日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
18 巻, 2 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著
  • 小西 勝, 長﨑 信一, 安原 幸美, Atia Hossain, 谷本 啓二
    2014 年 18 巻 2 号 p. 113-122
    発行日: 2014/08/31
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    【目的】嚥下造影検査で炊飯米の検査をする場合,当科では通常炊飯した米に粉末状の硫酸バリウム製剤をふりかけ,混ぜ合わせて米粒周囲に造影剤を塗りつけたもので検査を行っている.この方法では,食感,味が本来のごはんとは大きく異なり,炊飯米について正確な検査を行うのは困難であった.今回われわれは,普段食べている状態に近い炊飯米での嚥下造影検査を可能にするために,造影剤入り炊飯米の作製を試みたので,その概要について報告する.

    【材料と方法】下記 ①,② の材料を用いて,2 種類の造影剤入り炊飯米を作製した.さらに,現在,検査に用いている硫酸バリウムを使用した炊飯米と同様の試料 ③ を作製し,造影剤の入っていない炊飯米として試料 ④ を作製した.

    試料 ①:無洗米10 g +ビジパーク270®10 ml +水10 ml

    試料 ②:無洗米20 g +ビジパーク270®10 ml +水20 ml

    試料 ③:市販のレトルトパック炊飯米12 g +硫酸バリウム粉末8 g +水2 ml

    試料 ④:無洗米10 g +水20 ml

    上記の方法で作製した試料について,炊飯米の造影性,造影剤の炊飯米内部への浸透性,炊飯米の物性の評価,測定を行った.また,物性との関連を調べるために,造影剤単体での濃度別の粘度の測定も行った.

    【結果】蛍光分析によるヨードの分析では,試料 ①,② とも炊飯米内部までヨードが比較的均一に分布していることが確認できた.造影性に関しては,試料 ① は良好であったが,試料 ② はやや不良であった.物性については,付着性がコントロールと比較して,試料 ①,② とも高い値を示しており,特に,試料 ① は有意に上昇していた.造影剤は,粘度をもっており,これが付着性の上昇の原因の一つと考えられた.

    【結論】本研究で用いた方法によって,造影剤を炊飯米の中に浸透させることができることがわかり,ファントム(人体模型)を使用したX 線透視実験でも良好な造影性を得ることができた.また,物性に関しても,付着性はやや高くなったが,比較的通常の炊飯米に近いものを作製できた.

  • 岩﨑 円, 冨田 和秀, 武島 玲子, 飯塚 眞喜人
    2014 年 18 巻 2 号 p. 123-130
    発行日: 2014/08/31
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    【目的】嚥下時の舌骨上筋群の筋活動持続時間は加齢に伴い延長する.しかし,この延長が嚥下機能低下を反映しているのかどうかは不明である.本研究では,この点を明らかにするため,聖隷式嚥下質問紙のうち咽頭・口腔機能を反映する項目に対する回答により,被験者を3 群あるいは2 群に分け,活動持続時間との関連を調べた.

    【方法】23~86 歳の健常者83 名(男36 名,女47 名)を対象とした.嚥下課題には,水3 および10 ml の一回嚥下を用いた.そして,舌骨上筋群より表面筋電図を記録し,嚥下時の活動持続時間(半値幅)を計測した.

    【結果】水3 および10 ml 一回嚥下時の半値幅は,それぞれ0.62±0.22 秒(平均±標準偏差,n=78)および0.57±0.24 秒(n=80)であった.そして,半値幅と年齢との間に弱い相関が認められた(水3 ml: r=0.330, p=0.003, n=78;水10 ml: r=0.238, p=0.034, n=80).咽頭・口腔機能を反映する9 項目について,A 回答あり群,A 回答なしB 回答あり群,C 回答のみ群に分けた時,水3 ml 一回嚥下時の半値幅はそれぞれ,0.83±0.30 秒(n=6),0.61±0.19 秒(n=23),0.60±0.21 秒(n=49)であった.同様に10 ml一回嚥下時では,0.75±0.34 秒(n=7),0.57±0.20 秒(n=24),0.55±0.23 秒(n=49)であった.年齢を共変量とした分散分析では,群間に有意差を認めなかった(水3 ml: p=0.232;水10 ml: p=0.378).咽頭機能を反映する5 項目について,B 回答あり群,C 回答のみ群に分けた時も,群間で有意差を認めなかった(水3 ml: p=0.419;水10 ml: p=0.113).

    【結論】嚥下時の舌骨上筋群の筋活動持続時間(半値幅)は加齢とともに延長するが,その延長は嚥下機能低下を意味しないと考えられる.

  • 長井 勇太, 山村 千絵
    2014 年 18 巻 2 号 p. 131-140
    発行日: 2014/08/31
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    【目的】 本研究は,とろみ調整食品による粘度付加を行った溶液で,甘味,塩味,酸味の味覚閾値や味覚強度がどう変化するかについて調べることを目的に行った.

    【対象と方法】 健常成人16 名を被験者とした.

    ショ糖(甘味),塩化ナトリウム(塩味),酒石酸(酸味)を蒸留水に溶かし,濃度の異なる味溶液を調製した.トロミパワースマイルを用い,各味質において,とろみ無添加溶液,1%とろみ溶液,2%とろみ溶液を調製した.

    認知閾値の測定時は,3 味質ともに6 段階の濃度の溶液を設定し,明らかに味質が感知できる最低濃度を認知閾値とした.味覚強度の測定時は,3 味質ともに閾値上濃度に設定し,とろみ無添加溶液の味覚強度を基準として,1% とろみ溶液と2% とろみ溶液の味質をどの程度の強さで感じたかを,-3 から+3 までの7 段階で評価させた.

