土木学会論文集D3(土木計画学)
Online ISSN : 2185-6540
ISSN-L : 2185-6540
74 巻, 5 号
選択された号の論文の134件中1~50を表示しています
土木計画学研究・論文集 第35巻(特集)
  • 清水 英範
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_1-I_18
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    明治21(1888)年2月,山尾庸三が井上馨に次ぐ第二代の臨時建築局総裁に就任した.工部卿を退任して6年余,法制局長官にまで栄進した後のことであった.これまで,伊藤博文や井上が総裁にと最初に目論んだのは品川弥二郎であったこと,伊藤は山尾を米国駐箚公使にすることを考えていたことが明らかにされている.本論文は,これらの人事案がどのように生まれ,また消失し,山尾の総裁就任に至ったのか,その経緯について詳細に論じたものである.その結果,山尾公使人事は遅くとも明治20年8月の段階でほぼ決定していたこと,品川総裁案は最終局面まで続き,山尾総裁人事が固まったのは就任直前であったことなど,幾つかの新事実を提示した.しかし,発掘した史実の多くは断片的なものであり,本論文の考察には筆者の推測的解釈に拠るところも多くある.
  • 大澤 実
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_19-I_36
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    空間経済学分野をはじめとする関連諸分野において,“集積経済モデル” と呼ばれる内生的な集積メカニズムを考慮した様々な立地均衡モデルが考案されてきた.これらのモデル,特に一般均衡状態を表現可能なモデルは,社会基盤整備等の都市・地域政策がもたらす長期的経済効果の予測および評価へと援用しうる潜在能力を秘める一方で,工学的応用を見据えた場合には十分な体系化が為されているとは言い難かった.本稿では,筆者らが行ってきた立地均衡モデルの数理解析と,それに基づくモデルの系統的分類について可能な限り自己完結的に紹介する.また,近年の集積経済モデルの計量的展開に関して,モデルの数理的特性に基づいて考察を加える.
  • 石倉 智樹, 池田 慶祐
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_37-I_42
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    政策実施による経済効果の空間的波及を定量的に評価する代表的手法である空間的応用一般均衡モデルでは,外生的に与えられる代替弾力性パラメタの値が,分析結果に大きく影響する.これまで,アーミントン仮定に基づく,生産地間の代替弾力性についての研究は蓄積されてきたが,近年開発が進んでいる独占的競争型モデルを前提とする,財バラエティ間の弾力性については,実証的推定がほとんど行われていない.本研究は,国内交易における財バラエティ間の代替弾力性の簡易な推定方法を提案し,複数の計量経済的手法により産業部門毎の代替弾力性の値を推定した.
  • 矢部 努, 北村 清州, 高野 精久, 池田 大造, 今井 龍一
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_43-I_54
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    近年,携帯電話網の運用データを元に生成される人口統計データを対象にした都市交通計画分野への活用可能性等に関する研究が進められている.このような人口統計データにより,既存の統計調査では収集困難であった24時間365日の全国の人々の行動特性を比較的詳細かつ速やかに捉えることが可能となってきている.一方,携帯電話網の運用データに基づく人口統計データは,現在,単一の事業者保有のビッグデータから生成されていることから,事業者毎の契約者の地域分布,属性分布や行動特性の傾向の偏りなど,当該分野のデータ利用の観点からの懸念を示されることがある.本研究は,単一事業者の携帯電話網の運用データに基づく人口統計データの代表性および当該分野への適用性の観点から検証する.
  • 萩原 亨, 川﨑 雅和, 有村 幹治, 髙橋 清
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_55-I_63
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    北海道東部の中標津町における通行規制を伴う暴風雪時を対象とし,携帯電話の位置情報による「モバイル空間統計」と「混雑統計」を用いて暴風雪時の交通行動を分析した.また,住民等の危機意識調査と通行規制の影響調査を行った.交通行動分析から,暴風雪時に中標津町とその周辺地域の住民は交通行動を中止していることおよび暴風雪前の事前準備行動を行うことが明らかとなった.意識調査から,暴風雪時の危機意識が高く,暴風雪に備える行動を行っていた.また,多くの関係者が通行規制による災害リスク回避に理解を示していることが示された.以上から,中標津町とその周辺地域において暴風雪時における住民の自発的な防災行動と行政による通行規制およびそれを住民が受容していることから暴風雪時の災害リスクを回避していることが明らかになった.
  • 細江 美欧, 桑野 将司, 長曽我部 まどか, 福山 敬, 石井 晃
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_65-I_77
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    災害時の情報伝達手段としてマスメディアが大きな役割を担ってきたが,近年ではソーシャルメディアによる情報伝播も注目を浴びている.今後,各メディアの特性を活かした災害報道のあり方を検討するためには,各メディアで発信される情報内容やタイミングの特徴を把握する必要がある.本研究では,2016年10月21日に鳥取県中部で発生した地震時に,Twitter,2ちゃんねる,ブログ,掲示板,ネットニュース,TVから発信された情報内容とタイミングの関係性を非負値テンソル因子分解を用いて分析した.その結果,各メディア間での類似性の強弱が明らかとなり,災害報道において独自の役割を果たすメディアが存在することなどがわかった.
