日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
25 巻, 2 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著
  • 山縣 誉志江, 板谷 怜美, 五十嵐 沙織, 栢下 淳子, 丹生 希代美, 引野 義之, 川島 加奈, 大庭 恵子, 栢下 淳
    2021 年 25 巻 2 号 p. 81-89
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

     日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会が示している「嚥下調整食分類2013」(食事)早見表において,他の分類との対応として,日本介護食品協議会の自主規格であるユニバーサルデザインフード(UDF)の各区分との対応が明示されている.しかしながら,その精度についての検証は行われていない.本研究では,この互換性について官能評価により検証した.UDF 区分が明示された市販食品50 品目を試料とし,管理栄養士25 名による官能評価を行った.その結果,現状の製品のUDF区分表示の対応率(適合率)は56.0% であり,製品表示よりも咀嚼能力を必要とする傾向にあることが示された.また,学会分類2013(食事)早見表のUDF 区分の表記のうち,コード4 にも区分3(舌でつぶせる)を対応させることで適合率が上がることがわかった.

  • 建部 一毅, 石田 雅樹, 真柄 仁, 小幡 裕明, 樋浦 徹, 前川 和也, 伊藤 加代子, 辻村 恭憲, 井上 誠
    2021 年 25 巻 2 号 p. 90-101
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

     本研究は誤嚥性肺炎入院患者の治療体系において,主たる原因である嚥下機能低下に注目し,摂食嚥下機能評価フロー立案と, その実施効果の検証を目的とした.

     誤嚥性肺炎入院患者に対し,患者の基本情報の他,全身状態,食事摂取状況,嚥下機能,口腔状態の 4 つの側面と細項目から構成された摂食嚥下機能評価項目を設定し評価を実施した.言語聴覚士による① 介入開始時,② 肺炎治療終了時,嚥下機能が安定した ③ 介入終了時の3 点による機能評価を102 名(男性50 名,年齢中央値90 歳)について経口退院群と死亡・非経口退院群で2 群比較検討した.さらに,肺炎治療とあわせた摂食嚥下機能評価フローを立案し,51 名(男性24 名,年齢中央値91 歳)を対象に実施効果を検討した.

     肺炎治療終了時には,年齢,BMI, Barthel Index, 意識レベル,従命可否,排痰の可否,咽頭吸引の要不要,経口摂取量,含嗽力,口腔ケア自立度において2 群間で有意な差が認められた.これらを独立変数,経口摂取退院を目的変数とした多重ロジスティック回帰分析の結果,食事の経口摂取量と従命可否が有意な項目となった.摂食嚥下機能評価フローの導入前後における,入院から退院までの全体の在院日数の比較では,有意な差は認められなかった.肺炎治療終了後から介入終了時までの在院日数の比較では,経口退院群においてフロー導入後に有意な短縮が認められ,摂食嚥下機能評価とそれに対応する患者支援が有効に進んでいたと考えられた.

     誤嚥性肺炎入院患者に対して,摂食嚥下機能評価フローを導入することで,経口摂取可能な患者では,入院期間短縮の点で有効である可能性が考えられた.

  • 佐藤 光絵, 山縣 誉志江, 栢下 淳
    2021 年 25 巻 2 号 p. 102-113
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

    【目的】嚥下調整食学会分類2013 推奨のとろみ液の簡易評価法であるLine Spread Test(LST)は,溶媒や増粘剤の種類によっては正しく粘度評価できないと報告されている.一方,International Dysphagia Diet Standardisation Initiative(IDDSI)推奨のシリンジテストを検証した報告は少ない.本研究は,シリンジの種類による誤差の検証,溶媒の種類による影響の検証,およびLST との比較を目的とした.

    【方法】試料は,ずり速度50 s-1 における粘度が50,150,300,500 mPa・s 程度になるよう,とろみ調整食品で粘度調整した.試験1:水と経腸栄養剤をキサンタンガム系,デンプン系のとろみ調整食品でとろみ付けし,3社(BD, TERUMO, JMS)のシリンジを用いてテストを行った.また,BDの結果より検量線を作成し,各シリンジテストの残留量より粘度を推計,誤差を検証した.試験2:水,食塩水,お茶,オレンジジュース,経腸栄養剤をキサンタンガム系とろみ調整食品でとろみ付けし,シリンジテストを行った.試験3:水と経腸栄養剤をキサンタンガム系とろみ調整食品でとろみ付けし,シリンジテストとLSTを行った.

    【結果と考察】試験1:シリンジの種類により残留量が変化したが,BD のシリンジテストの検量線を用いてTERUMO・JMS の残留量より粘度を推計したところ,全試料の約8 割は粘度との差が10% 未満で,現実的に問題は少ないと思われた.試験2:お茶とオレンジジュースは水と同様の残留量となった.経腸栄養剤は残留量が他の溶媒より少ない傾向があり,食塩水はばらつきが大きかった.経腸栄養剤は実際の粘度より薄く評価しやすいこと,食塩水はテスト値が不安定であることに注意を要すると思われた.試験 3:LST は経腸栄養剤の全試料において,低粘度の水よりLST 値が高くなることがあった.シリンジテストは,LST でみられたような順位の逆転が粘度の高い領域のみでみられた.薄いとろみに関しては粘度の分類に矛盾がない点において,シリンジテストはLST よりとろみ液の簡易評価法として優れていると考えられた.

