土木学会論文集D3(土木計画学)
Online ISSN : 2185-6540
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69 巻, 5 号
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土木計画学研究・論文集 第30巻(特集)
  • 小林 潔司
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_1-I_14
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    伝統的な工学的方法論やリスクマネジメントにおいては,それを越える可能性が無視できるような範囲を考察の対象から排除し,想定の範囲内におけるリスクを合理的にマネジメントしようとする立場が採用される.東日本大震災の経験より,既往のリスクマネジメントの考え方は,想定外リスクに対していかに無力であることを思い知らされた.本稿では,あらゆる計画分析方法論が,事前の想定なくしてはなしえないという理解の下に,事前の想定の壁を克服するためのリスク分析哲学の基本的な考え方について整理する.さらに,ポスト実証主義の立場から,専門家と非専門家の間におけるリスクコミュニケーションやリスク分析のあるべき考え方について検討するとともに,土木計画学における実践上の問題を指摘し,土木計画論の課題について考察する.
  • 内田 賢悦
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_15-I_29
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    本稿では,道路ネットワーク上の移動時間信頼性に影響する要因を整理すると共に,筆者が提案してきた手法を中心に,移動時間信頼性を考慮した交通プロジェクトの便益評価のための要素技術を紹介する.さらに,移動時間信頼性を考慮した交通プロジェクトの便益評価の実用化に際して,関係する推計手法が満たすべき条件を整理し,その実用化に向けた課題と展望をまとめることを試みる.
  • 高山 雄貴
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_31-I_46
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    空間経済学分野では,社会基盤整備などの都市・地域政策の長期的経済効果を予測・評価する際の基盤となりうる,経済活動の空間的集積メカニズムに関する経済理論が膨大に蓄積されてきた.しかし,これらの理論の土木計画学分野への応用を考える場合,モデルの非凸性という解析上の困難に起因した,重要な課題・限界がいくつか残されている.本稿では,これらの空間経済学分野の課題を整理した上で,従来の解析上の困難を解消するために行った著者らの研究を紹介する.最後に今後の研究課題を議論する.
  • 谷口 守, 山口 裕敏, 山室 寛明
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_47-I_56
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    2011年に発生した東日本大震災によって,市民レベルでの他地域援助が今までにないスケールで顕在化し,今後の震災復興や地域間援助における他地域援助の重要性が認知されるようになった.本研究では,東日本大震災をケーススタディーとし,他地域援助と関係があると思われる,個人の日常生活における地域活動への取り組みや,地域・国土愛着,助け合いや自立性の意識,友人関係等の指標から個人を類型化することにより特徴を捉え,そのグループと実際に行われた他地域援助との関係性を明らかにした.結果,7種類のグループが設定され,グループ間での他地域援助に関する違いを明らかにし,空間的距離の他に,活動的であるか,地域・国土への愛着や日常的な地域活動参加との関連がみられる層が,より他地域援助を行っていることが明らかとなった.
  • 真坂 美江子, 加藤 研二, 近藤 光男, 奥嶋 政嗣
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_57-I_65
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    地方都市において,健康を動機付けとしたモビリティマネジメント(健康MM)による通勤社会実験を実施した.その結果,実験以前から自転車あるいは徒歩による通勤を実施しているか否かにより,自転車・徒歩通勤の頻度は大きく異なることが明らかとなった.この違いを考慮した環境・健康促進効果は,CO2削減効果が43%~70%,高血圧症発症リスク,および,2型糖尿病発症リスクの削減効果が10%~19%期待できることが示され,地方都市における健康MMは,環境・健康の両面において一定の効果が期待できることが明らかとなった.しかしながら,自転車・徒歩による通勤頻度が半数に満たない参加者が約4割に上り,自転車・徒歩による通勤頻度の増加が課題となった.このため,対策として就業開始時刻の変更などについても検討した.
  • 原田 慎也, 栄徳 洋平, 戸根 智弘, 三木 智, 若林 拓史
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_67-I_74
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    東北太平洋沖地震及びそれに伴う津波発生により,東北地方,特に太平洋沿岸部の道路ネットワークのいたる箇所で通行止めが発生し,これに伴う多くの集落での孤立化が救急救援活動に多大な支障をきたした.このため,以前にも増して,道路のネットワーク信頼性の評価が重要となっている.
    本研究では,まず,防災の観点から,道路ネットワークの信頼性評価の適用範囲を整理し,そこで求められる評価項目を選定し,この評価項目が算出可能となる連結信頼性の適用手法を提案した.さらに,岩手県及び高知市を対象に道路ネットワークの信頼性評価の試算を行い,実務での適用可能性の検証を行った.
  • 大野 沙知子, 高木 朗義
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_75-I_89
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究では,東日本大震災における津波避難行動に影響を与える要因を把握するために,新聞記事を用いて「東日本大震災における津波避難行動に関する新聞記事データベース」を構築した.そして,判断基準及び阻害要因に着目し,個人の避難行動の特徴を整理した.判断基準からは,津波に対する脅威を地震直後に自分ごととして受け入れることが重要であり,知識や経験に基づき,実際の状況を確認し,地域の情報に編集する必要性を示した.阻害要因は,人的・物的・社会的に区分して考察した.その結果,日常の行動や地域での人とのつながりに基づき,個人が避難行動を判断していることを示した.そして,個人の行動と地域や社会構造との関係を社会的阻害要因から考察することで,個人の判断が,他者さらには地域全体に影響が波及することを示した.
