日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
22 巻, 1 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • 張替 徹, 木村 慎二, 眞田 菜緒, 遠藤 直人, 伊藤 加代子, 井上 誠
    2018 年22 巻1 号 p. 3-11
    発行日: 2018/04/30
    公開日: 2019/03/07
    ジャーナル フリー

    【目的】新潟県内の病院における摂食嚥下障害の評価とリハビリテーション(以下,リハ)の実施状況,診療受け入れが可能な病院の分布を把握し,地域の摂食嚥下障害診療システムを構築するうえでの課題について検討する.【方法】調査期間は 2014年 7月 1日から 8月 30日.新潟県内の全病院に調査用紙を郵送した.内容は,摂食嚥下障害の評価とリハ実施の有無,関わる職種,検査内容,摂食嚥下障害のための特別食の有無・種類,摂食嚥下障害の評価・リハ(評価かリハの一方あるいは両方)の他医療機関からの受け入れ,受け入れ不可能な理由などである.調査結果から,摂食嚥下障害患者の受け入れが可能な病院の分布図を作成した.【結果】 130病院中 120病院(92.3%)から回答を得た.評価は 93病院(回答した 120病院の 77.5%),リハは 83病院(69.2%)で実施されていた.評価・リハに関わる職種は,言語聴覚士が 71病院(評価・リハが実施されていた 94病院の 75.5%),医師 70病院(74.5%),看護師 65病院(69.1%)などであった.嚥下造影検査は 41病院(評価が実施されていた 93病院の 44.1%),嚥下内視鏡検査は 29病院(31.2%)で実施されていた.特別食は 120病院中 94病院(78.3%)で提供されていた.評価・リハの外来での受け入れ意向があったのは 120病院中 47病院(39.2%),入院での受け入れ意向があったのは 60病院(50.0%)であった.受け入れ不可能な理由は,人員の不足,経験・知識の不足,機器の準備がない,などであった.精査(嚥下造影検査か嚥下内視鏡検査の一方あるいは両方)を実施,かつ外来受け入れ意向があったのは 120病院中 33病院(27.5%),入院受け入れ意向があったのは 37病院(30.8%)で,成人の受け入れ可能な病院はすべての二次医療圏に存在したが, 2つの二次医療圏で小児の受け入れ可能な病院がなかった.【結論】新潟県では約 70%の病院で摂食嚥下障害の評価・リハが実施されていたが,他医療機関からの受け入れ可能な病院は 3割程度であった.小児の受け入れ可能な病院がない 2つの二次医療圏の解消が課題である.

  • ─表面筋電図による筋活動量の点から─
    佐藤 豊展, 近藤 健男, 柴本 勇, 出江 紳一
    2018 年22 巻1 号 p. 12-19
    発行日: 2018/04/30
    公開日: 2019/03/07
    ジャーナル フリー

    【はじめに】頭部挙上訓練は,舌骨上筋群の筋力強化訓練として広く用いられているが,胸鎖乳突筋の筋活動が高く,早期に筋疲労を起こすことから施行することが困難な場合が多い.舌挙上は頭部挙上訓練に代わる喉頭挙上の訓練として有用であることが報告されているが,健常若年者を対象とした報告であり,健常高齢者を対象とした報告は筆者らが検索しうる限りみられない.そこで本研究では,舌挙上が喉頭挙上の改善を目指した訓練として用いることができるか,表面筋電図を用いて検討した.【方法】対象は健常若年者 15名(27.1±2.6歳),健常高齢者 12名(76.0±3.0歳)とした.測定課題は,最大舌圧での舌挙上,頭部挙上,メンデルソン手技とした.表面筋電図を使用し,舌骨上筋群,舌骨下筋群,胸鎖乳突筋の電位変化を記録した.【結果】舌骨上筋群の筋活動は,健常若年者,健常高齢者ともに舌挙上が頭部挙上,メンデルソン手技より有意に高かった(p< 0.01).舌骨下筋群,胸鎖乳突筋の筋活動は,舌挙上が頭部挙上より有意に低かった(p< 0.01).【考察】舌挙上は頭部挙上と比較して,胸鎖乳突筋や舌骨下筋群の筋活動が低く,舌骨上筋群をより効果的に活動させることができ,健常高齢者においても喉頭挙上の改善を目指した訓練として用いることができる可能性が示唆された.

