現在,全国新幹線鉄道整備法に基づく整備計画に従って新幹線の整備が進められており,今後も新たな新幹線駅が建設される.しかし,建設される新幹線駅は必ずしもすべて利便性が高いとはいえない.本研究では,新幹線駅の利便性が,現在新幹線駅が立地する地方自治体の人口や就業者人口をはじめとした指標に正の影響を与えているという仮説を設定し,両者の経年変化の関係を実証的に分析した.その結果,利便性の高い新幹線駅がある地方自治体は,利便性の低い新幹線駅がある地方自治体と比較すると,それらの指標の減少幅が小さいことが明らかとなった.また,工業製品出荷額が増加しているとそれらの指標の減少幅が同様に小さいことが明らかとなった.
空間的応用一般均衡(SCGE)モデルによる交通整備の便益評価に係る研究が,これまで精力的に行われてきた.しかしながら,それらの研究では交通サービスを生産する運輸企業が明示的に表されていないものが多く,交通整備による交通所要時間短縮は直接交通サービス需要者に効果をもたらすと想定されていた.ところが,そのような想定では,1)運輸企業の生産効率性向上と付加価値変化が計測できない,2)財価格の変化に比例して交通費用が変化するという不自然な結果を生む,3)財価格や賃金変化等の波及効果が運輸企業の生産に影響しないという問題がある.そこで本研究では,交通生産を内生化したSCGEモデルを開発し,さらに波及効果の確認のために便益帰着構成表を作成して,わが国の費用便益分析マニュアルの便益評価手法との整合性を示した.
老朽化した公共施設の健全度を判断する際に,根拠となる劣化の現象に対する判断過程を分類木によって整理することは健全度の判断だけでなく,住民や行政など関係者間での補修や建替などの合意形成を円滑に進める上でも有用である.しかし,分類木を作成するための従来手法では,「健全でない」施設を,分類木上「健全である」と判断してしまうような重大な誤判別が明示的に取り扱われて来なかった.本研究では,分類木を作成する際の学習段階で生じる重大な誤判別を避けつつ,分類の精度が保たれるような重み付き最適分類木の作成手法を提案する.さらに愛媛県松山市における公共施設32棟について劣化調査を実施し,提案手法を適用した.その結果,提案手法の有用性を確認するとともに,重大な誤判別を避けるために考慮すべき要因を明らかにした.
災害による半壊以上の被害を受けた住家に対する応急修理制度は,避難所の早期解消,応急仮設住宅・災害公営住宅の需要抑制などにつながりうる制度である.しかし,過去の災害時において制度に関する様々な課題が報告されている.本研究は,熊本県益城町を対象として,2016年熊本地震における半壊世帯の応急修理制度の利用実態とその課題を明らかにすることを目的とする.まず,2017年7月に益城町が実施した郵送調査データより,制度の利用実態を集計的に明らかにし,自由回答データから制度の課題を整理する.次に2017年11-12月に制度未利用の半壊世帯の20世帯に独自のインタビュー調査を実施し,被災後からの被災者の意思決定の実態や応急修理制度に対する被災者の意識や要望を明らかにする.
ラウンドアバウトの幾何構造設計では,単に幾何構造要素の寸法を決定する仕様設計ではなく,安全性能照査型の手法が求められる.しかし,わが国では安全性能照査型の設計を行うための評価方法や評価指標はこれまで検討されていない.そこで本研究は,ラウンドアバウト幾何構造の安全性能評価指標として,事故の起きやすさを表す見落とし確率と,事故が起きた時の重度を示す衝突強度の積で表されるリスク指標を提案し,その算出方法を提示した.また,任意の幾何構造を対象とした数値シミュレーション結果に基づき,幾何構造条件からリスク指標を算出するためのモデル化を行った.その結果,とくに流入部接続角度が小さいと見落とし確率が高くなり,また偏差角が小さいほど衝突強度が高くなることが明らかになった.
コンパクトシティ実現に向けた多くの計画では,サービス施設やコミュニティを維持するために人口密度が目標値として設定されているが,設定した人口密度が日常生活サービス施設を維持するための目標値として適切であるかについての検討は十分にはなされていない.本研究では,コンパクトシティ実現に向けた計画策定における拠点地域の人口密度設定の一助となる情報の提供を目的に,人口分布データと各施設の立地分布データを用いて,人口密度と各施設の立地との関連分析を行った.その結果,全29施設のうち25施設において人口密度と立地確率の間に比較的高い関連性が見られ,その立地傾向は人口密度の観点より,「10~20人/ha」,「20~60人/ha」,「60人/ha以上」の3つの人口密度区分に分類することができた.
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