  • 崔 文竹, 藤井 達哉, 横田 尚己, 谷口 守
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_79-I_89
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    近年,都市計画分野において健康増進に繋がる生活環境の実現を目指す「健康まちづくり」に関する議論が活発になっている.しかし,健康増進に関する研究を行っている公衆衛生分野の知見は,健康まちづくりの政策に反映出来ているとは言い難い.そこで,健康まちづくりに公衆衛生分野の視点や知見を反映させるために必要な参考情報を提供することを本研究の目的とする.具体的には,両分野での各評価指標群を階層的に整理し,テキストマイニングを用いて評価指標群の相違を比較することで,都市計画分野に欠けている視点を考察していく.分析結果として,都市計画分野では,歩きやすい生活環境のハード面を重要視しており,生活環境のソフト面や社会・地域のネットワークに関する視点が十分とはいえないことがわかった.
  • 高山 宇宙, 森本 章倫, 中川 義英
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_91-I_100
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    本研究は,全国の道路空間再配分の取組に関する社会実験事例についてアンケート調査およびヒアリング調査を実施し,近年我が国において議論が活発となっている道路空間再配分の取組が定着化するための要件と課題を整理し,それらに対する社会実験の役割を明瞭化することを目的とする.調査結果より,取組の定着化に向けて社会実験を活用し,課題を可視化して修正を繰り返しながら合意を少しずつ深めていき,早い段階から地元と行政が取組における運用・管理について役割分担を図りながら地元の主体性を高めていくことが重要であることが明らかになった.今後は,予算確保の上で重要な便益評価手法の確立や,継続的かつ多様な空間利用を図る上で制度面の充実や法改正が期待される.
  • 陳 鶴, 有賀 敏典, 松橋 啓介
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_101-I_107
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    低炭素化を進める上で,都市内の人口分布の集約による乗用車CO2排出量の削減効果が期待されている.そのため,地域の特徴を反映することのできる乗用車CO2排出量の評価手法が重要である.本研究では,3次メッシュ人口規模とメッシュ周辺人口集積度を考慮した地域タイプに基づき,一人あたり乗用車CO2排出量を推計する方法を検討した.その結果,コンパクト化による乗用車CO2排出量の削減可能性を定量的に明らかにしている.人口規模5千人から1万人になる際に,排出量が40%減少し,DID地域における乗用車CO2排出量の抑制効果が顕著であることを明らかにした.人口が少ない地域では,5×5メッシュの範囲内に500人を集めると,乗用車CO2排出量を約60%削減できる可能性のあることを示した.
  • 石倉 智樹, 尾山 梓
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_109-I_115
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    火山噴火がもたらす災害のうち,火山灰の降灰は,短期間のうちに広範囲に影響を及ぼすという特徴がある.降灰は直接的被害ばかりでなく,道路機能を一時的に麻痺させ地域間の交通を遮断することにより,降灰が生じていない地域において交易の減少や代替交通経路の混雑など間接的な影響を及ぼす.本研究は,火山噴火降灰によってもたらされる物流および交易費用への影響を評価するための基礎的な手法について検討するとともに,関東地方への降灰をもたらしうる活火山である富士山と浅間山の火山噴火を想定し,これらによる降灰がもたらす広域的な影響推定を試算した.
  • 福嶋 恭正, 内田 敬
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_117-I_128
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    近年の都市河川整備においては,治水や利水のみならず環境や親水利用に目を向けた取り組みがなされているが,沿川住民の評価が低く,水辺利用が進んでいない事例も見られる.本研究は,新興市街地内中小河川における水辺整備を事例とする.事業実施から数年を経た区間において沿川通行者へのヒアリング調査等を実施し,利用実態や水辺整備事業に対する態度を把握する.これらにより,都市河川の水辺整備における円滑な事業遂行や合意形成に向けた具体的方策として,より幅広い層の沿川住民のニーズを拾い上げた整備・利用促進が図られるための手法の検討を行う.本稿では,利用実態調査結果の分析を行い,今後の水辺整備計画づくりのあり方に対する具体的方策の提案に向けて,水辺整備計画立案における沿川住民に対してのアプローチ手法などを議論する.
  • 小池 則満, 森田 匡俊, 深津 幸春
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_129-I_139
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    大河川近傍に位置する小学校では,河川はん濫に対する避難方法について検討する必要がある.わかりやすい情報に基づく素早い意思決定を可能とする実効性のあるタイムライン作成が求められている.
    そこで本研究では,洪水予報河川の直近にある小学校を対象に校外避難も含めたタイムラインを提案した.タイムライン構築にあたっては,避難訓練を繰り返し行うことで,より迅速な避難方法を考えるとともに,教員や保護者へのアンケートも加味した.提案したタイムラインの策定プロセスは同様の条件に立地する他の小学校への展開も考えうるものであることを述べた.
  • 曽篠 恭裕, 宮田 昭, 柿本 竜治
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_141-I_154
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    本研究では,海外の災害対応における,国際赤十字の仮設診療所資機材の輸送の改善に向けた示唆を得ることを目的として,災害の種類,被災地の地理的特徴,輸送の所要日数,診療活動の開始日,輸送された救援資機材の使用状況に注目して,過去の資機材輸送の比較分析を行った.その結果,突発災害対応において,救援資機材が到着する空港におけるボトルネックや,陸路の寸断による小型機,ヘリコプターを用いた優先する物資の輸送が発生していた.本研究を通じて,今後の資機材輸送の改善に向けて,災害の種類に応じた資機材輸送,梱包の小型軽量化,災害の種類に応じた資機材の選定,輸送資機材の標準化と事前備蓄,国際支援受入国による資機材輸送支援が課題であることが明らかとなった.
