【緒言】日本では,高齢化に伴って,嚥下困難者用食品の需要は増加している.嚥下調整食の量や形態の違いが,嚥下動態にどのような影響があるのかを明らかにすることは,摂食嚥下障害患者の嚥下調整食の選択,リハビリテーションにおいて重要である.本研究は,健常成人を対象に,嚥下調整食の量や形態の違いが嚥下動態に与える影響を,高解像度マノメトリー(HRM)を用いて定量的に解析することを目的に行った.
【方法】被験者は健常成人男性10 人(平均年齢36.0±10.3 歳)であった.摂食嚥下リハビリテーション学会で提示されている5 段階の嚥下調整食(学会分類2013)コード0~4 に相当する米飯の既製品を用いた.HRMのカテーテルセンサーを外鼻孔より挿入,上部食道括約筋(UES)に留置して測定を行った.コードごとに3 g,6 g,9 g をランダムに摂取させ,被験者の自由意志に従って1 回で嚥下させた.数値は各被験者の2 回分の平均値のデータを用いた.各コードにおけるUES弛緩時間,上咽頭部や舌根部,下咽頭部における圧持続時間や最大内圧を測定項目とした.コードごとの量の変化の比較と,各コード間の比較を統計解析した.
【結果】UES弛緩時間は,すべてのコードで量が増加すると延長した.上咽頭部の圧持続時間は,コード2の6 g と9 g,コード3 の3 g と6 g,コード4 の3 g と9 g で量の増加により延長した.舌根部圧持続時間は,コード4 の3 g と9 g で量の増加により延長した.舌根部最大内圧は,コード2 の3 g と9 g,6 g と9 g で量の増加により低下した.すべての測定項目において,各コード間の比較で有意差を認めなかった.
【結論】健常成人において,嚥下調整食の量の増加はUES 弛緩時間を延長させ,一部の嚥下調整食の量の増加は,上咽頭部と舌根部の圧持続時間,舌根部の最大内圧を変化させることが示唆された.
【目的】本邦には慢性閉塞性肺疾患(Chronic obstructive pulmonary disease: COPD)患者が約530 万人いると推定され,なかには誤嚥性肺炎を併発する患者も存在する.しかし,COPD と誤嚥性肺炎の関連については十分に検討されていない.本研究では,COPD 患者における誤嚥性肺炎発症の割合ならびに患者背景などの実態を調査した.
【方法】2014 年5 月から2017 年7 月に当院呼吸器内科に入院したCOPD 患者231 例(74.5±9.1 歳,男性178 例, 女性53 例)を対象に入院理由を調査し,誤嚥性肺炎の割合を算出した.また,肺炎,誤嚥性肺炎で入院し,リハビリテーションを施行したCOPD 患者85 例について,年齢,Body mass index(BMI),血清アルブミン(Alb)値,握力,10 m 歩行時間,機能的自立度評価法(Functional Independence Measure:FIM),Functional Oral Intake Scale(FOIS),肺活量,% 肺活量,1 秒量,1 秒率を比較検討した.統計解析には,Mann-Whitney のU 検定,χ2 検定を用いた.
【結果】誤嚥性肺炎で入院したCOPD 患者は17 例(7%)であった.また,肺炎全体における誤嚥性肺炎の割合は16% で,年代別では80 歳代で26%,90 歳代は43% を占めた.誤嚥性肺炎患者と非誤嚥性肺炎患者の比較では,誤嚥性肺炎群が有意に高齢であり,BMI, 血清Alb 値,握力,FIM, 肺活量が低値を示し,10 m 歩行時間が延長していた.1 秒率は差がなかった.FOIS は,入院前では差がなかったが,退院時では誤嚥性肺炎群が低値であった.
【結論】誤嚥性肺炎を発症したCOPD 患者は加齢に伴って増加した.誤嚥性肺炎患者の特徴として,高齢,低栄養,身体機能低下,ADL 低下,肺活量低下が認められた.
【目的】嚥下造影検査(Videofluoroscopic examination of swallowing:以下VF)において,低浸透圧性非イオン性ヨード系造影剤を使用した際の安全性を調査する.
【方法】2015 年4 月~ 2017 年3 月の期間に,当院入院中もしくは外来通院中にイオパミドール(オイパロミン®)を用いてVFを実施した患者を対象とした.除外基準は,ヨードアレルギー,もしくは重篤な甲状腺疾患のある患者,検査の同意が得られなかった患者とした.造影剤の使用方法は,造影剤を希釈してトロミ剤を添加したものを固形物に混入,または造影剤を希釈したものを水分として経口摂取してもらい嚥下機能を評価した.調査は対象症例について,検査記録および診療録より後方視的に調査した.調査項目はVF 直後から7 日以内でのイオパミドールの添付文書上に記載されている副作用と,検査後5 日以内の重篤な肺障害合併の発現有無を調査した.また,誤嚥が認められた場合,肺野への造影剤貯留の有無を胸部X 線検査にて評価した.
【結果】調査期間中452 例(男性300 例,女性152 例,平均年齢69.4 歳)が対象となった.副作用発現は総計3 例3 項目(0.6%)で掻痒感,頭痛,紅潮が各1 例(0.22%)であったが,重篤な合併症は認められなかった.VF中に誤嚥を認めた患者は53例(11.7%)であったが,肺野への貯留,重篤な肺障害合併は認められなかった.
【結論】低浸透圧性非イオン性ヨード系造影剤を使用することで,検査中誤嚥が起きた場合でも合併症はほとんど起こすことなく,重篤な肺障害も起こさないことから,安全にVF を実施することが可能であることが示唆された.