日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
25 巻, 1 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著
  • ―舌圧強度の点から―
    佐藤 豊展, 近藤 健男, 柴本 勇, 出江 紳一
    2021 年25 巻1 号 p. 3-10
    発行日: 2021/04/30
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】舌挙上は舌骨上筋群の筋力を強化する訓練として適用されることが報告されている.筋力を強化する際,運動負荷量を適切に設定する必要があるが,舌骨上筋群の筋力を強化するための舌圧の強度は明らかになってはいない.そこで本研究は,健常若年者と健常高齢者を対象に,1)舌圧と舌骨上筋群の筋活動の関連性,2)舌骨上筋群を筋力強化するための舌圧強度について明らかにすることを目的に行った.

    【方法】対象は健常若年者15 名(27.1±2.6 歳,平均±標準偏差;以下同様),健常高齢者12 名(76.0±3.0 歳)とした.測定課題は頭部挙上と舌挙上の全6 課題とした.舌挙上は最大舌圧,舌圧80%,舌圧60%,舌圧40%,舌圧20%の5 課題を行った.測定装置は舌圧測定器と表面筋電図を使用した.被験筋は舌骨上筋群とした.統計解析は舌圧と舌骨上筋群の筋活動の関連についてピアソンの積率相関係数を行った.また,舌骨上筋群を筋力強化するための舌圧強度について,線形単回帰分析を行った.

    【結果】健常若年群と健常高齢群ともに,舌圧と舌骨上筋群の筋活動に強い正の相関を認めた.健常若年者では65%,健常高齢者では50% の強度で舌圧発揮を行うと,頭部挙上時の舌骨上筋群の筋活動と同程度の筋活動が得られた.

    【考察】健常高齢者において,50% の強度で舌圧発揮を行うと,舌骨上筋群の筋力を強化できる可能性が示唆された.今後,持続時間や頻度などの運動負荷量,舌前方部や舌後方部などの位置について検討が必要と考えられる.

  • ―口腔知覚判定研究用キットDF8 を用いた検討―
    新井 慎, 立石 雅子, 寺中 智, 藤谷 順子
    2021 年25 巻1 号 p. 11-21
    発行日: 2021/04/30
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    【緒言】摂食嚥下において,口腔内感覚は食塊の形状認知や移送,円滑な咀嚼などにおいて重要な役割を果たすとされている.視覚的情報を遮断し,口腔内に入れたピースの形状を識別する口腔立体認知も口腔内感覚の一つであるが,先行研究に用いられたピースの材質や種類,方法などが一定ではなかった.国内では10 種の形状テストピース(以下,TP)で構成された口腔知覚判定研究用キットDF8(以下,DF8)が開発されていたが,このキットを用いて口腔立体認知を検討した報告はなかった.本研究では,DF8 を用いて口腔立体認知を測定し,TP ごとの正反応者数や年齢による差異,口腔立体認知と静的舌触覚閾値,口腔運動機能との関連を検討した.

    【方法】健常者84 名(19‐79 歳)を対象とした.DF8 による口腔立体認知,静的舌触覚閾値,口腔運動機能を測定した.

    【結果・考察】年齢については,青年群に比べ高年群でDF8 の正答率が低下するような明確な関係は認められなかった.本研究の高年群(69.6±16.5 歳)では,口腔立体認知は保持されるということが示された.また,TP は形状によって正反応者数が異なり,非対称性の形状は正反応者数が多かった.TP の形状を判定できない場合,形状の類似したTP に誤る傾向が認められた.口腔立体認知と口腔運動機能・構音機能との関連については,有意な相関関係が認められなかった.静的舌触覚閾値は年齢に伴って上昇したが,DF8 の正答率との間には明らかな関係を認めなかった.一方で,静的な知覚が良好であっても,DF8 の正反応数が少ない例も存在し,静的舌接触閾値だけでは口腔立体認知の状態を推定できないことが示唆された.

    今後,TP の組み合わせや対象の選定を考慮しながら静的舌接触閾値や口腔運動機能・構音機能と口腔立体認知との関連について,さらなる検討が必要であることが示唆された.

