頸部回旋および体幹傾斜角度の違いにおける嚥下活動の変化について検討した.基本姿位は,セミファーラー位60° とし,頸部回旋および体幹傾斜角度の相互関係を考慮し3 つの姿勢条件を設定した.① 姿位A:頸部正中位,体幹正中位,② 姿位B:頸部30° 回旋位,体幹正中位,③ 姿位C:頸部正中位,体幹30° 傾斜位. 対象は,健常群として嚥下に関して日常生活に支障をきたしていない健常高齢者11 名,疾患群として脳血管障害者13 名とした.健常群および疾患群において水のみテスト(以下,WST),反復唾液嚥下テスト(以下,RSST)を施行した.WST は,プロフィールから陰性,陽性に判別し,RSST は判定回数をそれぞれ各姿位間で比較検討した.健常群における各姿位間のWST およびRSST についてみると,いずれも有意差は認められなかった.一方,疾患群におけるWST について比較すると,姿位A および姿位C は,姿位B に対し陰性が有意に多かった.また,RSST について検討すると,姿位A および姿位C は姿位B と比較し,有意な高値を示した.健常群と疾患群におけるWST の群間比較では,姿位B において健常群は疾患群と比較して有意に良好な成績を認めた.RSST の比較では,姿位A,姿位B および姿位C のいずれにおいても疾患群に比較して健常群は有意な高値を認めた.以上の結果より,セミファーラー位60° の姿位において,頸部を正中位にすることの有効性が示唆された.また,麻痺側の咽頭通過障害をきたす摂食・嚥下障害者に対し,頸部のみを回旋するのではなく,頸部は正中位に保持したうえで,体幹傾斜位にすることの有用性が示唆された.
とろみ調整食品の力学測定法として,texture profile analysis (TPA)の有用性を検討した.市販のとろみ調整食品を,実際の使用に準じてイオン交換水中に分散,溶解し,力学特性を測定した.とろみ調整食品の力学特性はTPA による「かたさ」「付着性」「凝集性」のほか,B 型回転粘度計によるずり粘度,リング法による保形性,動的粘弾性の歪みおよび周波数依存性を測定し,特性値間の相関を検討した.また,同一試料を用いて測定機関間のクロスチェックを行った.
キサンタンガムを主成分とするとろみ調整食品は,貯蔵弾性率の周波数依存性が小さく,さらに力学的損失正接が測定した周波数範囲で0.1~1 であり,レオロジー的に弱いゲルの性状を示した.また,TPAから得られる「かたさ」および「凝集性」は架台速度による変化が小さかった.架台速度を10 mm/s とし,実用の添加量範囲(<5%)でTPA 測定を行った場合,「かたさ」が添加量に従って170~1,200 N/m2 の範囲で増加したのに対し,「凝集性」は「かたさ」によらず0.7~0.9 の範囲にあった.「かたさ」は粘度と正の相関が,リング法とは負の相関があった.同一の試料を用いた場合,「かたさ」および「凝集性」は測定機関によらずほぼ同一の測定値が得られたが,粘度では若干の解離があった.
以上の結果から,とろみ調整食品の力学測定法としてTPA が有用であり,「かたさ」-「凝集性」の二次元プロットがとろみ調整食品の有効な力学指標になることが示唆された.TPA は汎用機器で測定できること,粘度やリング法などの従来法との相関が高いこと,測定の再現性が高いことなどの特徴があり,とろみ調整食品の品質管理や食感構築に使用できる.
【緒言】間欠的口腔食道経管栄養法(Intermittent-oro-esophageal tube feeding:以下,OE法)はさまざまな点で優れた栄養方法であり,多くの摂食・嚥下障害患者に適用されている.今回,われわれは軽度の認知症および高次脳機能障害を認め,チューブを噛んでしまうなどの問題から,OE 法施行が困難と思われた摂食・嚥下障害患者に安全にOE 法を適用するために,特殊な口腔内装置を適用した症例を報告する.
