日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
14 巻, 3 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
原著
  • ―初回スクリーニング検査からみた帰結と不顕性誤嚥の検討―
    前田 葉子, 柴田 斉子, 符田 かおり, 菅 俊光, 吉田 清和
    2010 年 14 巻 3 号 p. 191-200
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2020/06/27
    ジャーナル フリー

    【目的】急性期病院における嚥下障害患者の初回嚥下スクリーニング検査から経口摂取の帰結が予測できるか否かを検討した.また,スクリーニング検査では見落としが問題とされる不顕性誤嚥(以下SA)についても考察を加えた.

    【対象と方法】対象は,2 年間に言語聴覚士(以下ST)が嚥下リハを施行し初回評価時に反復唾液嚥下テスト(以下RSST)と改訂水飲みテスト(以下MWST)を行った入院患者314 名(平均年齢67.1 歳).ST介入終了時の栄養摂取方法から,経口摂取確立群と補助栄養群の2 群に分け,初回RSST 回数と初回MWST点数より経口摂取の帰結を調べた.また,開始時意識レベル,嚥下造影検査(以下VF)結果,嚥下内視鏡検査(以下VE)結果,顕性誤嚥およびSA の有無,気管切開の有無,臨床的重症度分類の変化について,カルテより後方視的に調べた.

    【結果】経口摂取確立群は187 名(59.6%),補助栄養群は127 名(40.4%)であった.経口摂取確立群は年齢が若く,開始時に意識清明である者が多かった.RSST 3 回以上かつMWST 3 点以上の患者の87.9% が経口摂取を確立することができた.しかし,MWST 実施者中4 点の7.5%,5 点の6.8% にSA の見落としが生じていた.SA 患者の疾患・病態には仮性球麻痺,開胸術後,頭頸部癌化学放射線治療後,脳幹病変,神経変性疾患,皮膚筋炎等があり,ST 介入前の肺炎発症例25 名,反回神経麻痺例14 名,気管切開例16名が含まれていた.

    【考察】急性期病院の限られた入院日数の中では,適切な予後予測に基づいた効率的な嚥下リハの提供が不可欠である.RSST およびMWST は嚥下障害のスクリーニングに有効とされるが,経口摂取確立の予後予測にも有用であることがわかった.しかし,スクリーニングに際しては,SA の見落としに十分注意を払い,SA を起こしうる疾患や病態にはVF・VE で精査を行う必要がある.

  • 高橋 智子, 二藤 隆春, 小野江 茉莉, 田山 二朗, 大越 ひろ
    2010 年 14 巻 3 号 p. 201-211
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2020/06/27
    ジャーナル フリー

    本研究では,刺身の山かけやとろろご飯の有する優れたまとまり感に着目し,液体に粘性を付与するものとして山芋粉末を用い,サラダオイル状,プレーンヨーグルト状,マヨネーズ状のゾル試料を調製した.加えて,硬さの異なる3 種のゾル試料に,破断応力1.43(±0.14)×104N/m2 程度の4 mm 立方体のゲルを分散層として50% 容量含むゲル–ゾル混合系試料を調製し,ゾル試料とともに物性評価,健常若年者を被験者とした官能評価,嚥下造影検査を行った.官能評価より得られた口中感覚は,ゾル部分の物性が大きく影響していることが示された.また,嚥下造影検査の結果,ゾル試料では,中咽頭から下咽頭までのゾル試料の移動速度は,硬くなるに従い,遅くなる傾向を示した.また,ゾル試料,ゲル–ゾル混合系試料ともに,口中感覚ではかたく,べたつき感が多いマヨネーズ状試料の舌骨が急速前方運動を開始してから食塊が梨状陥凹に到達するまでの時間,すなわち嚥下反射惹起のタイミングは,サラダオイル状試料に比べ,遅くなる傾向を示した.また,サラダオイル状混合系試料では2 人,プレーンヨーグルト状混合系試料では1 人の被験者の嚥下直後,喉頭蓋谷にゲルの残留が認められた.被験者全員にゲルの一部の咽頭残留が認められなかったのは,マヨネーズ状混合系試料であった.サラダオイル状混合系試料のゾル部分はニュートン流体を示し降伏応力を有していないため,ゲルを覆いまとめる力がないので,咽頭通過時に食塊中のゲルが喉頭蓋谷に残留しやすくなるものと推測される.ゾル部分を山芋とろろによりプレーンヨーグルト程度,マヨネーズ程度と粘性を付与することで,ゾル部分の降伏応力が増加する.このことにより,食塊中のゾル部分がゲルを覆いまとめて咽頭を通過することで,喉頭蓋谷へのゲルの残留をより少なくするであろうことが推測される.

