日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
5 巻, 2 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
総説
  • 才藤 栄一
    2001 年 5 巻 2 号 p. 105-112
    発行日: 2001/12/30
    公開日: 2020/07/19
    ジャーナル フリー

    リハビリテーション医学・医療は,活動障害を主たる対象とし,多層的対応を用いてシステムとしての解決を図るという特徴を有する.その際,活動―機能―構造連関,治療的学習,援助工学という概念の理解が大切となる.

    リハビリテーションチームでは,患者のneedから考えるtransdisciplinaryという形態が重要になる.そのためには,自分の専門性や役割を柔軟に扱える高い能力がその構成員に要求される.日本摂食・嚥下リハビリテーション学会が,摂食・嚥下障害者の活動障害に対する有効な方法論を発展させるtransdisciplinaryな場になることを期待する.

原著
  • ―温度と物性の影響―
    川野 亜紀, 高橋 智子, 大越 ひろ, 大塚 義顕, 向井 美惠
    2001 年 5 巻 2 号 p. 113-120
    発行日: 2001/12/30
    公開日: 2020/07/19
    ジャーナル フリー

    ペースト状の食物について,温度(10,25,50℃)と物性(硬さ,降伏応力)が官能評価および舌運動に及ぼす影響について検討を行った.試料として,増粘剤を添加した「にんじん」およびバターを添加した「さつまいも」の2種を用いた.硬さおよび降伏応力の温度依存性が顕著にみられたものはバター添加試料の「さつまいも」であり,これに比べると増粘剤添加試料の「にんじん」は温度依存性が小さく,どちらの試料も温度の高いものほど硬さおよび降伏応力は小さかった.官能評価による飲み込み特性において,バター添加試料の「さつまいも」は,供出温度が10℃から50℃の範囲では供食温度が高いほうがよりなめらかで飲み込み易いと評価された.おいしさにおいて,「さつまいも」は50℃試料が10℃,25℃試料に比べおいしいと評価された.逆に「にんじん」では10℃試料が25℃,50℃試料に比べおいしいと評価され,低温域で好まれた.官能評価でおいしいと評価された温度帯の試料は飲み込み回数が少なかった.超音波断層法による舌運動では「さつまいも」において温度による差が認められ,温度の高いものほど,陥凹深度が深くなる傾向を示した.

    口内感覚を表す官能評価および舌運動において,「さつまいも」では有意に温度による差が認められたが,「にんじん」においては有意差は認められなかった.これは,力学的物性における温度依存性が,「さつまいも」に比べ「にんじん」は小さく,ヒトの口内感覚では認知できない範囲での変化であったと推察される.

  • ―最大努力でのblowing時の筋活動を基準にして―
    舘村 卓, 江口 ゆかり, 野原 幹司, 尾島 麻希, 和田 健
    2001 年 5 巻 2 号 p. 121-127
    発行日: 2001/12/30
    公開日: 2020/07/19
    ジャーナル フリー

    目的:鼻咽腔は音声表出のみならず嚥下時においても閉鎖される.その目的は,音声言語活動では,発音時の呼気の鼻腔漏出を防止し,嚥下時においては食塊の鼻腔への逆流を防止することである.鼻咽腔閉鎖機能の中心的役割を担う口蓋帆挙筋活動は,音声言語活動時においては負荷刺激の大きさに応じて調節されていることが明らかになっているが,嚥下時における刺激の強さに応じてどのように調節されているかは明らかになっていない.本研究は,健常者を対象に水嚥下量に応じて口蓋帆挙筋活動が変化するどうか,ならびに嚥下時同様に鼻咽腔が閉鎖されるblowing時の口蓋帆挙筋活動と活動量にどのような相違があるかを検討することを目的として行った.方法:3人の健常成人を被験対象とした.個々の被験者には,3ml,5ml,10mlの水を各々5回嚥下することと最大努力での10秒以上のblowi㎎を指示し,その際の口蓋帆挙筋活動を経口指使に刺入したhooked wire electrodeを用いて双極誘導で導出記録した.筋活動の分析は,積分筋電図を用いて,嚥下時には積分波形のpeakを,blowi㎎時には0.2秒ごとの活動を対象とした.結果:blowing時の最大筋活動を基準とした時の各被験者の嚥下時の筋活動は,被験者ごとに様々であり,一定の傾向はうかがえなかった.しかしながら,個々の被験者では,ANOVAの結果,嚥下量の相違に関わらず,嚥下時の筋活動はほぼ一定であり,この傾向はすべての被験者に共通していた.結論:10ml以下の水嚥下時の口蓋帆挙筋活動は嚥下量に応じて変化する可能性が低いこと,ならびに最大努力でのblowing活動での口蓋帆挙筋活動との関係は被験者ごとに様々であることが示された.