  • 山田 綱己, 紀伊 雅敦, 土井 健司, 伊丹 絵美子
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_91-I_99
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    近年,自動車への依存と高齢化に伴い,食料品等の生活必需品の購入が困難な状況に置かれている人々の増加が社会問題となっている.全国の小売店数は年々減少傾向にあり,高齢化も急速に進んでいることから,こうした買い物困難者は,今後さらに増加すると予見される.買い物困難者への対応策を検討するには,その発生地域の予測と地域特性の把握が急務である.本稿では,高齢世帯,非高齢世帯に分けた消費者の買い物行動とともに,小売店の撤退行動をモデル化し,高齢化に伴う移動性の低下を考慮した上で,最寄り品の需給バランスの変化が買い物困難地域を発生させる仕組みをモデルによって表現する.これを2035年までの高松市に適用し,定量的にその発生を予測することで,少子高齢化に伴う将来の買い物困難地域分布や影響の大きさを明らかにした.
  • 石原 凌河, 松村 暢彦
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_101-I_114
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    東日本大震災の教訓として,過去の自然災害の教訓や知恵を後世に伝え,それを地域での防災まちづくりや防災教育に活かすことが重要であると言われている.そこで,本研究では,地域で受け継がれている災害伝承の実態を把握するとともに,災害伝承と生活防災行動,防災意識,地域への態度,避難行動,防災対策との関係性について明らかにするとともに,地域単位で災害伝承を行う意義について考察した.その結果,年月が経つにつれて,地域で脈々と受け継がれてきた過去の災害伝承が途切れる可能性が示唆された.また,災害伝承は防災意識や避難行動,地域への態度に直接的な影響はなく,生活防災行動を通じて防災意識や避難行動,地域への態度の醸成につながることが明らかになった.
  • 金 度源, 大窪 健之, 荒川 昭治
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_115-I_123
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    日本の近代化を支えた伝統的な利水技術として代表される用水,疏水,水道といった水利環境は,国の重要な近代化遺産として保全される一方,その機能が失われることも少なくない.本研究では,既存の歴史的な水利環境を再生することで,歴史の保全と防災水利の確保を目指す.
    ケーススタディとして,明治期に造られ現在は老朽化や漏水などが原因となり配水が止められている「本願寺水道」を対象とした.本願寺水道の再生に向けた技術的な検討を基に,各対象地区の消防システムの運用に必要とされる水量と比較することにより,消防水利としての活用可能性を明らかとした.このケーススタディの結果をもとに,歴史的な水利環境の再生と活用を検討するためのプロセスについて整理を行った.
  • 高野 剛志, 森田 紘圭, 戸川 卓哉, 福本 雅之, 三室 碧人, 加藤 博和, 林 良嗣
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_125-I_135
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究では,大規模災害に対応した減災・防災計画を被災者の生存・生活環境の観点から検討するために,発災から復興までの間にインフラ・施設の利用可能性や住宅・周辺地区の状況によって徐々に変化する被災者の「生活の質(Quality of Life: QOL)」水準を小地区単位で評価可能なモデルシステムを構築した.岩手・宮城県を対象に東日本大震災の状況を評価した結果,事前の道路ネットワーク強化が被災直後のQOL低下抑制に大きな役割を果たす一方で,津波によるインフラ・施設破壊が津波到達地区外のQOLの回復を阻害する状況が明らかになった.これにより,道路網のリダンダンシー確保と各種生活施設の防災性向上を複合して実施する必要性が明らかになった.
  • 森 龍太, 大野 栄治, 森杉 雅史, 佐尾 博志
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_137-I_144
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    環境経済評価の代表的な手法として,旅行費用法TCMや仮想市場評価法CVMがある.TCMは環境財の直接的利用価値の計測に限定されるが,CVMは加えて非利用価値の計測も可能である.実務面では,TCMで利用価値,CVMで非利用価値を分けて計測する方法がしばしば選択されるが,両者が独立にモデリングされ理論的な整合性を有しておらず,計測された利用価値と非利用価値の違いは統計的有意性が保障されていない.またCVMで全価値を計測しても,TCMで計測した利用価値より小さい場合が少なくない.本研究では,環境財の利用価値と非利用価値を整合的に計測する方法を提案するため,TCMと理論的に整合したCVMの評価モデルを構築し,白神山地の利用価値と非利用価値の計測を行い,その実用性を確認した.
  • 杉浦 聡志, 高木 朗義, 倉内 文孝
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_145-I_152
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    LCC(ライフサイクルコスト)最小化アセットマネジメントにおける補修戦略は,偶発的に構造物が破損したときの機能低下や,あるいは補修時における利用者費用を考慮していない.本研究では,施設の破損で生じる道路利用者,道路管理者の期待費用をリスクとして定義して補修戦略を決定する方法を用いる.この方法では,複数種類の道路施設における補修の必要性を一元的に評価できる.リスクは利用者が選ぶ経路によって暴露する大きさが異なるため,利用者間にリスク暴露の格差が生じる.本研究では,利用者間におけるリスク暴露の格差を衡平性尺度として捉えて,衡平性指標を定義し,格差を減少させ,投資金額に対して低減できるリスクを最大化する最適補修戦略決定モデルを構築する.構築したモデルを仮想のネットワークで挙動確認した.
