆動することが示されてきた。情動的処理システムは美の知覚に伴う快情動の経験において中核的役割を果たし,脳の報酬系を構成する眼窩前頭皮質や腹側線条体の神経活動は美的評価の程度と相関する。また,認知的処理システムは美的印象評価の決定に必要とされる情報の統合を担い,背外側前頭前野の関与が指摘されてきている。さらに,具象画や顔,身体像などの知覚処理を担う感覚運動的処理システムは,対象に特定的な知覚処理のみならず,対象の視覚美も表現していることが明らかになってきた。近年では,このような美的経験の神経基盤を計測するのみならず,経頭蓋磁気刺激や経頭蓋直流電気刺激などの脳刺激法を導入した研究も行われ,美的経験はその背後にある神経活動状態を脳刺激によって修飾することで操作されることが明らかになってきた。こうした脳機能画像法と脳刺激法による神経美学的研究から,美は報酬価値表象,意思決定,感覚運動に関わる神経システムの複雑な相互作用によって生み出されていることが示唆される。

  • 宮城 円, 水落 亮平, 楊 琬璐, 柏原 志保, 宮谷 真人, 中尾 敬
    2016 年 34 巻 1 号 p. 27-39
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2017/12/28
    [早期公開] 公開日: 2017/05/30
    ジャーナル フリー

    意思決定を通して選択したものの価値が学習されることは広く知られている。こうした価値の学習過程は,内的基準による意思決定 (例えば選好課題) と外的基準による意思決定 (例えばギャンブル課題) という異なる意思決定課題を用いて検討がなされてきた。外的基準による意思決定における価値の学習過程は強化学習理論によって説明され,選択したものの価値更新の程度を規定する予測誤差はフィードバック関連陰性電位 (FRN) の振幅に反映されることが知られている。近年,内的基準による意思決定における価値の学習過程 (選択による選好の変化:CIPC) についても,外的基準による意思決定と同様に強化学習理論によって説明できることが示唆されていることから,CIPCの生起量はFRNの振幅と関連すると予測されるが,この点については未だ検討されていない。本研究は,内的基準による意思決定におけるFRN様成分とCIPCとの関連について閾下提示選択パラダイムを用いて検討した。このパラダイムでは,同程度に好ましい2つのアイテムを閾下提示してより好ましい方を選択させた後,選択結果について偽のフィードバックを与える。実験の結果,内的基準による意思決定においてもFRN様成分が観察されたが,その振幅とCIPCに関連はみられなかった。このことから,閾下提示選択パラダイムにおけるFRN様成分の振幅は価値更新の程度ではなく,好み選択がうまく遂行できた程度を反映している可能性が示唆された。

  • 木村 健太, 井澤 修平, 菅谷 渚, 小川 奈美子, 山田 クリス孝介, 城月 健太郎, 長野 祐一郎, 長谷川 寿一
    2016 年 34 巻 1 号 p. 41-51
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2017/12/28
    [早期公開] 公開日: 2017/05/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,急性心理社会的ストレスに対するコルチゾールの反応性が脅威刺激からの注意解放の困難さと関連するか否かを検討した。この目的のため,手がかり刺激の提示時間を比較的長くした(1,000 ms)空間手がかり課題を用いて怒り顔への注意バイアスを計測した。実験参加者は,急性心理社会的ストレス課題を行った後空間手がかり課題を行った。本研究では,急性心理社会的ストレス課題により上昇した唾液中コルチゾール値に基づき,実験参加者をコルチゾール反応者と非反応者に分けた。その結果,反応者は怒り顔に対する注意の解放困難を示したのに対して,非反応者は怒り顔からの迅速な注意解放を示した。これらの結果は,急性心理社会的ストレスに対するコルチゾールの反応性の高さが脅威刺激からの注意解放の困難さと関連することを示唆する。

  • 牧田 快, 金山 範明, 宇山 拓澄, 町澤 まろ, 笹岡 貴史, 山脇 成人
    2016 年 34 巻 1 号 p. 53-60
    発行日: 2016/04/30
    公開日: 2017/12/28
    [早期公開] 公開日: 2017/07/08
    ジャーナル フリー

    本研究では,これから起こるイベントが快か不快か不確実な際に起こる脳活動が,損害回避得点によって影響を受けるかどうかを検討した。機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて,感情を喚起する刺激を予期できる条件と予期できない条件における脳機能画像を撮像した。予期ができない条件と予期ができる条件の差分をとった脳画像において,損害回避得点が有意な相関を示す脳部位を検討した。その結果,損害回避得点が高い実験参加者ほど,次に来る刺激が予期できない時に島の両側および中帯状回で賦活が高まることを確認した。これらの活動は先行研究から,不快なイベントを予期している際によく活動するとされる部位である。将来起こりうる事象を予測し,備えることは起こりうるリスクを最低限にするという適応的な機能もあるが,損害回避得点の高い者は,次に起こりうるイベントの感情価を予測できない場合,あたかもそれが不快なイベントであると仮定し,過大に反応する可能性が脳機能画像の観点から示された。

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