日本血栓止血学会誌
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Editorial
特集:血友病患者のQOL向上を目指して
  • 長江 千愛
    原稿種別: 特集:血友病患者のQOL向上を目指して
    2024 年 35 巻 1 号 p. 2-10
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
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    近年,凝固因子製剤の定期補充療法やEmicizumabなどの出血抑制治療の普及により,先天性血友病患者の生命予後およびQOLは改善している.厚生労働省行政推進調査事業の「非加熱血液凝固因子製剤によるHIV感染血友病等患者の長期療養体制の構築に関する患者参加型研究」の分担研究:「血友病患者のQOLに関する研究」は,血友病患者および家族の治療および生活の質の向上を目的として2001年より継続的に行われている調査である.令和2年度の調査ではインターネットを介してアンケート調査票を配布・回収し,そして調査報告書もインターネットで公開した.本アンケート調査では,血友病患者さんの出血回数は出血抑制治療の標準化に伴い減少しているものの,血友病性関節症による関節の疼痛,特に足関節の疼痛が患者のQOLの低下を招いていることが報告された.アンケート調査の結果をもとに,現在の我が国の血友病患者さんのQOLの現状を報告し,今後の課題について考察する.

  • 瀧 正志
    原稿種別: 特集:血友病患者のQOL向上を目指して
    2024 年 35 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
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    現行の血液凝固異常症全国調査は,厚生労働省の委託事業として(財)エイズ予防財団により2001年度から実施され,2023年現在も継続中である.血友病,von Willebrand病,類縁疾患などわが国の血液凝固異常症患者の実数把握,HIV感染症,肝炎(特にC型肝炎),定期補充療法などの出血抑制治療,凝固因子製剤およびnon-factor製剤,インヒビター,頭蓋内出血,生活習慣病,血栓症,死因などについての貴重な情報が毎年報告されている.しかしながら,本調査は単年度調査であり,各年の患者数は推定連結のため正確な患者数の把握はできておらず,正確に個人を追跡できないことが最大の欠点であった.この不備を補い,personal health record機能も将来的には実装予定の新たな血液凝固異常症レジストリが,今後,日本血栓止血学会,血友病患者会,製薬会社の3者の共同研究として開始される.

  • 松本 剛史
    原稿種別: 特集:血友病患者のQOL向上を目指して
    2024 年 35 巻 1 号 p. 17-24
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
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    レジストリは特定の疾患等の医療情報の収集のために構築したデータベースで,疾患の理解や医療の向上に役立てることと,新薬開発や市販後の安全対策を講じる薬事に関連した2つの目的がある.血友病では,男性の約1/5,000という有病率の低さ,また関節症の経過など長期にわたる観察が必要であることから,レジストリデータを利用した血友病患者のリアルワールドデータの収集は,治療の有効性や安全性の検証に有用であり,調査研究は我が国でも諸外国でも盛んに行われている.血液凝固異常症の中で患者数の最も多い血友病については,我が国でも1960年代以降とかなり前から調査が行われてきた.血液凝固異常症全国調査は20年以上継続してきているものの,データを有効利用することが困難なプロトコールで運用されている.我が国の新しいレジストリの開始に向けては,利活用可能な形でのデータ収集を行える形を目指しており,患者,医療者,企業,行政が一体となって構築作業が行われている.

  • 日笠 聡
    原稿種別: 特集:血友病患者のQOL向上を目指して
    2024 年 35 巻 1 号 p. 25-32
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
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    血友病等の止血機能異常症の出血治療には凝固因子製剤等が必要な場合があるが,心疾患,脳血管疾患,外傷といった救急搬送を必要とする合併症が生じた場合に,搬送先の施設ではこれらの製剤の在庫がない,止血機構異常症の治療経験のある医師がいない,などの理由により,適切な治療ができなかった事例が報告されている.厚生労働省エイズ対策政策研究事業「HIV感染血友病患者の救急対応の課題解決のための研究」班では,2022年度に止血機能異常症の救急診療体制についての現状と問題点について,全国の消防本部(救急隊),救急医療機関(救急科専門医指定施設),血友病診療施設,および凝固因子製剤メーカーに対し,それぞれアンケート調査を実施した.本稿では,救急隊,救急科専門医指定施設,血友病診療施設に対するアンケート集計結果を抜粋して報告する.