  • 中野 晃太, 高山 純一, 中山 晶一朗
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_153-I_161
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    救急搬送活動において,迅速な救急搬送はより多くの患者を救うために不可欠であり,そのために救急車専用退出路の設置が有効であるが,公共事業費が縮減される社会情勢においては,道路整備における整備効果の分析・評価を行い,救急車専用退出路の設置が有用な道路整備であると示すことが必要となる.救急搬送における道路整備効果は,道路整備によって増加する救命可能人数を貨幣価値に換算して便益とする方法が考えられる.しかし,道路整備の評価期間は数十年と長期に渡っており,人口動態の変化が生じるため,将来における状況変化を考慮して費用便益分析を行わなければならない.本研究では,将来的な救急搬送患者数を考慮した救急車専用退出路の設置効果分析を行う.
  • 大谷 悟, 佐渡 周子, 今野 水己, 土谷 和之, 牧 浩太郎
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_163-I_171
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    主要先進国・国際機関の公共事業評価に適用される社会的割引率について調査を行った結果,1990年以降,主要先進国等の多くで,公共事業評価に適用される社会的割引率の数値の引下げ,その算定方法の見直し,不確実性への対応の進展(時間逓減割引率の導入,感度分析の実施等)等が行われていることがわかった.これらは,実質市場金利の低下,世代間の公平性への配慮,関連する分野での調査研究の進展等を主たる理由としている.我が国の公共事業評価に適用される社会的割引率は4%と設定され,10年以上改定されていないが,これらの調査結果を踏まえ,社会的割引率の水準及び算出方法等に関する論点の整理を行った.
  • 仲条 仁, 藤井 琢哉, 石川 良文
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_173-I_179
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    東日本大震災の経済被害においては,製造業を中心としたサプライチェーンの崩壊による間接被害が深刻化したことが大きな特徴といえる.本研究では,製造業の各企業における生産被害に着目し,被災内容や生産停止の実態について,インターネットや新聞情報等から調査し,国内約1,300事業所の被災情報を収集・整理した.企業の所在地や業種,被災内容別に生産停止期間等の分析を行った結果,原材料・部品調達困難が主要因となり生産停止となった事業所は約10%存在し,その生産回復までの期間は約2ヶ月半であることが明らかとなった.その他,被災要因別・産業別の被災事業所分布やその特性を把握した.また,震災後の道路交通ネットワークの走行水準を一般車プローブデータから把握し,事業所生産復旧との関係について分析した.
  • 梶谷 義雄, 横松 宗太, 多々納 裕一, 安田 成夫
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_181-I_188
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究では,2011年の東日本大震災後に発生した電力不足を対象に,企業の適応行動とその効果について,各企業の対応状況の報告事例や関東および関西地域の経済統計を用いた実証的な検討を行う.この際,生産量の減少を抑えながらどの程度電力使用量削減が行われたかをレジリエンス(外的ショックに対する抵抗・回復特性)の指標として定義し,時系列モデルによる計量化を行う.得られた指標値に基づき,過去の関連する調査との比較分析,適応行動の定着化や変容の分析,被害の波及影響計量化モデルへの反映方法の観点から考察を行う.
  • 石神 孝裕, 福本 大輔, 稲原 宏, 望月 健介, 本多 建雄, 蓮見 純一, 城所 大介
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_189-I_196
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    多くの地方自治体では,長期未着手となっている都市計画道路を対象に,社会経済情勢の変化を踏まえた計画の見直しが進められている.多くの見直しでは,各未整備路線に道路が持つ多様な機能を照らして引き続き必要かどうかを検証し,必要性がないと判断された路線を廃止するといった方法がとられている.こうした方法に対し,著者らは,単に道路が持つ機能を評価して不要な路線を見つけ出すのではなく,将来的に都市が目指すべき姿(都市構造)を実現できるように道路ネットワークを再構築すべきであると考え,それが実行可能な計画枠組みを提案している.本稿では,既提案の計画枠組みに対応した都市計画道路の評価の考え方を整理し,さいたま市における都市計画道路の見直しの事例を傍証しながら,その有効性の確認を行った.
  • 鈴木 邦夫, 森本 励, 高山 純一, 片岸 将広, 松矢 裕一郎
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_197-I_204
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    金沢市では,平成23年2月に,学識者,国土交通省金沢河川国道事務所,石川県,金沢市,石川県警察本部及び所轄警察署から構成される「金沢自転車ネットワーク協議会」が設立され,平成24年3月に「金沢自転車通行空間整備ガイドライン(案)」を策定した.安全で快適な自転車通行空間整備にあたっては,自転車が走行すべき「車道の左側端」を明示する必要がある.しかし,自転車通行空間の幅員と自動車走行速度(規制速度)の関係については,十分に明らかにされていないのが実態である.
    そこで本稿では,金沢市内で実施した自転車走行調査の結果をもとに,自転車通行空間の幅員と自動車走行速度(規制速度)との関係について分析・考察することを目的とする.
