日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
9 巻, 3 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
原著
  • 飯田 幸弘, 勝又 明敏, 藤下 昌巳
    2005 年9 巻3 号 p. 255-264
    発行日: 2005/12/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    【目的】食物の粘性が嚥下障害患者の嚥下動態に与える影響を,嚥下造影検査(以下VF)により考察することは重要である.飲食物の粘度により食塊の流れる速度を変えれば,誤嚥が抑制可能とされている.姿勢調節は,代償法の一つとして誤嚥防止および咽頭の状態改善のために用いられる.そこで,食塊の粘度と被検者頭部の前後方向への傾斜が,咽頭に流入する食塊の速度に与える影響をVF画像から検討することを目的とした.

    【材料と方法】133症例のVF画像を検討し,食塊が口腔から零れて喉頭蓋に流入する所見が認められる症例を抽出した.対象となった21例は,脳性麻痺,脳卒中後,口腔腫瘍術後などである.VF画像より,食塊が舌背斜面(中咽頭前壁)を滑落する速度および舌背斜面の傾斜を調べた.VF検査に用いた試料の粘度は,C型回転粘度計により計測した.用いた試料は,造影剤,増粘剤を添加した造影剤,ペーストあるいはピューレ状の食品である.

    【結果および考察】VF画像における液体試料(粘度1000mPa・s以下)の舌背斜面滑落速度は平均155±78㎜/sec,粘度の高い試料(粘度1000mPa・s以上)の速度は平均42±31㎜/sであった.粘度の高い試料では,舌背斜面の傾斜による滑落速度の変化を認めた.しかし,液状試料では,舌背斜面の傾斜を変化させることの滑落速度への影響は認められなかった.

    これらの結果は,以前報告した模型によるシミュレーション実験と近似していた.シミュレーションシステム改良により,嚥下障害患者の咽頭における試料の速度を予見出来る可能性が示された.

  • 福井 智子, 菊谷 武, 田村 文誉, 稲葉 繁
    2005 年9 巻3 号 p. 265-271
    発行日: 2005/12/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    身体機能の変化は年齢による影響を受けるものが多く,摂食・嚥下機能においても例外ではない.舌や咀嚼筋は加齢の影響を受け,その機能は低下するとされている.しかしながら,正常な摂食機能の獲得した口唇の力が,加齢とともにどのように変化するかについては未だ明らかにされておらず,これらを解明することは非常に意義あることと考えられる.そこで今回我々は,高齢者の機能時垂直性口唇圧と年齢の関係を明らかにすることを目的とし,本研究を行った.対象は60歳以上のボランティアとして参加した高齢者311名のうち,身体および口腔機能に影響を及ぼす要因がなく,天然歯による臼歯部の咬合が維持され,かつ前歯部に欠損のない137名とした.対象者は,60~83歳,平均年齢69.5±5.3歳,男性31名(平均年齢69.3±5.5歳),女性106名(平均年齢69.3±5.5歳)であった.口唇圧の測定は,圧力センサを埋め込んだアクリル平面板を使用し,捕食時口唇圧,最大口唇圧の測定を行った.また,舌による口蓋への最大押し付け圧を最大舌圧とし,測定を行った.さらに,身体能力の指標として握力,体格の指標として身長および体重を測定し,以下の結果を得た.捕食時口唇圧,最大口唇圧については年齢との相関は認めなかったが,最大舌圧および握力については,加齢とともに低下することが認められた (最大舌圧:r=-0.346,p<0.001,握力:r=-0.201,p<0.05).加齢に伴い舌圧が減退していくことを考えると,舌機能を代償するために,口唇の力が維持されていくことが考えられた.摂食において,捕食から嚥下するまで必要な動作である口唇閉鎖という一連の運動を長年にわたり繰り返し行ったことにより,口唇圧は高齢になっても高い値を維持していることが推測された.このことにより,口唇機能は年齢の影響を受けにくいことが示された.

