摂食・嚥下障害をもつ患者に,口腔機能にあった食内容を提供することは重要な課題である.これまで,食物移送に関する報告は嚥下造影検査を用いたものが多く,特定断面における食物の流れや速度を評価することは困難であった.一方,超音波ドブラ法はドブラ効果による周波数の偏位を利用して,血液の流れや速度,性質などを知ることができる.しかし,口腔領域における,食物移送の観察法として使用された報告はみられない.
そこで,本研究では嚥下口腔相において,口腔から咽頭へ移送される食物の流れを捉える方法として超音波ドブラ法を採用し,食物移送における食物の描出条件および解析方法について検討を行った.結果,以下のような知見を得た.
1.小型の探触子に,固定装置および角度計器付ホルダーを装着することで,エコーウィンドを規格化し,確実に食物移送を描出することが可能となった.
2.表示画像をDモードとBモードを併用することで,食物移送により生じた周波数の偏位を確実に捉え,計測することができた.
3.角度補正線の設定角度は,口蓋前方部の傾斜角度を参考に60°とすることで,装置側の条件も考慮した画像設定となった.
4.前頸部の運動に支障なく,角度補正線を食物移送方向に一致させやすい探触子の角度は,正中矢状方向から後方に10°であった.
5.改良型PMにより,食物を捉えた口蓋上の位置について,歯列との位置関係を明確にし,数値化することが可能となった.
6.今回の描出方法を使用することで,口腔から咽頭へ移送される食物の最高速度・流入時間・最高速度到達時間・平均加速度を求めることができた.各値の個人変動係数は大きくなかったことから,本検査法は食物の観察および評価法として有効性が示唆された.
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