ミルクサイエンス
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70 巻, 3 号
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学会からの重要なお知らせ
原著論文
  • 小山 雄大, 谷本 守正, 藤井 修治
    2021 年 70 巻 3 号 p. 108-117
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/29
    ジャーナル フリー

     牛乳中の脂肪球をプローブとし,レンネットゲル形成過程を視覚的に調べた。脂肪球の運動は媒体の粘弾性特性の影響を受けるため,脂肪球を追跡することによりレンネットゲル形成過程を調べることが可能である。粒子画像流速法(PIV)を用いて脂肪球の運動解析を行うことにより,牛乳のゲル化過程が二段階で進行することを明らかにした。このうち最初の段階は,カゼインミセルのネットワーク形成に起因する脂肪球の運動性の低下によるものである。脂肪球の運動性低下の後,多くの脂肪球はネットワーク中に閉じ込められるが,一部の脂肪球はごく狭い領域の中で活発に運動し続けていた。この狭い領域に閉じ込められた脂肪球の活発な運動は,レンネットゲルがメソスケールの構造不均一性を持つことを示す。PIVを用いた脂肪球の運動解析によりレンネットゲル形成過程を視覚的に調べ,このゲル化過程においてメソスケールの構造不均一性の発現を検出できることを初めて観察した。

  • 小山 雄大, 谷本 守正, 藤井 修治
    2021 年 70 巻 3 号 p. 118-126
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/29
    ジャーナル フリー

     画像解析手法(差分変化解析法 DVA)を用いることにより,牛乳のレンネットゲル形成挙動の定量化を試みた。我々は,前報において,レンネットゲル形成過程は,カゼインミセルの凝集と,カゼインミセルのネットワーク化による孔形成の二段階で進行することを示した。DVA 法により,一段階目の過程が微視的粘度の増加による脂肪球の易動度の低下により生じることを明らかにした。微視的粘度の増加は,カゼインミセル凝集によるクラスター形成に起因すると考えられる。また,動的粘弾性測定との比較により,二段階目の過程は弾性の発現とともに現れることを明らかにした。二段階目において,動的弾性率は平坦部に落ち着くことなく増大し続けた。この弾性率の増大はカゼインネットワーク構造のエイジングによるものと考えられる。ゲル化の目安として脂肪球の運動の凍結率 φFを導入することにより,一段階目から二段階目に至るクロスオーバー時間を得ることができた。また,凍結率 φFは,一段階目の過程が,脂肪球の90%がカゼインネットワークに捕捉されるまで継続することを示した。画像解析とレオロジーを相補的に組み合わせることにより,牛乳のゲル化現象をメソスケールで調べることができる。

  • 小田中 南弓, 三浦 孝之, 佐藤 薫, 中島 肇
    2021 年 70 巻 3 号 p. 127-138
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/29
    ジャーナル フリー

     1935年に北海道月形町のクリームから分離されたことが文書で明らかにされているLactobacillus helveticus AHU 1049(以下,AHU 1049)の特性把握を,ドラフトゲノムシーケンスによるたんぱく質分解酵素遺伝子の抽出とセミハードおよびハードタイプチーズの予備的な試作の面から調べた。AHU 1049はCell envelope proteinase (CEP)遺伝子としてprtH3を唯一持つこと,CEP以外のペプチダーゼ遺伝子として7つのpepN,3つのpepP,3つのpepO,4つのpepD,2つのpepT,2つのpip,さらにpepX, pcp, pepF, prpVを各1個有していることを明らかにした。これらはチーズなどの熟成において遊離アミノ酸や低分子ペプチド生成が期待される。配乳10 kgで,LDスターター単独とLDスターターとAHU 1049を併用したクッキング温度40℃のセミハードタイプチーズ,LDスターターとAHU 1049を併用してスコールディング温度を50℃,55℃,60℃としたハードタイプチーズ,を予備検討試作した。12か月熟成の結果,水分含量がほぼ同じセミハードタイプチーズでは,AHU 1049を併用した試作チーズではカゼインから分解されたペプチドは少ない傾向であったが,遊離グルタミン酸,グルタミン量が多かった。一方,50℃や55℃でスコールディングしたハードチーズでは,水分含量がセミハードタイプ試作品より低いのにもかかわらず,遊離グルタミン酸,グルタミン量はスコールディングをしないチーズと同レベルで推移した。ペプチダーゼ遺伝子を多数保有するAHU 1049が日本国内分離株という特徴に加えて,チーズ製造における遊離アミノ酸生成菌株としても利用できる可能性が示唆された。

ノート
  • 西村 順子, 吉永 和明, 松田 幹
    2021 年 70 巻 3 号 p. 139-145
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/29
    ジャーナル フリー

     本研究は,市販乳業用スターターを使用して製造した発酵バター様乳製品の香気的特性について解析した。発酵バター様乳製品は,乳業用スターターで発酵させたウシ乳のクリームから調製した。短鎖脂肪酸やラクトンを含む揮発性化合物はGC-MS分析により評価した。その結果,脂肪酸分析では2種類の乳酸菌で構成されているスターター (Lactococcus lactis subsp. lactis, Lc. lactis subsp. cremoris) を使用した発酵バター様乳製品で,酪酸とn-デカン酸が著しく高くなることが判明した。一方,ラクトン分析では5種類の乳酸菌で構成されているスターター (Lc. lactis subsp. lactis, Lc. lactis subsp. cremoris, Leuconostoc mesenteroides, Leu. pseudomesenteroides, Lc. lactis subsp. lactis biovar diacetylactis) を使用した発酵バター様乳製品で,

    δ-ラクトンが多く生成されることが判った。これらの結果より,Lc. lactis subsp. lactisLc. lactis subsp. cremorisは一部の脂肪酸を生成するためのトリアシルグリセロールの分解に関与し,ラクトンはLc. lactis subsp. lactis biovar diacetylactisLeuconostoc属菌種が合成し,とくにLeu. mesenteroidesに高い合成能力があると考えられた。以上より,乳酸菌の特性を利用して使い分けることによって,目的に応じた発酵乳製品の製造が可能と考えられた。

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