日本血栓止血学会誌
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34 巻, 4 号
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Editorial
特集:血小板の基礎から臨床応用
  • 井上 克枝, 築地 長治, 白井 俊光, 佐々木 知幸
    原稿種別: 特集:血小板の基礎から臨床応用
    2023 年 34 巻 4 号 p. 414-421
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/23
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    私達は血小板活性化蛇毒ロドサイチンの受容体としてC-type lectin-like receptor 2(CLEC-2)を同定し,その生体内リガンドが癌細胞やリンパ管内皮に発現する膜蛋白,podoplanin(PDPN)であることを見出した.胎生期に生じるCLEC-2とリンパ管内皮のPDPNとの結合は,リンパ管と血管の分離促進と正常な肺発生に必要であった.また,CLEC-2はPDPN発現腫瘍細胞の血行性転移,癌関連血栓症,慢性炎症と悪液質を促進していた.実用化,臨床応用を目指した研究としては,PDPN結合を阻害するCLEC-2結合低分子化合物として,コバルトヘマトポルフィリンを同定した.マウス抗CLEC-2抗体2A2B10とリコンビナントロドサイチンを作製して販売した.血小板活性化に伴って遊離するsoluble CLEC-2を測定し,生体内血小板活性化マーカーとして急性期虚血性脳血管障害診療に使用することを目的とした,多施設共同研究CLECSTRO研究が進行中である.

  • 加藤 恒
    原稿種別: 特集:血小板の基礎から臨床応用
    2023 年 34 巻 4 号 p. 422-429
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/23
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    血小板は止血を行う上で必須の血球であり止血不良や病的血栓形成なく止血を行うため,その機能制御は厳密なものでなければならない.インテグリンαIIbβ3(GPIIb-IIIa)はダイナミックな構造変化を伴う活性化によりフィブリノゲンと結合し,血小板凝集を形成する血小板機能の中心となる受容体である.αIIbβ3活性化を誘導するinside-outシグナルを中心にその活性化機構解明のため多くの試みが行われてきたが,核を持たない血小板は実験上の制約が大きく,まだ理解は十分なものではない.こういった状況の中,我々はこれまで血小板機能異常症の解析が重要な知見を得るために有用であることを報告してきた.本稿では血小板研究の現状とともに,αIIbβ3活性化速度と活性化維持の重要性を得た症例解析について紹介する.

  • 松原 由美子
    原稿種別: 特集:血小板の基礎から臨床応用
    2023 年 34 巻 4 号 p. 430-435
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/23
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    血小板の有効性を活かした治療である血小板輸血,組織修復それぞれの課題の箇所の解決に向けて,他家(同種)再生医療等製品としての開発を進めている.皮下脂肪組織に含まれる間葉系幹細胞から血小板が産生される事象のメカニズム解明を行ったところ,間葉系幹細胞は巨核球・血小板の分化決定因子である転写因子p45NF-E2,血小板分化に重要なサイトカインであるトロンボポエチンを内在し,血小板分化誘導刺激(トランスフェリン添加)でこれら因子の発現量を増加させて血小板分化に至ることが認められた.これら血小板の基礎研究の成果に基づく血小板創製技術を用いて,再生医療等製品として開発中のASCL-PLCの実用化に向けた取り組みについて概説したい.医療応用に関しては,難治性皮膚潰瘍を対象とした臨床研究実施中,治験準備中であり,輸血応用としての治験準備中である.さらに適応拡大を視野に入れた非臨床研究を進めている.

  • 原 哲也, 岡野 光真, 吉川 祥子, 鈴木 陽子, 江本 憲昭
    原稿種別: 特集:血小板の基礎から臨床応用
    2023 年 34 巻 4 号 p. 436-442
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/23
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    静脈血栓症は肺塞栓の原因となる致死的疾患である.予防や新規治療法の確立のため,病態解明が重要であるが,約150年前のVirchow3徴(凝固異常,内皮傷害,血流異常)以来,大きく進んでいない.この3徴が示すように血栓は複数の細胞や血流という物理的因子により制御されるため,既存の単一細胞系のin vitroでの研究では限界があり,生体でのイメージング研究が非常に有用な領域である.このような現況の中で,我々は静脈血栓の性質をもち,顕微鏡を用いた1細胞レベルで観察可能な高分解能生体イメージングに応用できる新規の血栓形成現象を発見した.この新規の血栓形成現象を利用することで,血栓の形成から器質化に至るまでの時空間的制御機構を1細胞レベルで可視化することができるようになった.これまで解明が進まなかった静脈血栓の形成,器質化の病態解明が大きく前進することが期待される.