短報
  • 荒川 武士, 小林 秋太, 佐藤 大地, 石田 茂靖, 市村 篤士, 佐藤 正和, 新野 直明
    2021 年 25 巻 2 号 p. 114-119
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

     【目的】舌骨上筋群の筋活動向上方法の1つに頭部挙上訓練法(シャキア法)がある.頭頸部の挙上すなわち矢状面での屈曲運動には,運動学的に頭部屈曲,頸部屈曲,頭頸部屈曲の3 種類があるが,3 種のどれが有効であるか明確ではない.そこで,3 種の屈曲運動時の舌骨上筋群ならびに胸鎖乳突筋筋活動への効果を比較検討した.

    【方法】対象は65 歳以上の高齢者25 名とした.除外基準は,神経疾患の既往歴がある者,頸部・脊柱に著明な関節可動域制限や痛みを有する者,摂食嚥下機能に問題を有する者,口頭指示が理解できない者とした.課題は,頭部屈曲運動,頸部屈曲運動,頭頸部屈曲運動の3 種類とした.被検筋は舌骨上筋群に加え,頭部挙上時にも活動する胸鎖乳突筋の2 筋とし,表面筋電図を用いて筋活動を計測した.各課題2 回計測し,1 回ごとに30 秒間の休憩をとった.また,課題ごとに5 分間の休憩をとった.課題の順番はランダムに実施した.各課題の解析区間は挙上が安定してからの3 秒間とし,各筋群の原波形を整流後,3 秒間の平均振幅を求めた.2 回の平均値のうち値が大きいほうを代表値とした.頭部屈曲運動時の値を100%と規定して,頸部屈曲運動時と頭頸部屈曲運動時の筋活動の割合(%)を求めた.各課題時の筋活動をFriedman 検定にて検討した.有意水準は5% とした.

    【結果】舌骨上筋群は頭部屈曲100%,頸部屈曲68.8%[51.7%–97.8%],頭頸部屈曲64.4%[46.8%–95.6%](中央値[四分位範囲])であった.頭部屈曲は頸部屈曲,頭頸部屈曲よりも有意に筋活動が高かった.胸鎖乳突筋は頭部屈曲100%,頸部屈曲173.3%[105.9%–255.0%],頭頸部屈曲144.3%[118.0%–255.0%]であった(中央値[四分位範囲]).頭部屈曲は頸部屈曲,頭頸部屈曲よりも有意に筋活動が低かった.

    【考察】頭部屈曲運動が最も効果的な頭部挙上方法であった.今後は,介入研究にて嚥下機能におよぼす影響を検討する予定である.

  • 小島 三枝, 山田 譲司, 奥 敦文, 浜田 雅美, 藤田 栞, 塚原 丘美
    2021 年 25 巻 2 号 p. 120-128
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

     【目的】 誤嚥性肺炎の予防には口腔ケアが必須である.しかし,多くの高齢者施設において,含嗽ができない高齢者や口腔ケアを拒否する高齢者が多いために口腔ケアは困難である.さらに口腔ケアに関わる時間を確保することも難しく,効率のよいケアの方法が望まれている.そこで,当施設において,舌苔除去に効果のあるアロマキャンディが,効率的かつ有効な口腔ケアになるか検証した.

    【方法】 特別養護老人ホーム入居者92 名を対象とし,無作為に介入群(46 名)と非介入群(46 名)の2 群に分けた.介入群はアロマキャンディを1 日3 回,食後を目安に摂取し7 日間継続した.摂取後に舌苔付着程度,カンジダ菌数を摂取前と比較した.カンジダ菌はカンジダディテクター(亀水化学工業)を使用し,コロニーの数で5 段階に分類した.非介入群は通常のケアを継続し,1 週間の期間を経てから再評価した.追跡調査として,摂取開始日より1 カ月後に同様の2 項目を検査し,摂取直後と比較した.

    【結果】 介入群は非介入群に比べて舌苔付着程度に減少傾向が認められたが,カンジダ菌数では有意な変化は認められなかった.介入群の介入前後で比較すると,舌苔付着程度が有意に減少した.介入群において,カンジダ菌を高値と低値に群分けし,条件別に検証したところ,義歯なし群,副食形態コード3(摂食嚥下リハ学会分類2013)以下群,BMI 低値群(BMI 20 kg/m2 未満)で有意にカンジダ菌数が減少し,どの群も1 カ月後まで低値を維持する傾向にあった.舌苔付着程度は1 カ月後に有意に上昇した.

    【結論】 アロマキャンディは義歯を使用していない,あるいは食物残渣が残りにくい食事を摂取しているなどの条件の場合,一定の効果が得られると考えられた.アロマキャンディは,利用者に苦痛を与えず,かつ効率の良い口腔ケアとして高齢者の口腔衛生状態を改善させ,QOL の維持向上につながることが期待できる.

症例報告
  • 栄元 一記, 中尾 雄太, 齋藤 翔太, 南都 智紀, 内山 侑紀, 道免 和久
    2021 年 25 巻 2 号 p. 129-134
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/12/31
    ジャーナル フリー

     症例は74 歳女性,皮膚筋炎の患者である.頸部と背部の発赤および歩行困難を認めたため,A 病院に入院した.A 病院入院後,全身倦怠感と嚥下障害が出現したため当院に転院し,皮膚筋炎と診断された.副腎皮質ステロイド療法および免疫抑制療法を施行したことで,クレアチンキナーゼや筋痛および皮膚症状など筋炎の症状は軽快したが,咽頭残留を主体とした重度嚥下障害が遷延した.そこで,亜急性期より負荷量に留意した嚥下関連筋の筋力増強訓練を実施した.その結果,過用性筋力低下や筋炎の再燃など有害事象を生じることなく,舌圧および頸部筋力の改善を認め,3 食経口摂取が可能となった.薬剤治療に加え,亜急性期の嚥下関連筋における筋力増強訓練が,四肢体幹の筋力増強訓練と同様に有効である可能性が示唆されたため,若干の文献的考察とともに報告する.

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