  • ―日本リハビリテーション栄養・脳卒中(回復期)データベースの二次利用より―
    河村 幸恵
    2021 年25 巻1 号 p. 22-32
    発行日: 2021/04/30
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    【目的】日本リハ栄養研究会(現;日本リハ栄養学会)脳卒中データベース(DB, 2015)に登録された,補助栄養使用入院患者の摂食状況のレベル(FILS)における「経口摂取の向上」と,個人属性,施設条件との関係について,DB を二次利用して検証した.

    【方法】対象は,日本リハ栄養DB 登録症例(13 病院)で,入院中に補助栄養を使用した患者232 名(平均82.2±9.5 歳)とした.独立変数は,性別・年齢など「疾患」7 項目,FIM, 栄養評価など「栄養・リハビリ評価」6 項目,「転帰」,「施設情報」の6 項目,全19 項目とした.各変数と従属変数「入退院時FILS差」(入院時FILS Lv.7 以上を除く)との関連は,Spearman 順位相関係数(ρ)で分析した.また,Mann-Whitney のU 検定,Kruskal-Wallis 検定で,各独立変数の「入退院時FILS 差」に関して分析した.検定の多重性を考慮して,有意水準は1% 未満とした.

    【結果】本DB 分析対象は,年齢の中央値83.0[76.0‐89.0]歳であった.補助栄養使用入院患者の各変数と従属変数「入退院FILS 差」の相関分析結果は,「退院時FILS」(ρ=0.73),「退院時FIM」(ρ=0.66),において中程度相関があった(p<0.01).

    「入退院FILS 差」の差の検定結果,「疾患」項目では,入退院時低栄養あり,で有意差があった(p<0.01).「栄養・リハビリ評価」は,入退院時MNA-SF C,において有意差があった(p<0.01).「転帰」は退院先,のみで有意差があった(p<0.01).

    【結論】高齢の補助栄養使用入院患者における「経口摂取向上」は,退院時FILS,退院時ADL,入退院時栄養評価,退院先と関係がある点で先行研究と一致した.また,加齢や肺炎重症度,認知症などの合併症,施設情報との関係は低いという実践的示唆を得た

  • 清野 由美子, 小山 諭, 井上 誠, 鈴木 拓, 吉原 翠, 渋木 瞳, 笹 杏奈, 鈴見 梨紗, 坂井 遥
    2021 年25 巻1 号 p. 33-43
    発行日: 2021/04/30
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    【目的】精神科病院の病棟内食堂で食事摂取可能な入院患者における誤嚥性肺炎リスクの影響要因を明らかにし,誤嚥性肺炎予防に向けた支援への示唆を得るために調査研究を行った.

    【方法】対象者は,A 精神科病院入院患者約400 名のうち,病棟内食堂で食事摂取可能な20 歳以上85 歳未満の者100 名とした.対象者を誤嚥性肺炎リスク評価により高・中・低リスクに分け,その群のそれぞれの基本属性,日常生活の状況,食事摂取の状況,栄養状態(Body Mass Index:BMI,Geriatric Nutritional Risk Index:GNRI),血液生化学所見(Total Protein:TP,Albumin:Alb,Hemoglobin:Hb,Hematocrit:Ht,White Blood Cell:WBC)を調査し,統計学的に検討した.

    【結果】対象者のうち,高リスク群0 名,中等度リスク群24 名,低リスク群76 名であった.群間比較において,年齢は,中等度リスク群で有意に高値であった.BMI,GNRI,Ht,Hb,Peak Expiratory Flow:PEF,Repetitive Saliva Swallowing Test:RSST は,中等度リスク群で有意に低値であった.Spearman の順位相関係数では,年齢,BMI,GNRI,Alb,Ht,Hb,PEF,RSST において相関を認めた.二項ロジスティック回帰分析において,BMI,PEF,RSST が独立変数として得られた.

    【結論】精神科病院の病棟内食堂で食事摂取可能な入院患者における誤嚥性肺炎リスクの影響要因は,BMI,PEF,RSST の低下であることが示唆された.誤嚥性肺炎予防に向けた支援として,栄養状態や呼吸機能,嚥下機能の維持・改善を目指す取り組みが必要と考える.