  • 松田 曜子
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_155-I_163
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    土木計画学の分野において事例研究を目にする機会が増えてきた.しかしそれらをどう評価するかという方法論はほとんど議論されていないのが実状である.本論考では,土木計画学と同様の実践科学である政策科学や経営学において事例研究を論じた方法論研究,およびパースが主張したアブダクションの概念を参照しながら,新しい理論仮説構築に寄与する事例研究の方法論について議論する.また,ショーンが唱えた技術的合理性と省察的実践という観点から,社会における被災者支援団体の役割について,事例から仮説を構築する過程を示し,今後の土木計画学領域における事例研究の望ましい扱い方や評価軸を示す.
  • 中村 裕貴, 萩原 亨, 永田 泰浩
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_165-I_172
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    北海道では,冬期に風が強まると目線を超える高さまで雪が舞い,視界不良が発生する.そのため,視界不良を捉え交通障害リスクを抑制し,回避することが必要となる.そこで,国道沿いに設置されているCCTVカメラ画像から視界不良の検知を行った.GPVによる視界不良検知と比べ,WIPSを用いることで,雪面の状況と風の影響による視界不良を検知できるメリットが示されるかどうかを,2016年12月から2017年02月に記録された根室中標津エリアの6路線20機のカメラ画像より検証した.その結果,WIPSは降雪がなくても雪が舞いやすい雪面状況のとき,強風による視界不良を的確に評価していた.同じ状況で,GPVは地上の雪面と風を考慮できず,視界不良がそれほどでもない結果を示したことから,WIPSが有効な指標となり得ることがわかった.
  • 影山 智大, 寺部 慎太郎, 栁沼 秀樹, 康 楠, 田中 皓介
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_173-I_180
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    2005年に日本道路公団から民営化されて以来,10年以上にわたり3つの高速道路会社(NEXCO)は顧客満足度を調査してきた.満足度は,顧客の期待と経験の差異を示す重要な評価指標の1つである.本研究では,総合満足度評価における重要分野とその長年にわたる経年変化を,満足度の変化の影響要因を参考に分析した.この分析結果から,高速道路における総合満足度は分野別満足度から影響を受けるという構造になっていることを示し,その影響の強弱が年度によって変わっていることを示した.
  • 竹居 広樹, 奥村 誠
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_181-I_189
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    東日本大震災以降,津波避難におけるやむを得ない場合の自動車避難が容認されたものの具体的な方法の検討は各自治体に任せられることになった.過剰な自動車避難は渋滞の発生や歩行者との錯綜をもたらし,津波遭遇リスクを増大させる可能性があることを踏まえ,ネットワークの容量を考慮しつつ地区ごとの自動車利用率を適切に設定することが求められている.本研究では,著者らの考案した歩車混合型の最適津波避難モデルを用いて,津波遭遇リスクを増加させない利用率の範囲,地区別の利用率上昇の影響,徒歩困難者の存在が与える影響などの基礎的な情報を得るための分析手法を提案する.ケーススタディを通じて実規模ネットワークに対して提案方法が適用できることを確認した.
  • 片橋 匠, 佐藤 嘉洋, 円山 琢也
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_191-I_200
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    被災者向けの調査では訪問面接方式が有効であるが,訪問時に不在である世帯も多く,効率的な訪問巡回方法の構築が求められる.本研究は,2016年熊本地震の被災地である益城町の仮設住宅における聞き取り調査の訪問データを利用し,世帯属性別の時間別在宅傾向を基にした訪問の効率化法を構築する.訪問データから,夕方以降は就業者が多い世帯の在宅率が高まる傾向にあることが明らかにされる.これらのデータを利用したシミュレーションで訪問回数の削減の具体例を示す.
  • 渡邉 萌, 佐藤 嘉洋, 円山 琢也
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_201-I_208
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    災害後の被災者の住まいの選択行動を扱った既存研究の多くは多変量解析の基礎的な手法を利用しており,発展的な分析手法を活用することでより有用な知見が導ける可能性がある.本研究では,集団離散選択モデルと決定木の2種類の応用的手法を利用して,2016年熊本地震による益城町仮設住宅居住者の住まいの意向の分析を試みる.集団離散選択モデルでは,車の運転有無などの世帯構成員の個人属性を反映した住まい意向の選択の把握が可能となった.決定木による分析では,持家単身世帯の自宅再建意向の有無に対象を絞った.地震前も単身世帯で,車を運転している50歳代は自宅再建の意向が少ないなど条件の組み合わせによる意向の違いが明らかにされた.