  • 安本 篤史
    原稿種別: 特集:血小板の基礎から臨床応用
    2023 年 34 巻 4 号 p. 443-448
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/23
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    ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia: HIT)はヘパリン投与後に血小板減少とともに血栓症を発症する疾患である.診断にはHIT抗体検査が行われるが,免疫学的測定法は偽陽性が多いという問題がある.正確な診断には患者検体中に含まれるHIT抗体が血小板活性化能を有するかどうかを評価する機能的測定法が重要だが本邦では普及していない.機能的測定法は適切な健常者血小板ドナーを選択して,そこに患者検体とヘパリンを添加することで血小板が活性化するかどうかを測定する.血小板活性化の測定にはセロトニン放出試験がゴールドスタンダードだが放射性同位元素を用いるため本邦では導入が困難であり,フローサイトメトリー法を用いた血小板マイクロパーティクル法が開発された.現在,臨床試験も行われているが安定した検査体制の確立のためにさらなる改良とデータ蓄積が重要である.

トピックス 新型コロナウイルス関連シリーズ
2023年度日本血栓止血学会 岡本賞 Shosuke Award
  • 後藤 信哉
    原稿種別: 2023年度日本血栓止血学会 岡本賞 Shosuke Award
    2023 年 34 巻 4 号 p. 457-467
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/23
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    Thrombosis is a common cause of various acute cardiovascular diseases including acute coronary syndrome. Antithromotic therapy is widely used in cardiology community even though the vast majorities of cardiologists are not quite familar with the detailed mechanisms of thrombus formation mediated be platelet, inflamatory cells, coagulation cascade, and so on. The clinical evidences obtained from clinical studies, especially clinical trials comparing the efficacy and safety of novel antithrombotic agents vs previously established standard of care, provided the clues to improved the quality of the standard of care antithrombotic therapy for various patient populations. The global clinical trials still are the best way to test the clinical hypothesis. New generation of antithrombotic therapy become novel standard of care only when it showed better efficacy and safety as compared to the previously established standard of care in the clinical trial. These hypothesis testing clinical trials were conducted on the globe assuming the homogeniety of the risk of thrombotic and bleeding events across the globe. So far, it is hard to clarify the best suitable antithrombotic therapy for individual patients in a scientific manner. Various novel antithrombotic therapies became novel standard of care in various cardiovascular diseases within previous 10 years. The platelet P2Y12 ADP receptor blockers are widely used in patients with acute coronary syndrome. Various orally available specific inhibitors for coagulation factor Xa are also used widely for prevention of thrombotic stroke in patients with atrial fibrillation. However, the global clinical trial is not a perfect way to provide scientific evidence for the use of antithrombotic therapy for all individual patients. Indeed, reduced doses of antithrombotic agents not tested in the global trials are recommended in some countries to avoid serious bleeding events. These reductions of doses are recommended based upon the results from the country or region specific clinical trials. The scientific values of these region/country specific clinical trials are limited. The clinical trials are helpful to improve the standard of care for specific patients populations. However, each physician should take care of their individual patients. In the clinical practice, physicians made their decision based upon their intuitive prediction of the future risk of thrombosis and bleeding in individual patients. These intuitive decisions made by physicians are not scientific. Recent progress in the high-performance computer and information technology enable to provide scientific evidences for personalized medicine in both inductive and deductive manner. Accordingly, developments of novel antithrombotic therapies in Cardilogy are still exciting area of research in both basic and clinical approach.

