高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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26 巻, 4 号
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原著
  • 中川 良尚, 小嶋 知幸, 佐野 洋子, 加藤 正弘
    2006 年 26 巻 4 号 p. 348-353
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/04
    ジャーナル フリー
    失語症状の長期経過を検討する研究の一環として,重度失語症にとどまった症例の特徴について検討した。対象は,右利き左大脳半球損傷の失語例 116 例。そのうち SLTA 総合評価法の最高到達点が 0~3 点にとどまった 38 症例の,原因疾患,病巣,SLTA 総合評価法得点経過について検討した。その結果,重度群における総合評価法得点の内訳は,単語から短文水準の理解項目である C1・C2・C3,および漢字・仮名単語,仮名 1 文字の音読項目である B1 による組み合わせがほとんどであり,発話・書字項目には改善を示さない症例であった。失語症に対する言語訓練を長期間実施しても,必ずしも回復するわけではない。しかし予後の推定要因はいまだ明確ではないため,どんなに発症初期の失語症が重度であったとしても,また病巣が広範であっても,安易に機能的な訓練をあきらめず,少なくとも 2 年以上の長期にわたって回復を試みる努力が重要かつ必要であるものと考える。
  • 黒田 喜寿, 黒田 理子
    2006 年 26 巻 4 号 p. 354-360
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/04
    ジャーナル フリー
    失語症者 18 名に対して単語の聴覚意味理解検査を実施し,意味的誤りの分布状況および各誤反応の再刺激による促通効果を調べるとともに,各誤反応と意味判断検査の成績の関係について検討した。失語症者が示した誤りの大部分は意味的な誤りであった。また意味的誤りの多くで再刺激による促通効果が認められ,失語症者のこのような障害は,語の意味的ネットワークの構造変容というよりも,意味的情報の十分な活性化の困難として説明する方が妥当と考えられた。意味的能力の低い群は意味的能力の高い群より多くの意味的誤りを示したが,他の誤反応は両群で有意差はなかった。さらに聴覚意味理解検査における意味的誤りの数は,意味判断検査の成績と比較的高い相関を示した。これらより聴覚理解過程における意味的誤りを意味的障害の指標とすることがある程度支持された。
  • 上田 彩子, 小山 高正
    2006 年 26 巻 4 号 p. 361-367
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/04
    ジャーナル フリー
    他者の情動を認知する能力は, 正常な社会的相互関係を保つうえで重要である。本研究は,とくに眼の喜び表情認知能力に焦点をあて,加齢との関係を明らかにすることを目的とした。複雑な表情を表出した眼の部分写真を用いた従来の検査法では,高齢者の持つ眼の表情認知能力の特徴を正確にとらえきれていない可能性がある。そこで本研究では,異なる表情間で入れ替え合成処理を施した顔刺激の全体呈示による検査を行った。その結果,眼から喜び表情を認知する高齢者の能力は,若年者と比較し,低下する傾向が認められた。しかし,眼の周囲以外の領域の情報をあわせて用いることで,顔全体として喜び表情を認知することが,ある程度まで可能であった。以上より,眼から喜び表情を認知する能力は加齢とともに低下傾向にあるが,顔の全体呈示が一般的である日常生活では,ほとんど影響を及ぼしていない可能性が示唆された。
  • 橋本 竜作, 柏木 充, 鈴木 周平
    2006 年 26 巻 4 号 p. 368-376
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/04
    ジャーナル フリー
    書字の習得障害を呈した学習障害児を検討した。症例は 7 歳 11 ヵ月,右利き男児。診断は ADHD と DCD。知能,口頭言語および読みの発達は正常,漢字と仮名に共通した書字の獲得に必要な能力 (視覚認知,運筆能力,構成能力) も正常であった。書字における誤反応の特徴は,漢字が不完全な形態,仮名が無反応であった。漢字に関して視覚性記憶を,仮名に関して運動覚心像を検討した。結果,漢字学習における失敗には記銘時の方略の欠如が,仮名学習における失敗には運動覚性心像あるいは音韻と運動覚心像との連合の形成不全が関与することが示唆された。それゆえ,われわれは本例の書字の習得障害には漢字と仮名で異なる障害機序が存在すると推察した。
  • 黒崎 芳子, 辰巳 寛, 波多野 和夫
    2006 年 26 巻 4 号 p. 377-384
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/04
    ジャーナル フリー