  • 椎名 英貴, 溝尻 源太郎, 佐藤 典子, 本惣 亜紀子, 田子 歩
    2005 年9 巻3 号 p. 272-282
    発行日: 2005/12/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    直接訓練開始を判断するための臨床的な基準に関して検討を行った.対象は当院へ転院時,嚥下障害のため経口摂取の経験のない症例21例である.対象者を直接訓練に移行できた経口摂取群14例と直接訓練へ移行できなかった非経口摂取群7例に分け比較検討を行った.

    直接訓練開始に影響を与えると想定された要因は1)覚醒状態,2)認知レベル,3)身体能力,4)肺炎の既往,5)口腔運動機能,6)日常の唾液嚥下,7)反復唾液嚥下検査,8)改訂水のみテスト (3ml),9)嚥下造影検査 (VF)/嚥下内視鏡検査 (VE)であった.このうち両群の間で統計的に有意差のあった項目は1)覚醒 (p<0.05),4)肺炎の既往 (p<0.01),5)口腔運動機能 (p<0.05),6)日常の唾液嚥下 (p<0.01),9)VF/VE (p<0.05) の5要因であった.

    有意差のあった5要因を単独要因とし,これに5要因の任意の組み合わせからなる31個の複合要因を加えた計36個に対して,感受性,特異性,一致率を算出し,両群の判別のための最適な方法を検討した.

    単独要因を用いた場合,一致率の低さ (平均0.76±0.03) から両群を判別するには不十分であった.一致率の高さ,感受性の高さを基準に複合要因を検討した場合,判別に最も適した複合要因は複合要因V{覚醒・肺炎・口腔機能・VE/VE},複合要因W{覚醒・肺炎・唾液嚥下・VF/VE},複合要因 Z{覚醒・肺炎・口腔機能・唾液嚥下・VF/VE}であった (3複合要因とも感受性1.00,特異性0.92,一致率0.95).VF/VEが施行できない環境を想定し,VF/VEが含まれない複合要因11個を比較検討した.一致率が0.9以上の複合変数は6個あった.

    複数の要因を用いて点数化し経口摂取群を判別する方法は直接訓練開始判断に有益であり,VF/VEが施行できない環境での判断方法にも示唆をあたえるものである.

研究報告
  • 大野 友久, 小島 千枝子, 藤島 一郎, 黒田 百合, 戸倉 晶子, 高柳 久与, 北條 京子
    2005 年9 巻3 号 p. 283-290
    発行日: 2005/12/31
    公開日: 2020/12/26
    ジャーナル フリー

    重度摂食・嚥下障害で他院にて経口摂取困難と診断され,約1年半の間経口摂取していなかった67歳男性の摂食・嚥下障害患者に対して,リハビリテーション訓練を行った.舌接触補助床 (Palatal Augmentation Prosthesis;PAP) 装着をはじめとする各種アプローチを行い,訓練開始約2ヶ月半後に経口摂取で自宅退院が可能になった.改善の要因として,適切な摂食訓練などの他に,PAPを装着して直接および間接訓練を行うことによって舌圧の改善を図ったことが考えられ,このことがより短期間での改善につながったと思われる.風船状舌圧センサでPAP装着直後と訓練開始2ヶ月後の舌圧を比較した結果,PAP装着時における舌背部の舌圧が大幅に増加していた.また,PAP無でも舌圧が全体的に改善しており,訓練の結果舌機能が改善したことを示していると思われた.シート状舌圧センサで舌圧を測定したところ,PAP装着時での舌圧がPAP非装着時よりも大きく,特に舌後方部のch3で圧が高かった.PAP装着時に舌後方部の左右差 (ch7<ch5) があったため,PAPのch7部分,右上臼歯相当部位の床の形態を修正した.その結果食塊のコントロールが改善された.舌圧の改善が嚥下機能の改善に関係しているものと思われる.本症例のように機能的な原因による運動障害性嚥下障害患者へのPAPの適応についての報告はあまりないが,今回の結果から①舌の運動不全を示唆する構音障害 (特に舌音の障害),②摂食時の口腔内残留所見に加え,VF上での嚥下時の舌背と口蓋間に垂直的な間隙の存在,③口蓋の形態,の3点はPAPの適応基準と考えられる.効果的な摂食・嚥下障害のリハビリテーションにはSTと歯科との連携をはじめとするきめ細かいチームアプローチが重要である.

臨床ヒント
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