  • 佐藤 嘉洋, 円山 琢也
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_209-I_218
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    郵送型社会調査の回収率の低下の問題は広く知られているが,災害復興時の調査未回答者は,特に問題を抱えた世帯である可能性があり,その精査は重要である.本研究は2016年熊本地震の被災地益城町の仮設住宅居住者に対して,同時期に実施された郵送調査と全世帯聞き取り調査を比較することで,郵送調査未回答世帯の傾向を明らかにする.まず,現役世帯は成人女性の比率が高いほど郵送回答しやすく,二世代同居世帯は就業人数が少なく世帯の成人平均年齢が高いほど郵送回答しやすい傾向にあることを示した.また,集団意思決定モデルによる分析より,若年層または80代以上,男性の世帯構成員が多い場合に調査へ回答しにくい傾向が明らかとなった.さらに,個人・世帯の属性では説明できない無回答の要因の一部を聞き取り調査の自由回答から明らかにした.
  • 辺 思遠, 松島 格也, 小林 潔司, 越知 昌賜
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_219-I_231
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    日本では高度成長期における鉄鋼業を始めとして,各時期にある特定の産業が原動力となり地域経済の発展をささえてきた.その結果,各地域の産業構造や成長産業の集積状態の差異を反映して,地方自治体の財政力の間に格差が発生してきた.本研究では,財政力の地域間格差の変化を,財政力の高い地域と低い地域に二分化する二極化現象として把握する.具体的には,財政力の空間格差の二極化傾向を,極化指標を用いて評価する.さらに,特定の産業として自動車産業に着目し,これらの産業の空間的集積状況が,財政力の二極化傾向に及ぼす影響を分析する.さらに,日本経済のサービス化,知識経済化の原動力であるサービス業に着目し,サービス業の地域集積が財政力の二極化傾向に及ぼす影響も分析する.
  • 林 倫子, 壷井 克弥, 金 度源, 大窪 健之
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_233-I_240
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    近年,近隣の避難所への立ち退き避難(水平避難)を前提とした風水害時の避難方法が見直されてきており,住民が採るべき災害時の避難方法の選択に際して,多様な活動を含む水害経験を活かす方策が求められているものと考える.本研究では,浸水被害を伴う水害常襲地域であり,かつ伝統的に水平避難が選択されてこなかった滋賀県甲賀市水口町三大寺三本柳地区住民に対してアンケート調査を行い,当地区における住民の水害経験の有無と,避難方法や避難開始タイミングといった避難意向との関係について明らかにした.その結果,水害経験者は未経験者よりも各避難方法の特性を理解し,かつ当地における水害の状況進展を想像したうえで,避難に対する自主的判断基準を作り上げているものと解釈できた.
  • 田中 皓介
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_241-I_248
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    日本という国土に生きていく以上,大雨や地震,雪害などあらゆる自然災害への対応が必須である.そのような自然災害発生直後には,例えば多くの自衛隊や警察,消防が動員され救助や復旧にあたっていることは広く国民の知るところである.一方で,地元の建設業者もまた大きく貢献しているものの,地元建設業をはじめとした土木業界の活躍は,人々の認知が十分になされていない.このように,土木建設業あるいは公共事業を軽視する状況が続けば,今後の日本では十分な災害対応が困難となることが懸念される.そこで本研究では,国民世論の形成に寄与する新聞報道を対象に,災害発生後の救助や捜索,復旧活動に着目し,その報道状況を明らかにする.そして,内容の分析,考察に基づきその改善に向けた知見の提供を目的とする.
  • 吉田 護, 柿本 竜治, 畑山 満則, 阿部 真育
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_249-I_258
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    本研究では,2016年熊本地震によって被災した熊本県民への質問紙調査を通じて,震災後の住民の避難行動の特徴を明らかにする.具体的には,性別や年齢,同居世帯などの個人・世帯属性,震災前に実施していた個人・家庭の備え,避難先の選択理由,避難をやめたきっかけなどと避難行動との関係を,避難実施の有無,避難先,避難期間の観点から明らかにする.結果として,水や食糧の備蓄や家具の固定をしていた住民は自宅に留まる傾向にあったことや避難場所・経路を事前に確認していた住民は,指定避難所に避難する傾向にあったことが明らかとなった.また,ペットやプライバシーを理由として,車中泊を行った住民が少なからず存在し,食糧や水などの取得に困難があった実態も明らかとなった.
  • 伊坂 早織, 大窪 和明
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_259-I_268
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    本研究では,災害時に支援物資を複数の供給地点から集積所を経由し避難所まで輸送する際に,総輸送時間を最小にするような輸送計画および各集積所への労働力の最適配置を求める最適輸送計画モデルを提案する.ここでは,道路や集積所の混雑によって支援物資の滞留が生じる中,各集積所での労働力の増加が遅延を軽減できる状況下で,総輸送時間が最小となる輸送経路および労働力の配置を求める.このモデルを,さいたま市で想定される地震災害に適用した結果,近年の宅配業者との協定が,より短時間での輸送を可能にしただけでなく,支援物資の供給量の変動に対し頑健な輸送が可能であることが定量的に確認された.また,支援物資をより短時間で配送するために集中的に労働力を配置すべき集積所および輸送が遅延する原因となる道路を明らかにした.