  • 瀬木 俊輔, 小林 潔司
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_205-I_216
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究は,人口減少・高齢化が進展する社会において,将来人口の変化を捨象した静止的な人口構成を仮定して作成した計画案や公共事業の経済評価がもたらす政策的バイアスを分析する.その際,動学的資源配分モデルを用いて,人口構成の不変想定の下で作成される計画がもたらす社会経済状態と,人口構成の変化を考慮した社会的最適計画がもたらす社会経済状態を比較することにより,不変想定に基づく計画の政策的バイアスを分析した.その結果,人口減少を考慮しない計画の下では,過大な社会基盤投資が行われ,現在世代の厚生を犠牲に将来世代の厚生を増やすこと,高齢化の進行を考慮しない計画には政策バイアスが発生しないが,高齢化の進行を考慮した上で固定的な社会的割引率を用いると過小な社会基盤投資をもたらすことを明らかにする.
  • 西村 泰紀, 梶谷 義雄, 多々納 裕一
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_217-I_227
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    大規模災害後の宿泊需要の落ち込みは災害後に発生する大きな問題の一つであり,宿泊需要の早期復旧・復興のためには震災による影響の実態解明が必要であると考えられる.しかし,震災が宿泊需要に与える影響にはサービス供給水準の低下,復興需要の影響のほか施設の特徴や周辺の環境資源が与える影響等が含まれ,需要減少の定量化や要因の分析による被害実態の解明は,十分に行われてこなかった.本研究では宿泊旅行統計データに加え,東日本地域の宿泊施設に対して実施したアンケート調査結果を利用し,東日本大震災後の宿泊需要の減少に関する実証分析を行う.分析の結果,震災後の需要変化の実態が時間・空間的に明らかになるとともに,立地地点の津波エリアからの距離など,いくつかの要因が影響を及ぼしている可能性が示された.
  • 荒谷 太郎, 平田 輝満, 長田 哲平, 花岡 伸也, 轟 朝幸, 引頭 雄一
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_229-I_246
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究では,東日本大震災直後よりあらゆる主体の航空機が飛来した花巻・山形・福島空港を対象に,救助活動などの重要な拠点となった空港がどう使われたのかを明らかにした.震災直後の空港運用上課題となった航空機の飛来数および駐機スペース不足に焦点をあて,主体別目的別の離着陸状況,駐機状況の変化について分析を行った.さらにそれを補うため各空港の管理者や運航主体へのインタビュー調査を実施し,各空港が如何にして多数の航空機を処理し,災害対応活動を支援したかを明らかにした.その結果,震災直後の空港には通常時の6倍~10倍の航空機が飛来したこと,発災後72時間以内の救助活動,救急搬送が多くなることがわかった.さらにインタビュー調査より,駐機スペースに工夫を凝らしていたことや燃料補給体制の課題などが明らかとなった.
  • 紀伊 雅敦, 曽根 慎太郎, 小野 仁意, 半谷 陽一, 土井 健司
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_247-I_252
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    電力需給の逼迫への対応としてピーク時の懲罰的な電力価格設定が導入されている.これは家庭内での節電行動のみならず,外出行動にも影響を与えると想定される.本研究ではアンケート調査により,Critical Peak Pricingに対する外出意向を調査し,その影響を分析した.その結果,ピーク価格設定は外出行動に有意な影響を与えることが明らかとなったが,対象時刻の在宅人数,在宅者の年齢構成,住宅タイプにより外出傾向が異なることが示された.また,全世帯では外出には公共交通条件や人口密度は影響しないことが示された.しかし,自動車利用に制約があると考えられる後期高齢者世帯では,公共交通条件が影響しており,交通不便地域ではCritical Peak Pricingの影響をより大きく受ける可能性が示唆された.
  • 阿部 正太朗, 中川 大, 松中 亮治, 大庭 哲治
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_253-I_263
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究は,2005年10月時点の中核市37都市すべてを対象に,都市中心部における業務用地から低未利用地への転換の実態を把握することを目的に,GIS上に区画単位の土地利用データベースを1985年と2005年の2時点について構築した.その上で,業務用地と低未利用地との空間分布状況や各市の駐車場助成制度に着目し,業務用地の低未利用地への転換との関連について分析した.
    その結果,全国の中核市で業務用地が減少している一方で,駐車場用地は増加傾向にあり,また,駐車場用地の利便性が高い業務用地が低未利用地へ転換していることを明らかにした.さらに,商業事業者が設置する駐車場に対して助成制度を設けている都市は,その他の都市に比べ,業務用地が駐車場に転換する区画数の割合が高いことを明らかにした.
  • 牧村 雄, 日比野 直彦, 森地 茂
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_265-I_274
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    東京圏における人口増減,高齢化の進行は空間的に一様でなく,地域差を把握したうえで,それに対応した施策が求められている.既往研究により,郊外鉄道沿線の年齢構造変化の差異は明らかになっているが,都心部の分析は今後の課題とされている.そこで本研究では,東京23区を対象に,5歳年齢階級人口メッシュデータを用いて年齢構造の時系列分析を行った.その結果,人口増減は20歳代前半で最大であり,上の年代ほど小さい傾向にあることから,特定地域の急速な高齢化を避けるための施策を20~30歳代をターゲットに検討することが重要であることを指摘した.また,15~24歳の増加と25~44歳の減少のために年齢構造が大きく変化しない傾向の強い地域,特定年代の集積があるために他地域よりも高齢化が急速に進み輸送需要が減少する可能性のある鉄道路線を指摘した.
