日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
24 巻, 2 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
原著
  • 井上 宜充, 日原 未来, 高野 美恵, 杉田 飛鳥, 田島 美咲, 山口 彩子
    2020 年 24 巻 2 号 p. 113-120
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は,急性期病院に入院した高齢循環器疾患患者を対象として摂食嚥下機能と自宅退院の可否の関連を検討することである.

    【方法】自宅退院群は68例,自宅退院不可群19例であった.本研究のデザインは後方視的コホート研究とし,自宅退院可否に影響を与えると考えられる要因として年齢(≧ 75 歳 or <75)・嚥下性肺炎入院既往有無・同居家族有無・入院前食形態・入院前食事介助有無・認知症有無・ST 介入時改訂水飲みテスト(MWST: 0~3 or 4 ≦)・ST 介入時反復唾液嚥下テスト(RSST: 0~2 or 3 ≦)・ST 介入時摂食嚥下グレード(摂食嚥下Gr <7 or 7 ≦)・ST介入時摂食状況レベル(摂食状況Lv < 7 or 7 ≦)ごとにリスク比を算出し,各要因の特性を分析した.

    【結果】統計学的検定により有意性が示された自宅退院不可となる要因のリスク比(95%CI)は「年齢≧75 歳」8.5(1.2~60.8),「ST 開始時摂食嚥下グレード< 7」3.0(0.9~9.4),「認知症有」2.8(1.2~6.1)の3 要因であった.

    【結論】複数ある嚥下機能の指標のうち,摂食嚥下グレードだけが自宅退院可否のための独立した要因として検出されたことは,興味深い結果となった.摂食嚥下Gr は「食べることができる」能力を評価する.摂食嚥下Gr という能力水準の評価が自宅退院可否の要因として検出されたのは,嚥下機能・能力に関する総合的な評価指標であることが一因となっている可能性がある.これらの要因を考慮して,退院調整を入院早期から実施することで円滑な退院調整が可能になるものと考えた.

  • 田澤 悠, 村上 健, 堀口 利之
    2020 年 24 巻 2 号 p. 121-129
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    【目的】 近年,COPD の増悪に誤嚥が関与していることが明らかになってきている.今後の課題はCOPD 増悪の予防であり,呼吸機能や嚥下機能が具体的にどのようにCOPD の増悪に関わっているのかについて知ることが重要であると考えられる.今回,外来通院中のCOPD 患者を対象に,呼吸機能に加え嚥下機能に関する評価を行い,それらが過去の増悪歴の有無を有意に反映するかどうかを検討した.

    【方法】 対象は,外来通院中のCOPD 24 名(男性22 名,女性2 名)とした.増悪と診断されて入院の適応となった既往を増悪歴有りとすると,増悪歴が有ったのは11 名,無かったのは13名であった.MASAから抜粋した項目を評価した.嚥下造影検査により10 mL の液体嚥下での喉頭侵入/ 誤嚥の有無を調べ,スパイロメトリーでは特に努力肺活量(FVC),1 秒量(FEV1),対標準1 秒量(%FEV1),最大呼気流量(PEF)などを検討項目とした.次いで各々の項目に対し増悪歴の有無を最も効率的に分類できる最適cutoff値(co)を求め,各評価項目および測定値と増悪歴との関係を検討した.解析にはFisher の正確確率検定あるいはχ2 検定を用い,各々の項目の2 群と増悪歴に有意な関係を認めるかどうかを検討した.

    【結果】 増悪歴と有意な関係を認めたのは%FEV1(co: 42.0%, p=0.033)であった.一方,MASA, FVC,PEF は,増悪歴と有意な関係を認めなかった.

    【考察】 MASA は,嚥下機能低下が顕在化するに至っていない本研究の対象者において増悪歴を反映しないものと考えられた.PEF が有意ではなかったにもかかわらず%FEV1 が有意であったことは,PEF が瞬間的な呼気流速を反映するのに対し,%FEV1 は呼気流速に加え呼気流量も反映するためで,すなわち誤嚥に対する下気道防御においては,呼気流速に加え呼気流量も重要であることを示したと考えられた.