  • 原 明美, 大塚 義顕, 向井 美惠
    2001 年 5 巻 2 号 p. 128-137
    発行日: 2001/12/30
    公開日: 2020/07/19
    ジャーナル フリー

    摂食・嚥下障害をもつ患者に,口腔機能にあった食内容を提供することは重要な課題である.これまで,食物移送に関する報告は嚥下造影検査を用いたものが多く,特定断面における食物の流れや速度を評価することは困難であった.一方,超音波ドブラ法はドブラ効果による周波数の偏位を利用して,血液の流れや速度,性質などを知ることができる.しかし,口腔領域における,食物移送の観察法として使用された報告はみられない.

    そこで,本研究では嚥下口腔相において,口腔から咽頭へ移送される食物の流れを捉える方法として超音波ドブラ法を採用し,食物移送における食物の描出条件および解析方法について検討を行った.結果,以下のような知見を得た.

    1.小型の探触子に,固定装置および角度計器付ホルダーを装着することで,エコーウィンドを規格化し,確実に食物移送を描出することが可能となった.

    2.表示画像をDモードとBモードを併用することで,食物移送により生じた周波数の偏位を確実に捉え,計測することができた.

    3.角度補正線の設定角度は,口蓋前方部の傾斜角度を参考に60°とすることで,装置側の条件も考慮した画像設定となった.

    4.前頸部の運動に支障なく,角度補正線を食物移送方向に一致させやすい探触子の角度は,正中矢状方向から後方に10°であった.

    5.改良型PMにより,食物を捉えた口蓋上の位置について,歯列との位置関係を明確にし,数値化することが可能となった.

    6.今回の描出方法を使用することで,口腔から咽頭へ移送される食物の最高速度・流入時間・最高速度到達時間・平均加速度を求めることができた.各値の個人変動係数は大きくなかったことから,本検査法は食物の観察および評価法として有効性が示唆された.

臨床報告
  • ―主観的評価と客観的評価の比較―
    山下 夕香里, 石野 由美子, 横山 美加, 平野 薫, 衣松 令恵, 難波 亜紀子, 道脇 幸博, 高橋 浩二, 鈴木 規子, 道 健一
    2001 年 5 巻 2 号 p. 138-143
    発行日: 2001/12/30
    公開日: 2020/07/19
    ジャーナル フリー

    近年,摂食・嚥下機能障害に対して積極的に訓練が行われている.われわれは,簡便な用具を用いてベッドサイドで摂食・嚥下機能を簡便に評価できる簡易摂食・嚥下検査(以下,簡易検査)を開発した.本研究では,簡易検査を臨床でより適応させるため,脳出血後の1例の摂食・嚥下障害の訓練による改善過程について,客観的評価(舌・口唇・喉頭挙上運動の運動量と持続時間の測定)と,訓練者の主観的評価(運動能力)とを比較検討した.

