土木学会論文集D3(土木計画学)
Online ISSN : 2185-6540
ISSN-L : 2185-6540
78 巻, 5 号
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土木計画学研究・論文集 第40巻(特集)
  • 福田 大輔, 城間 洋也
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_1-I_20
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
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    本論文では,近年方法論の展開が大きく進んでいる異質性と摂動性という観点に特化して離散選択モデル研究の包括的なレビューを行い,今後の行動モデル研究についての展望を示すことを目的とする.まず,異質性に関しては,Mixed Multinomial Logit モデルを理論の下敷きとして,個人の選好の異質性を離散選択モデルの枠組で具体的に記述し,詳細な個人データに基づいて推計するための近年の方法論開発についてレビューを行う.次に,摂動性に関しては,摂動効用の概念を概説した上で様々な意思決定の場面への応用可能性を示すと共に,一般化エントロピー,凸共役性,需要関数の可逆性等の概念を鍵とした需要推計方法論の展開について包括的に整理する.最後に,レビューを総括した上で,今後の行動モデル研究の展望について論じる.

  • 難波 晃大, 森本 瑛士, 高瀬 達夫, 豊田 政史
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_21-I_29
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    立地適正化計画における誘導区域指定は各都市の裁量に依存しており,誘導区域に災害リスクを含む都市が多い.実際に誘導区域内で被害が生じたことから,本研究では誘導区域指定による災害リスク低減を目指し,居住誘導区域への人口集約度,可住地と居住誘導区域の災害リスクの差異,浸水被害による誘導区域内外の人口と地価の変動を分析した.その結果,今後の居住誘導によって浸水深3.0m以上の浸水被害にあう人口割合の増加が懸念される都市等が明らかとなった.また浸水被害がなかった居住誘導区域とは異なり,浸水被害にあった居住誘導区域では人口減少や地価の下落が確認され,災害リスクを除いた居住誘導区域指定のメリットが示唆された.さらに居住誘導区域内において浸水深等の指標を用いた集約の優先度設定なども重要であると考えられる.

  • 金山 洋一, 中川 大, 本田 豊, 猪井 博登, 高柳 百合子
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_31-I_39
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    我が国の地域鉄道は,総じて経営が厳しく,これまで幾つもの路線が廃止されてきたが,近年では,上下分離による存続も見られるようになった.しかし,運行頻度等の利便性には引き続き課題が見られるため,都市の持続可能化を図る観点からは利便性を向上させる持続可能な方策が重要となる.それには,官の役割を導入する官民分担型上下分離が有効であるが1),3) ,その導入には,公的資金の額の妥当性確保等に繋がる公有施設への運行参人の公平性確保と,これまで運行しノウハウを有する既存事業者の継続的な参入可能性を両立させることが求められる.本稿では,公平性,地域要件,地域貢献度等に係る公共調達等の知見から,既存事業者の継続的運行を確保しつつ,運行事業者の経営の健全性と持続性を図る運行参入手続きの対応可能性について示す

  • 朴 秀日, 加藤 博和, 大石 直毅
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_41-I_50
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    今後普及が見込まれるパーソナルモビリティツールの CO2排出量に関する調査研究が行われていないことから,導入に伴う CO2排出量変化を他モードへの影響も加味して推計する手法を構築した.超小型モビリティ・電動キックボードを対象とし,さらに自転車も含め CO2排出原単位をLCA(Life Cycle Assessment)に基づき推計した.これを利用した推計の結果,例えば乗用車から公共交通(鉄道・バス)+パーソナルモビリティツールへ転換した際,乗用車の乗車人数が 2 人以下の場合に CO2排出量が減少するなど,パーソナルモビリティツール導入が CO2削減につながる条件を明らかにすることができた.

  • 前川 美月, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_51-I_61
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    我が国は近い将来に巨大地震が発生する可能性が高く,人命や社会資本等に対する直接被害に加え,被災後の経済活動停滞により甚大な間接被害が生じる懸念もある.間接被害を最小限に抑えるためには復興の早期化が求められるが,その具体的方法と効果の研究は十分でない.本研究では,高速道路網拡充が,震災後の社会活動の復興速度に与える影響の検証を行った.東日本大震災後の道路通行実績データを用いて,震災により破断した一般道路リンクの回復に,当該道路リンクから高速道路 IC へのアクセス性が与える効果についてロジスティック回帰分析を行った結果,回復を促す統計的に有意な傾向があることが示された.したがって,震災後の道路交通の早期復興に対し,高速道路網の強靱化は有効であるという示唆が得られた.

  • 山口 由美子, 長曽我部 まどか, 谷本 圭志
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_63-I_70
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    中山間地域では地域組織による送迎や買い物代行といった新たな共助活動を行う必要性が高まっている.しかし,すべての組織においてこれらの活動を実行できるとは考えにくく,組織の雰囲気や文化といった特性が共助活動の実行可能性に影響すると考えられる.そこで,本研究では組織の雰囲気を測る指標として心理的安全性に着目し,因子分析および一般化線形モデルを用いて地域組織の心理的安全性と共助活動の実行可能性の関係を明らかにする.鳥取県東伯郡北栄町の地域福祉活動に携わる住民に対してアンケート調査を行い分析した結果,挑戦と話しやすさに関する組織の雰囲気が,共助活動の組織体制づくりや共助活動の実行可能性に肯定的な影響を与えることが示唆された.

