これまで,チャ等のツバキ属植物においては安定した不定胚分化技術が確立しているとはいい難いため,チャの子葉を外植片として不定胚分化に及ぼす培地条件,外植片の大きさ,種子の成熟度や完熟種子の貯蔵期間の影響及びチャを中心とするツバキ属植物の種内・種間差異などについて検討した。
まず,チャ(やぶきた)の自然交雑種子を用いて,培地条件の違いが不定胚分化に及ぼす影響を検討した結果,基本培地の影響は小さく,ホルモン条件としてベンジルアデニン(BA)では1.0~5.0mg/lが適当と認められ,その時の不定胚分化率は30~35%程度であった。また,BAにナフタレン酢酸やジベレリンを種々の濃度で組合わせても不定胚の分化率を高めることはできなかった。
供試子葉切片の大きさは大きくなるほど不定胚分化率が高く,培養時期は種子が未熟のものでは低く完熟期で高率となり,採種後低温で保存されたものはその率が保存期間の長さに伴い徐々に低下した。また,種子の保存期間が長くなるにこ従い,バクテリア汚染が激増した。
チャを中心とするツバキ属植物の子葉培養における不定胚分化には著しい種内・種間差異が認められた。チャでの不定胚分化には品種間差異が認められ,やぶきた,くらさわなどで分化率が高く,ほうりょく,大葉ウーロン,マニプリ9,青心大有,さつまべになどで低かった。チャに比較して,供試したその他のツバキ属植物はいずれも不定胚の分化率が高く,C. japonicaでは48~58%, C. sasanquaでは59~81%, C. brevistelaでは93%であった。
また,前年度交配されたC. japonica×C. granthamianaの交雑種子子葉からも69%の高率で不定胚が分化したことから,この技術はツバキ属植物の雑種育成及び大量増殖に有効利用が可能と思われた。
本論文の作成にあたり,貴重な御助言を頂いた農林水産省野菜・茶業試験場茶栽培部育種法研究室室長鳥屋尾忠之博士及びC. japonica×C. grantha-mianaの交雑種子を提供して頂いた静岡県茶業試験場元研究主幹森薗市二氏に深謝の意を表します。
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