ミルクサイエンス
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68 巻, 1 号
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学会からの重要なお知らせ
原著論文
  • 米田 一成, 緒方 美月, 西山 啓太, 福田 健二, 安田 伸, 井越 敬司, 木下 英樹
    2019 年 68 巻 1 号 p. 3-11
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/26
    ジャーナル フリー

     乳酸菌は様々な機能性を有する代表的な有用細菌であるが,その機能を担う因子の一つとして,グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)が挙げられる。GAPDHは,乳酸菌の菌体表層にも局在しており,ヒト大腸ムチン,血液型抗原,細胞外マトリックス成分,プラスミノーゲンなどへの付着性を示すことが報告されている。また,乳酸菌には水銀吸着能があること,その吸着に菌体表層タンパク質が関与していることが明らかになっていることから,GAPDHが水銀結合に関与しているのではないかと考えた。そこでLactobacillus plantarum subsp. plantarum JCM 1149TのゲノムDNA配列情報をもとにgapをPCRにより増幅しpET28bベクターにクローン化した。本プラスミドをEscherichia coli Rosetta2 (DE3) pLysSに導入し,N-末端ヒスチジンタグ融合GAPDH(rGAPDH)として発現させた。rGAPDHをコバルトカラムを用いて精製,濃縮後,NAD+と混合し,結晶化を試みたところ,約0.5 mmの良質な単結晶を作製することに成功した。本結晶を用いてX線回折実験を行ったところ,最高分解能が1.85 Åであり,空間群は直方晶系であるC2221であった。また,本結晶化条件で析出した単結晶に対して水銀をソーキングした後にX線回折実験を行ったところ,最高分解能2.13 Åのデータ測定に成功した。GAPDHの有する4つのCys残基(Cys101, Cys156, Cys160, Cys328)のうち,触媒に関わるCys156以外の3つのCys残基がHg2+の結合に関与することを明らかにした。興味深いことに,rGAPDH-Hg2+複合体ではNAD+の電子密度が全く観察されなかった。これは,rGAPDHのNAD+結合部位にHg2+が結合することによってNAD+結合部位がHg2+に占有され,NAD+がrGAPDHに結合できなくなることが原因であると考えられた。また,Hg2+の結合様式はGAPDHのサブユニット間で異なっており,特にCys101のHg2+結合様式がA, Dサブユニット間で異なることを明らかにした。

  • 平田 昌弘, 山田 勇
    2019 年 68 巻 1 号 p. 12-23
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/26
    ジャーナル フリー

     搾乳と乳加工は西アジアに誕生した。乳文化が西アジアからヨーロッパに伝わり,乳文化が発達する過程を再構築するにおいて,バルカン半島西部の乳文化は有益な情報を提供するものと考えられる。本稿の目的は,1)スロベニアにおける乳加工体系を明らかにすること,2)スロベニアの乳文化をヨーロッパと西アジアの乳文化と比較分析することにより,スロベニアの乳文化の特徴を把握することにある。バルカン半島西部のスロベニアの乳加工体系の特徴は,1)非加熱殺菌の生乳を静置して自然発酵乳を加工すること,2)生乳から最初にクリームを分離すること,3)クリームはチャーニングしてバターにし,地域によってはバターを加熱してバターオイルまで加工すること,4)自然発酵乳を加熱・脱水・乾燥させて非熟成チーズを加工していること,5)アルプス地域ではレンネットを用いた熟成型チーズを加工していることであった。バルカン半島西部の乳加工の事例は,西アジアからヨーロッパに乳文化が伝播するに従って,発酵乳系列群からクリーム分離系列群へと変遷していったことを指し示していた。さらに,バルカン半島西部は,自然発酵乳と酸乳の両方を加工しており,ユーラシア大陸北方域と西アジアの乳加工技術に特徴的な技術が混在する乳文化となっていた。チーズ加工においても,発酵乳を脱水・乾燥させて加工する非熟成チーズとアルプス山脈で発達するレンネットを用いた熟成チーズを加工しており,バルカン半島西部はヨーロッパと西アジアの文化が混在している。バルカン半島西部は,西アジアに由来する発酵乳技術とヨーロッパで発達するチーズ加工とが正に交差した地点であると言える。

  • 吉田 智, 鈴木 靖志, 寺本 寛明, 板橋 武史, 笹津 備尚, 輪千 浩史
    2019 年 68 巻 1 号 p. 24-29
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/26
    ジャーナル フリー

     皮膚は外界からの様々なストレスから身を守るため,損傷時には迅速な回復が要求される。この修復反応を創傷治癒と呼び,多くの過程により成り立っている。その中でも表皮細胞,線維芽細胞の増殖と創部への遊走は創部面積の縮小や組織再構築など,創傷治癒において非常に重要である。