  • 高良 幸作, 田中 尚人
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_71-I_78
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    近い将来,災害や戦争,原発事故等に関する記憶の継承が困難になると予想される.さらに,熊本地震から5年が経過し,記憶の風化が課題となっている.本研究の目的は,クロスロードゲームの作問ワークショップを用いて熊本地震を契機とした記憶の語り直しの構造を明らかにすることである.研究の成果として,語り直しは,自らの経験以外にも他者の経験を語ることが可能であることが分かった.つまり,他者の経験であっても「語られる過去の記憶や経験」を語り手が意志を持って言語化することが重要であった.語り直しを行うプロセスを分析した結果,自己体験型,他者体験型,伝聞型,想像型の4つの型に分類することができた.

  • 二井 昭佳, 岡田 一天
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_79-I_88
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    本稿は,流域全体を最適化する治水システムの知見蓄積に向け,ドイツ・バイエルン州における「洪水防御行動計画 2020 プラス」を対象に,同州の治水事業の枠組みや既往洪水を整理した上で,行動計画の 構成や内容を明らかにするものである.その大きな特徴として,4 つのサイクルによる持続性の高い洪水 対策の仕組みの構築,計画超過洪水への対策によるレジリエントな治水システムの構築を指摘した.さら に,流域全体の治水システムとして,レジリエントな治水システムへの転換,「浸水地域」制度による洪 水防御エリアの明確化,河道の復元による自然の氾濫原の創出,超過洪水用遊水池の建設による遊水機能 の強化が重要な役割を担っていることを指摘し,日本への展開可能性を考察した.

  • 秋山 孝正, 井ノ口 弘昭
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_89-I_96
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    健康まちづくりを検討するため,国民の健康を考えた厚生労働省の「健康日本 21」によれば,「平均寿 命・健康寿命の延伸」「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加(不健康な期間の減少)」が目標(2 条件)とされる.また健康寿命延伸には,歩行量の増加が必要とされ,関連する健康政策の推進が提案さ れている.本研究では,このような背景を踏まえて,関連研究で提案された平均寿命・健康寿命の推計モデルを改良する.ここでは,変数選択型の回帰分析とニューラルネットワークを用いて推計モデルを作成する.特に大阪府市町村の観測データに基づいて定量的モデルを構築する.最終的に,都市の交通行動変化による健康寿命延伸効果から,平均寿命・健康寿命に関する 2 条件を満足する健康政策を導入した場合のインパクトを検証できる.

  • 吉田 純土, 新階 寛恭, 絹田 裕一, 和泉 範之, 西田 純二
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_97-I_105
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    中心市街地等において快適な歩行空間を形成し賑わいを創出する重要性が認識され,様々な歩行促進施策が展開される中,その施策を評価する指標として歩行者交通量が多く採用されている.地下街を有する市街地において歩行経路のスケールで歩行流動を把握する場合,Wi-Fiパケットセンサーが簡便さや費用等の面で最も有利であると考えられる.そこで本研究は地下街を有する西武新宿駅周辺において同センサーによる歩行観測を行い,統計値との比較や天候・曜日の違い等による経路選択等の差異に関する分析を行った.その結果,MACアドレスのランダム化が進展する2021年3月時点においても,都市内の歩行者の移動特性と同センサーから取得した歩行流動データの傾向に一定の一致が見られ,その有用性が確認された.

  • 遠山 寛人, 武藤 慎一
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_107-I_117
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    日本では,高度経済成長期以降に整備された道路インフラが急速に老朽化しており,これからの社会において安全かつ持続的な道路ネットワークの維持が重要な課題となる.しかし,地方を中心に行政の財源が逼迫していることを踏まえると,持続可能な道路管理を行うためには維持修繕費用を低減させる手法の確立が必要となる.そこで本研究では,山梨県甲府都市圏内の橋梁を対象とし,はじめに橋梁劣化の将来予測を行うことで長期的な維持修繕費用を推計した.さらに,一般道路から耐荷性の高い高速道路へ経路誘導することによる一般道路の維持修繕費用低減の可能性について検討した.

  • 木下 洋輝, 八木 雅大, 高橋 翔, 萩原 亨
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_119-I_127
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    積雪寒冷地において路肩に堆積した雪は,交通渋滞や交通事故を引き起こす一因となり,都市交通の機能を維持する上では重大な問題となっている.冬期の道路有効幅員の確保のために,路肩に生じた堆雪の排雪や除雪が行われているが,道路状況の収集には,多大な時間と人員を必要とする.本論文では,冬期の道路有効幅員(以降,狭窄状況)を車載カメラから撮像された映像より識別する手法を提案する.本論文では堆雪の様子に注目した画像特徴量を用いて車載カメラから道路の狭窄状況をより高精度に推定可能とする手法を提案する.これによって,一般車両からでも道路状況の収集が可能となり,多大な人員や時間を必要としない環境の構築に貢献することが期待できる.

