日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
26 巻, 2 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著
  • 中川 裕子, 井辺 恵, 伊藤 裕子, 上林 祐史, 加藤 里佳, 熊岡 隆也, 野々部 領子, 本間 千裕, 藤崎 享, 大越 ひろ
    2022 年 26 巻 2 号 p. 87-98
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル フリー

     市販介護食品のユニバーサルデザインフード(以下UDF)について有用性を明らかにする目的で官能評価と物性測定を行い,対照として一般品(手作り品)と結果を比較した.試料は,摂取頻度の高い「主食」のお粥とパンとし,各々UDF 4 種,一般品(手作り品)3 種の計7 種を用いた.官能評価は,食品開発および介護食の開発に携わっている成人健常者46 名を対象として,「食べやすさ」,「美味しさ」に関する項目各6 項目について評価した.物性測定は,テクスチャー特性のかたさ,凝集性,付着性について調べた.

     お粥については,調製直後と60 分後の2 回官能評価を実施し,物性測定も20℃と45℃で行うことで,経時変化を検討した.官能評価の結果,UDF 製品が,鍋調製品および一般市販品よりも食べやすさに関する評価は高く,美味しさに関する項目では,手作り品(炊飯器・鍋)がUDFよりも評価が高かった.また,手作り品の経時変化は提供時に問題となるが,UDF は一般品よりも経時変化が小さいことが明らかとなり,時間を気にすることなく利用者が安心して食べられる食品であることが示された.

     パンについては,食パン,ミルクパン,ペースト・ムース状と,形態別にUDF と一般品を比較した.官能評価の結果,UDF は食べやすさの評価では一般品よりも高い評価であった一方,美味しさの評価は一般品よりも低い傾向であった.食経験によって日常的に摂取している形態が好ましいと感じることから,食品のイメージを維持しながら食べやすさを改善することの重要性が示された.

     テクスチャー特性のかたさは,パンにおいては食べやすさと相関が認められたが,お粥は官能評価結果と相関は認められなかった.UDF はかたさ以外にも,付着性や経時変化への影響,水分量など工夫されている点がみられることから,UDF の品質向上には物性測定に加えて官能評価の精度を高めていくことが重要であろう.

  • 荒川 武士, 樋口 康平, 乗松 詩織, 新野 直明
    2022 年 26 巻 2 号 p. 99-108
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル フリー

     【目的】高齢患者を対象に頭部屈曲運動を実施し,嚥下能力に与える影響を検討することを目的とした.

    【方法】対象は,嚥下障害のない65 歳以上の患者70 名とした.除外基準は,頭部屈曲運動に対するリスクを呈する者,口頭指示が理解できない者とした.入院順に介入群と対照群を交互に割り付ける準ランダム化比較試験を実施した.介入群の介入内容は,背臥位での頭部屈曲反復運動を1 日に30 回×3 セット,2 週間実施した.対照群の課題は通常のリハビリテーションのみとし,嚥下能力,機能への介入はしないとした.主要アウトカム指標を3 回唾液嚥下積算時間とし,副次的アウトカム指標を舌圧,開口力,General oral health assessment index(以下,GOHAI)とした.介入群,対照群のアウトカム指標の介入前後の値の変化を以下のように検討した.正規性が認められた場合は,二要因(時間×群)の反復測定による分散分析および対応のあるt検定(Bonferroni 補正)で検討した.正規性が認められなかった場合は,各群の前後の差をWilcoxon の符号付順位和検定(Bonferroni 補正)にて検討した.有意水準は5% とした.

    【結果】介入群35 名,対照群35 名となった.各群の基本属性,アウトカム指標はすべての項目において有意な差を認めなかった.3 回唾液嚥下積算時間は介入群にのみ有意な減少を認めた.舌圧は介入群にのみ有意な増加を認めた.開口力は介入群のみ有意な増加を認めた.GOHAI は,両群とも有意な差を認めなかった.

    【考察】頭部屈曲運動は嚥下能力を向上させる効果的な運動方法であることが示され,嚥下障害を呈する高齢患者へ応用可能な有益な情報になることが示唆された.