  • 齋藤 和美, 松谷 涼子
    2018 年22 巻1 号 p. 20-26
    発行日: 2018/04/30
    公開日: 2019/03/07
    ジャーナル フリー

    【目的】特定機能病院の看護師における嚥下調整食の理解と,食形態アセスメントの困難および不安状況を明らかにする.【方法】 A特定機能病院の病棟看護師 540名に嚥下調整食に関する調査票を配布し,回答の得られた 367名を分析対象とした.また,過去 1年間の嚥下調整食の使用患者について,開始時の所属病棟,年齢等を診療録より収集した.【結果】嚥下調整食の使用患者の 53.2%は 60歳以上で,患者は集中治療部を除くすべての病棟に含まれた.看護師調査において,嚥下調整食の使用患者数の多い病棟と少ない病棟の看護師 2群で比較したところ,多い病棟の看護師のほうが「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013」の学習経験( p= 0.017),嚥下調整食の定義,コード 3と 4の違い等に関する理解( p< 0.001)が高く,有意差が認められた.また,嚥下調整食を使用する患者のケア経験のある看護師 132名中,食形態アセスメントの困難や不安を有する者は約 70%であり, 2群間に有意差は認められなかった(困難 p= 0.182,不安 p= 0.800).【考察】高齢化率の上昇に伴い,多くの病棟で摂食嚥下障害を有する高齢者への看護実践力が求められている.看護師における食形態アセスメントの困難や不安の背景には,嚥下調整食を含めた摂食嚥下に関する知識や,個別性に合わせた看護実践力の不足が考えられ,摂食嚥下障害に関する学習機会を提供する必要性が示唆された.【結論】嚥下調整食の使用患者との関わりの多い看護師は,嚥下調整食の理解が良好であった.しかし,嚥下調整食の使用患者との関わりの程度によらず,看護師は食形態アセスメントに関して困難や不安を有していた.

  • 太田 恵未, 安田 順一, 橋本 岳英, 小金澤 大亮, 金城 舞, 玄 景華
    2018 年22 巻1 号 p. 27-36
    発行日: 2018/04/30
    公開日: 2019/03/07
    ジャーナル フリー

    【目的】舌接触補助床(PAP)装着時の嚥下動態を定量的に評価した報告は少ない.咽頭内圧計測が可能な全周性センサーを有する高解像度マノメトリー(high resolution manometry, HRM)は, 1回の嚥下で上咽頭から食道までを連続的に測定することが可能である. PAP装着時における健常成人の嚥下動態を把握し,厚みの違いが嚥下動態に及ぼす影響を定量的に解析することを目的に,本研究を行った.【方法】被験者は,口腔および摂食嚥下機能に問題のない男性 10人(平均年齢 34.2±9.5歳)であった. PAP未装着(未装着)と厚み 2 mm(2 mm),厚み 5 mm(5 mm),厚み 10 mm(10 mm)の PAPをそれぞれ装着した状態に対し, HRM(スターレット,スターメディカル,東京)を用いて計測を行った.検査は座位で行い, 20 chのカテーテルセンサーを外鼻孔より挿入し,圧トポグラフィー上で,上咽頭部の圧力と,上部食道括約筋(upper esophageal sphincter: UES)を示す圧力帯を確認できる位置に留置した.試料として,水 3 ml,ゼリー 3g,全粥 3gを用いた. PAP未装着と各厚みの PAPを装着した状態で,唾液嚥下と各試料を指示嚥下させて, 3回計測を行った.データは記録用パソコンに保存し,測定結果は解析ソフトを用い,圧トポグラフィー上から計測部位の位置決めを行った後,解析ソフトによる自動解析を行った.数値は各被験者の平均値を用い,厚みの違いによる測定値を比較検討した.【結果】上咽頭部最大内圧は,水 3 ml嚥下時に, PAP未装着より 2 mmが有意に低かった.舌根部最大内圧は,ゼリー 3gおよび全粥 3g嚥下時に,未装着時より 10 mm装着時が有意に高かった.また,下咽頭部最大内圧は,ゼリー 3g嚥下時に, PAP未装着より 10 mmが有意に低かった.全粥 3g嚥下時に, PAP未装着より 2 mmが有意に低く,また PAP未装着より 10 mmが有意に低かった.【結論】舌接触補助床の厚みの違いが咽頭内圧に及ぼす影響を,健常成人を対象に HRMを用いて評価した.健常成人では, 10 mmという厚みのある舌接触補助床は舌根部や下咽頭部の最大内圧に影響を与えることが推測された.

短報
  • 大森 政美, 長神 康雄, 橋木 里実, 川西 美輝, 神代 美里, 中川 英紀, 力久 真梨子, 加藤 達治
    2018 年22 巻1 号 p. 37-45
    発行日: 2018/04/30
    公開日: 2019/03/07
    ジャーナル フリー