  • 高井 彬名, 武藤 慎一, 石川 良文
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_129-I_140
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    リニア中央新幹線の整備が進められており,山梨県にも新駅(仮称:山梨県駅)が建設される.それにより観光やビジネスなど様々な目的での来県者が増加し,多大な経済効果がもたらされると期待される.ただし,その実現のためには山梨県駅から山梨県内各地へのアクセス交通整備が必要になる.本研究は,山梨県内最大の観光地である富士北麓方面のアクセス交通を検討する.山梨県駅が建設される甲府都市圏と富士北麓地域では都市圏が異なる.そのため,空間的応用一般均衡(SCGE)モデルを用いることにした.しかし,従来の SCGE モデルは市町村には適用できなかった.本研究では,まず山梨県を対象に市町村間産業連関表を作成し,それをデータベースとする市町村間 CGE モデルを開発した.そして山梨県駅と富士北麓方面のアクセス交通整備を評価した.

  • 浅田 智裕, 杉浦 聡志
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_141-I_151
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    近年,台風や豪雨災害による被害が頻繁に報告されており,事前の住民避難計画の重要性は増している.本研究では地区防災計画の参照情報として有用となるような浸水災害時の最適避難計画モデルを開発する.提案モデルでは総避難時間および避難所のサービス水準の総和を最適化する線形計画問題を求解している.この最適化問題では垂直避難や民間施設への避難といった浸水災害避難特有の避難者の行動を表現することで,より現実的な避難計画立案のための手法を提供している.構築したモデルは仮想ネットワークでパフォーマンスを確認し,避難所の混雑率を考慮した避難計画が立案できること,民間施設の避難所能力による影響を分析可能であることを確認した.札幌市の道路ネットワークへの適用では計算負荷が汎用コンピュータでも十分であることを確認した.

  • 小倉 悠太朗, 中村 一樹
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_153-I_161
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    近年,歩行空間のニーズが多様化する中,客観的な空間要素の量が主観的な評価に与える影響を明らかにすることで,ニーズによって有効な空間整備の要素を把握できると考える.本研究では国内外の歩行空間の画像認識を用いて客観的な空間指標を計測し,主観評価との関係性を明らかにすることを目的とする.まず,画像認識ツールを用いて空間指標を計測し,クラスター分析で空間シーンを分類する.そして,空間シーンを含めた空間指標と主観評価の関係について分析を行う.この結果,空間シーンは大きく人と車の量で分類され,シーン指標を含めた空間指標は量的や質的な主観評価をある程度説明できることが示された.

  • 長谷川 啓太, 福田 大輔
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_163-I_182
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,近年我が国において実施された地域間配分政策 (Place-Based Policy) が国土全体の人口分布や地域経済に与えた影響を定量化して,その事後評価を行う.そのために,定量的空間経済学 (QSE: Quantitative Spatial Economics) に立脚して地域間人口移動や集積の経済を考慮した都道府県単位の多地域モデルを構築し,4 種類の地域間配分政策による影響を分析した.構築したモデルを用いて反実仮想シミュレーションを行った結果,同政策により労働者数の都道府県間格差は緩和された一方で,実質所得の全国合計額は減少していたことや,地域間配分政策の効果は短期的な影響にとどまらず長期的にも持続していたことが示唆された.

  • 今井 龍一 , 松島 敏和 , 和田 翔 , 野崎 琉加
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_183-I_192
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    都市計画や防災計画などの策定や評価,中心市街地の活性化の取り組みにおいて,24時間365日に亘って取得可能な交通ビッグデータが活用されている.他方,人口減少が進む我が国の将来を見据えると,市区町村域を跨いだ広域連携による都市経営を図っていくことも重要な検討課題となる.このことを見据えて本研究では,交通ビッグデータのOD量を用いて広域連携による都市経営の推進の検討材料を獲得することとした.具体的には,エリア間のトリップのOD総量を把握できる人口流動統計を用いて,市区町村を地域特性別に類型化する手法を開発した.さらに,国勢調査データを用いたクラスター分析結果の地域分類と比較し,考案手法の有用性を確認した.そして,本手法の活用方策として,ユースケース分析を実施した.

  • 中里 悠人, 水谷 大二郎, 長江 剛志
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_193-I_204
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,補修費用と利用者費用を同時に考慮し,高速道路ネットワークの舗装の補修施策を決定する問題を考える.複数のリンクによって構成された道路ネットワークでは組み合わせ爆発により補修施策の導出及び結果の解釈と実用化が困難である.それに対して本研究は,グルーピングと集計化に基づく近似的解法を提案する.リンクのグルーピングを行い,グループごとに劣化状態の集計化を行うことで,組み合わせ爆発を回避しつつ,実務者にも理解されやすい補修施策の導出を可能にする.また,ネットワークの構造に基づいたグルーピングを行うことで,構造に依存し得る補修費用と利用者費用を考慮した補修施策の導出を可能にする.数値計算事例では,提案する解法による施策が,既存の施策と比較して補修費用と利用者費用を同時に削減できることを示す.

  • 古屋 秀樹, 金城 香凜, 近藤 千恵子, 安本 達式
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_205-I_215
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    「持続可能な観光」の推進が急務となっている中で,本研究は,戦略的観光地域マネジメント支援を念頭に,観光施策が地域に与える影響をロジックモデルを用いて定量的に把握することを目的とする.はじめに,鎌倉市を対象として,観光施策が与える影響の連鎖である波及プロセスを,定性的な要因を含めながら整理した.次に,波及プロセスにおける要因間の因果関係を数値配分法を用いたアンケートによって定量的に求めるとともに,再帰的な波及プロセスを行列の無限級数の和によって表し,望ましい観光地域を実現するための観光施策を導出した.その結果,「鎌倉の魅力や価値の掘り起こし」と「市民生活と観光の両立」の寄与が大きいことが明らかになった.