  • 宮木 祐任, 根本 拓哉, 陳 鶴, 谷口 守
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_275-I_281
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    自動車の普及や生活様式の変化等により,わが国での暮らしは大きく変化してきた.その結果,商業施設や公共施設の郊外立地などによって,徒歩圏内において日常生活のための買い物や公共サービスの利用といったことが難しくなってきた.このことは,今後高齢社会が進むわが国において解決すべき課題の一つである.本研究では,現在まで集落形態が保たれている,茨城県つくば市の筑波地区を対象に,40年間という長期に渡る期間を二時点間で,集落毎に高齢者も容易に歩ける範囲内で利用できる商業施設や公共施設といった都市サービスの立地の変遷の傾向を明らかにした.この結果,中心的集落におけるサービス提供施設の顕著な減少,一般集落におけるサービス提供施設の変質を定量的に明らかにした.
  • 佐藤 啓輔, 小池 淳司, 川本 信秀
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_283-I_295
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    これまで,空間的応用一般均衡モデルを活用した交通基盤整備の効果分析は多く行われてきたものの,分野別(例えば道路,港湾等)の効果計測が基本となっており,分野横断的な効果分析を可能とするモデル構築は行われてこなかった.本研究では,道路整備のみを分析対象としていた従来型の空間的応用一般均衡モデル(RAEM-Light)に対して,港湾整備を分析の対象として加えることで,同一のプラットフォーム下で分野横断的な事業の効果を分析できる枠組みを構築した.本モデルの構築により,国土計画的観点からは交通基盤整備事業の優先度検討の基礎情報としての活用,整備される交通基盤の有効活用の観点からは各基礎自治体レベルの戦略的な産業政策検討のための基礎情報としての活用が期待される.
  • 森田 紘圭, 杉本 賢二, 加藤 博和, 村山 顕人, 飯塚 悟, 柴原 尚希, 林 良嗣
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_297-I_308
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    既成市街地において将来空間計画の実施プロセスを通じた環境性能を評価するため,4D-GIS上の地区建物データを用いて建替動向をシミュレートし,住民が享受するQuality of Life(QOL),CO2排出量,市街地維持費用を時系列的に評価するモデルを開発した.モデルを用いて,名古屋市都心部に位置する長者町地区を対象としてケーススタディを実施した結果,各建物の更新を個別に進めるよりも,地区全体で計画的な更新を行った場合のほうが,計画実現に至るプロセス全体期間でのCO2排出量をより多く削減することが可能となり,かつ住民が享受するQOLを大きくできることが明らかとなった.
  • 谷口 綾子, 川村 竜之介, 赤澤 邦夫, 岡本 ゆきえ, 桐山 弘有助, 佐藤 桃
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_309-I_316
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究では,運動着(ジャージ・スウェット)の日常的な着用が大学内の景観と授業態度に与える影響を定量的に明らかにするため,運動着での登校が学内の景観イメージにネガティブな影響を及ぼす,運動着での登校と授業態度との間にネガティブな関係が存在する,との二つの仮説を措定し,筑波大学の学生を対象としたアンケート調査により検証した.その結果,運動着での登校は大学内の景観イメージに「似合わない」とネガティブな影響を及ぼすこと,運動着で登校している学生は遅刻や居眠りをする度合いが高いなど授業態度との間にネガティブな関係が存在することが明らかとなった.また,公共交通で通学する学生の方が,そうで無い人と比べ運動着登校経験が少ないこと,運動着登校経験がある人の方が運動着登校にポジティブな意見を持つことが示された.
  • 竹内 幹太郎, 氏原 岳人, 阿部 宏史
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_317-I_325
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    2011年10月に公表された2010年国勢調査人口等基本集計結果によると,我が国は,東京都,神奈川県などの9都府県を除く,38道府県が人口減少下にある.このように人口減少期を迎えた我が国では,持続可能な地域社会構築のための対策が求められており,都市・地域計画分野においては「集約型都市構造化」に向けて,都市の構造を適正にマネジメントすることが急務となっている.
    しかし,その一方で,我が国の都市がどのような構造に“変化”しているのかについて,“集約型都市構造の視点”から詳細に分析した事例はみられない.そこで本研究では,岡山市を対象として,1995-2000-2005-2010年の国勢調査・町丁目データを用いて地区レベルの人口変動を“集約型都市構造のポイント”となる「市街化エリア」「都心」「公共交通拠点」に着目して分析する.
  • 高山 雄貴, 山本 誠也, 吉井 稔雄
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_327-I_333
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    新経済地理学(NEG)分野では,輸送費用減少に伴う産業集積現象を説明できる理論が構築されてきた.しかし,この理論では,産業集積を生む中心的要因である輸送費用が外生的なパラメータで与えられており,輸送サービスに対する運賃を決定する市場メカニズムは考えられていない.そこで,本研究では,輸送市場を考慮したNEGモデルを構築し,輸送市場の競争環境の違いが産業集積に与える影響を分析する.その結果,次の2点が明らかにされる.1) 輸送市場に参入規制がない場合,産業集積による輸送需要の増加は,輸送企業の新規参入・競争激化をもたらし,運賃を低下させる.そのため,産業集積が進展する.2) 参入規制の下での輸送需要の増加は,輸送企業の市場支配力の増大・運賃の上昇を生むため,一度形成された産業集積を崩壊させる可能性がある.