  • 古屋 純一, 織田 展輔, 阿部 里紗子, 玉田 泰嗣, 中村 俊介, 小林 琢也, 鈴木 哲也
    2010 年 14 巻 3 号 p. 212-218
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2020/06/27
    ジャーナル フリー

    【目的】大学附属病院のような急性期病院NST への歯科の参加は,経口摂取の開始に必要となる口腔機能の評価や改善を可能にするが,口腔機能と栄養摂取法の関連については,その詳細は明らかになっていない.当院NST では,歯科医師がコアメンバーとして参画し,口腔機能評価を行い,口腔の専門家として栄養摂取法に関する提言を行っている.そこで本研究では,NST 初診患者の臨床統計学的分析を行い,経口摂取の状況と口腔機能の関連を検討し,また,その後歯科受診となった要因を検討することで,NST における歯科の役割を明確にすることを目的とした.

    【対象と方法】対象は,平成17 年12 月1 日から平成20 年11 月30 日までの3 年間でNST 初診時に口腔機能評価を行い,記録に不備のない患者80 名とした.患者の基本情報について臨床統計学的分析を行い,また,経口摂取の有無およびNST 初診後の歯科受診の有無を従属変数とし,経口摂取に関する要因を説明変数として,ロジスティック回帰分析を行った.

    【結果】患者の多くは高齢者で,原疾患は頭頸部腫瘍が多かった.栄養摂取法は,経管栄養のみで経口摂取を行っていない患者が56% であった.口腔衛生状態は全体の64% で不良であり,口内炎など口腔軟組織疾患が42% に認められた.非経口摂取となる要因としては,肺炎の既往,摂食・嚥下障害,口腔軟組織疾患が有意であった.また,NST 初診後に歯科依頼となる要因としては,口腔衛生状態不良,摂食・嚥下障害が有意であった.

    【結論】摂食・嚥下障害や口内炎といった口腔の要因は,経口摂取などの入院患者の栄養管理に影響を与え,また,それらの対応を可能にする歯科のNST への参画は,有意義であることが示唆された.

  • 深田 順子, 鎌倉 やよい, 浅田 美江
    2010 年 14 巻 3 号 p. 219-228
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2020/06/27
    ジャーナル フリー

    【目的】病棟看護師による摂食・嚥下障害看護の質向上に対する摂食・嚥下障害看護認定看護師の影響を明らかにすることを目的とした.

    【方法】認定看護師および当該認定看護師が所属する病棟看護師を対象に,認定看護師として登録された4 カ月後および1 年4 カ月後に,郵送法による質問紙調査を実施した.調査票には,われわれが開発した摂食・嚥下障害看護質評価指標を用いて5 段階(0~4 点)で評価された.病棟看護師用指標は6 因子64項目で,認定看護師用指標は7 因子69 項目で構成された.分析にはMann-Whitney の検定および重回帰分析を用いた.

    【結果】1.病棟看護師用質評価指標の因子を構成する項目の平均得点は,認定看護師導入4 カ月後と比較し,導入1 年4 カ月後では,指標全体,第Ⅱ因子:退院調整に必要なアセスメント・実施,第Ⅲ因子:リスク管理と摂食・リハビリテーションの実施,第Ⅳ因子:咽頭期障害に対する摂食・嚥下リハビリテーションの実施,第Ⅴ因子:評価・コーディネートが有意に上昇した (p<0.05).

    2.認定看護師導入1 年4 カ月後における病棟看護師用質評価指標の平均得点は,当該認定看護師の質評価指標合計得点が上位群であると,下位群と比較して,第Ⅱ因子を除くすべての因子において有意に高かった (p<0.05).

