脱水により血液が濃縮され, 血漿蛋白濃度が上昇すると静脈血栓症の発症リスクが増加することが知られている. 血流下で形成される動脈血栓症の発症機序は, 血流のうっ滞下でのフィブリン生成による静脈血栓の発症機序とは異なり, 血小板が重要な役割を果たす. 動脈血栓の発症におよぼす血液濃縮の影響は明らかではない. われわれは, 血流下の血小板血栓の形成に重要な役割を演じる von Willebrand factor (vWF) 依存性の血小板凝集におよぼす血漿蛋白濃度の効果を検討した. 健常成人11名より, 1,000m
lの等張水摂取前後に採血し, 多血小板血漿および乏血小板血漿を作成した. 多血小板血漿を乏血小板血漿にて希釈することにより血小板数を同一にした. vWF依存性の血小板凝集が惹起される10,800s
-1, fibrinogen 依存性の凝集が惹起される1,200s
-1, 両者の中間のずり速度下にて血小板凝集率を計測した. vWFと血小板膜糖蛋白GP Ibαの結合を抑制するモノクローン抗体 (LJ-Ib1) の効果を検討した. vWF依存性の血栓形成におよぼす血漿蛋白濃度の効果を確認するために, 健常成人より採血した血液から洗浄血小板浮遊液を作成した. 5mg/m
l, 25mg/m
l, 50mg/m
lのウシ血清アルブミン (BSA) の存在下での, ずり速度下の血小板凝集率を計測した.
飲水により血漿蛋白濃度は6.9±0.5g/d
lから6.6±0.6g/d
lに減少し, 10,800s
-1のずり速度下の血小板凝集率は43.1±4.0%から50.4±5.4%に増加した (p<0.05). 低いずり速度, 中間のずり速度下の凝集率は変化しなかった. LJ-Ib1は, 飲水前後に関わらずともに血小板凝集を完全に抑制した. 洗浄血小板浮遊液を用いた実験でも, 同一ずり速度下の血小板凝集はアルブミン濃度が高いほど低いことが確認された. 静脈血栓の場合とは異なり, 動脈血栓は血漿蛋白の濃縮により抑制される可能性が示唆された.
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