  • 渡邊 英美, 床井 多恵, 辻 秀治, 志藤 良子, 若林 悠, 阿部 杏佳, 石井 真帆, 三原 彩, 栢下 淳, 小切間 美保
    2020 年 24 巻 2 号 p. 130-142
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    【目的】日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013(学会分類2013)によって,病院や高齢者施設における嚥下調整食の段階の共通化が進んでいる.しかしながら,食事形態の説明が文言のみで物性値が示されていないため,特にコード3 や4 で人によって解釈が異なることがある.嚥下調整食分類をさらに発展させるためには,不均質な食品の物性測定方法の確立が必要である.本研究では,コード4 に基づいて調理された嚥下調整食のかたさを測定し,その目安を示すことを試みた.

    【方法】京都市内の介護老人保健施設の27 日間の昼食で提供した軟菜食(学会分類2013 コード外)の主菜および副菜中の199 食材とやわらか食(コード4 相当)の主菜および副菜中の156 食材を試料とした.施設で提供した嚥下調整食は,言語聴覚士,管理栄養士および調理師が学会分類2013 のコードに適応しているか否かを検討して提供可能と判断したものであった.やわらか食の喫食者は主に咀嚼機能が低下した利用者であった.使用食材を嚥下調整食の中から取り出してクリープメータRE2-3305C(山電)の試料台に置き,直径5 mm のプランジャーを用いて測定速度1 mm/s,試料温度20℃で破断測定を実施した.歪率0~90% における最大値をかたさとした.1 食材につき5 サンプルを測定して平均値を算出した.

    【結果】やわらか食では156食材のうち150食材(96%)でかたさは200 kPa 未満であったのに対して,軟菜食は199食材中81食材(40%)のかたさが200 kPa 以上であった.本研究のかたさ測定方法により,やわらか食と軟菜食のかたさの違いを評価できた.比較のために測定したユニバーサルデザインフードの歯ぐきでつぶせる(コード4 相当)に区分される商品に含まれる食材のうち,にんじんやじゃがいものかたさは200 kPa 未満であったが,しいたけや肉類は200 kPa 以上となった.

    【結論】この物性測定方法はコード4 に相当する嚥下調整食の新たなかたさ評価方法となる可能性が示唆された.

  • 藤本 淳平, 中村 達也, 岸 さおり, 稲田 穣, 上石 晶子
    2020 年 24 巻 2 号 p. 143-152
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    【目的】重度の知的能力障害をともなった痙直型脳性麻痺児者の咽頭期嚥下における下顎,舌骨,そして舌の動態および咽頭残留を健常成人と比較することにより,痙直型脳性麻痺児者における咽頭期嚥下の動態と嚥下後咽頭残留の関係性を探ることを目的とした.

    【対象および方法】健常成人24 名(健常群)と重度の知的能力障害をともなった痙直型脳性麻痺児者22名(障害群)のペースト食品3–5 mL の嚥下を嚥下造影検査(VF)を用いて撮影し,30 フレーム/ 秒で動画記録した.画像上に第二頸椎および第四頸椎を結んだ線分を基準線とする座標系を設定し,フレームごとにオトガイ結節,舌骨体の上端と下端を結んだ直線の中間点,上顎中切歯舌側歯頸部最下点と喉頭蓋谷最下点を結ぶ直線の中心から放射状に8 等分した直線と舌表面の交点の座標位置を追尾することで,下顎と舌骨の運動方向ごとの移動距離および舌と口蓋および咽頭後壁の接触時間を測定した.さらに,舌骨運動終了後の咽頭残留を喉頭蓋谷領域と梨状陥凹領域に分け,測定した.そして,咽頭残留の領域ごとに健常成人の平均値の95% 信頼区間上限値を基準値とし,基準値以上を残留あり群,基準値未満を健常範囲群と群分けし,測定結果を群間比較した.さらに,領域ごとの嚥下後残留と各測定項目との相関係数を算出した.

    【結果および考察】障害群では全般的に下顎の下制距離が大きく,舌前方–口蓋接触時間が短かった.そして,咽頭残留の部位によらず,残留あり群では健常群よりも舌骨の前方移動距離および舌後方–口蓋接触時間が短く,舌根–咽頭後壁接触時間が長かった.喉頭蓋谷の咽頭残留は下顎の下制距離との間に有意な偏相関を認め,梨状陥凹の咽頭残留は舌骨の前方移動距離との間に有意な偏相関を認めた.嚥下中の下顎の下制は舌運動に影響を与え,喉頭蓋の反転運動および舌根と咽頭後壁の接触を不十分にした可能性が考えられ,舌骨の前方移動距離の不足の要因としては,頭頸部の異常緊張や下顎の下制の影響によるオトガイ舌骨筋の収縮不全が考えられた.