    【目的】 摂食嚥下障害は,高齢者によく認められ誤嚥性肺炎を引き起こすといわれている. VFや VEは摂食嚥下障害の診断に最もよい検査法であるが,高齢者肺炎患者においては認知症や全身状態から必ずしも実施できない. The Mann Assessment of Swallowing Ability(MASA)は, 2002年にアメリカで開発された初発の脳卒中患者の摂食嚥下機能評価法である.この研究の目的は,高齢者肺炎患者に対する MASAの摂食嚥下機能評価法としての有用性の検討である.【対象と方法】 この研究は前向き研究であり, 2014年 12月から 2015年 6月までに入院した 153例の肺炎患者(平均年齢 85.4±9.9歳)を対象に,入院 3日以内に MASAを施行した.評価項目は,経口摂取の有無と 30日以内肺炎再発とした.【結果】 経口摂取群と非経口摂取群,肺炎再発なし群と肺炎再発群の平均 MASAスコアには有意な差を認めた(p< 0.001). ROC曲線を用いて AUCを計算したところ, MASAスコアと経口摂取・肺炎再発の AUCは 0.87・ 0.76であった.経口摂取,肺炎再発のカットオフ値は 113点と 139点であった.多変量解析では, MASAスコアは肺炎再発の独立した危険因子であった.【結論】  MASAは高齢者肺炎患者の摂食嚥下機能評価法として有用であった.

症例報告
  • ―臨床倫理カンファレンスを行った 1症例―
    岡本 圭史, 金沢 英哲, 北條 京子, 藤島 一郎
    2018 年22 巻1 号 p. 46-51
    発行日: 2018/04/30
    公開日: 2019/03/07
    ジャーナル フリー

    摂食嚥下障害治療を取り巻く倫理的問題はさまざまで,対応に悩まされることがある.今回, 4分割表を用いた臨床倫理カンファレンスを実践した結果,方針決定に結びついた重度摂食嚥下障害の症例を報告する.症例は 87歳男性.診断名は反復性誤嚥性肺炎.全身状態不良で 3食経口摂取は困難であったが,本人は間欠的口腔胃経管栄養法(IOE法)以外の経管栄養を強く拒否した.その後, 1食のみ経口摂取可能となったが,高い誤嚥リスクがあり高度な技術をもった介助者のマンパワーが不足し, 3食経口摂取は困難で補助栄養が必須と思われた.患者からは「座って普通のご飯を食べて家に帰りたい」との訴えがあり,方針決定に難渋した.そこで, 4分割表を用いた臨床倫理カンファレンスを開催したところ,複数の倫理的ジレンマがあることにチームスタッフが気づくことができた.本人の「食べたい」という意向を最大限に尊重しながら, 1食経口摂取を継続するという方針となった.その結果,徐々に本人の気持ちに変化を認め,最終的には補助栄養として皮下埋込み型中心静脈ポート(CVポート)を選択し,療養型病院へ転院となった.臨床倫理カンファレンスを行ったことで,医療者本位の方針決定ではなく,患者の意思を最大限に尊重しながら推進することができた.臨床倫理カンファレンスで重要なことは,皆がその結論に納得できるプロセスとコンセンサスであると考える.

  • 杉下 周平, 今井 教仁, 福永 真哉, 松井 利浩
    2018 年22 巻1 号 p. 52-58
    発行日: 2018/04/30
    公開日: 2019/03/07
    ジャーナル フリー

    【緒言】干渉波電気刺激療法(interferential current stimulation: IFC)では,嚥下反射を促進させる効果が期待されている.今回,嚥下反射の遅延と舌骨上筋群および咽頭筋群の筋力低下をきたした嚥下障害患者に,直接訓練と IFCを併用した訓練を行い良好な結果が得られたので報告する.【症例】 78歳女性のパーキンソン症候群の患者である.初診時の嚥下スクリーニングテストは正常範囲であったが,嚥下造影(VF)では液体嚥下で嚥下前誤嚥を認め, Penetration - Aspiration Scale(PAS)は 6,固形物の嚥下では咽頭残留を認めた.最大舌圧は低下していた.【経過】外来通院にて摂食嚥下訓練を行った.まず,舌抵抗訓練と冷圧刺激法に直接訓練を併用した訓練(従来訓練)を 8週間行った.従来訓練により最大舌圧は増加したが, VFでの PASや咽頭残留には改善はみられなかった. 2週間の訓練休止後に,直接訓練に IFCを併用した訓練(干渉波訓練)を 2週間行った.干渉波訓練により最大舌圧には変化はなかったが, VFでは PASは 1に改善,咽頭残留は消失した.  VF画像を用いた液体嚥下の定量解析では,嚥下反射の指標である STD, LEDTは従来訓練では変化はなかったが,干渉波訓練後には短縮していた.舌骨前方移動距離は従来訓練後,干渉波訓練後にそれぞれ増大した.舌骨挙上速度は従来訓練では変化はなく,干渉波訓練後に増大した.【考察】直接訓練に IFCを併用した訓練法は,舌骨の運動機能を向上させ,嚥下反射の遅延を改善することで嚥下障害を改善させた.直接訓練と IFCの併用は,嚥下反射が遅延した嚥下障害患者の訓練として有用であると思われる.

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