  • 川村 竜之介, 谷口 綾子
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_335-I_344
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究は,都市空間における自宅・職場・学校以外の場所を「まちなか」と定義し,まちなかで人々に「居場所」として認知されている場所を分類し類型化すると共に,まちなかの居場所の有無と生活の質・地域への意識(地域愛着など)との関係性について明らかにすることを目的としている.具体的には,まちなかの居場所の有無や,生活の質・地域への意識に加え,既存研究を参考に作成したまちなかの居場所感を計測するためのWEBによるアンケート調査を実施した.分析の結果,特に飲食店や友人・親戚宅,図書館などが多くの人に居場所として認知されていること,居場所の有無と生活の質・地域への意識との間にはポジティブな関係があることが統計的に示された.また居場所感尺度の特徴の違いによって,まちなかの居場所を7種類に類型化することができた.
  • 生形 嘉良, 関本 義秀, HORANONT Teerayut
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_345-I_352
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究は,観光事業への投資が積極化する中でその投資効果の評価や新たな施策立案のために従来型の来訪客状況調査だけでなく,GPS携帯電話による位置情報の蓄積データがどの程度,全国的に適用可能な観光実態把握のための基礎情報になり得るかの代替可能性を検討するために実施したものである.具体的には,全国に分布する70~80万人分の1年間のGPS携帯電話の位置情報を基に石川県域および石川県加賀市域への観光客の来訪頻度,滞在時間,周遊行動の実態分析を行い,これまでの調査ではなかなか把握しにくかった日帰り観光の実態,周遊観光の概観が把握できた.既存観光統計との比較では宿泊旅行統計調査等との比較を行い,今後より他の調査データとの整合を図っていくことによりある程度利用できるものであると考えている.
  • 田中 皓介, 中野 剛志, 藤井 聡
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_353-I_361
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    人文社会科学において,“物語”は,人間,あるいは人間の織り成す社会の動態を理解するにあたって重要な役割を役割を担うものと見なされてきている.それ故,人間や社会を対象として,公共的な観点からより望ましい方向に向けた影響を及ぼさんと志す“公共政策”においても,物語は重大な役割を担い得る.また公共政策の方針や実施においては,マスメディアが少なからぬ影響を及ぼしていることが十二分に考えられる.ついては本研究では,現在の日本において,政策が決定,採用されてきた背景を把握するにあたり,新聞の社説を対象とし,新聞各社に共有されている物語を定量的に分析することとする.
  • 依藤 光代, 松村 暢彦
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_363-I_372
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    大都市近郊に位置する都市の中心市街地に立地する商店街である生駒駅前商店街において,継続的な活性化の運営の変遷および継承の要因を,担い手個人レベルに着目しながら明らかにすることを目的として,文献およびヒアリング調査を実施した.その結果,特徴的な4つの運営の時代に分けられ,ハード整備事業が中心の行政主導の運営から,ソフト事業に比重が移され,その運営の担い手が,商工会議所主導,商店街役員主導,商店街役員及び多くの個店主導と変遷してきたことが分かった.
    ハード整備実施後に活性化活動が途切れることなく,ソフト的な活性化活動にスムーズに結びついていくためには,商店主らが共同で定例的に行う取組によるつながり,及び活性化活動の実践の中で商店街役員らの間に形成されるつながりが重要であると考えられる.
  • 田中 皓介, 神田 佑亮, 藤井 聡
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_373-I_379
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    先の東日本大震災からの復興や,高い確率でその到来が予測されている首都直下型地震及び東海・東南海地震等に対する防災・減災の観点からしても,公共事業の重要性は近年一層高まっていると考えられる.そうした公共事業の実施に当たっては,国民世論並びにそうした世論形成に影響を及ぼし得るメディアの報道が重要であるといえる.ところがそうした主要なメディアの一つである新聞の報道が公共事業に対し批判的な傾向であることが示唆されている.ついては本研究では,大手新聞社の公共事業に対する批判的な報道の傾向を分析し,その背景について考察を加えることとした.
  • 中道 久美子, 山形 与志樹, 瀬谷 創
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_381-I_389
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    我が国では,今後地球温暖化による台風の大規模化や集中豪雨の増加により,資産の集中する大都市圏での水災リスクの上昇が懸念されており,気候変動への適応策と気候変動の緩和策の両面からの対応が急務となっている.本研究では,東京都市圏を対象に,土地利用規制による緩和策(都市集約化),適応策(水害リスク低減)とともに,太陽光発電(PV)・電気自動車(EV)の導入による緩和策を想定したシナリオに基づき,家計最終需要に伴うCO2排出量を直接・間接の両面から地区単位で定量的に評価した.分析の結果,土地利用規制としての緩和策と適応策はコベネフィットが得られるが,PV・EVを導入するとトレードオフになる可能性があることが示された.ただし,PV・EVによる削減効果は大きく,緩和策と適応策を同時に進める意義は大きい.