  • 古舘 康司, 井出 訓
    2022 年 26 巻 2 号 p. 109-120
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル フリー

    【目的】通所リハビリテーションを利用している要支援・要介護高齢者の嚥下障害への対応は,安定した自宅での生活を続けていくことを支援する意味において重要であり,そのためには適切な嚥下評価が求められる.本研究の目的は,通所リハビリテーション利用者の嚥下障害リスクの把握に加え,リスクに影響を与える要因の特定および個々を適切に評価するスクリーニングの組み合わせと影響要因との関係を明らかにすることである.

    【方法】2016 年1 月から2021 年4 月までの間に施設を利用した65 歳以上を対象に,3 種類の嚥下評価の結果と,基礎的情報ならびに関連要因を調査した.

    【結果】対象者は81 人,平均年齢は82.3 歳であった.嚥下評価の結果として,聖隷式嚥下質問紙とMMASA がともに29.6%,RSST では42.0% に嚥下障害リスクがあると判定された.聖隷式嚥下質問紙では栄養状態に重い症状があると答えた割合が一番高く,MMASA では絞扼反射の得点率が一番低かった.また,3 種類の嚥下評価の判定が一致するわけではなく,嚥下障害リスクありと判定された組み合わせが7 通りに分かれたことから,それぞれ評価方法に基づく特徴がある可能性がうかがわれた.

    【考察】利用者の特徴として低栄養の状態にあるものが比較的多いものの,誤嚥や肺炎に関しては,それを引き起こすほど重篤な症状をもつまでには至っていない者が多い傾向があると考えられた.また,評価方法の組み合わせについて,聖隷式嚥下質問紙とRSST は認知症なしの利用者において優先的に用い,反対に認知機能が低下した利用者についてはMMASA も含めて判定することで,嚥下障害リスクを広く捉えやすくなる可能性があると考えられた.今後は,リスクのあった利用者の嚥下造影検査の結果も含めて調査するなどし,より適切な評価ができるようにすることが課題である.

短報
  • 飯泉 嘉基, 伊原 良明, 小池 丈司, 田下 雄一, 林 皓太, 髙橋 浩二
    2022 年 26 巻 2 号 p. 121-127
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル フリー

    【緒言】近年,嚥下障害患者に対して電気刺激による治療の有効性が報告されている.しかし,電気刺激のうち干渉波電気刺激(IFCS)を用いた治療法の嚥下機能に対する詳細な影響は明らかとなっていない.今回,われわれはIFCS が健常成人の摂食嚥下機能に与える影響を検討したので報告する.

    【対象と方法】健常成人18 名を対象とし,両側頸部皮膚上へのIFCS の有無(IFCS, Sham)の条件で,10 分間の測定から得た毎分の自発嚥下回数,RSST による随意嚥下回数,唾液分泌量,咀嚼能力検査時のグルコース溶出量を測定した.IFCS の刺激強度は感覚閾値より弱い強度とした.計測は2 日間行い,1 日目にIFCS またはSham をランダムで選択し,刺激前と刺激時で測定して,1 週間後に同様の測定をもう一方の刺激で行った.IFCS およびSham の刺激前および刺激時における各評価項目の変化を,t 検定を用いて統計解析を行った.

    【結果】IFCS 群では自発嚥下回数;1.21 回,1.52 回(p=0.001),随意嚥下回数;8.00 回,8.39 回(p=0.287),唾液分泌量;5.35 g,5.51 g(p=0.548),グルコース溶出量;168.67 mg/dL,203.22 mg/dL(p=0.017)で,自発嚥下回数とグルコース溶出量で有意な増加を認めた.一方でSham 群では,自発嚥下回数;1.28 回,1.38 回(p=0.217),随意嚥下回数;8.00 回,7.83 回(p=0.636),唾液分泌量;5.52 g,6.04g(p=0.048),グルコース溶出量;169.39 mg/dL,181.11 mg/dL(p=0.272)であった.

    【結語】本研究の結果,IFCS により自発嚥下回数とグルコース溶出量に有意な増加を認めた.このことから,上喉頭神経に対するIFCS を行うことで,嚥下機能の向上に加え,咀嚼機能に対して影響を有する可能性が示唆された.

