日本血栓止血学会誌
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33 巻, 6 号
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Editorial
特集:災害後の血栓症
  • 植田 信策, 榛沢 和彦
    原稿種別: 特集:災害後の血栓症
    2022 年 33 巻 6 号 p. 632-638
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
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    大規模災害後に静脈血栓塞栓症が多発することが知られている.東日本大震災で最も多くの犠牲者を出した宮城県石巻市では,深部静脈血栓症(deep vein thrombosis: DVT)が多発していた.その有病率は避難所人口あたり2.86%(下肢静脈エコー検診受診者の45.6%)と平時の250倍に達していた.その原因として,津波で家を失った被災者で密集状態となった避難所環境や脱水,汚泥由来の粉塵,長期の避難所生活による活動性低下などが考えられた.DVTのリスクは避難所だけでなく,仮設住宅においても認められ,平成23年から26年にかけて増加傾向を示した.その要因は高齢者の生活不活発病にあると考えられた.これには生活環境の問題とコミュニティ再建などの問題が寄与していたと考えられた.肺血栓塞栓症例は前年同期の2.5倍とDVT有病率の高さを反映しなかった.大災害における救出活動の遅れや死因把握が困難な状況であったことがその要因と推測された.

  • 高瀬 信弥
    原稿種別: 特集:災害後の血栓症
    2022 年 33 巻 6 号 p. 639-647
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
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    2011年3月11日に発生した東日本大震災および原子力発電所事故にともなう避難者の深部静脈血栓塞栓症予防啓蒙活動およびその発生状況について調査し考察をした.のべ79カ所の避難所を巡回し,のべ2,217名の避難者に予防指導および血管エコーでの膝下の静脈血栓スクリーニングを施行した.血栓陽性は210名(9.5%)であり内11名(血栓陽性者中5.3%)は地域中核病院へ緊急紹介搬送の処置を有した.肺塞栓症は0名であった.発生要因として年齢,滞在日数,下肢腫脹,長時間坐位が統計学的な有意差をもって検出された.また,避難所の環境評価と静脈血栓発生率には相関を認めた.災害時の避難においては生命のリスク回避が重要である.避難者に静脈血栓は少なからず発症するため,その予防啓発と避難所環境の確保は重要であると考えられた.

  • 坂本 憲治, 掃本 誠治, 橋本 洋一郎, 榛沢 和彦, 辻田 賢一
    原稿種別: 特集:災害後の血栓症
    2022 年 33 巻 6 号 p. 648-654
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
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    2016年4月,2度の地震(震度7)が熊本地方を襲った.本震から2日後,車中泊の51歳女性が急性肺塞栓症(pulmonary thromboembolism: PTE)により死亡し,我々は避難所巡回での深部静脈血栓症スクリーニング検診を開始した.車中泊者を中心に要入院重症VTE患者が多数発生する中,のべ136会場で4,135名に下肢静脈エコー検診を行なった.急性期検診(発災後45日間)のDVT陽性率は9.5%.予後調査で健診による3名の要入院者を同定できたが,死亡例はなかった.慢性期検診の検討では,DVT陽性率の検診時期毎の低下傾向を認めなかったが,高齢者を除くと経時的な陽性率低下が確認できた.急性期に同定されたDVTの慢性期推移を検討した結果,56%に消失が確認できた.血栓消失群における消失時期について検討したところ,49%は2ヶ月以内,87%は6ヶ月以内の追跡で血栓の消失が確認できており,発災直後からの予防啓発活動の重要性が示唆された.

