日本血栓止血学会誌
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34 巻, 6 号
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Editorial
特集:微小循環と血栓
  • 丹羽 琢哉, 佐藤 恒久, 御室 総一郎, 中島 芳樹
    原稿種別: 特集:微小循環と血栓
    2023 年 34 巻 6 号 p. 628-632
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/19
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    1896年に提唱されたStarlingの法則は,毛細血管と間質の体液の移動を説明するものである.Starlingは,毛細血管内外の静水圧と浸透圧の差が体液の移動量を決定する要因であると述べた.しかし,この法則はグリコカリックスという新たな要素の発見によって再検討されることとなった.グリコカリックスは,血管内皮の内側を覆う糖蛋白質複合体であり,毛細血管と間質の体液の移動に重要な役割を果たしている.改訂されたStarlingの法則では,グリコカリックス直下の膠質浸透圧が重要であり,従来の法則よりも体液の間質への移動量は小さくなることが示された.また,動脈側から静脈側にかけての静水圧の変化や膠質浸透圧の影響が考慮され,血管内と間質の体液の移動が詳細に説明された.グリコカリックスが微小循環の生理において重要な役割を担っていることが明らかになってきた.また,グリコカリックスの役割は多岐にわたっており,さらなる研究の進展が期待されている.

  • 牛山 明, 篠原 茜
    原稿種別: 特集:微小循環と血栓
    2023 年 34 巻 6 号 p. 633-640
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/19
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    ヒト1人の血管の総延長は10万kmといわれるが,そのうち99%は微小血管である.また全身のすべての臓器においてガス成分および栄養成分の交換が微小血管と血管に接する組織の間で行われることを考えても,微小血管の役割は極めて重要であるといえよう.しかしながら生体の微小血管を流れる血流動態や血流により調節される生理学的応答を見ようとしても,血管が体表に露出している箇所はほとんどなく,また肉眼での観察は困難である.本稿においては,実験動物を用いた微小血管の観察法について一般的な方法を概説するとともに,顕微鏡技術の進化や蛍光プローブの開発により大きく進展したチャンバー法の有用性について解説する.

    また,チャンバー法を使った研究の一例として,近年注目されている血管内皮グリコカリックスについてチャンバー法によって明らかとしてきた生理的機能について概説する.

  • 安積 秀一, 酒井 和哉, 松本 雅則
    原稿種別: 特集:微小循環と血栓
    2023 年 34 巻 6 号 p. 641-653
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/19
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    血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy: TMA)は血小板減少,細血管障害性溶血性貧血,血小板血栓による臓器障害を三徴候とする症候群である.様々な病態を包括し,ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motif 13)活性著減を原因とするもの,補体が関与するもの,背景に何らかの基礎疾患を有する二次性のものなどに分けられる.TMAは診断に難渋する症例も散見されるが,死亡することもあり,適切な治療を速やかに選択することが求められる.

    近年,TMAの治療は知見が集約したことにより,病因によっては死亡率の改善を認めるものも出現した.病因により使用できる薬剤や治療法が異なるが,血漿交換療法やEculizumabなどの登場により,飛躍的にその死亡率が改善した病型も存在する.Caplacizumabの登場により,ADAMTS13活性低下を原因とするTMAにおいて新たな介入の選択肢が増えたが,先述のとおり,TMAは様々な病因を有する疾患を包括する概念であり,個々の症例において病因に合わせた治療介入が求められる.

  • 上谷 遼
    原稿種別: 特集:微小循環と血栓
    2023 年 34 巻 6 号 p. 654-661
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/19
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    本邦の妊産婦死亡絶対数は減少し続け,中でも直接産科的死亡の割合が低下してはいるが,世界的に産科DICは増加傾向にある.その基礎疾患は様々で,表現される形式も異なるのが特徴である.HELLP症候群や妊娠高血圧症候群は胎盤形成不全が関与し,高度な血管内皮障害を伴うことで微小血栓形成が亢進,線溶抑制型DICを起こす.特にHELLP症候群では,近年常位胎盤早期剝離と同様,胎盤剝離により組織因子が母体循環に侵入することでDICが惹起されるとも考えられている.羊水塞栓症は羊水内の血液凝固促進物質が母体の凝固カスケードに無秩序な活性化を起こし,線溶亢進型DICとなる.他には,産科異常出血において,大量の晶質液投与などを行うと希釈性凝固障害を起こし,同じく線溶亢進型DICとなる.早期診断のため暫定版DIC診断基準が新たに策定・公開され,今後の普及が待たれる.そして各病態に対してどのようなアプローチをしていくのか研究を重ねていく必要がある.

  • 小川 史洋
    原稿種別: 特集:微小循環と血栓
    2023 年 34 巻 6 号 p. 662-670
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/19
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    2019年末から世界中に蔓延し,多くの犠牲者を出した新型コロナウイルス感染症(corona virus infection 2019: COVID-19)は,その驚異的な感染力と重症化が発生当初より問題となっており,呼吸器系器官を中心とした実質臓器の障害とともに,血管内皮細胞障害と付随する凝固障害がその病態として注目されてきた.ウイルス感染による全身性炎症生反応(systemic inflammatory response syndrome: SIRS)を端とするサイトカインストームによる播種生血管内凝固障害(disseminated intravascular coagulation: DIC)や静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)に代表される血管内血栓形成が高頻度に確認されている.血管内皮障害や凝固障害といった微小循環障害について,さまざまな研究がなされており,COVID-19における微小血管障害については病態が徐々に解明されつつあり,ワクチン療法や抗ウイルス薬の開発とその効果の向上とともに,抗凝固療法の併用による重症化予防により随分コントロールできる感染症になりつつある.本稿では,COVID-19に関連する微小循環障害に焦点をあて,そのメカニズムについて述べる.

  • 十時 崇彰, 伊藤 隆史
    原稿種別: 特集:微小循環と血栓
    2023 年 34 巻 6 号 p. 671-678
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/19
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    微小循環は,生命活動における恒常性を維持する上で重要なシステムである.その調整を行っている血管内皮細胞やglycocalyxは様々な働きをしている.しかし,強い炎症などによって微小循環の恒常性が保たれなくなり,微小循環障害の結果,組織障害や臓器不全に発展する.敗血症病態では,好中球細胞外トラップ(NETs)を介したimmunothrombosisによって生体防御反応として血栓を作る.しかし,これが制御不能となると全身に血栓を作るため,血管内皮細胞が障害され,glycocalyxが消失し微小循環が障害され,敗血症性播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation: DIC)に陥る.本邦では抗凝固療法が推奨されており,アンチトロンビンやリコンビナント・トロンボモジュリンが使用されている.これらの薬剤の近年の動向や併用療法について概説する.

  • 富田 弘之
    原稿種別: 特集:微小循環と血栓
    2023 年 34 巻 6 号 p. 679-684
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/19
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    血栓性微小血管障害(thrombotic microangiopathy: TMA)とそれに関連する疾患において,病理解剖では組織学的微小血栓の存在を検索する.しかし,みつからない臓器や症例にも遭遇する.血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP)を含むTMAは,血小板の減少,微小血管症性の溶血性貧血,臓器障害の3つの特徴を持つ疾患群である.TMAの病理組織学的特徴は,微小血管内皮細胞の障害と血小板血栓の形成であるが,フィブリン血栓も存在することがあり,また血栓がないケースもある.ここでは,TTP症例で腎の微小血栓が観察されなかった事例を通じて,TMA疾患における病理学的組織障害の理解と考えられる病態の推定について考察する.

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