    3.重回帰分析の結果,認定看護師導入1 年4 カ月後における病棟看護師用質評価指標全体の合計得点に対する有意な影響要因は,順に摂食・嚥下障害看護経験年数,臨床経験年数,認定看護師の質評価指標の合計得点が平均値以上であることの3 要因であった.

    【考察】病棟看護師の摂食・嚥下障害看護の質向上には,摂食・嚥下障害看護認定看護師が実践する看護の質が影響することが示唆された.

  • ─妥当性の検討─
    田中 信和, 野原 幹司, 小谷 泰子, 岡崎 浩也, 松村 雅史, 阪井 丘芳
    2010 年 14 巻 3 号 p. 229-237
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2020/06/27
    ジャーナル フリー

    【緒言】嚥下頻度の過度の減少は,嚥下に関わる器官の廃用性萎縮を生じ,嚥下機能の低下を助長するといわれている.経口摂取の機会が減少する経管栄養症例や,加齢による影響により嚥下機能が低下した高齢者は嚥下頻度が減少している可能性がある.しかしながら,高齢者や嚥下障害例の日常生活の嚥下頻度を検討した報告はない.そこでわれわれは,行動を制限せず,長時間測定が可能な嚥下回数測定デバイスを開発した.今回,このデバイスの安静時,食事時における妥当性を検討したので報告する.

    【対象と方法】測定デバイスは,喉頭マイクロフォンとMP3 レコーダーで構成されている.頸部に装着したマイクロフォンより記録した喉頭の音をもとに,聴覚的判断および音声波形の視覚的判断により,嚥下回数を計測するものである.本デバイスを用いて,以下の2 つの実験を行った.1)健常者1 名の自由に嚥下させたときのVF を記録し,VF で同定された嚥下動作と本デバイスで同定された嚥下音の一致率を求めた.2)本デバイスにて記録した健常者10 名の安静時,食事時の喉頭の音をもとに,2 名の解析担当者A,B が各被験者の嚥下回数を計測した.被験者の自己申告の嚥下回数と,A,B それぞれが判定した嚥下回数との一致率を求めた.

    【結果】1)VF と喉頭音から同定された嚥下の一致率は100% であった.2)本デバイスを用いてA,B が判定した回数と,被験者の自己申告による回数との一致率は,安静時でA:97.1±4.3(%),B:98.4±4.0(%),食事時でA:94.9±5.2(%),B:96.2 ± 7.9(%)であった.

    【考察】今回の結果から,本デバイスは嚥下回数測定に有効であると考えられた.今後は,このデバイスを用いて,高齢者や嚥下障害例を含むさまざまな症例の日常の嚥下頻度の測定が可能と考えられた.

  • ─摂食姿勢および円背に着目して─
    長谷田 敦志, 高田 知宏, 山崎 有子, 布上 大典, 柴田 里枝, 中村 紘子, 毛利 永吏子, 鶴居 勝也, 三浦 利則
    2010 年 14 巻 3 号 p. 238-243
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2020/06/27
    ジャーナル フリー

    【目的】理学療法士が摂食嚥下リハビリテーションに関わる中で,摂食嚥下障害患者で頸部の関節可動域制限や摂食姿勢が問題となることがしばしば観察された.そこで,理学療法士と言語聴覚士が協力して,頸部の関節可動域と摂食姿勢および円背に着目して,摂食嚥下障害に関係している要因を検討した.

    【方法】2008 年10 月から2009 年3 月にリハビリテーション依頼があった入院患者で,肺炎または脳血管障害と診断された患者27 名(男11 名,女16 名)を対象とした.対象患者を藤島の嚥下障害グレードでⅠ・Ⅱ群とⅢ・Ⅳ群に分類し,摂食姿勢および円背の有無,頸部の関節可動域について比較した.次に,摂食姿勢をギャッジアップ摂食群と座位摂食群に分類し,嚥下障害グレードⅠ・Ⅱ群とⅢ・Ⅳ群の頸部の関節可動域を比較した.続いて,円背の有無で分類し,嚥下障害グレードⅠ・Ⅱ群とⅢ・Ⅳ群の頸部の関節可動域を比較した.