  • 落合 正行, 岡田 智秀, 浅井 凜太郎, 松田 孝太郎
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_217-I_228
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    本研究は,わが国の港湾における地域活性化に向けた取り組みとして,「みなとオアシス」制度において港湾の既存ストックである港湾倉庫を有効活用する「倉庫リノベーション」に着目し,その普及・促進方策を提示することを目的としている.本稿では,「みなとオアシス」登録82港を対象に,「みなとオアシス」登録範囲に着目し,港湾および背後の市街地のエリア構成との関係を捉えるとともに,その中で倉庫転用がみられた事例を取り上げ,リノベーション倉庫の活用実態を明らかにすることで,「みなとまち」活性化に向けたリノベーション倉庫の活用方策を提示した.

  • 大平 航己, 石橋 澄子, 谷口 守
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_229-I_239
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    神事はコミュニティの活性化や観光など様々な役割を果たすといわれており,神事の保存・活用に向けて文化庁においても経済的及び制度的支援が進められている.今後深刻化が予測される人口減少に加え,近年のCOVID-19流行は今後の神事の継続に更なる影響を与えることが考えられる.そこで,本研究では茨城県内で30年前に行われていた神事を対象に文献等調査から,存廃実態を把握したうえでその要因を分析した.その結果,神事の種類,地域特性や神社の等級は神事の存廃に影響を及ぼしており,神社周辺の人口減少は影響を及ぼしていないことが示された.さらに担い手に対するヒアリング調査より,継承が困難であると考えられる状況下においても,当番制による個人の負担減少や保存会の存在によって継承されている神事が存在することを明らかにした.

  • 武田 陸, 室岡 太一, 谷口 守
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_241-I_251
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    COVID-19 感染拡大に伴い,東京都市圏では居住地の「郊外への分散」が生じている.本研究では転居においてCOVID-19 の影響を心理的に受け,居住地選択に反映した転居者を「コロナ転居者」と定義し,そのメンタリティを独自に調査することで,転居先に求められる要素の変化を明らかにした.具体的には,特性の異なる転居先ごとにコロナ転居者とその他転居者のメンタリティを比較した.その結果,コロナ転居者の特徴として,1)駅から遠くバス利便性が高い中高層住居専用地域を選んだ場合,住居の広さや居住地の住み心地の悪さの解消を目的とし,駅や中心市街地へのアクセスを重視した傾向があること,2)市街化調整区域を選んだ場合,住居費の軽減や居住地への住み心地の悪さの解消を目的とし,3 密の回避を重視した傾向があることが明らかとなった.

  • 秋葉 奨大, 須永 大介, 谷下 雅義
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_253-I_261
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    本稿では,1989 年以降市街化区域を拡大した 11 の地方都市を対象に,市街化区域の拡大部に着目し,災害リスクとの関係を明らかにするとともに,その災害リスク区域に居住する人口・世帯の特徴について分析した.その結果,市街化区域拡大部における災害リスク区域の面積割合は低く,1989 年以前の市街化区域において既に災害リスク区域の割合が高かった都市においては,災害リスク区域を含める形で市街化区域の拡大が行われていたこと,そして市街化区域拡大部の災害リスク区域には戸建,30-50 代の子育て世帯が多く居住していることなどを明らかにした.

  • 松尾 和史, 堤 盛人, 今関 豊和
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_263-I_274
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    本研究は,企業活動の集積やオフィスビルの集積がオフィス賃料に与える影響を,その時間的変化と共に明らかにすることを目的としている.2000 年第 1 四半期から2021 年第 4 四半期までのオフィス市場のデータを用いて,分析の結果,企業活動の集積は賃料に正の影響を与えるが,過度なオフィスビルの密集は負の影響があることが明らかになった.また,COVID-19 による特異な変化は見られず,集積がもたらす影響は賃料の上昇や下落局面といった,市場の状態に大きく依存することが示唆された.本研究の結果は,東京オフィス市場における集積の経済と不経済の存在を明らかにし,土地の高度利用の重要性を示している.但し,COVID-19 が市場構造に及ぼす影響は未だ潜在化していることが考えられるため,今後も市場の動向を注視することが求められる.

  • 白柳 洋俊, 村上 悠斗, 倉内 慎也, 坪田 隆宏
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_275-I_287
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    ある記憶を思い出す際,当該の記憶と類似する記憶を検索すると,必要な記憶を思い出すことが困難になる検索誘導性忘却が生じる.検索誘導性忘却は,記憶の類似点を考える統合を実施することで緩和し,同現象は検索誘導性促進と呼ばれる.本研究では,類似する建築的意匠を有する複数の時代の歴史的建築物の保全に取り組む歴史まちづくりを取り上げ,特に和風建築物ならびに和洋折衷建築物に対象を絞り,第1に和風建築物と和洋折衷建築物の統合を実施しない場合,検索誘導性忘却が生じる,第2に和風建築物と和洋折衷建築物の統合を実施する場合,検索誘導性促進が生じる,すなわち忘却が緩和するとの仮説を措定し,同仮説を室内実験により検証した.実験の結果,2つの仮説を支持する結果が得られた.

