日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
13 巻, 2 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著
  • 伊藤 加代子, 福原 孝子, 高地 いづみ, 井上 誠
    2009 年 13 巻 2 号 p. 77-87
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2020/06/27
    ジャーナル フリー

    【目的】誤嚥性肺炎予防という観点からも,口臭予防という観点からも舌清掃は重要である.近年,形態が異なる舌ブラシが多種開発されているが,使用効果に関する客観的データは少なく,歯科医療従事者以外の介護スタッフが適切な舌ブラシを選択するのは困難である.よって,舌ブラシ選択の指標を作成することを目的として,舌ブラシの形態による清掃効果を検討した.

    【対象と方法】老人福祉施設に入所している39 名を対象とし,A 群(両面の細かいナイロンブラシタイプの舌ブラシ),B 群(アーチワイヤー状のねじりブラシタイプの舌ブラシ),C 群(スポンジブラシ)の3群に分けた.各ブラシを用いて,介護者による清掃を14 日間実施し,舌苔の評価と口腔衛生状態に関するアンケートによる評価を行った.

    【結果および考察】どの群においても経時的に舌苔の厚みが有意(p<0.05)に改善していたが,ブラシによる違いは認められなかった.舌苔の厚みによって分析したところ,舌苔が厚い群ではA 群が有意(p<0.05)に改善していた.また,有意差は認められなかったものの,ケア時の痛みはA 群,C 群で少なく,べたつきはB 群およびC 群で改善する傾向が認められた.アンケートの自由筆記欄には,B 群では痛みがあったため十分な清掃ができないまま中断してしまったという記載があった.A 群のほうがB 群より与える痛みが少なかったので,舌苔の除去効果が大きかった可能性が考えられる.

    【結論】どのブラシでも継続して使用することによって,舌苔の厚みが改善することが明らかになった.また,舌苔が厚い場合は両面の細かいナイロンブラシタイプの舌ブラシが,べたつき感改善にはアーチワイヤー状のねじりブラシタイプの舌ブラシが有効であり,ケア時の痛みやブラシへの抵抗が少ないのは,両面の細かいナイロンブラシタイプの舌ブラシおよびスポンジブラシであることが示唆された.

  • 深田 順子, 鎌倉 やよい, 浅田 美江
    2009 年 13 巻 2 号 p. 88-106
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2020/06/27
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究は,認定看護師および病棟看護師の摂食・嚥下障害看護の「プロセス」に焦点を当てた質評価指標を開発することを目的とした.

    【方法】認定看護師および病棟看護師の摂食・嚥下障害看護質評価指標は,国内外の文献検討と摂食・嚥下リハビリテーションのエキスパート13 名による評価をもとにおのおの76 項目,70 項目が作成された.そして,2006 年および2007 年に登録された認定看護師58 名および認定看護師が所属する病院の看護師1,002 名に対し,認定看護師教育課程修了7 カ月後に,質評価指標についての質問紙調査を郵送法にて実施した.

    【結果】1.病棟看護師の質評価指標は,438 名の有効回答から平均値および実施率を求め,その結果から64 項目が選定された.構成概念妥当性を確認するために因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行い,6因子「摂食・嚥下機能アセスメント」「退院調整に必要なアセスメント・実施」「リスク管理と摂食・嚥下リハビリテーションの実施」「咽頭期障害に対する摂食・嚥下リハビリテーションの実施」「評価・コーディネート」「リスク管理のアセスメント」が抽出された.内的整合性を示すCronbach's α 係数は,項目全体では0.93 であった.

    2.認定看護師の質評価指標は,47 名の有効回答から平均値および実施率を求め,その結果から69 項目が選定された.病棟看護師の質評価指標と共通した52 項目5 因子を除く17 項目について因子分析を行い,2因子「評価・指導・相談・看護チームのコーディネート」「医療チームのコーディネート」が抽出された.質評価指標は,69 項目7 因子で構成され,内的整合性を示すCronbach's α 係数は,項目全体では0.98 であった.

    【考察】認定看護師および病棟看護師の質評価指標は,おのおの構成概念妥当性が確認され,信頼性が高い指標であることが示唆された.

  • 深田 順子, 鎌倉 やよい, 浅田 美江
    2009 年 13 巻 2 号 p. 107-119
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2020/06/27
    ジャーナル フリー

    【目的】摂食・嚥下障害看護認定看護師教育課程の教育効果を明らかにすることを目的とした.

    【方法】認定看護師の摂食・嚥下障害看護質評価指標を用いて,2006 年登録認定看護師を対象に認定看護師教育課程修了後7 カ月および1 年7 カ月に郵送法による質問紙調査を実施した.同様に,2007 年登録認定看護師を対象に教育課程入学後1 カ月,教育課程修了後3 カ月および7 カ月に実施した.質評価指標は7 因子69 項目で構成され,第Ⅰ:摂食・嚥下機能アセスメント,第Ⅱ:退院調整に必要なアセスメント・実施,第Ⅲ:リスク管理と摂食・嚥下リハビリテーションの実施,第Ⅳ:咽頭期障害に対する摂食・嚥下リハビリテーションの実施,第Ⅴ:リスク管理のアセスメント,第Ⅵ:評価・指導・相談・看護チームのコーディネートおよび第Ⅶ:医療チームのコーディネートであった.質評価指標は5 段階で評価され,Wilcoxon の符号付順位検定を行った.