  • 上羽 瑠美, 横山 明子, 兼岡 麻子
    2022 年 26 巻 2 号 p. 128-139
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル フリー

     学会分類2021(とろみ)では,新たに粘性の簡易的測定法として「シリンジ法」が記載され,経腸栄養剤に対する対応については,薄いとろみ程度であればシリンジ法で確認することが勧められている.しかし,経腸栄養剤には様々な種類があり,市販されているとろみ調整食品は複数あることから,経腸栄養剤のとろみの測定については,様々な視点から検証を重ねることが望ましい.本研究では,医薬品経腸栄養剤に対してとろみ調整食品を使用する際の,溶解量や静置時間の違いによる粘性の変化,とろみ調整食品の種類に応じた粘性の違いについてシリンジ法で検証し,粘度計を用いた粘度測定や官能評価による判定との一致度について検討を行った.

     経腸栄養剤に市販のとろみ調整食品を溶解させ,溶解量による粘性の違いや経時的な粘性変化を検証した.4 種類の経腸栄養剤に対して6 種類のとろみ調整食品をそれぞれ4 段階濃度で溶解させ,溶解量に応じた粘性変化や経時的変化をシリンジ法,粘度計測定,官能評価で検証した.シリンジ法による液体の残留量,粘度計測定値,官能評価結果に基づき,液体の粘性を0 から4 までの5 段階にスコア化し,シリンジ法,粘度計測定,官能評価によるスコアの一致度について検証した.

     シリンジ法により評価される粘性は,実際の粘度よりも低く評価された.さらに,粘性の経時的変化について,シリンジ法でも粘度計による測定でも経時的に粘性が上昇し,特にとろみ調整食品の溶解量が多い場合には濃いとろみの粘度域をはるかに超える粘度となった.シリンジ法と液体の官能評価結果は類似しやすく,官能評価では粘性スコアが高い傾向を認めた.官能評価のほうが粘度測定による粘性スコアよりも,シリンジ法との一致率が高かった.

     シリンジ法により経腸栄養剤のとろみを測定する際には,これらの特徴を理解のうえで臨床活用することが望ましい.

症例報告
  • 蛭牟田 誠, 大橋 美穂, 本多 舞子, 青柳 陽一郎
    2022 年 26 巻 2 号 p. 140-146
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2022/12/31
    ジャーナル フリー

    【緒言】左延髄梗塞により摂食嚥下障害を呈した1 例に対し,高解像度マノメトリー(high-resolution manometry:HRM)により詳細な病態を捉え,改善の過程を客観的に評価した.さらに,前舌保持嚥下法,努力嚥下,メンデルソン手技の効果についてもHRM で確認し,より適切な訓練法の選択ができた症例を経験したので報告する.

    【症例】40 代男性.左椎骨動脈解離性動脈瘤に対して,コイル塞栓術を施行した.術後に左眼瞼下垂,摂食嚥下障害が出現し左延髄梗塞を認めた.

    【経過】2 病日の嚥下内視鏡検査では,嚥下反射が惹起せず経口摂取困難であり,臨床的重症度分類(dysphagia severity scale:DSS)は1 であった.11 病日に嚥下造影検査とHRM を実施し,咽頭内圧の低下と上部食道括約筋(upper esophageal sphincter:UES)弛緩時間の短縮を認めた.23病日には咽頭内圧,UES 弛緩時間がやや改善した.同日,HRM により前舌保持嚥下法,努力嚥下,メンデルソン手技の効果を検討した.前舌保持嚥下法,努力嚥下,メンデルソン手技のすべてにおいて唾液嚥下よりも咽頭収縮積分値が高値であった.メンデルソン手技ではUES 弛緩時間の延長も認めた.これらの所見を患者に説明したうえで,各嚥下手技を練習した.39 病日には,咽頭収縮積分値のさらなる向上を認め,DSS は6 となった.

    【考察】HRM による嚥下評価を行うことで,詳細に咽頭内圧,UES の病態生理を捉えることができた.さらに,嚥下手技の効果をHRM で確認したことで,より適切な訓練法を選択できた.HRM は,摂食嚥下リハビリテーションを行ううえで適切な訓練法の選択に繋がることが示唆された.

臨床報告
調査報告
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