人文地理
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73 巻, 4 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
論説
  • 中澤 高志
    2021 年 73 巻 4 号 p. 419-443
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/01/25
    ジャーナル フリー

    本稿は,1980年頃の神奈川県を中心とする内職行政の展開と内職者の実像を,アーカイブ資料に依拠して描き出した。戦後の内職行政は,自治体が求職者と委託業者を仲介して悪質な業者を排除する斡旋事業を中心とし,併せて技術講習や内職者のグループ化による就労条件の向上が図られた。しかし,内職の構造的な不安定性や低賃金を是正するものではなかった。趣味的に内職に従事する女性が一定数いたため,就労条件の悪い手芸的内職がむしろ残存する矛盾した状況があった。後半では,求職者288人分の相談票を活用して,1980年頃の川崎市南部における内職者の属性や斡旋事業の実態,求職者と相談員の関係性を明らかにした。求職者の多くは,団塊の世代前後の低所得世帯の女性であり,相対的に高工賃の洋裁や金属・機械器具加工の仕事に従事した例が多い。相談員は求職者の希望職種や個別事情を十分に考慮して,親身に相談に乗っており,斡旋後も内職者と頻繁に連絡を取っていた。しかし,低工賃と仕事の不安定性という内職の本質的問題に加え,作業の難しさ,家事・育児との両立の困難性,家族の反対,健康上の問題などにより,離職する内職者は後を絶たなかった。

  • 安本 晋也, 中谷 友樹
    2021 年 73 巻 4 号 p. 445-465
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/01/25
    ジャーナル フリー

    海外では健康格差の要因としてオープンスペースへの近接性と個人レベルの貧困度(所得など)との交互作用効果を検証した研究が進められている。これらの研究では個人レベルの貧困度が高い者がオープンスペースへの近接性の低さによる負の健康影響を受けやすく,それが健康格差に寄与しうると報告している。一方で,オープンスペースへの近接性と地域レベルの貧困度の交互作用効果に着目した研究は限られている。本稿では居住地の地域レベルの貧困度が高い場合,オープンスペースへの認知的近接性の低さによる負の健康影響を受けやすいという仮説を立てた。そして大阪府内の人口集中地区を対象に,郵送質問紙調査によって得たデータを用いて次の検討を行った。まず主観的健康感,主観的幸福感および運動の頻度における健康格差の有無を検討した。そして上記の2つの交互作用効果のいずれが各健康指標への影響が大きいかを分析した。結果として,主観的健康感と主観的幸福感における健康格差がみられた。また主観的健康感においてオープンスペースへの認知的近接性と地域レベルの貧困度との交互作用効果の方が,個人レベルの貧困度との交互作用効果と比べ影響が大きかった。主観的幸福感と運動の頻度にはこうした統計学的な関係はみられなかった。主観的健康感における健康格差の縮小への政策的含意として,地域レベルの貧困度が高い地域の居住者の認知的近接性を改善する必要性が示された。

研究ノート
  • 矢ケ﨑 太洋
    2021 年 73 巻 4 号 p. 467-484
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/01/25
    ジャーナル フリー

    東日本大震災後の三陸沿岸地域では,自治体の復興計画や住民の自主再建などの取り組みを通して,地域の景観が変化し,社会組織が再編され,津波災害リスクが低減した。ただ,災害前の地域社会から転出する自主再建は,転出元の被災した地域社会では人口減少を引き起こす一方で,転出先の被災を免れた地域に新たな人口集中を引き起こした。本研究は,宮城県気仙沼市東新城地区を事例に,東日本大震災の津波災害に伴う新興住宅地の形成とその要因を検討した。気仙沼市内の再定住によって,防災集団移転地や公営住宅などへの移動だけでなく,被災を免れた内陸地域に新たな人口集中が生じた。東新城地区は被災を免れた内陸部に位置し,過去の区画整理事業により生活基盤が整備されていたが,住宅需要の低迷によって空地や田畑が存在した。東日本大震災後,この地区は自主再建住宅の受け皿となり,土地利用と景観が著しく変化した。地域社会からの転出を伴う再定住は,自主再建世帯の高齢化や早期再建の志向など,諸要素が複雑に作用して発生した。

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