    症例は,54歳男性で,脳出血後に生じた摂食・嚥下機能障害に対して基礎的摂食・嚥下訓練(以下,訓練)を実施した.訓練は原則的に患者自身が毎日行い,訓練期間は約10か月であった.訓練の改善過程は,1か月1回,主観的評価と客観的評価を同時に実施した.

    その結果,舌・口唇・喉頭挙上運動機能とも主観的評価結果よりも客観的評価結果の方が,訓練による改善過程をより詳細に表わしていた.一方,摂食・嚥下機能の総合評価(水のみ検査,VF検査,日常摂食・嚥下状況)においても改善がみられた.

    以上の結果より,今回の1例では結果的に嚥下関連器官の可動範囲や運動の持続時間の増加に伴って摂食・嚥下機能にも改善が見られ,両者の関連性が推測された.また嚥下関連器官の可動範囲や運動持続時間の測定は摂食・嚥下訓練の改善過程の評価に有用であることが確認された.

  • 野原 幹司, 舘村 卓, 和田 健
    2001 年 5 巻 2 号 p. 144-149
    発行日: 2001/12/30
    公開日: 2020/07/19
    ジャーナル フリー

    下顎歯肉癌の術後に生じた口唇および舌口蓋閉鎖の不全のために嚥下運動が不可能であり,気管カニューレと持続的経鼻胃経管栄養(NG)チューブが留置されていた症例に対して,嚥下補助装置を考案し,嚥下訓練を行った.手術から嚥下補助装置を装着するまで約3ヶ月の間には,口唇の運動が認められなかったものの,装着後約3週間で口唇閉鎖機能が賦活され,嚥下時の口唇閉鎖が可能になった.その結果,咽頭反射を惹起しない細い間欠的経口食道経管栄養(OE)チューブを食道に挿入することが可能となった.OEチューブの挿入練習開始後,7日目にチューブ先端を毎回食道内に留置することが可能となったため,NG法による栄養摂取に加えて,OE法からの摂取も開始した.OE法から必要な栄養を全量摂取することが可能となったため,挿入練習開始後23日目にNGチューブを抜去した.OEチューブ挿入開始後40日目,NGチューブ抜去後17日目に気管カニューレの側管から唾液が吸引されなくなったため,気管カニューレを抜去した.本症例の経過から,口腔腫瘍術後に口唇閉鎖不全をともなう摂食嚥下障害症例に対する,口唇閉鎖機能の賦活のための嚥下補助装置とOE法を組み合わせた治療法の有効性が示唆された.

  • 細野 純, 稲垣 明弘, 田村 文誉, 水上 美樹, 中村 厚一, 岡野 哲子, 向井 美惠
    2001 年 5 巻 2 号 p. 150-156
    発行日: 2001/12/30
    公開日: 2020/07/19
    ジャーナル フリー

    訪問歯科診療のなかで摂食機能療法を行った摂食・嚥下障害者4名を対象に,Swalloaidを作製,装着した結果,以下の知見を得た.

    1)症例1では,オーラルディスキネジアが激減し,顎の不随意(上下)運動が減少し,捕食から嚥下ま での時間が短縮した.

    2)症例2では,喉頭挙上量の改善とともに唾液嚥下が可能となり,直接訓練への移行段階に進むことが 可能となった.

    3)症例3では,食塊の形成と咽頭への送り込みが改善され,食事時間が短縮し,むせが減少した.

    4)症例4では,下顎の顎堤に形成されていた褥瘡は消失した.また口腔内食物残留が減少し,食事時間 の短縮につながった.

    Swalloaidの装着により摂食・嚥下機能不全が改善されたことから,本装置は摂食・嚥下機能を援助できうる可能性が示唆された.オ一ラルディスキネジア,痴呆症や,義歯装着の拒否等,下顎義歯床の装着が困難なケースにおいてSwalloaidは有効であり,また,歯の欠損状態,対合する顎堤形態,舌機能状態等に応じてSwalloaidの設計形態を変化させることで,適応範囲は拡大すると考えられた.

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