    【結果】頸部の関節可動域において,嚥下障害グレードⅠ・Ⅱ群では,Ⅲ・Ⅳ群より頸部の伸展,回旋,側屈の関節可動域に有意な制限がみられた.座位摂食群において,嚥下障害グレードⅠ・Ⅱ群では,Ⅲ・Ⅳ群より頸部の伸展,回旋,側屈の関節可動域に有意な制限がみられたが,ギャッジアップ摂食群では有意差はみられなかった.円背あり群,円背なし群において,嚥下障害グレードと頸部の関節可動域との関連性は見い出せなかった.

    【考察】摂食嚥下能力が低下している患者に頸部の関節可動域制限がみられたことから,頸部筋群の柔軟性が低下することにより,関節可動域制限と摂食嚥下能力の低下を引き起こすと推測された.

    摂食姿勢のアライメントが崩れている場合は,頸部の過緊張状態が生じ,頸部の関節可動域制限と摂食嚥下能力の低下を引き起こすと推測された.一方,摂食嚥下障害と円背との関連性は見い出せなかった.

  • ─健常者における検討─
    中島 純子, 唐帆 健浩, 佐藤 泰則
    2010 年 14 巻 3 号 p. 244-250
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2020/06/27
    ジャーナル フリー

    器質的摂食・嚥下障害患者に対する舌接触補助床(PAP)の適応は,約50 年前から顎顔面補綴分野を中心に広まってきた.しかし,機能的摂食・嚥下障害患者に対するPAP の装着については,適応症例の提示に至るほどの十分な報告はなく,本装置が一般に普及しているとはいいがたい.われわれは,舌の後方運動や食塊を咽頭へ駆出する力が低下した摂食・嚥下障害患者に対して,舌尖を硬口蓋に強く押しつけて嚥下させ,食塊の移送や舌の後方運動の亢進を図るアンカー機能を強調した嚥下訓練を指導している.しかし,患者はこの嚥下方法の修得に難渋することも多く,代用訓練方法を模索してきた.今回,われわれは健常者5 名にPAPを模した口蓋の前方部を肥厚させた実験用口蓋床を装着し,咽頭期嚥下に及ぼす効果を嚥下造影検査および嚥下圧検査(Manofluorography)により定量的に評価し,上記の代用嚥下訓練方法としての可能性を検討することとした.

    その結果,PAP 装着により舌根部嚥下圧は有意に上昇し,食塊の舌根部通過速度は上昇する傾向を認め,アンカー機能を強調した嚥下方法と同様の効果を認めた.

    以上より,舌の器質的変化を伴わない舌根の後方運動の低下により食塊の咽頭への駆出力が低下している症例にも,口蓋前方部に豊隆を付与した口蓋床の装着により,嚥下機能の改善が期待できる可能性が示唆された.

短報
  • 武田 有希, 前島 伸一郎, 大沢 愛子, 西尾 大祐, 木川 浩志
    2010 年 14 巻 3 号 p. 251-257
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2020/06/27
    ジャーナル フリー

    【目的】回復期リハビリテーション(リハ)病棟において,入院時のベッドサイドの嚥下機能評価と退院時の摂食状況や転帰との関連について検討した.

    【対象と方法】対象は,回復期リハ病棟に入院し,摂食嚥下リハを行った93 名(脳出血33 名,脳梗塞41名,クモ膜下出血10 名,頭部外傷9 名)で,年齢は18~93 歳,男性54 名,女性39 名であった.これらの患者に対し,背景因子,認知機能,嚥下機能,日常生活活動(ADL),転帰などについて調査し,退院時に経口摂取可能であった群(経口群),経管栄養であった群(経管群)の2 群を比較した.

    【結果】経口群は64 名で,経管群は29 名であった.経口群は経管群に比べ,年齢が若く,Mini-Mental State Examination, Raven's Coloured Progressive Matrices の得点が有意に高かった.また,経口群では,咽頭反射が正常なものが13 名(20.3%)で,反復唾液嚥下テストが3 回以上のものが32 名(50.0%)と経管群に比べ有意に多かった.発症から入院までの期間,在院日数,改訂水飲みテストで差はなかった.また,経口群は,遅くとも入院後5 週までに直接訓練が可能となり,入院後10 週までに3 食経口摂取が可能であった.経管群は経口群に比べ,入院時,退院時のADL が良好であった.経口群は経管群に比べ,自宅退院が多かったが,経口摂取が可能であってもADL の低い患者は自宅退院が困難であった.