  • 津田 敏明, 塚井 誠人
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_391-I_400
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究は既存の様々な空間データに応用可能な,小地域補間のための空間計量経済モデルの開発を行うことを目的とする.空間計量経済モデルではゾーンスケールの違いによって可変単位地区問題の発生が避けられない.そこで,体積保存則を満たすように定義した空間集計行列・空間分配行列を用いてモデルを定式化し,提案モデルを実データに適用し,大地域データから小地域データの予測を行い,小地域補間への適用可能性を検討した.その結果,大地域単位で集計した空間データを用いて推計を行う提案モデルは,再現精度の高い小地域補間が可能であることが明らかとなった.
  • 市川 嘉一, 久保田 尚
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_401-I_412
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    サステイナブル(持続可能)都市の実現を促すことを目的に実践的な評価指標を作成する動きが近年,日本でも民間レベルで出始めてきている.問われているのは,そうした評価指標が継続的に実施され,対象となる自治体の施策や行動に影響を与えているかどうかである.対象自治体の施策・行動に影響を及ぼすこと,言い換えれば「自治体への貢献性」の有無や程度を明らかにすることは,評価指標の有効性を確認する手がかりになるからである.サステイナブル都市への取り組みで先行する欧州では評価指標に関しても「自治体への貢献性」が一定程度あることが確認されている.本研究では大手メディアの評価指標を事例に回答自治体へのアンケート調査などをもとに,自治体の施策・行動への影響力など「自治体への貢献性」の有無や程度を明らかにした.
  • 大澤 脩司, 久保 雄登, 大野 誠, 牛田 啓太, 森田 哲夫
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_413-I_421
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    著者らは,公共空間における音に着目し,これを演出することでまちづくりへの活用をねらうインタラクティブミュージックシステムM[you]sicを開発している.演出プログラムに基づき,収集した空間の歩行者情報から音・音楽を演奏する.このように,歩行者とシステムの相互作用により空間が演出されることを期待している.本システムは,設置者にとっての扱いやすさも考慮し,演出設計支援,ログ分析のためのソフトウェアをパッケージングしている.本稿では,これらの機能を活用し,イベントにおいてシステムを稼働させ,インタラクティブ性について検証した.その結果,音による演出により歩行者の行動が変化し,これが音・音楽を変化させる入力となり,空間内の歩行者にはたらきかける,という相互作用が起こっていることを見ることができた.
  • 倉内 慎也, 石村 龍則, 吉井 稔雄
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_423-I_431
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究では,自動車依存度の高い地方都市では,自動車利用が必須となっており,その結果,カーシェアリングサービスの利便性を過小に評価している可能性があるとの認識に立ち,自動車利用や保有にかかる費用の知覚値や普段の利用状況,カーシェアリングサービスの認知度や利用意向等を尋ねるインタビュー調査を実施し分析を行った.その結果,自動車利用や保有にかかる費用について考えたことがない人が大半を占める一方で,むしろ費用を過大に評価している被験者が多く,そのような人はカーシェアリングの利用意向が相対的に高いとの結果を得た.また,カーシェアリングのサービスとしては,いつでも利用できるとは限らない不安価値を減じるようなサービスが重要である等の知見を得た.
  • 松本 修一, 川嶋 弘尚
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_433-I_440
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    エコドライブは,車両挙動が一般車両と異なってくるため,交通流の円滑化を阻害することが懸念されている.そこで協調型ITSを視野に入れた複数台の車群でのエコドライブの円滑な走行などの研究が必要となる.このような背景から本研究では,1)エコドライブ走行を行う車両を追従する後続車群の挙動を解析すること2)先行車両の燃料消費情報が後続車両に与える影響を考察することを目的とした.その結果,1)複数台の後続車両に情報を与えることで後続車両の燃料消費率を低減させる効果があった.2)先行車両の燃料消費情報を後続車両に与えた場合,アクセル操作が緩やかになることによって定常走行率等に変化が起こる可能性が示された.以上のことから,車群を対象とした場合,先行車両情報を共有することの有用性が示唆された.
  • 山本 和生, 橋本 成仁
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_441-I_448
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    高齢化が進み,免許返納者は年々増加しているが,返納後の生活で買い物や通院に苦労している人も少なくない.そこで本研究では,岡山県内の都市部と中山間地域において65歳以上の免許返納者ならびに保有者を対象に行ったアンケート調査の結果を用いて,自動車を運転できない場合にどういった方法で買い物を行い,また医療行為を受けたいのか,意識とその要因について分析した.この結果,買物支援サービスや医療支援サービスの利用意向は,居住地域や身体の衰えなどから返納後の移動に困る場合に高まることが明らかとなった.一方で世帯構成による影響は小さく,返納後の自立した生活をサポートしていくためには,免許返納制度の推進と併せて,特に中山間地域などの不便な地域で生活支援サービスを拡充していくことが重要であると考えられる.
  • 日下部 貴彦, 社領 沢, 朝倉 康夫
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_449-I_460
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    都市高速道路での突発事象の発生時には,普段とは異なる混雑状況が発生するため,可変情報板(VMS: Variable Message Sign)等による即時性の高い交通情報の提供が重要であるとともに,その情報メッセージが利用者行動に与える影響を分析することは施策を検討する上で重要であると考えられる.本研究では,都市高速道路走行時に突発事象の情報がVMSによって提供された場合の経路選択行動のStated Preference調査を行い,その行動をモデル化することで突発事象時の情報メッセージと経路選択行動との関係を把握することを目的としている.本研究では,渋滞区間の距離や旅行時間の情報による影響とともに,渋滞区間の増減傾向情報や料金体系が突発事象時の道路利用者の経路選択に与える影響を検討した.