    右中大脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血後に,聴覚性および視覚性の反響書字 (echographia) と反復書字 (paligraphia) が融合して出現し,反響反復書字 (echopaligraphia) を呈した 1 例を報告した。症例は 46 歳,右利き男性。本例では反響反復書字に加え,右手の把握現象や道具の使用行為,常同行為,変形過多などの精神神経症状が認められた。頭部 X 線 CT (第 43 病日) の所見として,クリップのアーチファクト以外に,第三脳室と両側側脳室の拡大,および右前頭葉 (右側頭葉前部の一部を含む) に低吸収域が認められた。本例の反響反復書字の特徴は以下のとおりであった。 (1) 水頭症による意識障害の増悪が観察される経過において,一過性に反響反復書字が観察され,出現状況が変化した。 (2) 一般に反響言語では完全型,減弱型,部分型などの反響形式がみられるとされるが (波多野ら1987) ,本例の反響書字では,反響言語に類似した反響形式が観察された。 (3) 本例の反響書字は,完全型・減弱型 → 完全型・減弱型・不定形型 → 不定形型・部分型という反響形式の変化を示した。 (4) 本例の反復書字は,形式としては文字の一部の繰り返しであった。量的には,最初は軽微な反復のみが観察されたが,後に多量の反復へと変化し,その後さらに反復回数が減少するという経過をたどった。本例で観察された反響反復書字の症候学的特徴を検討し,出現様相および機序について考察した。
  • —Rey's Auditory Verbal Learning Test「小児版」作成にむけて—
    柴 玲子, 小林 範子, 石田 宏代, 鈴木 牧彦, 後藤 多可志, 紺野 加奈江
    2006 年 26 巻 4 号 p. 385-396
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/04
    ジャーナル フリー
    本報告では,Rey の Auditory Verbal Learning Test (AVLT) を参考に,未就学児に応用可能な聴覚性言語性記憶の検査「小児版」を作成,実施し,その発達変化について検討した。方法は,AVLT の標準的な方法を参考にし,4 歳から 6 歳までの健常な小児 99 名に実施した。結果は,即時再生数,系列位置効果に,年齢群間の差はみられなかったが (p =.842) (p =.115 ~ .417) ,5 回の反復自由再生を行った学習の過程では,再生数,系列の位置の効果に年齢差がみられ,年齢による記憶方略などの違いが示唆された。また干渉後再生数と遅延再生数は,6 歳は 4 歳より有意に多く (p <.01) ,干渉リストの影響はどの年齢群でもみられたが,遅延時間の影響はみられなかった。リスト A の再認識別率では,4 歳と 5 歳の間で有意差が認められ (p <.01) ,5 歳以降は成人と同じ再認能力を持つことがわかった。「小児版」は,就学前の小児から十分施行可能であり,記憶の多様な側面を測定するのに有効であることが示唆された。
  • 福井 俊哉, 李 英愛, 稗田 宗太郎
    2006 年 26 巻 4 号 p. 397-407
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/04
    ジャーナル フリー
    外国語様アクセント症候群 (FAS) にて発症し,前頭側頭型認知症 (FTD) として典型的な人格・感情・社会行動異常を呈して軽度な発語失行と非流暢性失語を伴い,無言状態に移行しつつ FAS が消失した 59 歳,女性例を報告した。本例の脳変性の主座は右前頭葉眼窩面~穹隆部と左前頭葉後方内側上部にあり,左脳発話中枢の直接的障害は免れていた。従来,FTD を含めた変性性疾患による FAS の報告はない。
       本例の FAS は助詞と促音の脱落,軽度の発語失行,非流暢性失語,FTD による economy of speech などの分節性要因,それらに起因した各種韻律変化と感情的韻律表出障害などの超分節性要因が加重された結果生じたと考えた。本例と非失語性 FAS 自験例の共通点は助詞と促音の脱落であった。一般に FAS の病態は多因子性であるために,FTD を含めた変性性疾患でも FAS が出現することは十分に予測され,本例はその可能性を示唆する。
短報
  • 原田 浩美, 能登谷 晶子, 四十住 縁
    2006 年 26 巻 4 号 p. 408-415
    発行日: 2006年
    公開日: 2008/01/04
    ジャーナル フリー
    重度運動性失語症を呈した若年発症例に言語訓練を実施し,発症から 11 年 10 ヵ月の経過を追跡することができた。発症 41 日目からの訓練内容および経過を示し,標準失語症検査 (以下 SLTA) 成績によって言語機能成績の推移を評価した。その結果,発症 5 年を過ぎた時点でも訓練効果が認められることがわかった。また,SLTA 成績の経過から,回復は長期にわたることと言語機能により回復の推移と時期が異なることが示された。そのことから,失語症の訓練効果は発症後短期間にのみ見られるものではなく,失語症に対する長期的なアプローチが重要であることが示唆された。
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