原発性進行性発語失行(PPAOS)1例の発話特徴を客観的に評価したので報告する。症例は,神経心理学的所見から認知機能,前頭葉機能,言語機能および音韻意識が比較的保たれていたが,発話速度の低下およびアクセントパターンの変動といったプロソディの異常を認めた。2音節の連続構音,母音の持続発声,10単語を復唱,音読,呼称別に各3回反復させ録音し,音響分析を行った。結果,/aka/の破裂音から声帯振動が始まるまでの有声開始時間の変動性評価では,PPAOSがコントロール群に比べて有意に変動した。また,単語から得られたPPAOSの音読,呼称における発話所要時間がコントロール群より有意に延長した。本研究の指標は,PPAOSの早期診断における補助的な情報として有用である可能性がある。
もやもや病患者のバイパス術前後の神経心理学的検査と生活の変化,術前からリハビリテーションセラピストが介入する意義を検討した。対象は47例,手術前後で神経心理学的検査と手術後に術前後の自覚症状・心境・生活の変化についてアンケートを実施した。その結果,digit span順唱以外の検査で術前に比べて術後に成績が上昇し,特にTMT-J Part BとRCPMの向上は有意であったが,効果量は小さかった。術後に自覚症状が改善したり不安が減少したりした例が多かったが,悪化した例もいた。術後86%が復職,うち33%は時短勤務などで,37%は自覚症状残存のまま復職した。セラピストに対しては退院後の生活の注意点や予想される困難についての説明が期待されていた。以上から,自覚症状の悪化・残存が不安の増加につながること,復職には職場の理解を含めた環境調整が必要であることが示唆された。セラピストには検査を行うだけでなく,術後に生じた高次脳機能障害に対する訓練を行い,患者が必要とする情報を詳細に説明する役割と環境調整を含めた指導が求められていると考えられる。