     そこで,創傷治癒過程において重要な役割を果たす表皮細胞に対するラクトフェリン(Lf)の作用を検討した。また,基底膜の分解や血管新生を促して創傷治癒に関与するマトリックスプロテアーゼ(MMP)-2およびMMP-9の遺伝子発現と酵素活性に及ぼすLfの影響について解析を行った。その結果,Lfは表皮細胞の細胞増殖や遊走を促進し,MMP-9の活性を増強することから,これらの作用を通じて創傷治癒を促進することが示唆された。

  • 脇本 彩加, 白田 淳, 齋藤 真由, 原田 悠暉, 長嶋 曜, 山戸 泰成, 春日 元気, 荒川 健佑, 川井 泰, 増田 哲也
    2019 年 68 巻 1 号 p. 30-36
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/26
    ジャーナル フリー

     ヒト糞便から分離した Lactobacillus gasseri LA39 が生産する gassericin A(GA)は N/C 末端が結合した環状バクテリオシンで,熱および pH 安定性と黄色ブドウ球菌などの病原菌に対する効果から,高い応用性が期待されている。しかしながら,L. gasseri は乳中における生育が乏しいため,完全食品グレードかつ低コストである乳のみの培地で GA を獲得することは困難であるとされていた。本研究では GA の利用性拡大を目的とし,L. gasseri LA39 を reconstituted skim milk(RSM 培地)にて長期間培養し,経時的な生菌数および pH 測定による生育性と,GA 生産について検討を行った。その結果,RSM 培地培養 6 日目まで L. gasseri LA39 株(初発生菌数8.2 log CFU/mL)の生菌数はほぼ一定で(約8.3 log CFU/mL),その後は徐々に低下し,30日で検出限界以下(死滅)となった。pH については培養 6 日目で pH6.5から pH4.0付近まで達し,それ以降で変動はなかったが,長期培養により RSM 培地で LA39 株を含む L. gasseri 計 4 株の生育性を確認する事ができた。また,培養20日目で GA の最大活性値(205 AU/mL)が得られ,さらに pH7.0に調整した同培地では培養10日目で最大活性値(246 AU/mL)となった。本研究は,L. gasseri が長期培養により RSM 培地でも生育可能であることを見出した初めての報告であり,また乳のみで取得した GA は,低コストかつ高い安全性から食品だけでなく乳房炎治療等にも応用可能と考えられる。

  • 飛田 啓輔, 岩佐 悟, 小田木 美保, 武田 文宣
    2019 年 68 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/26
    ジャーナル フリー

     発酵食品であるキムチから単離されたLactobacillus (Lb.) sakei HS-1株(HS-1)は,漬物の発酵スターターとして利用されている。本研究では,HS-1の抗アレルギー作用を明らかにすることを目的として,マウス由来マクロファージ株化細胞J774.1のIL-12p40産生に及ぼすHS-1の影響を検討した。J774.1細胞培養上清中のIL-12p40濃度とIL-12p40 mRNA発現量は,無添加の場合と比較してHS-1の添加によって有意に高くなった。また,HS-1によるIL-12p40産生促進作用は,Lb. sakeiの標準菌株や植物性発酵食品から分離された乳酸菌と比較して有意に高かった。一方,著者らはHS-1が2%, 4%,および6%塩化ナトリウムを添加したMRS液体培地において増殖することを明らかにした。また,4%塩化ナトリウムを添加したMRS液体培地で培養したHS-1のIL-12p40産生促進作用は,塩化ナトリウム無添加の場合と比較して有意に高かった。さらに,それらの活性はプロテイナーゼK処理によって顕著に高まった。これらの結果は,塩化ナトリウム存在下で培養したHS-1がマクロファージによるIL-12p40産生を強く促すことを示唆している。このように,HS-1はアレルギーを軽減する食品の開発に期待できると考えられる。

ノート
  • 河村 あゆみ, 田中 正之, 牛嶋 隼也, 中井 壱, 峯口 祐里, 福田 健二, 浦島 匡
    2019 年 68 巻 1 号 p. 44-48
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/26
    ジャーナル フリー

     京都市動物園で出産した飼育したキリン個体より,各種の泌乳時期の乳の回収をおこない,成分組成を分析した。分娩後55日の常乳における成分組成は以下のとおりであった;1.8%炭水化物,8.7%脂質,7.0%タンパク質,1.1%灰分。これらの値は牛乳の成分組成と比べたとき,脂質とタンパク質の濃度は高い一方で,炭水化物の濃度は低かった。乳の固形分濃度は分娩後66日で急速に低下していたが,これはキリンの固有の特徴と考えられた。この固形分濃度低下は,この時期に仔が母乳を摂取しながら固形食(カシ,ネズミモチなどの葉)の同時摂取を開始することとの関連が示唆された。これらは,キリンの仔に代用乳を摂取させなければならないケースにおいて,貴重な情報になるであろう。

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