  • 久司 駿三 , 室町 泰徳
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_289-I_297
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    本研究では居住環境と出生との関係性に関する既往研究レビューを主題別に行い,居住環境が出生率等に与える影響の可能性を検討した.また,東京都市圏を対象とした出生に関するWebアンケート調査データを用い,過去の居住地履歴における居住環境と出生との関係性を分析した.既往研究レビューでは,都市規模の大きな都市部の方が出生率が低くなる傾向が確認でき,国内の都市部等への移住に関して適応仮説や社会化仮説の影響が見られた.Webアンケート調査結果をもとにした居住環境と出生との関係性の分析では,賃貸住宅,世帯人数の多さが出生に対して正の有意性を示した.また,居住環境変数に関しては,婚姻・第一子出生に対して第一次産業密度が正の有意性を示した.

  • 渡邉 菜々子, 中村 一樹
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_299-I_306
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    車依存や感染症の蔓延により歩行ニーズが高まり,Walkableな街路空間整備が進められている.この整備は,商業地でより進んでおり,活動範囲が広い余暇活動では歩行機会がより多いと考えられる.しかし,現状の余暇活動は主に施設内に限られており,特に車依存都市では施設周辺の回遊は少ない.そこで本研究では,街路空間動画の評価によって,余暇施設周辺の街路空間デザインが歩行・滞留意欲に与える影響を明らかにする.まず,様々な余暇施設周辺の360度動画を基に,余暇空間の特徴を整理する.そして,これらの空間動画の評価をオンラインアンケートで実施し,空間が行動意欲に与える影響を分析する.この結果,余暇歩行空間の動画評価では,歩行・滞留意欲は快適性に最も関係し,この関係は余暇経験が多いとより大きいことが示された.

  • 佐々木 大和, 田中 尚人
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_307-I_316
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    近年,地域資源を生かし地域振興を図ろうとする動きが高まっており,その一つにエコツーリズムがある.エコツーリズムは環境保全と観光振興と地域活性化を同時に実現する重要な政策としてその推進が期待されている.本研究の目的は天草市五和町二江地区におけるイルカウォッチング事業に着目し,事業の変遷を整理した上で,エコツーリズムの持続可能性に対する知見を得ることである.そこで,関係者へのインタビュー調査を行い,地域資源との関係性の変遷を整理した上で,地域資源に対する価値認識の分析を行った.その結果,エコツーリズムの持続可能性には資源利活用者間が緩やかな繋がりを保ち,地域資源に対する価値認識の共有と共栄を意識した相互理解を継続してきたことが明らかになった.

  • 堀田 一郎, 土井 健司, 葉 健人
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_317-I_326
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    ナイトライフ・アクティビティに関わる施設が混在する歓楽街では,昨今のコロナ禍でこれらの施設の回遊による感染が多く確認された.こうした施設間の高い回遊性は感染拡大リスクに影響すると考えられるものの,歓楽街を対象とした業種立地特性の評価や施設配置に基づく回遊性評価は行われていない.そこで本研究では複数の有名な歓楽街を対象とし,施設配置の可視化や業種別近接性評価を行い現状の業種立地特性を把握した.また独自の歓楽街回遊モデルを用いた回遊容易性評価手法を開発し,回遊容易性の歓楽街比較および休業等のシナリオによる影響を分析した.以上により,感染症拡大の防止に資する歓楽街の施設配置に関して考察した.

  • 西脇 千瀬, 奥村 誠, 平野 勝也
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_327-I_335
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    昭和8(1933)年の三陸津波後,国や研究者から複数の津波対策の提案がなされ,宮城県でも高台移転と,防波堤や海岸堤防等の対策が立案されたが,一部の対策だけが実施された.本研究では,宮城県において計画された海岸堤防の設置について,沿岸部では多くの被災地がありながら,設置の対象とされた地域が限定的であったことから,対象となった地域の共通性を分析し,津波による被害状況や高台移転の実施,開発計画,当時の道路状況を検討した結果,宮城県における海岸堤防の設置計画は人命や地域の保護だけではなく,県道保護を優先的な目的としていることを明らかにした.

  • 野本 温秀, 森本 瑛士, 高瀬 達夫
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_337-I_346
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    日本では人口減少が進んでおり,立地適正化計画での目標人口密度を現状よりも低く設定する自治体がみられるように,特に地方部では,中心市街地での都市機能の衰退が懸念されている.そこで本研究では中核市を対象に,あらかじめ拠点の都市機能が存在できる最低限の人口と人口密度を,それぞれ最低人口と最低人口密度と定義した上で,拠点における立地確率をもとに人口の検討・算出を行った.分析の結果,施設ごとに立地しやすい拠点後背圏の人口規模や人口密度が明らかになり,各拠点に必要な機能が最低限立地できる最低人口と最低人口密度による閾値が求められた.実際の拠点の現状と比較すると,この閾値を満たしていない拠点がみられ,重点的な人口集約や,拠点設定の見直しを行うことなどが考えられる.