  • 杉浦 聡志, 御村 まゆ, 高木 朗義
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_269-I_276
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    わが国では高度成長期から建設され続けた道路の維持管理,更新が課題となっており,必要性の小さい道路は縮減することも検討すべきだろう.一方で労働人口の減少を踏まえればこそ,輸送効率化のための道路は整備する必要がある.したがって,道路投資の効率化のために適切なネットワーク形状を検討する必要性は大きい.最適なネットワーク形状を求めるネットワークデザイン問題は一般的にフローの旅行時間と道路の整備費用のみを考慮する.道路のもつその他の効果について取り扱った研究は多くない.本研究では事業評価における事業の効果や必要性を評価するための指標を整理し,CVM等により原単位が定められる2項目についてネットワークデザイン問題に導入する方法を示した.構築したモデルを仮想ネットワークで試算し,モデルの挙動を確認した.
  • 川野 倫輝, 佐藤 嘉洋, 円山 琢也
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_277-I_284
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    テキストマイニング等の自由記述データの分析手法について,土木計画学分野においても関心が高まっているが分析手法は確立されているとは言い難い.本研究では,トピックモデルと離散連続モデルを統合した新たな自由記述データの分析法を提案する.事例として,2016年熊本地震による益城町仮設住宅居住者を対象とした聞き取り調査中の自由回答を用いる.まず,トピックモデルにより各自由回答を構成するトピック割合を算出する.次に,このトピック割合をトピックの選択,割合の配分行動と捉え,離散連続モデルを用いた記述を行う.その結果,属性別の回答傾向の違いや,選択式設問の回答と自由回答中のトピック選択の対応が統計的に示され,手法の有用性が確認できた.
  • 杉浦 聡志, 倉内 文孝, 高木 朗義
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_285-I_292
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    緊急輸送道路は広域災害時の物資や救急搬送などの輸送のために各防災拠点間をできる限り複数の経路が確保できるよう各都道府県により指定されている.道路管理者はリンク途絶を防ぐため緊急輸送道路上の構造物の補強などを進めている.しかしながら,整備効率性を無視すれば全体事業費の増大や整備の長期化が生じる.本研究では,複数の経路を確保する条件の下,2つのレベルの強化整備戦略を選択することで総整備費用を最小とする緊急輸送道路を指定するモデルを提案する.提案したモデルを岐阜県のネットワークに適用し,要求される経路数や拠点間所要時間制約について感度分析することでモデルの挙動を確認した.その結果,これらの制約条件と総整備費用にはトレードオフの関係があり,設定時には慎重な検討を必要とすることが明らかになった.
  • 大窪 和明, 全 邦釘, 矢ヶ崎 美香
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_293-I_301
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    廃PETボトルは市町村によって回収され,入札を通じてリサイクル事業者に販売されており,市町村の費用負担が大きいことが問題とされてきた.本研究では,この費用負担の軽減を目指し,廃PETボトルの売り手である市町村の収入が最大になるよう最適なリサイクル事業者との組合せを求め,その性質を明らかにすることを目的とする.具体的には,落札額データを用いて推定した入札額を用いて,市町村とリサイクル事業者との組合せ最適化問題を定式化した.その結果,観測されたものより短距離の組合せでも,市町村の収入が増加可能であることが明らかになった.また,最適な組合せによる収入の増加が大きい地域の性質を明らかにするとともに,本研究の成果から,現実に検討されている入札制度の変更案の有効性について議論した.
  • 山口 裕通, 小泉 奏子, 大澤 脩司, 中山 晶一朗
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_303-I_314
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    防災拠点は,被害の拡大阻止と生活機能の迅速な復旧のために,災害時においても拠点間をつなぐ連絡・輸送体制が確保されていることが求められる.本研究では,まず,道路ネットワークの耐災害機能強化の視点から,全国各地の地域防災計画における防災拠点指定の現状を整理した.その結果,防災拠点の種類や機能についての全国統一の基準はなく,都道府県ごとに指定の状況が大きく異なり,広域で拠点間の接続性強化を検討することがそもそも困難であることが分かった.その課題を踏まえて,アンケート調査結果から多くの地域・想定で安定的に得られる防災拠点の接続優先度(重要度)ランクを推定した.この重要度ランクに基づいて,道路リンクの耐災害能力強化の優先順位を策定することで,より効率的に防災拠点間の接続性強化を進めることが可能となる.
  • 佐藤 史弥, 谷本 真佑, 南 正昭
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_315-I_325
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    東日本大震災の被災地では,減災の考え方に基づいた「多重防災型まちづくり」として,ハード対策やソフト対策といった防災対策の組み合わせから復興計画を立案してきた.避難におけるルール等のソフト対策は各地域の人口分布や地形,避難施設等の地域特性を考慮する必要がある.本研究では,避難時間圏内の避難場所の総収容人数を累積収容人数と定義し,対象地域の居住者全員が避難できる避難計画を検討した.岩手県宮古市中心市街地を対象として,避難場所へ避難時間が短い順で避難する場合と,累積収容人数を考慮した場合の2つのケースで避難時間の計算を行った.その結果,避難場所の累積収容人数を考慮することで,避難者全員が津波到達時刻までに避難場所へ避難できることを示した.
