血管内皮細胞には血流に起因する流れずり応力(shear stress)が作用し,血管の機能を調節している.ヒト肺動脈内皮細胞(HPAECs)にshear stressを負荷すると,内因性ATPが細胞外へ放出され,細胞膜に発現するATP受容体であるP2X4を活性化し,細胞内へCa
2+が流入する.P2X4遺伝子欠損マウスの内皮細胞では,shear stressに伴うCa
2+反応やNO産生が抑制されるだけでなく,血圧が上昇し,血流上昇に伴う血管拡張反応,血流減少によるリモデリング反応も障害される.P2X4を介するshear stress感知機構を解明する為に,独自の方法を用いて,細胞外ATPを画像化した所,細胞膜カベオラからATP放出が起こり,同じ局所でP2X4を介したCa
2+流入反応を惹起していた.更に,細胞膜カベオラとshear stressの感知機構を解明する為,細胞膜リン脂質-水系の構造(lipid order)の変化と膜流動性の変化を画像解析した所,shear stressにより即座に細胞膜カベオラのlipid orderが減少し,膜の流動性が増加した.この変化は人工脂質二分子膜でも観察される為,物理現象であることが証明された.細胞膜流動性の変化は様々な膜分子を活性化することが知られており,shear stressによる細胞膜の物理的性質の変化が内皮細胞のメカノセンシングに重要な役割を果たすことを示す.
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