  • 岡村 篤, 橋本 成仁
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_347-I_361
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    空飛ぶクルマの開発が国内外で進められている.しかし,空飛ぶクルマの普及が人々の生活にどのような影響を及ぼすかは,定性的な議論に留まっている.そこで,本研究では,北海道の二次医療圏内において,各住戸から病院までの移動が空飛ぶクルマの普及によってどの程度移動時間が削減されるかを明らかにした.さらに,移動時間の削減効果の大きい市町村の傾向を明らかにした.その結果,空飛ぶクルマによる移動時間の削減効果が大きい市町村は,二次医療圏内の病院まで車で平均 60 分以上移動する必要のある市町村や,人口 5 千人もしくは 5 千~ 1 万人程度の小規模市町村が多いことが示唆された.一方で,移動時間の削減効果が小さい市町村は,二次医療圏内の病院まで車で 30 分以下で移動できる市町村や,人口1 万人以上の市町村が多いことが示唆された.

  • 片山 慎太朗, 小池 淳司
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_363-I_373
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    国あるいは地域の概況や経済構造を定量的に把握することは,地域の経済の課題把握や,社会資本整備などの様々な施策を考える上で極めて重要である.我が国の基幹統計の1つである産業連関表は,産業間の取引活動を把握することができ,国あるいは地域の経済構造を詳細に捉えるのみならず,空間的応用一般均衡モデルなどの基準データとしても活用されている.一方,産業連関表の中の運輸部門に着目した場合,その定義は実際の交通産業よりも広範であること,またヒトの移動(人流)に伴う取引活動が明示的に扱われていないことが指摘できる.本稿では,産業連関表における運輸部門の取り扱いについてレビューするとともに,物流での明示方法を参考に,旅客の産業連関表への整合的な取り扱い方法を提案する.

  • 柳原 崇男, 足立 華奈子
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_375-I_384
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    我が国では高齢の運転免許保有者が増加している.免許返納者に対する優遇制度を採用するなど,自主返納者を支援する動きが近年活発化している.一方,運転免許を返納することで,健康や外出機会の減少が懸念される.運転停止後の移動手段の有無により,その後のQOLや健康に対する影響があると考えられる.本研究では,地域特性が運転停止者の利用交通手段およびQOLに影響を与えると考え,その事例調査として,地方部と都市部の各1地域を対象として,運転停止者の利用交通手段がOQLに与える影響について分析した.その結果,地方部,都市部ともに,自転車利用が運転停止者のQOLに影響を与えていることがわかった.また,都市部の運転停止者は,地方部の停止者より,QOL,外出頻度が高く,買い物・通院も容易に行えていることがわかった.

  • 古川 知史, 安藤 宏恵, 柿本 竜治
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_385-I_394
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    自然災害や交通事故等によって引き起こされる異常な挙動を示す車両を検知する手法として,従来の設置型センサーに比べて広範囲かつ道路を特定せずデータを取得できる観点から,プローブデータの活用が注目されている.本研究では,マップマッチングを必要としない点列型の商用車プローブデータを用いて,移動軌跡データをメッシュ単位で文字列に変換し類似度を算出することにより,日常と異なる挙動を示す車両の検知法を提案する.異常挙動が発生しやすい状況の例として,実際の高速道路通行止め時と車線規制時に提案手法を適用した結果,5次メッシュの文字列変換に基づくレーベンシュタイン距離による類似度指標が迂回や速度低下を含む異常挙動を高精度で検出可能であることが示された.

  • 栗原 剛, 西井 和夫, 日比野 直彦, 岸野 啓一
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_395-I_403
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    本研究の目的は,ポストコロナ期を見据えた中国からの訪日観光旅行意向を取り上げ,新型コロナウイルス感染症拡大の影響とともに,空港アクセス交通と周遊交通を含む二次交通とを一体化させた統合型モビリティサービスに対する選好特性との観点から中国人訪日観光旅行意向の意識構造を明らかにすることにある.具体的には,著者らによる中国現地 WEB 調査データに関する基礎集計結果を踏まえて,個人間の非観測異質性や選択肢間の誤差相関の表現において汎用性が高い Mixed Logit モデルの適用を行った.その結果,モデル構築の際の基本的な構造仮説が支持され,その中でいくつかの態度因子が有意な規定力をもつことがわかった.

  • 石橋 澄子 , 安藤 慎悟 , 谷口 守
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_405-I_416
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    日常的な移動に伴って発生する身体活動量が健康に寄与することから,移動を促進する健康まちづくりが進められている.しかし COVID-19 の流行によって人々の移動量や移動手段は変化した.本研究では就労者の COVID-19 流行下の移動に伴う身体活動量変化の都市特性及び個人属性による差異を,重回帰モデルを用いて推定した.その結果,都市圏規模や周辺都市との関係性,働き方や自動車保有状況によって COVID-19 の影響の受け方や大きさが異なることがわかった.ポストコロナの健康まちづくり施策として,都市特性に合わせてパンデミック時に急激に移動身体活動量を減らさない工夫やリモートワーク者への移動・運動のサポートが重要である.