    【結論】重度の知的能力障害をともなった痙直型脳性麻痺児者においては,喉頭蓋谷の残留は下顎の下制距離と強い関連があり,梨状陥凹の残留は舌骨の前方移動距離の短縮と強い関連がある可能性があった.

  • 片桐 啓之
    2020 年 24 巻 2 号 p. 153-161
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    【目的】急性期病院では,疾患の治療のための一時的な絶食や,摂食嚥下機能低下による咀嚼を伴わない嚥下調整食を食べることで,咀嚼機能の廃用リスクがある.生活期でも咀嚼を伴わない嚥下調整食を食べることによる咀嚼筋の筋萎縮や,サルコペニアなど,様々な要因が咀嚼機能の低下となる.そこで,氷を咀嚼訓練に用いることで,咀嚼機能の改善を図れないか考えた.本研究では,患者・利用者に氷を4週間咀嚼してもらい,訓練効果について検討した.

    【対象と方法】治療を終え病態が安定し,認知機能は保たれ,栄養摂取方法は経口のみで,咀嚼力の低下がみられた患者を対象とした.介入群19 名(男性13 名,女性6 名,平均年齢78.8±13.6 歳),対照群11名(男性3 名,女性8 名,平均年齢83.6±8.9 歳)に分け,訓練前後で,咀嚼力測定用ガム,咀嚼能力測定用グミゼリー,咀嚼運動時の外部評価で評価を行った.介入群は1回の訓練で10個の氷(1.5~2 mL)の咀嚼を行った.1日,2回(午前・午後)週5回を4週間実施させた.対照群は,初回評価から4 週間後に再評価を行った.

    【結果】介入群の咀嚼力測定用ガム,咀嚼能力測定用グミゼリー,咀嚼運動時の外部評価で有意な改善を認めた.対照群はすべての項目で有意差は認められなかった.

    【考察】氷の咀嚼訓練を実施した介入群の咀嚼力測定用ガム,咀嚼能力測定用グミゼリー,咀嚼運動時の外部評価で有意な改善がみられ,対照群は咀嚼機能に変化がみられなかったことから,氷の咀嚼訓練による効果であると考えられる.氷を咀嚼訓練に用いることで,咀嚼機能の改善ができると考えた.

  • 村上 清司, 爲数 哲司, 野村 由輝子, 藤野 泰祐
    2020 年 24 巻 2 号 p. 162-169
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    【緒言】本邦は,急速に高齢化社会を迎え,今後も摂食嚥下障害患者が増加していくことが予測される.嚥下障害治療の第一選択はリハビリテーションであるが,臨床現場では十分な効果が得られないことも多く経験する.本研究の目的は,経頭蓋直流電気刺激(transcranial Direct Current Stimulation: tDCS)によって,摂食嚥下にとって重要な舌運動機能の向上が得られるか否かを検討することである.

    【対象】健常成人20 名(男性5 名,女性15 名,平均年齢39.7±11.9 歳)とした.

    【方法】陽極刺激(1.5 mA,10 分間,5 回)と偽性刺激(0 mA,10 分間,5 回)を4 週の間隔を空けてランダムに割り付け,対象者がどちらの刺激を受けているかわからないように盲検化した.刺激中は,舌等尺性収縮訓練とオーラルディアドコキネシスを実施した.

    【結果】陽極刺激で最大舌圧の向上と,反復唾液嚥下テスト(Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST)にて嚥下回数の有意な増加を認めた.また,偽性刺激においては,有意な差を認めなかった.

    【結論】今回の研究で,最大舌圧の向上とRSST にて嚥下回数が増加することを明らかにした.tDCS が舌運動機能の向上に有効であることが示唆された.