    【結論】嚥下障害を有する患者に対し,適切な評価を実施し,入院後5 週間の摂食の経過について観察することで,退院時の経口摂取の可否について推察することが可能であると思われた.

  • ―急性期病院と回復期リハビリテーション病棟の比較―
    冨井 康宏, 上原 敏志, 上ノ町 かおり, 谷岡 真衣, 大畠 明子, 長束 一行, 峰松 一夫
    2010 年 14 巻 3 号 p. 258-264
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2020/06/27
    ジャーナル フリー

    【目的】嚥下評価と栄養管理という観点における脳卒中地域連携の現状を明らかにする.

    【対象と方法】都市部二次医療圏において,脳卒中急性期治療および回復期リハビリテーション(以下,リハビリ)を担う17 施設に対し,嚥下障害患者の食事,評価とリハビリに関する調査を行った.有効回答を得た施設は,急性期治療または急性期治療から回復期リハビリまでを担う「急性期型施設」と回復期リハビリのみを担う「回復期型施設」の2 群に分類し,両群間で比較検討した.

    【結果】有効回答を13 施設(76%)から得た.全施設が多種類(中央値;5 種類[範囲; 2~7 種類])の嚥下食を使用していた.「急性期型施設」は「回復期型施設」と比較して,「きざみとろみ食」や「大きざみとろみ食」を利用する割合が低く(きざみとろみ食43% 対100%,p=0.011;大きざみとろみ食14% 対67%,p=0.047),既製品を利用する割合が高かった(100%対33%,p=0.004).嚥下評価を医師,言語聴覚士,看護師の3 職種すべてが行っていたのは38%の施設であり,23%の施設では医師は行っていなかった.嚥下評価の方法は,「改訂水飲みテスト(100%)」「反復唾液嚥下テスト(92%)」「頸部聴診(85%)」「嚥下造影検査(85%)」の順に多かった.嚥下リハビリは,言語聴覚士(100%)と看護師(77%)が「言語療法の時間枠(100%)」「毎日の食事時間(92%)」に行うことが多かった.摂食指導は,「退院時に口頭で説明する」ことが多かった(77%).

    【結論】当該地域の嚥下評価と栄養管理という観点における現状が明らかになった.あらゆる医療従事者が嚥下評価と栄養管理に対する意識を高め,施設をこえて情報交換を密に行うことにより,地域連携はより推進されるであろう.

  • 河合 利彦, 舘村 卓, 外山 義雄, 阪井 丘芳
    2010 年 14 巻 3 号 p. 265-272
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2020/06/27
    ジャーナル フリー

    【目的】液状食品嚥下時の口腔相から咽頭相への移行段階における口蓋帆咽頭(いわゆる鼻咽腔)閉鎖機能の調節が,B 型粘度計によって測定された粘度とずり速度に依存する粘度の変化のどちらを参照しているかを口蓋帆挙筋活動を指標として検討した.

    【対象と方法】対象は健常成人10 名とした.試料はB 型粘度計(12 rpm)での測定では同じ粘度(400±50 mPa・s)でも,ずり速度依存性粘度が異なるように,トロミ調整食品(キサンタンガム系・グアガム系・澱粉系)を緑茶に混和した試料A,B,Cを用いた.被験者ごとに測定した各試料の至適嚥下量の平均値を求め,それを個人の一回嚥下量として実験を行った.

    【結果】10 名中8 名において,試料A 嚥下時の口蓋帆挙筋活動が,他の試料嚥下時のそれと比較して有意に大きかった(p<0.01).試料B,C 嚥下時の筋活動の間には有意差は認められなかった.

    【考察】3 種の試料は,ずり速度が著しく小さいとき(0/s 近傍)には相互に粘度が異なるものの,B型粘度計での測定時(約2/s)以上のずり速度において,B とC はほぼ同じ非ニュートン特性をもち,A はこれらより低い粘度をもっていた.以上から,B 型粘度計(12 rpm)での測定時以上のずり速度で生じる粘度の変化に基づいて,嚥下時の口蓋帆咽頭閉鎖機能は調節され,B 型粘度計(12 rpm)で測定された粘度は口蓋帆咽頭閉鎖機能の調節には反映しない可能性が示された.