  • 清水 宏樹, 武田 陸, 川合 春平, 谷口 守
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_417-I_426
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    高齢者の身体機能維持による健康寿命延伸が目指される中,人々の外出行動に関しても「高齢化」から更に踏み込んだ「外出に関する身体的な困難さ」を切り口とした実態把握が必要である.そこで本研究では第6回東京パーソントリップ調査に基づいて,身体的な困難さの水準による外出の有無・外出内容の実態比較を行った.その結果身体的な困難さの上昇に伴い,外出率の低下,自動車利用への依存,移動目的の単調化,移動時間の短時間化等が生じている実態が明らかとなった.なお,身体的な困難さを有する将来人口が2040年までに大幅に増加するという概算値の算出を通じ,これらの問題は今後より深刻化すると考えられる一方で,健康寿命の延伸が実現すれば事態の悪化を緩和できる可能性も示された.

  • 石嶋 悠嗣, 柳沼 秀樹, 寺部 慎太郎, 海野 遥香
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_427-I_436
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    離散選択モデルは,ランダム効用理論を下敷とした人間の選択行動を理解する上で有用な手法であり,交通計画分野をはじめ様々な分野で活用されてきた.しかしながら,離散選択モデルは理論性と解釈性を重視した手法であり,高精度なモデリングには限界がある.本研究では,機械学習を援用した予測精度の向上とモデルの予測根拠を示す解釈指標を用いることによって,「精度」と「解釈性」の両面で優れた予測手法の開発を試みる.具体的には,ニューラルネットワークを活用した交通手段選択モデルを構築し,PD やSHAP などの解釈指標を適用することで,解釈可能かつ予測精度に優れたモデルを目指した.その結果,従来モデルよりも予測精度が高く,解釈性においてもより詳細な評価が可能となり,施策評価の高度化に寄与することが期待される.

  • 田淵 景子, 福田 大輔
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_437-I_447
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    MaaS (Mobility as a Service) には,異なる交通モード間で情報や料金体系を統合して利便性を上げることで,人々の外出機会の増大を促進する役割も期待されている.本研究では,MaaS 導入による人々の活動変化を評価するために,田淵・福田 (2020) を拡張し,定額料金の支払いで一定エリアの交通サービスが利用し放題になるサブスクリプションサービスを明示的に考慮した鉄道利用者の Activity-based モデルを構築した.東京都市圏を対象に,MaaS 導入による人々の活動変化予測とそのときのサブスクリプション料金水準を推計するシミュレーションを行ったところ,MaaS が寄り道を促進させる効果が一定量あることや,サブスクリプション料金への支払い意志額は女性や20歳以下の若者ほど高くなることなどが示唆された.

  • 柳原 正実, 近藤 はるな, 小根山 裕之
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_449-I_458
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    運転をするとき,運転者は周辺の状況から次の運転方針を決め,その考えに基づき運転行動を行う.つまり,運転者は,周囲の環境を鑑みて運転意図を形成し,実際の運転行動に移行している.また,運転者は自身の車両だけではなく,動きの予測が必要な周囲の車両の挙動にも気を配る必要があるため,運転は少なからず運転者にストレスがかかる行為と言える.このストレスが運転意図や運転行動に影響を与える可能性も考えられる.このように一連の運転行動を捉えるうえで「運転行動」「運転意図」「周囲の交通状況」「ストレス」はお互いに影響を与えていると考えられる.本研究ではこれら 4 つの行動が互いに与える影響について分析を行い,それらの関係性についての知見を得た.

  • 中山 晶一朗, 磯貝 優太, 山口 裕通
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_459-I_467
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    LRT(次世代型路面電車)など新しい公共交通システムを都市内に導入することは交通や立地へ様々な影響を及ぼす.本研究では,金沢市へ LRT を導入することによる交通や立地への影響について分析することが可能な交通立地統合均衡モデルのパラメータ推定法を提案する.そして,金沢市を対象としたパラメータ推定を行い,それによって,金沢市の中心市街地に LRT を導入することの影響がどのようなものになるのかなどが分析可能であるのかなどについての検討を行う.

  • 福田 拓洋, 山口 裕通, 中山 晶一朗
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_469-I_481
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    2020 年から2021 年にかけての日本の都市間旅行は,新型コロナウイルス感染症の影響により,大きく変化し続けた.具体的には,感染拡大防止のために自粛を求められる時期があっただけでなく,「Go To トラベル」など促進される時期もあった.この時期の各政策・情報に対する人々の行動変化の記録は,今後同様な事態に直面した際の貴重な経験であろう.そこで本研究では,この行動変化の特徴を空間的な「偏り」も含めて明らかにするために,重力モデルの考え方に基づく行動変化の時系列分析を行った.その結果,長距離ほど減少量が大きかったこと,特定の時期には人口の多い都道府県への発生・集中量の偏りが大きかったこと,このような重力モデルの係数変化で行動変化の偏りの多くを説明できること,といった行動変化の特徴を明らかにした.

  • 成岡 亮佑, 杉浦 聡志
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_483-I_490
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    近年計算機の性能向上と観測技術を背景に道路ネットワーク分析に利用可能なデータは精緻化,詳細化が進められてきた.我が国では道路ネットワークデータも解像度の高いデータが提供されており,分析のための計算コストが課題となる.本研究では,大規模ネットワークに対して簡素な方法でネットワーク縮約が可能となる手法を構築する.具体的には,各コミュニティ内に一つ存在する需要の発生集中の代表点として設定されるセントロイドのようなコミュニティの核となるノードの存在を仮定し,コミュニティ内のノードを集約させることでネットワーク全体の縮約を目指す.コミュニティの特定に Gomory-Hu 木を用いることで,コミュニティ間の境界が最も小さな容量をもつような分割を与える.提案手法を北海度の道路ネットワークへ適用し,その挙動を確認する.