  • 増井 玲子, 屋井 鉄雄
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_327-I_337
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    アジア新興国では,パラトランジットと称される既存交通モードが,長らく主要な移動手段として活用されてきた.それらは,都市毎に多様な形態が存在し,Phunと屋井はその実態の再整理から4つの特性を見出し,LAMAT (Locally Adapted, Modified and Advanced Transport)という新呼称の提唱とともに,再定義した1).LAMATは一定の需要に支えられ,市民の生活交通モードとして根付いているものの,性能,運行面においては多くの課題が指摘されている.本研究では,LAMATを取り巻く近年の“Advanced”動向を詳細に調査し,EV車両や配車アプリ等のICT応用により,課題改善を目指した新しい機能,システムやサービスが開発・導入されていることを明らかにした.さらに,LAMATの持続発展性と都市の交通システム構成への影響について考察した.
  • 南 貴大, 藤生 慎, 高山 純一
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_339-I_348
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    橋梁の高齢化が進む中,各道路管理者は既設橋梁に対して国が定める統一な基準により5年に1回の頻度で近接目視により点検を行うことが義務付けられている.一方,橋梁損傷の状況は,橋梁の構造形式,交通量及び供用年数,周辺環境によって千差万別であり,劣化が進む速度も異なっている.そのため,環境条件や構造形式によっては,5年というスパンの間で劣化が進み,損傷が悪化した状態で供用されている.損傷の早期発見に向けて通常点検において橋面工の部材の損傷を点検するだけではなく,その点検結果を活用することで桁下の部材の損傷の発生を推測する仕組みの構築を目指す.本研究では通常点検時に確認する可能な橋面工の部材の損傷と桁下の部材の損傷の関連性について,これまで蓄積された橋梁の定期点検結果から決定木分析を用いて明らかにした.
  • 塚井 誠人, 原 祐輔, 山口 敬太, 大西 正光
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_349-I_358
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    2016年に50周年を迎えた土木計画学研究委員会では,これまでの歩みの検証と,今後の展望を議論するための幹事団が設けられた.そのミッションは,2016年春大会から開催された4回のイベントを通じて,今後の土木計画学研究委員会について,議論を深めることであった.本稿では,土木計画学の研究トピックスの変遷の分析(第54回研究発表会,長崎大学で報告)を,この間の幹事団の議論とともに記録することを目的とする.1985年~2015年までの約30年間の土木計画学研究・論文集に基づくデータベースにトピックモデルを適用して,研究トピックスを定量的に抽出した.その結果,基礎研究を終えた多くの研究テーマが,社会で活用されながらも,新たな課題とともに再び学術的な研究テーマとなるサイクルの一端が窺えた.
  • 高橋 祐貴, 川端 祐一郎, 宮川 愛由, 藤井 聡
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_359-I_377
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    現在の日本では,デフレや大規模自然災害のように公共的に取り組むべき様々な問題が生じており,それらを解決し,人々の長期的・広域的な便益を増進させるための公共政策が必要とされている.既往研究において,公共政策を計画・実施する上で不可欠となる「合意形成」のプロセスに,物語型コミュニケーションを用いた態度変容方略が有効であるとの知見が実証的に確認されつつある.ただし現在までのところ,実験用に作成された少数の物語シナリオを刺激として用いた検証に留まっており,生態学的妥当性が確保されたとは言い難い.そこで本研究では,実社会で用いられている新聞記事を実験材料として用いて改めて物語型コミュニケーションの効果検証を試み,物語型コミュニケーションがもたらす態度変容効果の生態学的妥当性が一定程度確認された.
  • 林 礼美, 紀伊 雅敦
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_379-I_387
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    気候変動は人類の生活や経済活動に少なからぬ影響を及ぼす可能性が指摘されているが,人口が集中する都市はその対策に重要な場である.本研究では,世界の約3600の都市を対象に,気候変動レベルが異なる3つのシナリオについて,2050年までの「高温日リスク」と「多雨日リスク」の変化とその主な要因について分析した.その結果,高温日リスクは,気候変動により全ての都市で増大する.主な要因はどの都市も,高温日数の増大である.また,気候変動レベルが高い程,各都市の高温日数が増える.一方,多雨日リスクは,気候変動によって増大する都市が多いものの,約1/4の都市ではむしろ減少する.また,リスク増大の主要因は,多雨日数増大,又は多雨強度増大と都市によって異なる.都市毎のリスク変化と要因の違いを考慮した対応策が必要と考えられる.
  • 西脇 文哉, 畑山 満則, 大西 正光, 伊藤 秀行
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_389-I_397
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    2016年熊本地震では国や熊本県,県内市町村は被災者に対し緊急物資支援を行ったが,被災者のもとにタイムリーに物資が届かなかったことが指摘されている.この問題は過去の災害でも指摘され様々な対応策が提案・実装されたが,計画想定を超える大災害では課題が残されていることが示された.筆者らが実施した熊本地震で緊急支援物資輸送に関わった各主体の計画と業務実態に関する調査によれば,物資輸送の協定を民間と締結していたにも関わらず輸送業務に支障が生じたこと,国,県,市町村それぞれの計画解釈や役割に対する認識の不一致により担当する機関が確定しない業務が生じる可能性があったことが明らかとなった.本研究ではこれらの問題の原因を考察し,協定書や計画書の内容とそれらに関するコミュニケーションに課題があることを示唆した.