  • 髙橋 摩理, 篠崎 昌子, 大岡 貴史, 内海 明美, 向井 美惠
    2010 年 14 巻 3 号 p. 273-278
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2020/06/27
    ジャーナル フリー

    小児科医より自閉症スペクトラム(以下ASD)と診断され,地域療育センター通園施設に1 年以上通園し,給食に参加している幼児54 名(男児44 名,女児10 名,平均年齢5.6 歳±0.6 歳)を対象に,給食場面における摂食・嚥下機能や食べ方についての評価を行い,以下の結果を得た.

    1) 摂食・嚥下機能においては,嚥下機能は全員が獲得していたが,捕食,咀嚼機能は約20% が未獲得だった.

    2) 摂食・嚥下機能と知的発達レベルとの関連をみると,知的発達遅レベルにより差がみられ,軽度と中等度(p<0.05),軽度と重度(p<0.01)の間に有意差が認められた.

    3) 食べ方において,詰め込み,丸飲み,かき込みが常にみられるものが20% 前後みられたが,溜め込みをする児はほとんどいなかった.

    4) かき込みや詰め込みは年齢が高い児,すなわち療育期間が長い児に少なかったが,有意差は認められなかった.

    以上より,捕食,咀嚼機能は年齢よりも知的発達レベルとの関連が強く,機能獲得の困難さが推察された.これらの機能の獲得にあたり,摂食機能を客観的に評価するとともに,食事場面での関わりだけでなく,全身的発達を促す支援が重要と思われた.

    かき込み,詰め込みは療育期間による差がみられ,療育場面での繰り返しの指導が食べ方の改善の一助となる可能性が示唆された.

    さらに,感覚偏倚や偏食などASD の特徴的症状と摂食機能や食べ方との関連を調査する必要があると思われた.

症例報告
  • 奥野 健太郎, 野原 幹司, 佐々生 康宏, 阪井 丘芳
    2010 年 14 巻 3 号 p. 279-287
    発行日: 2010/12/31
    公開日: 2020/06/27
    ジャーナル フリー

    【緒言】舌悪性腫瘍術後の器質的欠損による嚥下障害に対する治療法として,舌接触補助床(PAP: palatal augmentation prosthesis)が多く報告されている.今回,舌悪性腫瘍術後にPAP を装着するも嚥下機能の改善が認められなかった3 例に対し,下顎に嚥下補助装置(LAP: lingual augmentation prosthesis)を適用することで嚥下機能が改善した症例を経験したので報告する.

    【症例】症例1:69 歳,男性.舌亜全摘出術,左側頸部郭清,大胸筋皮弁による舌再建術施行例.口腔内所見は,舌根以外は皮弁により再建されており可動性を全く認めなかった.嚥下造影検査(VF)では,誤嚥は認めないものの,被験食の大部分は口底に貯留した.再建舌を床で補い,食塊が流れやすくするための流路を付与したLAP を適用した結果,口底の貯留がなくなり,送り込みの障害が改善した.

    症例2:64 歳,男性.舌亜全摘出術,両側上頸部郭清術,大腿皮弁による舌再建術施行例.VF 所見は,嚥下時に舌と硬口蓋との接触が弱く,全量咽頭へ送り込むことは不可能であり,口底への貯留を認めた.舌の器質的欠損による間隙の減少を目的とし,上顎にPAP,下顎にLAP を適用した結果,嚥下後の口底の貯留が改善した.

    症例3:72 歳,男性.舌亜全摘出術,両側頸部郭清術,大胸筋皮弁による舌再建術施行例.嚥下所見は,舌の可動性の減少から固形物の咀嚼ができず,準備期の障害が認められた.咀嚼物の舌側への脱落防止を目的に,下顎左側臼歯の舌側にレジンをダム状に盛り足したLAP を適用した結果,固形物の咀嚼が可能となり,準備期の嚥下障害が改善した.

    【まとめ】今回の3 例のような,舌の欠損や可動域制限が大きくPAP のみでは症状の改善がみられないような症例に対しては,PAP の適応だけではなく,LAP の適応も治療手段となりうる可能性が示唆された.

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