短報
  • 宮城 翠, 森本 博, 海老原 覚
    2021 年25 巻1 号 p. 44-51
    発行日: 2021/04/30
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    【目的】とろみ付き液体(とろみ)は嚥下障害患者に対するアプローチとして世界的に広く用いられている.とろみの効果は機能的には明らかになっている一方で治療効果としてはエビデンスレベルが低い.その原因として画一的な基準がないことが指摘されている.本邦では学会分類2013 にて3 段階の濃度について主観的指標・粘度などが記載されている.しかし,粘度を計測するにあたり従来の回転式粘度計は測定時間の長さ・操作の煩雑さ・高価格等の点から,実際の現場では普及していないのが現状である.科学的・臨床利用双方の観点から,簡便で画一的な基準の必要性が示唆されている.今回我々は簡易粘度測定機器トロマドラー® を開発し,とろみ測定機器としての有用性を検証した.

    【方法】検証 ① 20℃,30℃,40℃に調整した6 つの調味料などの試料,計18 試料をE 型回転式粘度計とトロマドラー® にて測定した.検証 ② キサンタンガム系の3 種類のとろみ調整食品を溶質,水とオレンジジュースを溶媒に用いて学会分類2013 にて定義されている3 段階の濃度に設定し,計18 試料をE 型回転式粘度計とトロマドラー® にて測定した.

    【結果】検証 ① 20℃,40℃の温度帯において,ずり速度50 s-1 の粘度に対するトロマドラー® の値は,有意な相関関係を示した.また,検証 ② では各溶媒において粘度に対するトロマドラー® の値は,有意な相関関係を示し,同じとろみ調整食品・同じ溶媒の試料の粘度変化をトロマドラー® が捉えられる可能性が示唆された.

    【結論】今回の結果から,トロマドラー®は各食品試料・溶液における,温度や溶液の濃度による粘度の変化をとらえられる可能性が示唆され,とろみの粘度に関する概略値や,再現性を確認することに支障はないと考えられた.多忙な医療や介護の現場ではとろみ作製の際,簡易的に客観的評価が行えるツールが必要である.今回の検証で,トロマドラー® はその役割を担える可能性が示唆された.今後は,教育ツールとしての応用も視野に,現場での活用を広めていきたい.

  • ―視線と食事摂取量との関連―
    安井 由香, 大塚 佳代子, 田中 順子, 覺道 昌樹, 田中 昌博
    2021 年25 巻1 号 p. 52-59
    発行日: 2021/04/30
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    【目的】ミキサー食のような外形の悪い食形態は,嗜好に影響を及ぼし,食欲減退の原因となることが危惧されている.認知症患者において,食品の嗜好の客観的な判定に視線計測が有効である.本研究では,認知症患者におけるアイトラッキングシステムを用いた無意識下の食品の嗜好と視線との関係を検討した.

    【対象と方法】対象者は,75歳男性,要介護度2,長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)9点であった.原疾患は小脳出血であり,認知症を合併していた.被験食品はぶりの照焼き78 g(あいーと®,イーエヌ大塚製薬株式会社)とした.食形態はやわらか普通食およびミキサー食とした.視線計測には,アイトラッカー(Tobii pro/glasses 2,Tobii 製)を用いてアイトラッキングを行った.アイトラッカー装着後,食品を10 秒間自由に見るよう指示した.各10 秒間計3 回測定を行った.測定終了後,最大10 分として自由に食事をするよう指示した.視線測定は,食事提供時から食べ始める前の10 秒間を測定した.記録ユニットに保存された視線データの解析には,解析ソフトウェア(Tobii Studio Version 4.9,Tobii 製)を用いた.食事終了後,摂取量を測定した.食事摂取量が多いほうを嗜好レベル「高」,食事摂取量が少ないほうを嗜好レベル「低」と設定した.

    【結果】視線計測の結果,患者はより多く摂取した食品に対して注視点の停留回数が多く,注視点の停留時間も長くなった.そして,やわらか普通食がより多く摂取された.これは,健常成人と同様の傾向であった.

    【結論】本研究から,認知症高齢者において,嗜好レベルが高い食品に視線が停留していたことが示唆された.

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