嚥下困難者用の粥(以後開発粥)を開発し,その実用性を調べる目的で,全粥(精白米として約20%含有)ならびに市販5分粥(精白米として約10%含有)を対照として物性測定と官能評価結果を比較した.官能評価は,若年健常者を対象として,60℃に加温した3種の粥を各50gずつ材料として調査に供した.調査は2回実施し,第1回に参加した38名の内,35名が第2回の調査にも加わった.また,6名の嚥下困難者を対象とした調査も行った. 物性測定(20℃)の結果,開発粥の硬さは(0.30±0.01)×103N/m2であり,全粥の(6.62±0.32)×103N/m2と市販5分粥の(0.44±0.02)×103N/m2に比べ,有意に小さい値となった.付着性については全粥の(104.08±3.73)×10J/m3,市販5分粥の(7.53±0.49)×10J/m3に比べ,開発粥は(1.55±0.15)×10J/m3であり,有意に小さい値となった.また開発粥の凝i集性は0.52±0.02となり,全粥の0.62±0.01に比べて有意に小さかったが,市販5分粥の0.30±0.04に比べて有意に大きい値となった.また供食時の粥温度に近い55℃における測定でも,開発粥と全野の凝集性に有意な差が認められなくなった以外は,ほぼ同様の傾向であった. 若年健常者による官能評価の結果,開発粥は市販5分粥に比べ,視覚的印象,触覚的印象,味覚的印象で有意に評価が低かったが,嚥下困難度,口中での残存感については有意な差がなかった。また開発粥は全粥に比べ,触覚的印象,のど越し,おいしさ,嚥下困難度,口中での残存感で有意に評価が高かった.さらに嚥下困難者では,開発粥が全粥ならびに市販5分粥よりのみ込みやすく,口中に残存しにくいと評価された.物性測定と官能評価の結果を総合すると,今回開発した嚥下困難者用の粥は,のみ込みやすい食品であるとともに,通常の粥と変わらないおいしさであることが示唆された.
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