本研究では, 生物反応槽の亜酸化窒素 (N2O) 連続データにおいて, 今まで短期的な変動が大きいために把握できなかった数日程度の中期的変動を抽出することを目的とした。2019年に下水処理場の無終端水路反応槽において取得した溶存態N2O濃度の約一カ月間の連続データを使用し, そのデータ特性を確認した上で, ノンパラメトリックな季節調整法であるSTL分解のアプローチを適用した。その結果, 溶存態N2O濃度の短期的な日内変動を排除しつつも時系列データとしての連続性を保持した中期的変動を観測することができた。また, この変動における特徴的なピークは, 直前の降雨の有無によって異なる流入量変動で説明することができた。したがって, 統計学的な亜酸化窒素生成モデルの構築を見すえた場合は, 降雨の影響を考慮する必要があることが示された。
活性汚泥法の維持管理において行われる検鏡試験の自動化を目指した研究報告例はあるが, モデル構築のための教師画像として種別の微小動物画像を多数収集する必要がある。本研究は, 微小動物の網羅的な検出と外観に基づく分類を実施する画像解析モデルの開発を目的とし, 物体検出及び自己教師あり学習の知見を用いて, 微小動物検出器, 特徴量抽出器, 微小動物分類器の三段からなるモデルを構築し, 微小動物の検出・分類精度と本モデルによって得られた微小動物相と細菌叢との関連性を検討した。微小動物検出器ではAP50 = 82.85%の精度が得られ, 1種あたり15枚の画像から学習させた微小動物分類器では用意した誤検知画像の半分を除外できるモデルにおいて83.3%の正答率を得た。また, 12個の活性汚泥試料に本モデルを適用して得られた微小動物相構成とDNA シーケンシングにより得られた細菌叢構成との間に有意な関連性が示された。
現在, 瀬戸内海播磨灘では, 栄養塩類である全窒素 (TN) の陸域からの流入負荷量を増加させることで, 生物の多様性と生産性を確保する取り組みが実施されている。本研究は, TN陸域流入負荷量の増減によって, 海のTN濃度と生態系 (植物プランクトン, 動物プランクトン及び魚類) に与える影響を, 食物連鎖モデルを用いて予測した。モデルの生態系パラメータは, モンテカルロ法により複数の組み合わせを算出した。計算対象海域を水質環境の異なる北部沿岸域と中央南部海域に分け, それぞれで, TN濃度と植物プランクトンのバイオマス量に良好な再現性が得られた。予測計算の結果, 2010年代の陸域からのTN負荷量を10倍まで増加させた場合に, TN濃度は北部沿岸域で現在の約1.9倍, 中央南部海域では約1.3倍にまで増加した。また, 魚食性魚のバイオマス量も増加し, 両海域で約1.2倍まで増加した。