  • 長尾 梓
    原稿種別: 特集:血友病患者のQOL向上を目指して
    2024 年 35 巻 1 号 p. 33-37
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
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    血友病診療の新アプローチとして注目の関節超音波検査(musculoskeletal ultrasound: MSKUS)は,滑膜肥厚や出血,軟骨損傷の即時検出に貢献している.無症状の出血や滑膜炎が関節予後に影響すると仮定すると,簡易・リアルタイムな検出手段としてMSKUSは非常に価値がある.その評価には,スコアリングとpoint-of-careの2つのアプローチがあり,状況に応じて選択が重要である.具体的なスコアリング手法として,HEAD-USやJADEを解説する.診断を治療戦略へとつなげること,薬物療法の調整,リハビリテーションの導入,患者の生活スタイルや薬物動態を考慮することが必要である.しかし,課題として一般人との比較試験がないことや,出血と水腫の鑑別の困難さが挙げられる.技術の進歩として,ポケットエコーとAIの融合による新たな手法などが期待され,その組み合わせによって,今後の診断や治療における大きな変革が期待されている.

  • 竹谷 英之
    原稿種別: 特集:血友病患者のQOL向上を目指して
    2024 年 35 巻 1 号 p. 38-44
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
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    血友病性関節症治療は,血液製剤の進歩とともに消極的から積極的な治療へと推移し,今では非血友病患者と同じような整形外科的治療が行えるようになった.そして定期補充療法やカスタムメイドの止血管理で,多くの患児はほぼ関節内出血がない状態で成長し活発な生活を送れるようになった.しかし無症候性出血や破綻出血,そしてスポーツの際の外傷性出血などを完全に予防することは難しい.このような出血を起点に関節症が始まれば,その後いかに厳密に止血治療を行っても小児期からの長い人生の経過の中で退行性変性による変形性関節症となってしまうことが予想される.つまり可逆性関節変化の段階での早期発見と治療や,不可逆性となっても末期関節症に至る前の整形外科的治療が,患者のQOLを維持・改善するには今後必要となってくる.そこで整形外科的治療の変遷を振り返り,今後求められる整形外科的治療や残された課題について考えたい.

  • 牧野 健一郎
    原稿種別: 特集:血友病患者のQOL向上を目指して
    2024 年 35 巻 1 号 p. 45-51
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
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    リハビリテーション治療は血友病性関節症(以下関節症)の機能を改善し疼痛を軽減させることができる.入院を要するような出血の後や関節の観血的治療に伴ってリハビリテーション治療は行われてきた.血友病治療の進歩により出血頻度が減り患者の取り組む身体活動の幅も広がったことで,リハビリテーション診療も進行した関節症への対応から関節症の進行予防や身体活動が行える身体づくりへと変わってきている.近年重要視されている関節症の早期発見に定期的な関節の理学所見評価は欠かせなくなってもいる.関節を安定させる筋力,生理的で滑らかな関節の動きと可動域,固有感覚の学習と正しい運動制御などの獲得を基本とし,装具や物理療法,有酸素運動などを組み合わせた包括的プログラムが有効である.