  • 浪崎 隆裕, 三輪 富生, 森川 高行, 山本 俊行
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_461-I_469
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    CO2排出量削減対策の1つとして,エコドライブへの関心が高まっている.これまで,一般ドライバーを対象とした大規模なエコドライブ実験の例は少なく,またエコドライブ情報の提供が運転行動や燃料消費量に与える効果についても十分に分析されていない.本研究では,豊田市で行ったエコドライブ社会実験のデータを使用し,燃料消費量の削減効果の分析を行った.また,この際,エコドライブの実施意識を考慮したモデル構築を行った.分析の結果,ドライバーの個人属性や道路条件により,燃料消費量の削減効果が異なることが示された.また,構築したモデルを実都市の自動車走行データに適用した結果,エコドライブ促進システムによってCO2排出量が10%程度削減可能であることが示された.
  • 鷹尾 和享
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_471-I_477
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    近年では一般の人々によって書かれたブログが大量に出現し,書き手の生の声が含まれることが期待できる.交通行動に関しても,ブログを分析することでヒトの感情を捉えられれば,満足度の向上を図るうえで有用であると考えられる.しかし,ブログテキストには砕けた表記が多く含まれ,それらは必ずしも文法に則っていない.ところが,従来の言語処理のシステムの多くはフォーマルなテキストを中心に研究・開発されており,砕けたテキストに関しては性能が良くないことが多い.このような変化をする語は特に強調したい感情となっている可能性があり,本稿ではそのような語に着目した.本稿では,関西空港の利用行動に関するブログテキストの表記の変化を分析し,既存の形態素辞書のカスタマイズを試みた.
  • 桑野 将司, 塚井 誠人, 岩本 真由子
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_479-I_488
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究では,施策目標を達成可能,かつ総施策実施費用が最小,すなわち最適な施策シナリオを,バックキャスティング・アプローチに基づいて,中国地方を対象とするCO2管理施策立案モデルを定式化することによって導出するシステムを開発した.従来のフォアキャスティング・アプローチでは,最適な施策が必ずしも得られるとは限らなかった.しかし,本研究では,施策目標「中国地方の全自家用乗用車からの2020年のCO2排出量を1990年比25%削減」を達成可能,かつ,総施策実施費用が最小となる時点別のEV購入補助金額,および急速充電器の設置数を得ることができた.また,充電インフラの整備に対する支出額の割合がEV購入補助に対する支出額の割合よりも大きく,現在の車両に対する補助金政策が十分でない可能性を明らかにした.
  • 大西 洋揮, 奥嶋 政嗣
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_489-I_496
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    地方都市での道路交通渋滞はピーク時に限定されている場合が多い.このため,時間的分散を意図した交通政策の効果を的確に把握することは,地方都市の交通渋滞緩和のために意義が大きい.本研究では,自動車利用通勤者の出勤時刻決定に関する意思決定要因を解明することを目的とする.具体的には,徳島広域都市圏を対象とし,PT調査結果を用いて,始業制約通勤者とフレックスタイム通勤者に分類し,現状の自動車利用通勤者の出勤時刻分布を把握した.また,生存時間分析を利用して,地方都市圏の自動車利用通勤者の出勤時刻決定モデルを構築した.このとき,特定の確率分布を想定した場合には十分な適合性を得ることが容易ではなく,セミノンパラメトリックモデルの適用が適当であることが示唆された.
  • 福田 大輔, 力石 真
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_497-I_510
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    本稿では,離散-連続モデルの研究動向に関するレビューを行った.まず,研究の系譜を (1) ミクロ経済理論より演繹的に導出される構造型モデル,(2) 現象記述の自由度を高めることに主眼を置いた誘導型モデルに大別し,各特徴を整理した.その上で,(a) 経済理論への整合性を重視する場合にはキューンタッカー条件より導出される構造型モデルの適用が望ましいこと,(b) 現象記述や不完全観測下での行動モデルを構築する場合には誘導型モデルの方が現象記述の自由度が高いこと,(c) 両系譜の特徴を活かすことで,経済理論を踏まえつつ現象記述の自由度を高めた折衷型モデルの構築が可能であること等を明らかにした.最後に,交通行動分析分野における離散-連続モデルの適用事例を体系的に整理し,今後の研究の方向性についての展望をまとめた.
  • 松島 格也, 小林 潔司, 福井 浩
    2013 年 69 巻 5 号 p. I_511-I_521
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/15
    ジャーナル フリー
    人々の交通機関選択問題を考える際,従来の非集計モデルの枠組みでは交通サービス水準や居住地環境のデータは外生変数として与えられる.しかし,人々は利用する交通行動を想定して居住地を選択していることが考えられ,この場合,個々人が享受する交通サービス水準などは自ら選択した結果である.このような内生性の問題を考慮せずに推計したパラメータはバイアスが生じる可能性がある.本研究では計量経済学における内生性について概念・手法を整理して,交通機関選択モデルにおける内生性を検証するとともに,内生性を考慮した分析手法を提案して居住地選択行動と交通機関選択行動との関係を実証的に分析する.
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