2023年度日本血栓止血学会 岡本賞 Utako Award
  • 森下 英理子
    原稿種別: 2023年度日本血栓止血学会 岡本賞 Utako Award
    2023 年 34 巻 4 号 p. 468-479
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/23
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    血液凝固・制御機構は血管内での血液流動性を維持するために,巧妙なバランスのもとに機能している.しかし,そのバランスに異常が生じて過凝固状態となると血栓性疾患を引き起こし,止血機構に異常が生じると出血性疾患を引き起こす.筆者は臨床現場において様々な血液凝固異常症の患者に遭遇し,その臨床症状ならびに生化学的,分子生物学的解析を詳細に行うことにより,血栓形成の分子機構の解明に極めて有用な情報を提供してきた.遺伝性プロトロンビン(PT)異常症発端者(PT Himi)は,PT活性が10%であったが,無症候であった.PT p.Met380ThrおよびPT p.Arg431Hisの2種類のバリアントを有し,活性化されると2種類の異常トロンビン(Himi I, II)が生成される.分子病態解析にて,Himi Iは凝固活性が低下していたが軽度のアンチトロンビン抵抗性を示し,Himi IIは軽度の凝固活性低下とトロンボモジュリンとの結合不全を示した.結果として,止血・凝固阻止のリバランスにより無症候性となる可能性が推測された.また,30歳代より頻回に静脈血栓症を反復する兄弟を解析したところ,新たな活性化プロテインC(APC)抵抗性を示すFactor V異常症(FV p.Tyr1989Cys)を発見した.分子病態解析にてFV p.Tyr1989CysはFV Nara(FV p.Trp1920Arg)と類似しており,さらにリン脂質結合能の低下をもたらす可能性が推測された.筆者らが経験した世界初の先天性ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)欠損症患児は,広範な生体防御機構の機能異常と著明な血栓形成による多臓器不全を認めた.そこで筆者らは,①患者末梢血単球より作成したEpstein-Barrウイルス形質変換B細胞(LCL)に細胞傷害性ストレスを加え,組織因子(TF)ならびにPAI-1が著増すること,さらに欠損患者由来LCLにHO-1遺伝子を導入するとその増加が抑制されること,②ヘムの分解産物であるCOは細胞傷害性ストレス刺激に対して単球や血管内皮細胞上でTFやPAI-1発現を抑制,TM発現を増加させ,それはMAPキナーゼ系を介することなどを示し,HO-1の新たな機能として抗血栓性作用を提唱した.さらに,日本骨髄バンクの協力を得て非血縁者造血幹細胞移植(stem cell transplantation: SCT)症例(血液悪性腫瘍移植患者とドナー約600組)を対象として,HO-1の遺伝子一塩基多型(single nucleotide polymorphism: SNP)とSCT後転帰の関連性を解析し,ドナーHO-1 SNP rs2071746のgenotypingはドナー選択と移植戦略のテーラーメイド化に有用である可能性を示した.以上のような特殊な凝固異常症に加えて,これまでにAT・PC・PS欠乏症疑い約500例の遺伝子解析を行い,さらに遺伝子組換え変異蛋白質を作成して機能解析を行うことにより,表現型と遺伝子型の関連を明らかにしてきた.このような研究成果が,最終的には治療法の開発へとつながっていくことを期待したい.

2023年度日本血栓止血学会 学術奨励賞
  • 中島 由翔
    原稿種別: 2023年度日本血栓止血学会 学術奨励賞
    2023 年 34 巻 4 号 p. 480-487
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/23
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    第VIII因子(FVIII)はトロンビンによってArg372,Arg740,Arg1689を開裂することにより活性化される.野上らは,FVIII A2ドメインにトロンビンによるArg372開裂を制御する部位が存在することを示した.本研究では,Arg372開裂とFVIII A1ドメイン337~372残基の相互作用に着目した.アラニン置換したFVIII変異体(Y346AおよびD347A/D348A/D349A)は,野生型と比較してトロンビンによる活性化ピーク値が約50%,開裂速度が約10~20%に抑制されたことから,FVIII A1ドメイン346~349残基がArg372による活性化を制御するトロンビン結合部位であることを示した.また,FVIII A1ドメイン337~346残基をヒルゲン配列に置換したFVIII変異体では,トロンビンによるFVIII活性化のピーク値とArg372での開裂速度が,それぞれ野生型の約1.5倍と約2.5倍と高くなった.この様に,私達はトロンビンと結合親和性が高いことで知られている蛋白であるヒルゲン配列をFVIII A1ドメインに組み込むというユニークな発想から高機能型FVIIIの作成に成功した.本稿ではこの詳細に考察を交えて概説する.

  • 西川 真子
    原稿種別: 2023年度日本血栓止血学会 学術奨励賞
    2023 年 34 巻 4 号 p. 488-493
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/23
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    生体内の血栓症には,アテローム血栓性脳梗塞や急性冠症候群などの動脈血栓と,深部静脈血栓症や肺塞栓症などの静脈血栓がある.動脈血栓症の主な原因は,シアストレス等により活性化された血小板であり,治療法として抗血小板薬が広く臨床利用されている.また,静脈血栓症の発症にも血小板活性化が関係するとの報告もある.しかし生体内の血小板の活性化,凝集を定量的かつ統計的に検討するツールはなく,あまり注目されてこなかった.COVID-19では,剖検で肺などの微小血管に広範な血栓がみられ,重症化や致死因子として微小血栓の重要性が報告されている.我々はCOVID-19における微小血管血栓形成を理解するために,高速流体顕微鏡を用いてCOVID-19患者の血液中の血小板および血小板凝集塊のシングルセル明視野画像を撮影し,大規模イメージング解析を行った.COVID-19患者の血小板凝集塊比率は有意に増加し,呼吸状態に基づくCOVID-19重症度,死亡率と相関した.臨床検査項目,身体所見との関連を調べたところ,二次線溶マーカーであるD-ダイマー,トロンボモジュリン(TM)などの血管内皮障害マーカー,呼吸状態と強い関連を認めた.本知見より,微小血栓形成の潜在的なリスクを評価する上で,循環血小板凝集塊の解析が有効なアプローチになり得ることが示唆された.COVID-19関連血栓症を含む様々な血栓症の早期診断や重症化リスクの予測,治療応用への発展が期待される.

第17回日本血栓止血学会学術標準化委員会(Scientific Standardization Committee: SSC) 2023シンポジウム
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