短報
  • 伊藤 加代子, 前川 知樹, 濃野 要, 井上 誠
    2020 年 24 巻 2 号 p. 170-176
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    【目的】舌ブラシには,歯ブラシのような植毛タイプや,アーチワイヤー状のタイプ,細かいループ状のナイロン毛が植毛されたナイロンブラシタイプなどいろいろな形状がある.ナイロンブラシは舌苔が厚い場合に有効である一方,使用後に水洗をしても汚れが落ちにくかったり,細菌が繁殖しやすくなったりする恐れがある.そこで,ナイロン毛のループ部分をカットしたブラシを作製し,細菌の除去効果を従来のブラシと比較した.さらに,流水下での洗浄によるブラシに付着した細菌の残留について比較した.

    【方法】ナイロン毛がループ状になっているループブラシ(W-1 ブラシ,SHIKIEN)と,ループ部の一部をカットしたループカットブラシを使用した.各ブラシでBHI 寒天培地上に播種したS. aureus を擦過し,除去した細菌数を比較した.また,洗浄方法を検討するため,洗浄なし,手でブラシを擦らず流水下に10 秒おいたブラシ,流水下でブラシを0,5,10,30 秒擦ったブラシに付着していた細菌数を比較した.

    【結果】ループブラシおよびループカットブラシで除去した細菌数の中央値はそれぞれ2.0×1011 cfu/mL,2.1×1011 cfu/mL で,統計学的有意差は認められず,細菌の除去能力は同等であった.また,ループブラシ,ループカットブラシのいずれも,洗浄前と比較して,5,10,30 秒の手洗いで有意に付着細菌数が減少していた.特にループカットブラシでは,5 秒時に99.9% 細菌数が減少し,10 秒時にはさらに減少していた.10 秒時と30 秒時では統計学的有意差は認められなかった.したがって,ループカットブラシは,ループブラシと同様な細菌除去効果をもちながらも,洗浄後に付着している細菌数が少なく,感染源となる可能性が低いこと,また,5 秒間の流水下での洗浄で99.9% の細菌が除去できる可能性があることが示された.

  • 井坂 恵, 市村 久美子, 安川 揚子
    2020 年 24 巻 2 号 p. 177-183
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究は,経口摂取が困難となった高齢者とその家族の胃瘻造設検討時における,摂食・嚥下障害看護認定看護師(以下,CN)による意思決定支援の現状を明らかにすることを目的とした.

    【対象および方法】対象は,CN として3 年以上の臨床経験を有し,高齢者の胃瘻造設を検討する場面に関わったことがあり,同意の得られた4 名であった.2017 年8~12 月にかけて半構成的面接法を行い,内容分析を用いて質的帰納的に分析した.

    【結果】研究協力者の看護師としての平均経験年数は20.0±5.2 年,CN としての経験年数は6.8±2.2 年であった.研究協力者の語りから,321のコード,37のサブカテゴリー,11のカテゴリーが抽出された.さらに,そこから次の3 つのコアカテゴリーが抽出された.経口摂取が困難となった高齢者とその家族の胃瘻造設検討時において,≪経口摂取の可能性と胃瘻造設を巡る退院後の生活まで見据えた専門的支援≫,≪選択から意思決定後まで揺れ動く高齢者とその家族の気持ちに寄り添った支援≫を行っていた.また,高齢者にとって最善な選択であったかどうか葛藤を抱きながらも,≪高齢者にとって最善な選択へ導こうとする信念≫を抱き支援していた.

    【考察】過去の高齢者の意思を考慮しつつ,今なら何を望むのかについて,家族と医療者が話し合いを積み重ね,納得のいく着地点を見つけていくことが重要であると考える.それと同時に,今後の家族の負担も見据えた支援を行っていく必要がある.

    【結論】CN は高齢者にとって胃瘻造設が最善な選択であったかどうかという葛藤を抱きながらも,高齢者の食べたいという思いを大切にし,専門性や実践知を駆使した意思決定支援を行っていた.

  • 金原 寛子, 塚谷 才明, 小林 沙織, 山本 美穂, 酒井 尚美, 長東 菜穂, 小森 岳, 岡部 克彦, 赤田 巧子, 高塚 茂行
    2020 年 24 巻 2 号 p. 184-193
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    【目的】嚥下機能を低下させる可能性がある薬剤は数多く存在する.一方で,必要とされる薬剤が嚥下障害により服用できず,本来期待される薬効が十分に得られないこともある.本研究では,当院嚥下サポートチームで症例検討を行った患者への薬剤に関する提案内容を解析し,嚥下サポートチームにおける薬剤師の役割について報告する.

