日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
23 巻, 3 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著
  • 須永 恵梨子, 只浦 寛子, 倉方 奈々, 三浦 弘規, 多田 雄一郎, 増淵 達夫, 伏見 千宙
    2019 年 23 巻 3 号 p. 161-170
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    【目的】頭頸部癌に対する治療法の評価は,治療後の生存率と患者のQuality of Life(以下,QOL)の両者から考えられるべきであることが報告されている.本研究は,喉頭摘出者の退院後のQOL の実態,またEORTC QLQ-C30 の世界的な健康状態を示すGlobal health status(以下,QL2)関連要因を明らかにすることを目的とした.

    【対象】一般病院1 施設において,調査回答が可能と主治医が判断し,研究同意の得られた喉頭摘出術後の外来患者を本研究の対象とした.対象のQOL は,EORTC QLQ-C30 とEORTC QLQ-H&N35 を用いて測定した.

    【方法】EORTC QLQ-C30 とEORTC QLQ-H&N35 を用いた質問紙調査を1 人1 回実施した.対象をQL2 の中央値で高値群・低値群に分け,マンホイットニーのU検定とカイ二乗検定を行った.EORTC QLQH&N35 の複数項目・単一項目とスケール,またスケール間のピアソンの相関分析を行った.QL2 に対する影響をみるために,Barthel Index,仕事,術後経過年数,年齢を説明変数として二項ロジスティック回帰分析を行った.

    【結果】QL2 得点の中央値67 点以上をQL2 高値群(35 名),67 点未満をQL2 低値群(27 名)とした.2群間ではBarthel Index(p=.002)と仕事(p=.011)のみに有意差が認められた.EORTC QLQ-H&N35 の「人前での食事困難」は,「嚥下障害」や「他者との接触困難」との間にかなりな正の相関があった.「嚥下障害」は,「感覚問題」と「人前での食事困難」にかなりな正の相関があった.QL2 は仕事に関連が認められた(OR:4.46,95%CI:1.03–19.32,p=0.046).

    【結論】喉頭摘出者の退院後のQOLにおいて,嚥下障害は,感覚問題と人前での食事困難に相関していた.QL2 に対する影響要因は仕事であった.

  • 高橋 智子, 増田 邦子, 勝瀬 梨沙, 吉田 美咲, 大越 ひろ
    2019 年 23 巻 3 号 p. 171-179
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    【目的】小麦でんぷんの糊化を促進し,さらに糊化でんぷんの老化を抑制する目的で使用されているでんぷん分解酵素のα–アミラーゼ添加パン,およびα–アミラーゼを添加していない無添加パンの糊化度,および物理的特性を評価し比較検討したうえで,両者の咀嚼性の違いを咀嚼時筋電位測定,および咀嚼回数の異なるパン食塊の性状の変化より検討した.

    【方法】α–アミラーゼ添加パン,および無添加パンの特性として,パンローフ重量,外観としてのパンローフの高さ,比容積,クラム部分の含有水分率,テクスチャー特性の測定を行った.小麦でんぷんの糊化の違いを検討する糊化度の測定には,BAP 法を用いた.咀嚼しやすさの検討は咀嚼筋電位測定により行った.また,咀嚼による食塊性状の変化をみるために,規定咀嚼回数(5,10,15,20,25 回)を咀嚼したパン食塊について,テクスチャー特性,および含有水分率の測定を行った.

    【結果】α–アミラーゼ添加パンと無添加パンの外観,および比容積に差は認められなかったが,α–アミラーゼ添加パンの硬さは無添加パンに比べ軟らかくなり,凝集性が低下することがわかった.糊化度は,α–アミラーゼ添加パンが無添加パンに比べ,高い値を示した.また,咀嚼時筋電位測定の結果より,軟らかいα―アミラーゼ添加パンは無添加パンに比べ,咀嚼1 回に要する咬筋活動量が少なく,咀嚼終了までの咀嚼回数,咀嚼時間も短くなることが示された.パン食塊の性状について検討した結果,咀嚼回数5回の食塊の硬さはパン試料よりも硬くなることが示された.また,咀嚼回数5 回の食塊の硬さは,α―アミラーゼ添加パンは無添加パンに比べ,有意に軟らかいことが認められたが,咀嚼10 回以上で試料間に有意差は認められなかった.咀嚼回数の増加に従い,パン食塊の含有水分率も増加傾向を示した.