【対象と経過】72 歳の男性で,左後頭葉皮質下の脳出血後遺症による摂食・嚥下障害および高次脳機能障害の患者.入院前の摂食条件は藤島の「摂食・嚥下障害患者における摂食状況のレベル」でLv7 であった.誤嚥性肺炎にて入院となり,一時的に経口摂取中止となったが,摂食・嚥下機能について評価のうえ,ゼリー食から摂食訓練を開始し,最終的にLv6 まで改善した.水分量が十分確保できず,OE 法にて水分摂取を補助した.その際,高次脳機能障害に伴う注意障害のため,チューブを噛んでしまうなどの問題行動があり,OE 法の安全な実施が困難であったため,口腔内装置を適用した.
【口腔内装置】上顎に装着する装置であり,特徴としては,臼歯部の咬合を挙上してあることと,チューブを通すトンネル状の穴が上顎左臼歯部口蓋側面に付与されている,という2 点である.咬合の挙上は,前歯でチューブを噛んでしまうことを防止し,さらにチューブを口腔内に挿入しやすくする効果がある.トンネル状の穴にチューブを通すことは,臼歯部でチューブを噛んでしまうことや,舌でチューブを押し出すことの防止効果,さらにチューブを咽頭に挿入しやすくするガイドの効果がある.
【結果と考察】チューブを噛んでしまうなどの問題から,OE 法適用困難と思われた摂食・嚥下障害患者に,本装置を適用することで,OE 法が安全に実施可能となった.本装置はOE 法の適用範囲を拡大し,摂食・嚥下障害患者のQOL 向上に寄与できる可能性がある.
【目的】嚥下反射改善作用を有する薬剤が,経管栄養患者においても呼吸器感染による発熱を予防するかどうかを検討した.
【対象】2005 年10 月~ 2007 年9 月に経管栄養を行った入院患者.
【方法】年齢,経管栄養投与日数,38℃ 以上の発熱日数,抗生物質点滴静注投与日数を月ごとに集計した.年齢は誕生日から毎月計算し集計した.発熱・抗生物質投与は経管栄養中に始まった場合に限定し,喀痰や肺音などから呼吸器感染と推測できるものとし,尿路感染など経管栄養と無関係な発熱は除外した.発熱日数と抗生物質投与日数を,(1)パーキンソン病/症候群以外でのアマンタジンおよびACE 阻害薬の投与の有無で2 群に分けて比較した.(2)抗血小板薬はアスピリン,シロスタゾールの単剤投与間で比較した(他の抗血小板剤は少数だった).
【結果】対象285 人,平均年齢76.7 歳.脳血管障害226 人,神経筋疾患28 人,その他31 人.経鼻胃管258 人,胃瘻64 人,腸瘻1 人(重複あり).発熱日数17.5 日/ 年,抗生物質投与日数31.3 日/ 年.(1)嚥下反射改善薬:服用あり26 人,なし273 人,年齢はそれぞれ74.9±9.8 歳,75.9±11.5 歳(p=0.0237).発熱日数8.3 vs 18.3 日/ 年(p=0.0002),抗生物質投与日数18.5 vs 32.3 日/ 年(p<0.0001)と服用あり群で有意に少なかった.(2)抗血小板剤:アスピリン30 人,シロスタゾール30 人,年齢はそれぞれ75.4 ±14.3 歳,78.1±5.2 歳(p=0.0022).発熱は14.4 vs 10.0 日/ 年(p<0.0001),抗生物質投与日数28.1 vs 20.0 日/ 年(p<0.0001)とシロスタゾール群は有意に少なかった.
【考察】嚥下反射改善作用を有する薬剤は経管栄養中の発熱,抗生物質投与を減少させた.嚥下反射の改善により,経管栄養患者でも誤嚥性肺炎を予防できる可能性が示唆された.