    【方法】20XX年4月から20XX+3年3月の期間,嚥下サポートチームにて症例検討を行った患者において,薬剤の使用状況,薬剤に関する提案内容と介入の有無,介入前後での嚥下障害の重症度について後方視的に検討した.

    【結果】対象患者51 名(年齢の中央値82 歳)のうち42 名(82%)が,嚥下機能を低下させる可能性のある薬剤を使用していた.嚥下機能を低下させる可能性のある薬剤では睡眠薬,抗精神病薬が,嚥下機能に良い影響を与える可能性のある薬剤ではACE阻害薬が多かった.薬剤に関する提案を29 名に行い25 名に介入した.提案は嚥下機能を低下させる可能性のある薬剤の中止や減量を10 名に,服薬方法の変更を9名に,嚥下機能に良い影響を与える可能性のある薬剤の追加を7 名に行った.薬学的介入ができた25 名の摂食状況のレベルの平均値は介入前4.5,退院時5.9 であり,1.4 の改善であった.薬学的介入を行っていない26 名の摂食状況レベルの平均値は,介入前5.1,退院時6.3 と1.2 の改善で薬学的介入群と有意差を認めなかった.

    【結論】嚥下機能を低下させる可能性のある薬剤を使用している患者の割合は非常に高く,薬剤に関する提案を半数以上の患者に行った.薬剤師は薬の専門家として嚥下機能を低下させる可能性のある薬剤の抽出,代替薬の提案,安全で確実な服薬を支援することが望まれる.

症例報告
  • ─高解像度マノメトリーを含めた検討─
    田矢 理子, 青柳 陽一郎, 小川 真央, 溝越 恵里子, 蛭牟田 誠, 大橋 美穂
    2020 年 24 巻 2 号 p. 194-201
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/12/31
    ジャーナル フリー

    【緒言】水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化で生じるRamsay Hunt 症候群における嚥下機能評価,摂食嚥下リハビリテーションの報告は少ない.Ramsay Hunt 症候群が原因と考えられた嚥下障害患者を3例経験したので報告する.

    【症例1】70 歳代男性.咽頭痛,嚥下困難,嗄声にて発症.嚥下内視鏡検査(videoendoscopic examination of swallowing: VE)では左声帯麻痺が,嚥下造影検査(videofluorography: VF)では咽頭収縮不良,多量の梨状窩残留,上部食道括約筋部(upper esophageal sphincter: UES)通過障害,不顕性誤嚥がみられた.高解像度マノメトリー(high-resolution manometry: HRM)では嚥下時の咽頭内圧の低下,安静時UES 圧の低下と,健側UES 直下の圧上昇を認めた.左舌咽・迷走神経障害と診断し,頭部健側回旋位で直接訓練を実施した.

    【症例2】70 歳代女性.咽頭痛,嚥下困難,嗄声,右耳介皮疹にて発症.VE では右軟口蓋・声帯麻痺が,VF では咽頭収縮不良,多量の梨状窩残留あり.HRM では嚥下時咽頭内圧の低下と患側の安静時UES 圧の軽度低下を認めた.右舌咽・迷走神経障害と診断した.頭部正中位で3 食経口摂取が可能であった.

    【症例3】60 歳代男性.右後頸部痛,嗄声,嚥下障害にて発症.右軟口蓋・声帯麻痺があり,VF では多量の梨状窩残留を認めた.HRM では嚥下時の咽頭内圧低下と安静時のUES 圧低下を認め,頭部患側回旋位で上咽頭内圧が上昇した.右舌咽・迷走・副神経障害と診断した.頭部患側回旋位で3 食経口摂取が可能であった.

    【考察】共通所見として,患側声帯麻痺,咽頭収縮不良,梨状窩残留があり,HRM では嚥下時の咽頭内圧低下と患側の安静時UES 圧低下を認めた.Nadir UES 圧(UES 最大弛緩圧)やUES 弛緩時間は正常範囲であった.Ramsay Hunt 症候群の嚥下障害の生理的評価と摂食嚥下リハビリテーションの方針決定に,VF とHRM が有用であった.

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