  • 荒尾 俊介, 円山 琢也
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_491-I_503
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    全国都市交通特性調査(全国PT調査)は,都市交通の特性を全国横断的かつ経年的に把握可能な貴重なデータであり,その精度を確認することは大切である.本研究は,活動場所の情報が利用可能な時間利用調査である2001-2016年社会生活基本調査の調査票Bの結果を用いて同時期の全国PT調査の結果を比較検証する.調査票Bのデータからトリップ数を推定する方法を構築し,非外出率,時間帯別個人不在率,トリップ原単位の視点で比較する.トリップ原単位の両調査の差は,平日で0.70-0.82,休日で0.85-1.19トリップとなった.また,全国PT調査において特に休日の私事・帰宅トリップの記入漏れが多く,20-39歳の若者世代で記入漏れが増加していることが示唆された.

  • 向井 明都, 円山 琢也
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_505-I_513
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    空港アクセス交通は速達性に加え定時性も重要である.軌道系交通と比較して,リムジンバス等の道路系交通は定時性が低いため,利用者は搭乗便に遅れることを避け,早めに空港に到着し,空港での滞在時間が長いと推測される.この滞在時間は,定時性の高い軌道系交通の整備で短縮されることが期待される.しかし,空港滞在時間の実態は未把握である.そこで本研究では,一般に利用可能な商用GPSデータを用いた空港アクセス交通手段・移動目的別の空港滞在時間の推定方法を構築する.その方法を熊本空港利用者のデータに適用した結果,道路系よりも軌道系の空港アクセス手段の利用者の空港滞在時間が短いこと等を明らかにした.この結果は,軌道系の空港アクセス交通の整備効果の評価等に有用となりうる.

  • 森 隆慶, 荒木 雅弘, パラディ ジアンカルロス, 高見 淳史, 谷口 綾子
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_515-I_528
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    外出活動の抑制による他者との接触機会の低減は,感染症拡大防止へのアプローチの一つである.新型コロナウイルス蔓延下では,日本の外出抑制施策は法的拘束力を有しないにも関わらず外出活動の低下がみられた.その一因として,個人が自身の属する集団の傾向に同調する「社会的影響」があると推測される.他者の外出自粛傾向に対して,個人がそれを認知した場合に同調することは既に明らかにされている.本研究では携帯電話の運用データから生成される「モバイル空間統計」を利用することで,他者の外出自粛状況に関する実データの利用により社会的影響の推定を試みた.その結果,個人が集団の外出自粛状況に同調する外出目的と,反発する外出目的があることが示された.

  • 廣川 正太郎, 葉 健人, 周 純甄, 土井 健司
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_529-I_537
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    環境負荷低減,小回りの利くラストマイルの移動手段としての期待から,小型電動モビリティの普及が進んでいる.小型電動モビリティは電動車特有の航続距離が短い点など従来モビリティとは異なる性質を持つ.本研究では,小型電動モビリティの1形態である2輪EVを3カ月間貸渡す実証実験を対象とし,モニターの行動パターンの分類・個人属性等との関係を把握した.さらに,1か月毎の行動パターンの推移をパネル分析によって明らかにした.加えて,行動パターンとモニターの意識・行動データの対応から,小型電動モビリティによる社会的含意に関する知見を得た.

  • 細江 美欧, 桑野 将司, 森山 卓
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_539-I_551
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    公共交通の経路検索システムに蓄積される経路検索データには,検索者の「いつ,どこから,どこへ移動したい」という将来の移動意向が記録されている.本研究は,経路検索システムに現れる潜在需要が公共交通の需要変動の先行指標になる可能性に着目し,経路検索数から鉄道利用者数を予測するモデルの提案を目的とする.実証分析に際して,香川県で運行される鉄道路線「ことでん」を分析対象として,経路検索データと交通系 IC カードデータを用いた.2 変量状態空間モデルと重み付き回帰モデルを組み合わせたアプローチにより,一見関連がないように変動する 2 つのデータに潜む関係性を抽出し,行動論的に関連のある部分をモデル化した.その結果,経路検索データを用いることによって,日々変動する交通需要を事前に予測できることを示した.

  • 小宮山 茜, 佐々木 邦明, 福田 大輔, 石井 良治
    2023 年 78 巻 5 号 p. I_553-I_560
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/12
    ジャーナル 認証あり

    近年,デジタル技術の普及や多様な働き方の推進により,社会変容が加速している.こうした状況を踏まえ,従来のように四段階推計法を用いて人の行動を集計量として捉えるだけではなく,個人の行動特性を把握しながら,社会の実態に即した検討が必要となっている.本研究では,個人の一日の活動を再現しトリップの連関性を考慮できるアクティビティシミュレーションと,近年その種類と量が飛躍的に増加している交通状態の観測データを用いて,低コストでより精度の高い政策評価や需要予測を可能とする推計手法の提案を行った.東京都市圏全体に対して本手法を適用することにより,予測精度が向上し,アクティビティシミュレーションに対して観測データを補完する有効性が確認された.

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