生体はメカニカルストレスが作用する物理的環境に置かれている. 生体外からの重力などのほかに生体内で発生する圧力, 張力, 摩擦力などのメカニカルストレスが作用する. 生体の組織, 細胞, 分子の機能は多かれ少なかれメカニカルストレスの影響を受けており, メカニカルストレスが変化するとそれらの機能も変化する. こうした現象は既に19世紀末に指摘されており,Thomaが鶏胚の観察で血管形成が血流速度に, Wolffが骨の増殖が過重に依存することを報告している. これまで, 血管や骨だけでなく心筋, 歯根膜細胞, 内耳有毛細胞, 乳腺細胞, 気道上皮細胞, 皮膚など多くの組織・細胞がメカニカルストレスに反応することが観察されている. 血管に働くメカニカルストレスと, それに対する血管細胞の反応は蛋白の選択的透過性や血管のトーヌスの調節, 血液の凝固・線溶活性や平滑筋の増殖の制御, あるいは白血球との接着現象など正常な血管機能の維持に重要な役割を果たしている. さらに血管の成長, 新生, リモデリングや粥状動脈硬化病変の発生といった血流依存性に起こる現象にも深く関わっているのである. ここではとくに血流に起因するメカニカルストレスである流れずり応力の血管への作用についてわれわれが得た実験結果を中心に概説することにする.
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