【目的】誤嚥性肺炎発症のリスクを評価するためのアルゴリズムを開発することを目的とした.
【対象】2013 年4 月~ 8 月の間に,脳梗塞または脳出血を発症して5 日以内に研究実施施設に緊急入院した患者で,気管挿管がなされず保存的治療が実施され,本人または家族から研究参加の同意が得られた160 名を対象とした.
【方法】大学および研究実施施設の研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した.対象者の基本情報および誤嚥性肺炎に関連した情報は,診療記録から収集し,身体診査,口腔内の観察および細菌数・舌水分量測定は,入院第2~14 病日まで隔日に実施した.対象者を,肺炎群と非肺炎群の2 つに分類した.次に,アルゴリズムの身体診査に基づき,誤嚥性肺炎リスクを判定し,肺炎群を至適基準として感度および特異度を求めた.
【結果】対象者160 名は,肺炎群23 名(誤嚥性肺炎発症16 名,発症疑い7 名)と非肺炎群137 名に分類された.入院第5 病日までに14 名(87.5%)が誤嚥性肺炎を発症したため,第2 病日と第4 病日に着目した.アルゴリズムの身体診査により判定された摂食嚥下障害による肺炎リスクは,第2 病日57 名,第4 病日60 名であった.それらの感度,特異度は,第2 病日がそれぞれ0.86,0.71,第4 病日が0.75,0.67 であった.次に,舌苔および口腔内付着物が観察された条件下で,誤嚥性肺炎のリスクを判定した感度,特異度は,第2 病日において共に0.75 であった.また,身体診査の評定者間一致率は82.0~95.3% であり信頼性が確保された.
【結論】誤嚥性肺炎リスク判定のアルゴリズムを開発し,その妥当性が示唆された.入院第2 病日に誤嚥性肺炎のリスク者をスクリーニングする感度は0.86,特異度は0.71 であった.さらに,舌苔および口腔内付着物が観察された条件下では,感度,特異度とも0.75 であった.
【目的】要介護高齢者の一要因である骨格筋量の低下や筋力低下は,嚥下関連筋にも影響を及ぼし,摂食嚥下機能を低下させることが疑われる.本研究では,地域在宅高齢者の骨格筋量・骨格筋力と,口腔機能・摂食嚥下機能との関連性を明らかにすることを目的として,調査を実施した.
【対象と方法】対象は,65歳以上の地域在宅高齢者24名(男性3名,女性21名,平均年齢77.0±5.0 歳)とした.骨格筋量は骨格筋指数(以下,SMI)を,骨格筋力は握力を評価項目として用いた.口腔機能・摂食嚥下機能は開口力・オーラルディアドコキネシス(以下,OD)/ タ/ と/ カ/・RSST・MWST を測定し,骨格筋量と骨格筋力との関連性を検討した.各項目の相関関係をスピアマンの順位相関係数にて解析した.その後,有意な関連のあった項目に年齢,性別を加え,重回帰分析(ステップワイズ法)を行った.さらに,握力の値から,筋力健常群と筋力低下群(男性< 26 kg,女性< 18 kg)の2 群に分類し,口腔機能・摂食嚥下機能の各項目について比較した.2 群間比較には,マン・ホイットニーのU 検定を用いて統計解析した.
【結果と考察】SMI と開口力,握力と開口力・OD / タ/ に有意な相関関係が認められた(r=0.578,p=0.003;r=0.640,p=0.001;r=0.447,p=0.029).重回帰分析の結果,開口力に影響を与える因子としてSMI が挙げられた.また,筋力低下群の開口力は,筋力健常群よりも有意に低い値を示した(p=0.011).全身の骨格筋量,骨格筋力の低下は,開口力やOD / タ/ の低下に関連する可能性が考えられた.
【結論】地域在宅高齢者の骨格筋量と骨格筋力は,開口力や舌運動機能に関連する可能性が示唆された.
【緒言】強直性脊椎骨増殖症(ASH)による重度の嚥下障害を呈し,嚥下調整食や胃瘻を拒否されながらも,保存的治療のみで常食摂取が可能となった巨大骨棘症例を報告する.
【症例】84 歳,男性.頚椎症性頚随症に対し,後方アプローチによる頚椎椎弓形成術(C3-6)を施行した.術後に重度の誤嚥と咽頭狭窄を認めながらも,嚥下調整食対応のみで当院へ転入院となった.入院時嚥下造影検査(VF)では,C3-6 の骨棘のくちばし状前方突出が著明,喉頭挙上不良で,喉頭蓋の反転が認められず,不顕性誤嚥を呈していた.
【経過】入院中にVF を3 回施行し多少の改善を確認したが,誤嚥のリスクが非常に高いと判断し,嚥下調整食の必要性について繰り返し説明を行った.しかし,好きなものを自由に食べたいという意思が強く,最終的な摂食条件は,体幹 60°座 位姿勢,食事は常食,水分は中間のとろみの自力摂取とした.退院前にはかかりつけ医を交えたカンファレンスを開催し,在宅でも誤嚥リスクを共有するように配慮した.退院後は,当院から言語聴覚士の訪問リハビリテーションを週1 回継続した.退院6 カ月後のVF では,咽頭残留の減少と嚥下反射のさらなる改善を認め,60°座 位姿勢ならば誤嚥もわずかとなっていた.その間の誤嚥性肺炎はなかった.
【考察】術後に嚥下障害が悪化した原因は,頚椎手術による周囲への炎症波及が要因と考えた.嚥下訓練や消炎鎮痛剤投与など保存的治療のみしか行わなかったが,予想以上に改善し,経口摂取が可能となった.ASH による嚥下障害の中には,保存的治療のみでも改善する症例がある.