    【結論】α–アミラーゼを添加することで,パンに含まれる糊化でんぷんが増加することにより軟らかく,さらに咀嚼しやすいパンの調製が可能であることが示唆された.

  • 泉田 純代, 茂野 敬, 伊井 みず穂, 梅村 俊彰, 安田 智美
    2019 年 23 巻 3 号 p. 180-188
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    【目的】健常高齢者の口腔機能の実態と質問紙による嚥下障害の有無,食事中の口腔期や咽頭期の症状と食形態について明らかにすることを目的に調査を行った.

    【方法】対象は,要介護者を除く質問に回答できる65 歳以上の在宅高齢者104 名を対象とした.対象者に対し,口腔機能[ 口腔粘膜湿潤度,音節交互反復運動(以下ODK),舌圧,咀嚼能力] を測定し,聖隷式嚥下質問紙による嚥下障害の有無,食事中の口腔期や咽頭期に関する質問(聖隷式嚥下質問紙の問3~問11),食べにくくなった食品と食形態の工夫について調査を行い,口腔機能と調査項目との関連について検討した.

    【結果】ODK/pa//ta//ka/・舌圧・咀嚼機能は年齢と相関を認め,ODK/pa//ta//ka/ は相互間の関連で相関を認め,舌圧はODK/ta//ka/ と相関を認めた.また,嚥下障害あり群でODK/ta/ が,嚥下障害の疑いor なし群に比べて有意に低い値を示した.口腔期・咽頭期の症状と口腔機能との関連では,食べるのが遅くなった群でODK/ta/ が,食事中にむせることがある群で舌圧,硬い物が食べにくくなった群で咀嚼機能が,そうでない群に比べて有意に低い値であった.食べにくくなった食品と食形態の工夫では,硬い物あり群でODK/pa//ka/,のどに貼りつくものあり群でODK/ka/,食形態の工夫では,軟らかくしている群でODK/pa//ka/ が,そうでない群に比べて有意に低い値であった.

    【結論】65 歳以上の健常高齢者において,ODK/pa//ta//ka/・舌圧・咀嚼機能は年齢と相関を認め,加齢とともに機能の低下を認めた.また,口腔期・咽頭期の症状がある群や食形態の工夫をしている群は,そうでない群に比べて口腔機能が有意に低下していた.

症例報告
  • 池上 敏幸, 中村 利恵, 我妻 朋美, オモレゲ 尚子, 李 卿, 小林 美香, 松元 秀次
    2019 年 23 巻 3 号 p. 189-193
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    【緒言】頸椎椎体骨棘により喉頭蓋の運動が阻害されていた患者に対して,嚥下造影下で姿勢の調整を行い,喉頭蓋の動きに改善がみられた症例を報告する.

    【症例】7 年前の橋梗塞の既往がある76 歳の男性.慢性痒疹にて入院加療中に誤嚥性肺炎と急性膿胸を発症した.

    【経過】不顕性誤嚥を疑い,嚥下造影検査を施行したが,誤嚥は認めなかった.しかし,喉頭蓋が頸椎前面(C4-C5)のくちばし状の骨棘に引っ掛かり,喉頭蓋の運動を妨げ食塊の通過を阻害していた.また,喉頭蓋が反転しないことがあり,食塊の咽頭残留がみられ嚥下障害を認めた.嚥下造影下で,座面の調整と頭頸部の位置を調整したところ,喉頭蓋の動きが改善し,咽頭のクリアランスも向上した.日常の食事場面では,両手動作を促して,食器を持って食べる動作が定着したことで,嚥下造影時に調整した姿勢と同様の姿勢を保つことができた.退院までの間,誤嚥性肺炎を再発することはなかった.

    【考察】喉頭蓋の運動を妨げていた要因として,くちばし状の骨棘に加え,橋梗塞による舌根部の後退の不十分さや舌骨の前上方への動きの乏しさが基盤にあったと推察した.嚥下造影検査時の姿勢調整は有用であり,座面を調整し,頭頸部を頸部突出屈曲位に変化することができた.この姿勢を保つことで,嚥下時の舌根部の後退を援助し,咽頭腔が広がり喉頭蓋の反転を改善したと考えられた.

臨床ヒント
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