    【結果】1.教育課程修了後7 カ月では,2007 年登録認定看護師22 名の調査の結果,因子を構成する項目の平均得点は,第Ⅰ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅴ・Ⅵおよび第Ⅶ因子は2.95,2.81,2.28,3.08,2.42 および1.89 であり,入学時に比べて有意に上昇した(p<0.05).

    2.教育課程修了後7 カ月では,2006 年および2007 年登録認定看護師の調査の結果,因子を構成する項目の平均得点は,第Ⅰ・Ⅲ・Ⅴ因子では約3.0 であった.

    3.教育課程修了後1 年7 カ月では,2006 年登録認定看護師26 名の調査の結果,因子を構成する項目の平均得点は,第Ⅱ・Ⅲ・Ⅴ・Ⅵおよび第Ⅶ因子は2.50,3.02,3.29,2.69 および2.00 であり,7 カ月と比較して有意に上昇した(p<0.05).

    【考察】教育課程修了後1 年7 カ月では,リスク管理や摂食・嚥下機能のアセスメントおよび摂食・嚥下リハビリテーションが「ほぼできている」レベルであり教育効果を認めた.退院調整やコーディネートについては,教育を強化する必要が示唆された.

  • 中津 沙弥香, 柴田 賢哉, 石原 理子, 坂本 宏司
    2009 年 13 巻 2 号 p. 120-127
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2020/06/27
    ジャーナル フリー

    【目的】凍結減圧酵素含浸法(凍結含浸法)を適用して植物組織崩壊酵素を食材内部に導入すると,食材の形状を保持したまま任意の硬さに制御できる.本報告では,従来法の真空ポンプを用いる減圧酵素含浸処理を改変し,真空包装機を用いて包装フィルム内で処理する方法を検討した.

    【方法】凍結食材を酵素溶液中で解凍して食材表面に酵素を付着・浸透させた後,包装フィルムに入れ,真空包装機で減圧酵素含浸処理を行った.酵素含浸効率に影響を及ぼすと考えられる因子を,解凍および減圧酵素含浸処理に用いる酵素溶液の使用方法,減圧酵素含浸処理時の圧力,酵素濃度および減圧保持時間として,これら因子の食材の硬さ制御に及ぼす影響を検討した.50℃,1 時間で酵素反応後,100℃,10 分間加熱失活させて硬さの測定に供した.

    【結果】タケノコおよびレンコンは,酵素溶液中で解凍後に酵素溶液を排除して減圧酵素含浸処理したほうが,緩衝液中で解凍後に酵素溶液中で減圧酵素含浸処理したものに比べて有意に軟化した.ゴボウでは,この2 つの処理方法において,硬さに有意差は認められなかった.含浸処理時の真空包装機内の圧力が15.30~5.10 kPa の範囲において,タケノコおよびレンコンでは,圧力が低いほど軟化したが,ゴボウでは影響を受けなかった.解凍時に用いる酵素濃度を従来法の1.25~1.67 倍にして,3~5 分間の減圧保持時間を設けることで,目標とする従来法と同等の硬さに軟化した.

    【結語】真空包装機を用いた凍結含浸法によって,食材の形状を保持したまま厚生労働省の旧高齢者用食品レベルにまで軟化できることが明らかとなった.本結果を応用することで,介護施設や病院等の厨房において,凍結含浸食材を製造することが可能となったと思われる.形状のある軟化食材は,摂食障害をもつ多くの高齢者や患者のQOL(quality of life)向上に貢献できると思われる.

短報
  • 河合 利彦, 舘村 卓, 外山 義雄, 阪井 丘芳
    2009 年 13 巻 2 号 p. 128-134
    発行日: 2009/08/31
    公開日: 2020/06/27
    ジャーナル フリー

    【目的】嚥下時の口腔相から咽頭相への移行段階は,低粘性の液状食品の誤嚥の発生起点のひとつである.誤嚥を予防する目的で、トロミ調整食品等を用いて,低粘性の液状食品にトロミを付与することがしばしばある.しかしながら,トロミを付与された液状食品の物性と移行段階の調節様相との関係は不明である.本研究の目的は,近似したニュートン特性をもつ液状食品(水,牛乳)の粘度の相違が,移行段階の調節にどう影響するかを,口蓋帆挙筋筋電図により検討することである.

    【対象と方法】対象は21 歳~32 歳の健常成人10 名(平均年齢:24.0 歳,SD:2.9 歳)とした.各被験者での水と牛乳の至適嚥下量の平均値を一回嚥下作業量とした.各試料嚥下時の口蓋帆挙筋活動を採取した.試料ごとに得られた有効な筋活動10 回を解析対象とした.解析対象とした筋活動量は,各被験者の全作業を通じて得られた筋活動の最大値を100% として,各筋活動値を正規化した%筋活動量とした.得られた%筋活動量を,被験者ごとに試料間で比較し(対応のあるt検定),また被験者全員について得られた% 筋活動量をまとめ,試料間で比較した(対応のあるt検定).

    【結果】各被験者の嚥下時の口蓋帆挙筋の%筋活動量(平均%筋活動量±標準偏差)は,水嚥下時は76.1±12.8%~93.8±4.8%,牛乳嚥下時は65.0±2.2%~86.5±5.5% であった.水と比較して牛乳のほうが有意に低かった被験者は10 名中7 名であった(p<0.05).%筋活動量を被験者全体でまとめた結果,水は87.2±9.7%,牛乳は77.6±8.4% であり,牛乳嚥下時は,水嚥下時と比較して有意に小さかった(p<0.01).

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