日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
3 巻, 2 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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総説論文
原著
  • ―発生原因と嚥下障害―
    高野 真, 青木 信生, 川本 未知, 高塚 勝哉, 吉川 信嘉, 川村 純一郎
    1999 年 3 巻 2 号 p. 10-15
    発行日: 1999/12/30
    公開日: 2019/06/06
    ジャーナル フリー

    MRIで病巣が確認された延髄外側梗塞10例(男性7例,女性3例,平均年齢58.3歳)において,その発生原因と嚥下障害について検討した.発生原因は血栓症が6例,椎骨動脈解離が4例であった.椎骨動脈解離例は脳梗塞危険因子の合併が少なく,発症年齢も低かった.延髄外側梗塞の原因として椎骨動脈解離の多いことが,延髄外側梗塞では若年発症で再発が少ないことの原因と考えられた.嚥下障害に関しては,嚥下障害なしが2例,軽症が4例,嚥下障害遷延例が4例であった.2例は経管栄養にて退院した.嚥下障害が最も重度であった1例では発症後4カ月を要したが,保存的治療のみで経口摂取可能となった.全例,日常生活は自立,自力歩行可能であった.嚥下障害遷延例の4例は全て延髄外側の内側部を病巣に含んでいた.また,嚥下障害遷延例4例のうち3例が椎骨動脈解離であった.嚥下障害が重度な場合,椎骨動脈解離の可能性が高いことが示唆された.椎骨動脈解離では頭頚部の安静は厳重になされるべきであり,延髄外側梗塞ではリハビリテーションも含め,病因に基づいた治療を行うことが必要である.

  • 道脇 幸博, 衣松 令恵, 横山 美加, 道 健一, 大越 ひろ, 高橋 智子
    1999 年 3 巻 2 号 p. 16-20
    発行日: 1999/12/30
    公開日: 2019/06/06
    ジャーナル フリー

    食品の物性に影響する因子として圧縮方法,プランジャーの形態,クリアランスなどが指摘されているが,圧縮速度による物性の変化に関する検討は少ない.そこで現状の測定機器の最高速度と最低速度による破断特性の変化を検討した.その結果,破断応力では5食品すべて,破断ひずみ率では5食品中2食品,初期弾性率では1食品について統計学的な有意差をもって,それぞれの値が異なっていた.したがって圧縮速度は食品の物性値を大きく変えることが明らかとなった.またヒトの咀嚼運動速度は測定機器の速度の約10倍であるため,現状で示されている食品の物性とヒトが咀嚼運動時に感じている食品の物性とは大きく異なることが明らかとなった.そのため咀嚼運動と食品の物性との関連を検討する場合には,ヒトの咀嚼運動に近似した測定条件を持つ機器での物性の測定とそれに基づく食品分類が必要と考えられた.

臨床報告
  • 大熊 るり, 藤島 一郎, 武原 格, 水口 文, 小島 千枝子, 柴本 勇, 北條 京子, 新居 素子, 前田 広士, 宮野 佐年
    1999 年 3 巻 2 号 p. 21-27
    発行日: 1999/12/30
    公開日: 2019/06/06
    ジャーナル フリー

    【目的】梨状窩の形状に個人差があることに注目し,誤嚥との関連について,内視鏡的嚥下検査(VE)および嚥下造影(VF)所見を用いて検討した.【対象・方法】1997年4月~98年3月の1年間にVFおよびVEを行った患者82名のうち,VFにて明らかな嚥下反射の遅延または造影剤の著明な梨状窩への残留を認めた31名(球麻痺14名,仮性球麻痺17名)を対象とした.内視鏡を経鼻的に挿入して梨状窩を観察し,録画したものを計測した.咽頭後壁正中部から梨状窩の外側端までの距離が最大となる距離を長径,長径と直交する形で梨状窩の内側縁と外側縁の間隔が最大となる距離を短径とし,短径/長径の値を求めた.この値が大きいほど梨状窩の幅が広いことを示し,小さいほど幅が狭いことを示す.【結果】披裂喉頭蓋皺襞の腫脹が著明な症例が6名あり,これらは最も梨状窩の幅が狭い症例とも考えられたが,計測困難なため比較の対象からは除外した.また梨状窩の形状に左右差が認められる症例が9名あった.短径/長径の値について,VF所見上の誤嚥あり群(14名)と誤嚥なし群(11名)とで比較した.左右差のある場合は値の大きい側を用いて比較すると,誤嚥あり群では平均0.296,なし群では0.370と,誤嚥なし群で有意に値が大きかった(p<0.05).すなわち,誤嚥のない症例は誤嚥のある症例と比べて梨状窩の幅が広いと考えられた.【考察】梨状窩の幅が広いと,嚥下反射の遅れや嚥下後の咽頭残留があっても,梨状窩に食塊が貯留できるスペースがあるため,気道への流入を防ぐのに有利と思われた.梨状窩の形状に個人差がある原因として,一つには生来の個体差が挙げられるが,咽喉頭粘膜,特に披裂部の腫脹が大きく影響していると思われた.内視鏡で梨状窩の形状を観察することは,誤嚥の危険性を予測する上で有用であると考えられた.