  • 森田 紘圭, 稲永 哲, 青木 英輔, 村山 顕人
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_399-I_407
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    本研究では,愛知県尾張地域の就業者約3,000件を対象としたアンケート調査を実施し,都市環境がライフスタイルと健康,主観的知的生産性に与える影響を,共分散構造分析を用いて分析した.その結果,居住環境や就業環境が直接的に,または生活行動を通じて間接的に健康や主観的知的生産性に影響をもたらしている可能性があることを明らかにした.特に,1)室内環境の質は健康に直接的な影響を与える一方,周辺環境の質はライフスタイルの誘導を通じて健康や生産性に影響を及ぼしていること,2)就業者の健康には居住環境だけでなく職場周辺の環境の影響が大きい可能性があること,3)身体的健康が住宅や職場の室内環境との関連が大きいに対し,主観的知的生産性は多様な居住・就業環境の影響を受けること,等が示唆された.
  • 川崎 薫, 片山 茜, 谷口 守
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_409-I_417
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    近年,子育て世代の農村部への移住意識が高まる中で,移住できるなら子の数を増やしたいという意向を有する子育て世代が一定数いることが既存調査より明らかになっている.本研究では,新しい社会像であるSoceity5.0が農村部で優先的に普及することで移住意識が活性化される可能性があることに着目し,その影響を独自に実施したwebアンケート調査の分析を通じて明らかにした.分析として,12の主成分,8の個人グループを抽出,移住意識活性化の構造モデルを作成した.この結果から,1) 個人グループごとにSociety5.0の各要素への反応度合いは異なるが,自動運転車や介護ロボットの導入効果が少なくないこと,2) 農村部だからこそ得られやすい支援よりも,一部のSociety5.0の要素による移住意識活性化の方が効果が高いという傾向が示された.
  • 越川 知紘, 森本 瑛士, 谷口 守
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_419-I_429
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    コンパクトシティ政策を推進するセクターの多様化が進む一方で,セクター間の波及効果を意味するクロスセクターベネフィットの実態は十分に言及されていない.その存在次第では,これまで地方自治体が主たる目的としていなかったセクターにおいても波及効果が生じている可能性がある.本研究では,地方自治体が目的とするセクターごとに代表的な評価指標を設定し,その数値を実際に計測することでセクター間の関係性を定量的に分析した.その結果,評価指標値の傾向はセクターごとに異なる一方で,地方自治体が想定していなかったセクターで高い評価結果を示す場合があった.さらに各セクター間に統計的に有意な相関性が確認されたことから,コンパクトシティ政策にクロスセクターベネフィットが存在する可能性を初めて裏付けることができた.
  • 三田 洋太郎, 森本 章倫
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_431-I_438
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    行政計画においては,短期的な視点に捉われることなく,社会として目指すべき中長期的な未来像を明確化し,合意を形成することが極めて重要である.不確定な未来像を具体化する手法はこれまでも提案されてきたが,多様な人々との合意形成に向けては,関係者が一つの未来像を共有することが望ましい.その手段として,3DVRを用いた都市空間の可視化に着目する.本研究ではまず,近年議論が活発になっている2050年を対象年次として,行政等の将来計画や目標に基づき,未来都市の可視化を行う.さらに可視化した未来都市を人々に公開し,評価及び改善を繰り返すPDCAサイクルを実施することによって,幅広い層の人々の意見を反映した未来都市像を作り上げていく.以上により,未来都市の可視化手法を提案する.
  • 杉本 達哉, 神永 希, 加藤 秀弥, 高森 秀司, 佐藤 徹治
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_439-I_451
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    本稿では都市構造のコンパクト化施策の有効性検討の実務に耐えうる都市内人口分布推計モデル(理論モデル,実証モデル)の構築を行った.理論モデルは,住宅地の立地均衡モデルを時系列に拡張したものとし,さらに推計精度を高めるため,立地主体属性を世帯主年齢階層別とし,転居需要が内生的に決定されるものとした.実証モデルは,富山市都市圏内979ゾーンを対象に2000年時のデータを用いてパラメータ推定を行い,2005・2010年時にて良好な再現性を確認した.構築した実証モデルにより,助成金付与,都市機能施設整備による影響を推計した結果,特定範囲内で一定程度人口が増加し,アクセス向上効果を確認した.また,両施策に必要な行政コストを試算し,歳出額の0.3%程度以内であることを確認した.
  • 谷本 圭志, 岩田 千加良
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_453-I_462
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    コンパクトシティや小さな拠点など,生活サービスの供給施設の再配置が多くの地域で検討されている.様々な施設を適切に再配置することができれば,あるサービスへの外出のついでに他のサービスにもアクセスしやすくなるため,その効果はインフラの維持管理費用の軽減のみならず,顧客の増加や維持に伴ってサービスの持続可能性の向上も期待できる.しかし,そのアクセス利便性を定量的に把握する試みはこれまでになされていない.そこで本研究では,ついでのしやすさに着目したアクセス利便性を協力ゲーム論的に評価する手法を提案する.その上で,実際の地域を対象にサービスへの利便性を評価し,その有効性を実証的に確認する.