  • 大西 秀典, 坪内 啓正, 前田 文江, 廣部 健, 清水 禎夫, 山村 修
    原稿種別: 特集:災害後の血栓症
    2022 年 33 巻 6 号 p. 655-660
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
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    我々のDVT検診活動チームは,福井大学を中心とした北陸3県の医療従事者が集まり,被災地での調査・支援活動に携わってきた.活動は能登半島地震(2007年3月)から始まり,東日本大震災,熊本地震など多くの被災地でデータを蓄積してきた.チームのテーマは「災害関連疾患の防止」であり,本チームはDVTを検出する下肢静脈超音波検査のみならず,仮設住宅においては心臓・腹部超音波検査や採血検査等も実施してきた.我々は,DVT検診活動から得られたデータを基に臨床研究においてもチームで取り組み,東日本大震災では,DVTの危険因子が経時的変化すること,DVTの持続因子,ヒラメ静脈とのDVT関係性,心臓超音波検査による所見の推移,熊本地震では,飲酒とDVT関係性,高血圧の治療状況と心疾患などを報告してきた.また,豪雨災害による避難所生活においてもDVTが発生することを初めて報告した.これらの報告が,災害医療の一助となれば幸いである.
  • 鎌田 啓輔, 菊地 信介, 内田 大貴, 古屋 敦宏, 榛沢 和彦, 東 信良
    原稿種別: 特集:災害後の血栓症
    2022 年 33 巻 6 号 p. 661-666
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
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    震災に関わる静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)の発生は,Virchowの3徴と共に考察することでその発生の原因,震災特有の病態を理解することができる.深部静脈血栓症(deep vein thrombosis: DVT)の発生率は10~30%と報告され,震災発生後1~2週間後に発生することから,この期間に生じる震災後の避難所環境に伴う血流鬱滞や血液凝固能の亢進に対する対策が,DVT発生の予防に寄与する.本総説では,2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震において避難所環境に関わる段ボールベッドとトイレ環境の重要性に着目し,かつVirchowの3徴に沿いながら震災とDVT発生及び予防について論じる.本邦で生じた複数の震災から得られた知見は,VTE発生予防という点で含蓄に富み,将来発生しえる震災に向けて有効な施策に繋がるはずである.

  • 星 研一, 滝澤 伸憲, 山田 美智治, 倉嶋 俊雄, 内川 慎一郎, 三浦 崇, 實原 正明, 小林 良清
    原稿種別: 特集:災害後の血栓症
    2022 年 33 巻 6 号 p. 667-674
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
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    令和元年東日本台風災害での長野医療圏エコノミークラス症候群予防検診が,長野県長野保健所及び長野市保健所の指揮の下,(一社)長野県臨床検査技師会,医療機関など関係団体が協働して行われた.災害対応での新たな取り組みを構築する際に,人と人との直接の対面による情報・意見交換・連携を図る場面が活かされたことが検診体制の整備につながった.一巡目は専門家からの指導のもと,日赤救護班,県検査技師会技師で探索的に行われた.さらに検査機器の中央管理とマニュアル等の整備がされ,二巡目は地域の病院単位の診療チームで広範に行われた.今後の災害時に備えて,一次予防としての早期からの疾病啓発と発生要因となる避難所環境の整備体制,二次予防としての検診の法的根拠の明確化,保健所と検査技師会による手順の整備,地元医療機関,さらに検査機器メーカーとの共同体制などの体制整備が望まれる.

  • 榛沢 和彦, 伊倉 真衣子
    原稿種別: 特集:災害後の血栓症
    2022 年 33 巻 6 号 p. 675-682
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/22
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    災害の無い地域一般住民の下腿深部静脈血栓症(below the knee deep vein thrombosis: BKDVT)を検討した.対象は男性477人,女性998人,不明4人,平均年齢61.3±16.0才で,BKDVTはエコー検査で確認した.BKDVTは64人(男性15人,女性49人,平均年齢73.2±8.5才)(4.3%)に認め,ヒラメ筋静脈56人,腓骨静脈5人,膝窩静脈2人,ヒラメ静脈と腓骨静脈が1人,片側49人,両側15人であった.BKDVTは65才を超えると増加し単変量解析によるリスク因子は年齢>70才,ヒラメ筋静脈最大径8.5 mm以上,高血圧,心臓病,虚血性心疾患,睡眠導入薬であった.多変量解析では女性,年齢>70才,心臓病または虚血性心疾患,であった.検査を予約で行った会場の陽性率(5.7±1.7%)は呼び込みだけで行った会場(2.4±2.8%)より有意に多かった(P=0.0373).BKDVT調査では年齢と被験者の集め方に注意が必要である.

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