    【結果】 1.認知閾値:甘味では,とろみ無添加溶液と比べ,2% とろみ溶液は閾値が有意に大きかった(p<0.05).塩味では,各溶液間で有意差はなかった.酸味では,とろみ無添加溶液と比べ,1% とろみ溶液(p<0.001),2% とろみ溶液(p<0.001)は,閾値が有意に大きかった.また,1% とろみ溶液と比べ,2% とろみ溶液は閾値が有意に大きかった(p<0.05).

    2.味覚強度:甘味では,2% とろみ溶液は,他の溶液よりも有意に甘味が弱いと評価された(p<0.01).塩味では,各溶液ともに同程度の塩味であると評価された.酸味では,とろみ溶液はとろみ無添加溶液よりも有意に酸味が弱く(p<0.001),かつ,2% とろみ溶液のほうが1% とろみ溶液よりも有意に酸味が弱い(p<0.001)と評価された.

    【結論】 飲食物にとろみを付けると,粘度により味の感じ方が弱くなるが,とろみ調整食品に含まれている成分によって,異なる味の変化を示す場合があることが示唆された.

  • 山田 恵理子, 西村 智子, 山中 英治, 鞍田 三貴
    2014 年 18 巻 2 号 p. 141-149
    発行日: 2014/08/31
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    患者の意欲が嚥下機能改善に関係するか否かを検討した.脳血管疾患で入院した摂食機能療法依頼患者のうち,意思疎通可能で研究参加への同意の得られた39例(男性21例,女性18例)を対象とした.嚥下機能を,Functional Oral Intake Scale(FOIS)を用いてST 介入時および入院30 日目で評価し,嚥下機能改善群,不変・低下群に分類した.意欲評価は,アパシースケール(42 点満点,低スコアが意欲あり)を用いた.嚥下機能レベル改善群は31 例(79%),不変・低下群は8 例(21%)であった.2 群間の入院時の年齢,主疾患,脳卒中既往の有無,ADL,四肢麻痺の有無,JCS,血液検査値に差はなく,絶食期間,ST 介入までの日数,誤嚥性肺炎の有無,うつスコアにも差はみられなかった.入院時のBMI は不変・低下群で有意に高値であり,肥満傾向を示した.ST 介入時の意欲は改善群で有意に高値であった.

    ロジスティック回帰分析により抽出された嚥下機能改善に関係する因子は,入院時BMI とST 介入時の意欲であった.摂食機能療法の良否には,患者の意欲が影響する可能性が示唆された.

  • 水野 智仁, 山村 千絵
    2014 年 18 巻 2 号 p. 150-158
    発行日: 2014/08/31
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究は,頸椎装具装着の有無と頭部角度の変化が,水嚥下のしやすさに及ぼす影響を検討することを目的として行った.

    【対象と方法】健常成人27 名(平均年齢22.5±3.5 歳)を被験者とした.

    頭部角度は,中間位,伸展位,装具中間位,装具伸展位の4 条件を設定した.水嚥下のしやすさの評価指標には,自由飲水一口量,最大一回嚥下量,主観的嚥下のしやすさ(口への含みやすさ,飲み込みやすさ,喉の通りやすさ)を用いた.

    統計学的解析は,反復計測によるTwo-way ANOVA を用いた後,多重比較検定を行い,危険率5% 未満をもって有意とした.

    【結果】 1.自由飲水一口量は,装具中間位だけが他の3 姿勢と比較して有意に少なかった(p<0.01).

    2.最大一回嚥下量は,中間位,装具中間位が,伸展位,装具伸展位と比較して有意に少なかった(p<0.01).

    3.口への含みやすさは,中間位が伸展位と比較して(p<0.01),装具中間位が装具伸展位と比較して(p<0.01),有意に口に含みにくいと評価された.

    4.飲み込みやすさは,装具中間位,装具伸展位が中間位,伸展位と比較して有意に飲み込みにくいと評価された(p<0.01).

    5.喉の通りやすさは,中間位,装具中間位が伸展位,装具伸展位と比較して(p<0.01),装具中間位,装具伸展位が中間位,伸展位と比較して(p<0.05),有意に喉を通りにくいと評価された.

    【結論】 水嚥下のしやすさの各種指標には,頭部角度の変化も頸椎装具の装着も,有意な影響を与えていることがわかった.また,頸椎装具を装着した場合に,水嚥下をしやすくするには,頭部角度の調整が有効となる場合があることが示唆された.

短報
  • ―パーキンソン病患者,脳血管疾患患者,骨折者の比較―
    辻澤 陽平, 櫻井 貴之, 東 琢哉, 横串 算敏
    2014 年 18 巻 2 号 p. 159-165
    発行日: 2014/08/31
    公開日: 2020/04/30
    ジャーナル フリー

    パーキンソン病(Parkinson’s disease; PD)患者8 名,脳血管疾患(cerebrovascular disease; CVD)患者10 名,骨折者10 名を対象に,疾患ごとに唾液湿潤度(粘膜上水分量)と舌,頬での口腔粘膜水分量(上皮内水分量)に違いがあるかどうかを検討した. 唾液湿潤度は,PD 群では一定の傾向はみられず,CVD 群では増加し,骨折群では減少していた.舌での口腔粘膜水分量は,PD 群で低下し,CVD 群および骨折群では基準値範囲内であった.頬での口腔粘膜水分量は,全例で基準値範囲内であった.唾液湿潤度と舌での口腔粘膜水分量に有意な相関は認められなかった.唾液湿潤度と舌での口腔粘膜水分量は各群で異なる可能性があり,事例ごとに口腔内を観察し対処する必要がある.

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