  • 福山 敬, 桑野 将司
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_463-I_473
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    地方生活圏では商店撤退等により生鮮食料品店などの空白地帯いわゆるフードデザート(FDs)が拡大し住民の健康な生活が脅かされている.一方,近年食料品の扱いも増加しつつあるドラッグストアの非都市部への進出がみられるが,これらのFDsへの進出が地域住民の健康な生活の維持機能を担う可能性がある.本研究では鳥取県東部地域を対象にドラッグストアの立地データからその新規立地のための条件を明らかにしFDsへの立地可能性を検討する.その結果,潜在的に立地可能な4エリアが存在することが示された.
  • 程 飛, 山中 英生, 黒田 慎也, 尾野 薫
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_475-I_482
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    家族が比較的近距離に住み,相互に支援・交流する「近居」の社会構造は,介護・病気・災害などの緊急時に強い支援機能を発揮し,地域の持続や強靱さにとって欠かせない要素であるが,従来の地域・都市計画はこうした家族の空間構造を考慮しておらず.実態すら把握されていない.本研究では,複数世帯の「家族」の空間分布(近居構造)と交流・支援行動,家族の住む地域へ移住意向(地域継承性),さらに大規模災害からのリジリエンス(生活再建)に着目した.このため,徳島市で質問紙調査を実施し,家族間の時間距離と交流,支援,継承,災害時生活再建意識を調査した.この結果.いずれも家族間の時間距離との関係性があり,地域創生における居住政策,土地利用政策,交通施設施策において,家族関係を想定した施策の必要性を示す結果が得られた.
  • 織田澤 利守, 明定 俊行
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_483-I_491
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    本研究では,企業間取引ネットワークが企業の生産性に及ぼす影響について明らかにする.2011年の九州新幹線全線開通に着目し,その前後において企業の仕入れ取引数の増加が企業の生産性に与える影響の因果効果を推定する.具体的には,企業が取引数を増加させる確率として傾向スコアを推定し,層別化を行なった上で,差の差分析を用いて因果効果を推定する.推定結果より,交通インフラ整備が企業の取引関係に影響を及ぼすことがわかった.さらに,仕入れ取引数の増加は企業の生産性に正の因果効果をもたらすことがわかった.
  • 森 英高, 川崎 薫, 谷口 守
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_493-I_504
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    これまでの我が国の都市計画の分野においては,人口増加に合わせた「成長論」が議論の中心であった.しかし2008年には日本全体として人口減少が始まったとされており,今後は急速な人口減少・高齢化等の問題に対応する必要がある.そのため今後の都市構造を検討する上では,人口減少期に合わせてその地域の持続性を高めていく,都市における「退化」についてその概念を広く普及させていく必要がある.そこで本研究では都市構造の経年的変遷に着目した地域類型を作成したうえで,それぞれの地域における居住者のトリップに着目して,都市における「退化」の性能を試算した.その結果,人口や都市サービス施設が経年的に減少している一部地域は,増加している地域よりもトリップ数が多く,経年的にもその傾向を強めている可能性が明らかとなった.
  • 永江 大右, 中村 太一, 紀伊 雅敦
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_505-I_512
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    都心は都市活動が集中する場所であり,都市構造や交通需要を分析する上で把握するうえで重要なエリアである.しかし,都心の把握方法は必ずしも確立しておらず,多くの場合大規模な交通調査を基に経験的に設定されている.しかし,大規模交通調査の高頻度な実施は困難であり,特に都市構造の変化が著しい途上国では,簡便な都心の把握方法が必要である.
    本研究では,人工衛星により観測される夜間光に基づく都心抽出の可能性を検討する.具体的には,日本の3大都市圏を対象に,集中交通量に基づき都心ゾーンを定義し,夜間光データによる判別を行った.その結果,夜間光データに一定の都心判別性能があることが示された.また郊外核を抽出できる可能性が示された.
  • 佐藤 翔紀, 高橋 祐貴, 川端 祐一郎, 宮川 愛由, 藤井 聡
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_513-I_524
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    自然災害のリスクが高い我が国においては,中央政府と地方自治体双方の努力により「ナショナル・レジリエンス」を確保することが急務となっている.国のみならず地方自治体の取り組みが重要な役割を担っており,その実態の把握と,取り組みを改善する手段についての研究が不可欠である.本研究では,地方自治体に対するアンケートを行い,地方自治体における防災政策の現状を確認するとともに,防災に関する地方自治体間のやり取りや,近年公共政策の領域においても活用の可能性が指摘される物語型の情報共有が,防災政策の充実を促す傾向が観察されるか否かを検証する.
  • 三角 耕太, 田中 皓介, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2018 年 74 巻 5 号 p. I_525-I_535
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/10
    ジャーナル フリー
    近年では「公共政策バッシング」と呼ぶべき報道がしばしば行われている.本研究では,公共事業に対するバッシング報道の一例として,豊洲市場移転問題に関する報道を取り上げる.当該事業に関する批判が高まった後,批判の根拠である「豊洲市場の危険性」が専門家により否定されたにも関わらず,批判は継続されたが,この際の論調の(部分的変更を伴う)選択過程の分析を行った.テレビの情報番組及び新聞の報道内容に関する定量的データの分析から,いずれのメディアにおいても「危険性から手続的瑕疵へと論点を移動させた上での批判の継続」という論調選択が一定程度行われていることが示された.またこの過程に関する認知的不協和理論に基づく検討の結果,この論調選択が認知的不協和の低減プロセスとして現出している可能性が示唆された.
feedback
Top