  • 小倉 妙美
    原稿種別: 特集:血友病患者のQOL向上を目指して
    2024 年 35 巻 1 号 p. 52-59
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
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    ここ最近の血友病治療の進歩は目覚ましく,2014年以降次々と半減期延長製剤が発売,その後non-factor製剤として凝固FVIIIの構造を模倣し,その凝固因子活性を代替するバイスペシフィック抗体であるemicizumab,2023年にはVWFの相互作用により生じる半減期上限の課題を解決し,週に1回投与でトラフ15%以上を保つことが可能なエフアネソクトコグ アルファ,rebalancing therapyとして抗TPFI抗体であるconcizumabも承認された.半減期延長製剤は,頻回の静脈アクセスの課題を軽減,non-factor製剤は血管アクセスの課題だけでなく同種抗体の課題も解消した.現在,遺伝子治療やrebalancing therapy,改良されたバイスペシフィック抗体の開発も進んでおり,血友病患者が非血友病患者と同様の身体的・社会的活動を可能にすることが出来るようになるのではないかと期待する.

  • 柏倉 裕志
    原稿種別: 特集:血友病患者のQOL向上を目指して
    2024 年 35 巻 1 号 p. 60-70
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
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    血友病はF8(血友病A)あるいはF9(血友病B)遺伝子の変異により引き起こされる先天性出血性疾患である.凝固因子製剤や凝固因子の機能を代替する抗体医薬などの定期的な投与が治療の主たるものであり,出血の予防には薬剤の投与を生涯続ける必要がある.血友病は遺伝治療に適した疾患と考えられ,様々な研究が行われてきた.この十数年間で遺伝子治療開発研究は飛躍的に発展し,実際に1回の投与のみで長期に治療効果が得られるアデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus: AAV)ベクターを用いた遺伝子治療薬も上市した.一方で,これら遺伝子治療薬の適応外となる患者を対象とするゲノム編集治療や,ex vivo遺伝子細胞治療の開発も進行している.血友病に対する遺伝子治療薬を日常診療において利用する日も近いが,長期的な有効性・安全性の観察に加え,高額な医療費に対する議論は必須である.

  • 白山 理恵, 柏原 やすみ
    原稿種別: 特集:血友病患者のQOL向上を目指して
    2024 年 35 巻 1 号 p. 71-77
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
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    血友病の重大な合併症である血友病性関節症の診療には整形外科医との連携が不可欠であるが,それが十分行えていないとの意見もある.血友病診療における整形外科との連携の現況を把握するために,2022年2月に日本血栓止血学会血友病診療連携委員会の九州・沖縄ブロックで,ブロック内の拠点病院と地域中核病院の13施設14科を対象に血友病性関節症診療に関するアンケート調査を行ったところ,半数の7科が整形外科との連携に課題があると回答した.この結果を受けて,地域中核病院の整形外科医向けに血友病性関節症に関するセミナーを複数回開催し,各病院の血友病担当医から整形外科に連携強化のためのアプローチも行った.その結果,2022年9月に行った調査では,7科が整形外科との連携が強化できたと回答した.今回の取り組みは,血友病診療連携委員会の活動が血友病性関節症の診療向上につながったと考えられため,その詳細を紹介する.

  • 山之内 純, 白幡 聡
    原稿種別: 特集:血友病患者のQOL向上を目指して
    2024 年 35 巻 1 号 p. 78-82
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/29
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    近年の血友病治療の進歩は目覚ましいものがあり,様々な特徴を持つ血液凝固因子製剤のほか,凝固第VIII因子の機能を代替する抗体製剤も日常診療で使用されている.その結果,血友病の出血/止血管理は従来の標準的治療から,一人ひとりの薬物動態やライフスタイルに合わせた個別化治療に進化している.日本血栓止血学会では,血友病患者が居住地近くの施設で引き続き治療を受けることができるという利便性を損なうことなく,最新の個別的包括的ケアを受けることができるようにするため2018年に血友病診療連携委員会を設置して,血友病診療連携体制を構築した.本体制は,血友病患者が血友病診療ブロック拠点病院あるいは地域中核病院を受診し,診療方針の提示を受けることを基本としているが,遠方に在住している患者にとっては,時間的経済的負担が大きい.今回,直接受診を補完するものとして,血友病における遠隔診療(オンライン診療)連携の可能性を考えた.

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