  • ―口腔・咽頭領域腫瘍切除後の患者への応用―
    綾野 理加, 渡辺 聡, 向井 美惠
    1999 年 3 巻 2 号 p. 28-35
    発行日: 1999/12/30
    公開日: 2019/06/06
    ジャーナル フリー

    近年,摂食・嚥下機能の診断・評価法として,VF検査が多く行われている.しかしながら,VF検査の結果から摂食・嚥下運動動態や,機能の回復程度を検討した報告は散見するのみである.今回,口腔・咽頭領域の腫瘍摘出後患者におけるVF検査から得られるビデオ画像から,運動動態を時系列再構築像として描出し,摂食・嚥下機能動態を客観的に評価する方法を試みた.口腔・咽頭領域の腫瘍摘出後患者3症例に対するVF検査から得られたビデオ画像を用い,舌,喉頭蓋の嚥下時の運動動態を時系列画像解析システムにて再構築像として描出,解析した.トレース後の時系列再構築像を各部位の運動動態が明確に観察できるよう,舌運動はトレース像を37度,喉頭蓋運動はトレース像を8度シフトさせた再構築像を描記した.摂食・嚥下機能訓練前後において3症例それぞれの舌,喉頭蓋の運動動態の改善が定量的,定性的に評価し得た.摂食・嚥下機能訓練前後の各部位の運動動態を客観的に評価する上で,ビデオ画像を時系列再構築化する本システムは有効な方法であると考えられた.また,軟組織の摂食・嚥下運動に伴うその形態が変化していく様子を観察,評価するのに適したシステムとも考えられた.

研究報告
  • 高橋 肇, 宮岡 洋三, 新井 映子, 山田 好秋
    1999 年 3 巻 2 号 p. 36-46
    発行日: 1999/12/30
    公開日: 2019/06/06
    ジャーナル フリー

    嚥下困難者用の粥(以後開発粥)を開発し,その実用性を調べる目的で,全粥(精白米として約20%含有)ならびに市販5分粥(精白米として約10%含有)を対照として物性測定と官能評価結果を比較した.官能評価は,若年健常者を対象として,60℃に加温した3種の粥を各50gずつ材料として調査に供した.調査は2回実施し,第1回に参加した38名の内,35名が第2回の調査にも加わった.また,6名の嚥下困難者を対象とした調査も行った. 物性測定(20℃)の結果,開発粥の硬さは(0.30±0.01)×103N/m2であり,全粥の(6.62±0.32)×103N/m2と市販5分粥の(0.44±0.02)×103N/m2に比べ,有意に小さい値となった.付着性については全粥の(104.08±3.73)×10J/m3,市販5分粥の(7.53±0.49)×10J/m3に比べ,開発粥は(1.55±0.15)×10J/m3であり,有意に小さい値となった.また開発粥の凝i集性は0.52±0.02となり,全粥の0.62±0.01に比べて有意に小さかったが,市販5分粥の0.30±0.04に比べて有意に大きい値となった.また供食時の粥温度に近い55℃における測定でも,開発粥と全野の凝集性に有意な差が認められなくなった以外は,ほぼ同様の傾向であった. 若年健常者による官能評価の結果,開発粥は市販5分粥に比べ,視覚的印象,触覚的印象,味覚的印象で有意に評価が低かったが,嚥下困難度,口中での残存感については有意な差がなかった。また開発粥は全粥に比べ,触覚的印象,のど越し,おいしさ,嚥下困難度,口中での残存感で有意に評価が高かった.さらに嚥下困難者では,開発粥が全粥ならびに市販5分粥よりのみ込みやすく,口中に残存しにくいと評価された.物性測定と官能評価の結果を総合すると,今回開発した嚥下困難者用の粥は,のみ込みやすい食品であるとともに,通常の粥と変わらないおいしさであることが示唆された.

臨床ヒント
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